39話 不器用姉弟の邂逅
本日1話目
最近、ロザリンドには日課がある。
頭に葉のついた木の枝をくくり、ロザリンドは生け垣に隠れていた。
視線の先には、異母弟であるシリウスが同級生たちとにこやかに会話しているのが見える。
シリウスのことを知ってからというもの、ロザリンドは彼のことが気になって仕方ない。そのため、影からこっそり観察しているのだ。
「レディ、面白い格好をしているね?」
「……アルド子爵」
耳元で囁かれた声に驚き振り向けば、先日会った、ベルニーニ貴族の彼がいた。
観察に忙しいためすぐに視線をシリウスに戻すが、アルド子爵がロザリンドの隣に座ったことに不信感を持った。
(……変な人。何を考えているんだろう? いつもわたしに話しかけてくるし。でも、気にしても仕方ない。今はシリウスの方の優先順位が上)
セルザード伯爵家に滞在している、ベルニーニ貴族というだけで怪しいのに、ロザリンドに構うところがさらに怪しい。
ロザリンドの薬学の才を狙っているかと思えば、ただの世間話しかしない彼に疑問は尽きない。
「これは擬態。動物や虫が周囲の事物やほかの動物によく似た形態をもっていることを言う。敵の攻撃から逃れるためにとるけど、今回は見つからないようにするためのもの」
「へぇー。やっぱり君は想像以上に面白い」
「……私といて楽しめるとは思えない」
「うーん、この間のことで警戒させちゃったかな?」
「あんなことを言えば、誰だって警戒する」
クスクスと笑うアルド子爵を見て、ロザリンドは唇を尖らせた。
(……まるで、わたしが悪いみたい。それに、遊ばれている……気がする)
ロザリンドは気を取り直し、シリウスの観察を続ける。
彼は平等だった。
貴族、平民分け隔てなく友人を作っているようだし、旧時代的な選民意識も持っていない。とてもできた人格をしていた。
シリウスの態度が豹変するのは、ロザリンドの前だけだったようだ。
「……異母弟はやっぱり、わたしのことが嫌いだったんだね。……まあ、それも仕方ないか」
「ねえ、ロザリンド。今、君は悲しいかい?」
以前のロザリンドならば首を傾げていた質問だ。
しかし、ファリスの弟子となり、ウィリアムと夫婦になったロザリンドはもう、人形のように心を押し殺していた頃とは違う。
「悲しい……と思う。でもそれは、わたしが勝手に期待して、勝手に悲しんでいるだけ。あの子は悪くない」
「ふーん。ねえ、君は自分の母親のことをどこまで知っているんだい?」
「……隣国の人だっていうだけ。たぶん、どこにでもいる貴族令嬢」
「ただの貴族令嬢に、黄金を産めるとは思えないけどね」
剣呑な目で答えたアルド子爵の言葉に、ロザリンドは眉根を寄せた。
「……何か馬鹿にしている?」
「いや、全然」
「それじゃあ、わたしの何を知っているの……?」
「さて。知っているのは、僕と君が無関係ではないということだけだ」
彼は元の飄々とした態度に戻る。
ロザリンドが問い詰めようとするが、それは観察に気がついたシリウスが、物々しい怒気を纏って現れたことで有耶無耶になってしまう。
「……何をやっているんだ、アンタたちは……!」
「あ、見つかっちゃったねぇ。美しい人たちと一緒にいるのは大好きだけど、面倒事には関わらないのが吉さ!」
アルド子爵はそう言うと、軽やかに、しかし迅速にこの場から逃げてしまう。
「おい、待て……! アルド……!」
シリウスは追いかけようとするが、成人男性の脚力には叶わないと思ったのか、すぐに怒りの矛先をロザリンドへと変更した。
しかしロザリンドは動じることなく、堂々とシリウスの前に立つ。
「アルド子爵はただの娯楽としてあなたを見ていたけど、私は違う」
「じゃあ、何が目的だっていうんだよ!」
「さあ、補習の時間だよ。シリウス・セルザード君」
ロザリンドは講師らしい笑みを浮かべると、シリウスの目の前に赤点ばかりの通知表を見せつけた。




