高位錬成の依頼
「あなたがオーディスワイアに間違いありませんわね⁉」
高慢そうな女はそう言いながら「何故看板を出さないのですか」と文句を言う。
「看板? ──ああ、俺がここに来てしばらくしたら落下した奴か、付け直そうかとここの元店主に聞いたら『いや、もう付けなくて良い』と言って……」
そこまで言ってふと思う、爺さんは、この時には俺に店を譲る気でいたのかも知れないと。自らの名前を掲げた看板が落ちても、それを付け直さなかったのは、別の誰かに違う看板を架けさせる気だったのではないだろうか──
「どうしましたの? 急に黙り込んで……」
「いや、あんたの素敵なおっぱいが目に染みただけだ」
俺はそう言いながら彼女から目を逸らす。
女は「おっ、おっぱ……!」と胸を両手で隠しながら、顔を赤らめてキッと睨みつけてくる。
「それで? なんだったか……?」
「まだ何も言っていませんわ!」
お嬢様は大分怒ってらっしゃるご様子で、後方に控えている侍女らに合図を送ると、二つの物を手にした侍女が高慢女の隣に立つ。
「この剣と盾に、四大精霊の加護に劣らない高位錬成を施して頂けます?」
俺は即答した。
「うん、無理」
しばらくの沈黙の後、女は激昂しながら叫ぶ。
「な、な、な、なぁんでですの!」
「いや、無理な物は無理。その二つは聖銀鉄鋼の剣と盾だろう? それに高位錬成なんて、無茶を言うお嬢さんだな」
俺は彼女の言葉を遮ると、聖銀鉄鋼で造られた物はただでさえ魔法抵抗が高く、それに何かを付け加えるのは難しい事だと伝えた。仮に何かを付加したいと言うなら「劣化防止」か「硬化」くらいが精々といったところだと説明する。
「だいたいそんな依頼、俺以外のどこでも断られただろうに。誰がそんな『失敗前提』の依頼を受けたがるものか」
俺はそう言いながら手を払う仕草をして女を帰らせようとしたが、彼女はこう言った。
「劣化防止と硬化は付けられますのね?」
しまった……迂闊な事を口にしてしまったらしい。
「……失敗して、剣と盾を失う事になるかもしれないがな」
俺の言葉に高慢女は、にっこりと笑って見せた。
「いいですわよ。どの店に持って行っても『できない』と断られてしまったのですもの、ここで『できる』と言うのでしたら、やって見せて頂きましょう」
どうやらこの女は、他の鍛冶屋で悉く断られた事を「小さな小汚い鍛冶屋」にできるはずが無い、と考えている口らしい。
まったく、顔とおっぱいが良い女は、性格が悪いのばかりだな。俺は心の中で愚痴をこぼす。
聖銀鉄鋼を「エルファリクス」とルビを打ちました。
アウラバルカムが「真紅鉄鋼」だから聖銀鉄鋼も「〜バルカム」じゃないのかと思われるかもしれませんが、名称は伝説上の剣の名前から取ったり(エルファリクス)、俗称「大地の血塊」の読み方から来ているなどの違いがあるとご理解ください。




