誤解をする者、招く者
ずぶ濡れの髪を早く洗いたいと言うカーリア。それはこちらも同じだ。あんなきったない水をぶっ掛けられて喜ぶ奴は居ない。
「だいたいお前のせいだろうが」
そう言うと少女は「うぐっ」と口走って駆け出す。いち早く戻って風呂で髪や体を洗いたいのだろう、それはこちらも同じだが、……一緒に入る訳にもいかないだろう。俺は正直言ってロリ体型に用は無いのだが──世間様の風当たりは、そんな主義主張とは関係が無いものだからな。注意するに越した事は無い。
庭で頭を水で洗っておこう。……そんな風に思いながら宿舎まで戻る。
宿舎近くの鍛冶屋を改築する為に取り壊された建物は、まだ一軒分である。次はその隣の建物だ。まだ四分の一か、先は長そうだ──
宿舎に入ると二階から、着替えなどを手にしたカーリアが降りて来たところだ。少女は汚れた魔女っ子衣装の予備らしい物も、籠の中に入れて運んでいる。
「用意周到な事で」
俺がそう言って部屋に入ろうとすると、少女が言った。
「オーディス旅団長……一緒に入る?」
おおっと、そう来たか……いや、どう来たって⁉ 少女はもじもじと顔を赤らめながら続けて言う。
「ほら、早く洗いたいだろうし、私なら別に──一緒に入るだけなら、き、気にしないから」
いや、目茶苦茶気にしてますけど。
俺は努めて冷静に言った。
「俺は後でいいから、あ──けど、早めに出てくれよ?」
俺はそう声を掛けると部屋に入り、着替えや体を洗う道具を用意する。それにしてもカーリアがあんな事を言ってくるとは思わなかった、父親の様に思っているのだろうか、その可能性はある。
しかし少女の羞恥心はよく分からん。まあ、ただ単に汚水で汚れた事に責任を感じての発言だろう。と考える事にして庭に出ると、水を汲んだ桶を置いて頭を洗っておく、冷たいが仕方が無い。
汚れが取れればそれでいい、濡れた上着は洗濯籠に入れておき、ズボンは後で入れる事にしよう。まさか下着姿で彷徨く訳にもいくまい。
庭で頭を洗って乾かしていると猫がやって来た。今日は壁の上を歩いて行き、日の当たる場所に腰を落ち着けると、そのまま動かなくなった。
まさか臭い匂いを嗅ぎ取って近づきたくないのだろうか?
「ゲロ以下の臭いがするぜぇぇぇ──⁉」とか思っているのだろうか、猫の気持ちも分からない……
しばらくするとカーリアが出て来たので、風呂場に入って体や頭を洗い直し、すぐに出ると新しい服を着て、昼食の用意をする事にした。
昼食は鶏肉を焼いた物と味付け卵焼きに、パンと生野菜料理を出した。それらと紅茶を飲み食いしながら、カーリアの今後の役割について話しておく。
彼女はこれからは前線に立ち、先手を打って攻撃するか、仲間が攻撃している敵の側面などから、味方を巻き込まない形で、魔法剣の強力な攻撃をぶつけていく戦い方になるだろう。
「『爆裂剣』を使わずに、属性魔法を掛けた斬撃強化でも充分に戦えるはずだ。剣圧に魔法剣を乗せる事で威力が倍加するから、隙を見つけたら狙っていけ」
食後は小休止を取り庭に出る、すると猫が壁際の寝床で休んでいた。ここは日当たりも良く柔らかい布も敷いてあるので、気に入っている様子だ。
一休みした後は木剣でカーリアと剣の稽古をした。多少は動きが良くなったが、まだまだだ。戦闘の駆け引きというものにまで、気が回らないようだ。戦闘の中でも落ち着いて冷静に頭を使って、考えながら戦う事を身に付けるよう言い聞かせながら、時間を掛けて彼女の訓練に付き合った。
午後になりレーチェ達が帰って来た。リトキスも一緒だった為に、予定よりも早く目的を達成して戻って来たらしい。
「あら? 二人共、朝と衣服が違いますわね? まさか……」
「いやいや、なにが『まさか』だ、んな訳あるか。魔法剣の練習でカーリアがやらかしたんだよ」
と、「爆裂剣」の練習中にカーリアが、偶然に「爆裂斬」を編み出した事を説明する。
「ああ、それなら僕達も使っていますよ」
「あぇ?」俺は首を傾げた。
「今日はその実戦訓練を兼ねて、飛ばした斬撃を爆発させる戦い方と、剣先から爆発を放つ戦い方を使って、仲間とどの様な戦い方をするか、その研究をしていました」
リトキスは実戦で得られた戦い方を紙に纏めて、旅団員全員で戦略を考えていこうとしているのだ。残念ながらカーリアの手柄は、その価値が薄れてしまったが、少女は確かな一歩を踏み締め。さらに強くなるよう、仲間達からも求められているのを再確認する事になった。




