不意の来訪者
三神目の地の神登場。可愛らしい見た目なのかな……何となく丸々太っていそうなイメージ……
翌朝、宿舎に変わった来訪者がやって来た。仲間達と食事を食べ終えた後の事だ。彼らは宿舎の敷地に入って来て、玄関に設置した紐を引いて鐘を鳴らした。
「あ、僕が出ますよ」とリトキスが立ち上がり、食堂から出て行く。
「こんな早い時間から来客とは、……管理局からの食料──は、この前届いたばかりだし。開発費報酬かな?」
「鍛冶屋の徒弟募集を見て来た方かもしれませんね、でもまだ鍛冶屋が再開できないですから──その場合、どうなるのでしょう?」
ユナの疑問に答えようとすると、リトキスが玄関からすっ飛んで来た。何やら慌てている事だけは伝わったが、何を言っているのか分からない。
「とっ、とにかく、玄関に行って下さい。見てもらえれば分かりますから」
リトキスはそう言うと、テーブルの上を片づけようと声を掛け、率先して皿を下げて行く。
「なんなんだ、あれは」
首を傾げながら宿舎を尋ねて来た客を見に行くと、そこには法服を着込んだ一団が居た。黄色の外套や灰色の法服などに身を包んだ神殿職員が数名。その先頭に白い法服を纏った巫女と、豪華な座布団に、どっしりと座った銀色の毛を持つ大きな鼠を抱えた、黒い法服を纏った巫女が立っている。
「お前がオーディスワイアでちゅね?」
ちゅーちゅーと銀鼠が鳴き声を上げると、白い法服の巫女がそう言った。
「え、あ、はい」
俺が答えると鼠は頷く。
「今日はお前に頼みがあって来たのだっちゅ──」
大真面目な声で言う巫女。俺は何か見てはいけないものを見てしまったかの様に狼狽えた──いけない。笑ってしまいそうになるが、この大きな鼠は地の神ウル=オギトだ。笑いでもしたら侮辱したかどで、とんでもない罰を受けるかもしれない。
「昨日、罪人に裁定を下した内容を伝える為にミスランまでやって来たっちゅ。折角なのでお前に、前々から頼んでおこうと考えていた用件を持って、鍛冶屋に行ったのでちゅが、改築で鍛冶屋が休みとは聞いてないっちゅよ」
笑ってはいけないと思っているのに、通訳をする巫女は全力で俺を笑わせにきている。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。なんでこちらの巫女──通訳の方は、語尾が変わっているのですか」
すると巫女は心底不思議そうな表情をする。
「私はただ、ウル=オギト様の言葉を忠実に翻訳しているだけなのですが」
すると鼠の姿をした神が「ちゅう、ちゅう」と鳴き声を発する。
「気にするなっちゅ──、こいつは私が止めろと言っても一向に『ちゅ──ちゅ──』言うのを止めないっちゅ──。もう聞き流して欲しいっちゅ──」
この巫女……明らかにわざとやっているな。──俺は顔を背けて、笑っている顔をウル=オギトに見られる事だけは死守した。
「──ふぅ、それで。用件と言うのは、鍛冶屋仕事の事でしょうか」
「もちろんだっちゅ──」
無表情な巫女から、その言葉が出るのを見ると吹き出しそうになる。真顔で通訳するのは止めて欲しい。
それでは、ともかく玄関に立たせておく訳にもいかないので、と巫女と護衛らを客間の方に案内する。──すると後方からリトキスの声が聞こえてきた。
「あ、客間ってあったんだ……」
玄関近くにある客間は、そこそこの大きさの部屋だ。俺一人では不安なのでレーチェにも来て欲しかったが、彼女らは冒険に出る予定があると言って、ウル=オギトや巫女達に挨拶をして宿舎を出て行ってしまう。
エアとレンもかつて、最も近くに居た神に一礼すると冒険へ向かった。神の事は正直よく分からないが、銀色の鼠は双子の姿が見えなくなるまでずっと目で追い掛け、じっとその後ろ姿を見つめてから、不意にこちらを振り向く。
「ところで、鍛冶屋は休みの様っちゅが、剣を造る事は頼めるっちゅか?」
「え、ええ、溶かす金属によりますが、通常の金属なら問題はありません」
大鼠はうむ、うむ、という風に頷く。
「よし、それでは用件を伝えるっちゅ──」
長椅子に腰掛けた巫女達と、その巫女に抱えられた銀色鼠を前にする。──彼女らの背後には護衛やお付きの巫女達が並んでいる。
白い法服を着た巫女が、後ろの巫女達に指示を送ると、護衛の男が前に進み出て来て、俺と巫女達の間にあるテーブルに布の袋を置いた。
「『神貴鉄鋼』っちゅ。聞いた事くらいはあるっちゅね? 転移門を作り出す『神鉱石』を結晶化する際に、副産物として出来る金属っちゅ。これで短剣を造って欲しいっちゅよ」
布の袋に手を伸ばして中身を確認しようとした俺は動きを止めた。神貴鉄鋼など見た事が無い。見た事が無ければ、当然それを使って武器を造った事など無い。
「神貴鉄鋼を使っての鍛冶をした事が無いので、失敗するかもしれませんが」
俺の言葉に銀色の鼠はちゅ──ちゅう、と返事をする。
「構わないっちゅよ、失敗は折り込み済みっちゅ。神貴鉄鋼を使って武具を造っている鍛冶師が居たっちゅが、少し前に現役を引退したっちゅ──。あの男が記した神貴鉄鋼に関する手記も用意したっちゅ、これを参考にして、まずは一つ造ってみて欲しいっちゅ──」
巫女はそう言いながら、後ろに控えている巫女に再び指示を出し、鍛冶師の手記の写しを数枚テーブルの上に差し出す。
段々と巫女が語尾に、「ちゅうちゅう」と付けているのが気にならなくなってきた。──慣れとは怖いものだ。




