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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第一章 錬金鍛冶の旅団

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高位錬成の依頼

「あなたがオーディスワイアに間違いありませんわね⁉」

 高慢そうな女はそう言いながら「何故看板を出さないのですか」と文句を言う。

「看板? ──ああ、俺がここに来てしばらくしたら落下した奴か、付け直そうかとここの元店主に聞いたら『いや、もう付けなくて良い』と言って……」


 そこまで言ってふと思う、爺さんは、この時には俺に店を譲る気でいたのかも知れないと。自らの名前を掲げた看板が落ちても、それを付け直さなかったのは、別の誰かに違う看板を架けさせる気だったのではないだろうか──


「どうしましたの? 急に黙り込んで……」

「いや、あんたの素敵なおっぱいが目に染みただけだ」

 俺はそう言いながら彼女から目を逸らす。

 女は「おっ、おっぱ……!」と胸を両手で隠しながら、顔を赤らめてキッと睨みつけてくる。


「それで? なんだったか……?」

「まだ何も言っていませんわ!」

 お嬢様は大分怒ってらっしゃるご様子で、後方に控えている侍女らに合図を送ると、二つの物を手にした侍女が高慢女の隣に立つ。

「この剣と盾に、四大精霊の加護に劣らない高位錬成を施して頂けます?」


 俺は即答した。

「うん、無理」


 しばらくの沈黙の後、女は激昂しながら叫ぶ。

「な、な、な、なぁんでですの!」

「いや、無理な物は無理。その二つは聖銀鉄鋼エルファリクスの剣と盾だろう? それに高位錬成なんて、無茶を言うお嬢さんだな」


 俺は彼女の言葉をさえぎると、聖銀鉄鋼で造られた物はただでさえ魔法抵抗が高く、それに何かを付け加えるのは難しい事だと伝えた。仮に何かを付加したいと言うなら「劣化防止」か「硬化」くらいが精々といったところだと説明する。

「だいたいそんな依頼、俺以外のどこでも断られただろうに。誰がそんな『失敗前提』の依頼を受けたがるものか」


 俺はそう言いながら手を払う仕草をして女を帰らせようとしたが、彼女はこう言った。

「劣化防止と硬化は付けられますのね?」

 しまった……迂闊な事を口にしてしまったらしい。

「……失敗して、剣と盾を失う事になるかもしれないがな」

 俺の言葉に高慢女は、にっこりと笑って見せた。


「いいですわよ。どの店に持って行っても『できない』と断られてしまったのですもの、ここで『できる』と言うのでしたら、やって見せて頂きましょう」

 どうやらこの女は、他の鍛冶屋でことごとく断られた事を「小さな小汚い鍛冶屋」にできるはずが無い、と考えているくちらしい。


 まったく、顔とおっぱいが良い女は、性格が悪いのばかりだな。俺は心の中で愚痴をこぼす。

聖銀鉄鋼を「エルファリクス」とルビを打ちました。

アウラバルカムが「真紅鉄鋼」だから聖銀鉄鋼も「〜バルカム」じゃないのかと思われるかもしれませんが、名称は伝説上の剣の名前から取ったり(エルファリクス)、俗称「大地の血塊」の読み方から来ているなどの違いがあるとご理解ください。

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