焼き菓子を作ろう
今回の話は日常回です。まあ、この物語の大半が日常回ですが(笑)。
調理場に入るとリーファが首を傾げた。
「今日は団長の料理当番では、ないはずですが」
「ああ、ちょっとな。菓子でも作って団員達のご機嫌を取ろうと思ってな」
そう言うと彼女は「ははぁ」とでも言う様な顔になって、「そうですか」と残して自分の作業に戻る。
小麦粉を篩に掛けておき、牛酪を常温へ戻しておく。砂糖と卵を混ぜて白くなるまでしっかりと混ぜ合わせる。──もちろん分量を量ってからだ。
このような手順を踏んで焼き菓子の生地を先に作ってしばらく寝かせておく、その間に木苺に砂糖を加えて煮詰め、ジャムを作る。──砂糖は貴重だ。大切にしないと……大量に使うよりは、木苺の酸味も残したいので、砂糖の量はギリギリまで少なくし、隠し味に岩塩を少し削り入れた。
煮詰めたジャムを冷やしている間に、菓子の生地で木苺ジャムを乗せる土台を作る。──生地を薄く伸ばして金型で円形にくり貫き、余った生地を纏めて、さらにくり貫く。
小さな生地が残ったら、それを棒状に伸ばして、先程の土台の上を囲む様に生地で土手を作り、(一度軽く火を通してから)ジャムを乗せ焼くだけだ。
土台の生地だけを天火に入れ焼いていると、冒険から帰って来た仲間達。──レーチェは全員が無事に帰還した事を報告する。
「ご苦労さん、食料が届いたから食料庫に運んでおいたぞ、明細書を確認しといてくれ」
そう言うと彼女は鼻をひくつかせる。
「なにか、香ばしい匂いが……焼き菓子ですの? 珍しいですわね、団長がお菓子だなんて──この間の『林檎と乾酪を使ったパイ』は美味しかったですけど」
「まあ任せておけ。分量を量り、手順通りに作業を進めれば、誰でも作れる焼き菓子だ」
そう説明している所へ、メイが調理場へ入って来る。
「お菓子の匂いだ……」
焼き目が付く前に一度天火から出して、生地の上に木苺ジャムを乗せていく。
「美味しそう」
「まだ駄目だぞ、食事の後だ」
そうメイに言い聞かせると、少女は「わかった」と素直に下がって行った。
ジャムを乗せた物を再び天火に入れ、じっくりと火を通し、焦げ目が付く前に取り出す。焼き上がった物を皿に乗せてあら熱を取れば、後は食べるだけだ。
食堂には皆集まっていた、今日の探索で入手した素材を確認し、大まかだが、どの様な事があったかを聞いておく。
大切な事だ、冒険に出られない俺は、彼らの必要とする物を、その報告の中から探し出し、こういう物があると探索が楽になるな。という物を錬成する事が出来るからだ。
または入手した素材から、日用品に加工できる物などは、作り出しておく事も出来る。──やるべき事は多い。
今回はユナ達が管理局の依頼を受けた為に、素材の入手は少なかったが、森で手に入れた蔦を管理局の荷車で届けてもらったらしい。大きな蔦からは、繊維を取り出して紐や縄を作り出せるのだ。
こうした物を、こつこつと作っては、管理局に届ける事も、錬金術師や旅団の果たすべき事なのである。むしろこうした作業をしてくれる者が居るから、あらゆる事がつつがなく進行するのだ。こうした地味な作業によって貢献している者を笑う奴が居たら、──そいつの尻の穴に、皮を剥いた山葵でもぶち込んでやればいい。もったいないと思うなら生きた蛇でも構わん。
しばらくは仲間と雑談をしながら待ち、料理が運ばれて来ると俺も立ち上がり、調理場から皿に乗せた焼き菓子を持って長テーブルに置く。
食事が始まると皆は黙々と食べ始めたり、隣り合う者同士で喋りながら料理を楽しんだ。ヴィナーは新調した杖のお陰で魔法が強化され、「轟雷」の魔法も覚えられたので、次は「暗黒の鉱山」か「暗黒の大地」で、他の魔法も使いまくりたいと俺に訴える。
「まあ、あまり張り切り過ぎるな、こつこつとでいい。焦りは危険を招きやすい」
「それはそうかもしれないけれど」
「お前は良くやっている、この短期間で魔法使いとして、どれだけ成長したか、客観的に捉えるようにしてみろ。以前と比べてどうだ? 伸びているなら焦る必要は無い、着実に一段一段上がるつもりで、強くなって行く方がいい」
その言葉に「なんか団長っぽい……」と漏らすヴィナー。こいつは今まで俺の事を何だと思っていたのだろうか……
料理を食べ終わると、甘い物が好きな奴らは焼き菓子に手を伸ばす。
ユナやメイは話しながらそれを手に取り、美味しい美味しいと言ってパクついている。
「どうだ? 旨いか? その焼き菓子」
「うん、おいしい」
「これ、木苺ですよね。甘酸っぱくて美味しいです」
ユナはそうリーファに声を掛けた。
「あら、それは団長が作った物ですよ」
彼女がそう答えると、ユナは驚きの表情でこちらを見る。
「お菓子も作れるんですか」
「意外だよね」
「あのなぁ……」
ユナはたまにメイにお菓子を作っているらしい、彼女は木苺のジャムが気に入ったらしく、三枚も食べている。──が、メイはすでに四枚目を口にしていた……




