エウラの嘆願
翌朝部屋の前で待っていたのはエウラだった。霧吹きを手に持ち、玄関に置かれた小鉢植物園に水をやりに行こうとしていた俺は、完全に不意を突かれた。
「ぉわぁっ⁉ な、なんだエウラか……どうしたんだ、朝っぱらから」
「旅団長に是非、お願いしたき儀がございまして……」
仰々しい物の言い方をする彼女に、まあ話してみろと言いつつ玄関に向かう。
「私に、カーリアに見せたという剣技を教えてください」
彼女はこう言って頭を下げる。
「あ──、あれね。別に構わんが」
しゅっ、しゅっ、と霧吹きで水を掛けると外へ出て行く。
「ほ、本当ですか!」
「まあ、使えるようになるかは保証できないけどな。今までも何人かに請われて教えようとしたが、気を練れても剣先まで気を溜めるというか、覆うというか。ともかく、多くの奴らは出来なかった訳だ」
そう言った後で焔日に祈りを捧げる。エウラは風の神へ祈る為に、都市シャルファーのある方角へ向かって祈っている。
それでは明日の朝から市外訓練場で特訓しよう、という事になった。今日の素材探索の予定は変更できない、そしてこちらにも少々予定があった。
エウラは「それでは明日、よろしくご指導お願い致します」と頭を下げる。──彼女は時折こういった堅い言い回しをしてくる──癖なのだろう。
朝食を食べると今日の冒険の予定を確認し、リーファとユナが休暇、その他の者は冒険へ向かって行く。
俺は仲間達を転移門まで見送りに行くと、管理局へと向かって歩き出す。転移門のある広場は管理局の敷地に面しており、すぐ近くだが、入り口からは離れていた。
管理局の敷地内に入ると、メリッサの居る技術班の建物に向かう。簡単に纏めた物だが魔法剣の新たな使い方。「爆裂剣」型と「爆裂斬」型を提示した内容の数枚の紙と、霧吹きの設計図と実物だ。
「なるほど……霧吹きですか、さっそく登録申請の検討をしたいとおもいます。魔法剣の新たな指南書についても、多少の報酬が支払われる事でしょう」
メリッサは霧吹きを使いそう答え、もう一つの用件である「不正者」達の情報について尋ねた。すると彼女は小声でこんな事を言う。
「部署は違いますが、おそらく不正旅団の拠点については調べがついているようですね。その不正旅団の団長は女性だという噂ですよ。まあ、あくまで噂ですが」
その他にも、いわゆる七賢者の事についても彼女は話した。どうも彼らの内の一人、あるいは二人が管理局員と共謀して、利益を不当に得ているとの確証を掴んだらしい。
こういった事についても話を耳にしている時点で、彼女も監視者的な情報を入手する活動を行っていると見るべきだが、敢えてその事には触れずにいた。彼女は自分を信用しているからこそ話したのだから。
どうも管理局内でも様々な揺れ動きがあるらしい。この混沌に包まれた世界でもまだ人は、共存共栄の精神を持てずにいるようだ。
俺はその帰り道に錬金術で使う素材をいくつか購入して帰った。野菜を売り出す管理局直轄の八百屋を見ると、南瓜が売っていたので、それを一つ購入した。これでメイに食わせる菓子を作るのだ。
そういえばレーチェの実家から蜂蜜と蜜蝋が送られてくると彼女が言っていた。それが届けば、あの砂糖中毒者も喜ぶだろう。……依存度が高くならない事を願いつつ、その日は宿舎へ帰って行った。




