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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
番外編

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82/89

石占い師見習い、街に出る

 

 

 

 

 

 久々に、仕事も勉強の予定もない休みが二日貰えた。

 そんな時は、夜更かしをしてゲーム三昧が出来るのではないだろうか?

 学生時代のように皆でゲームは出来ないので、ロルスと二人きり、二人で出来る対戦ゲームやパズルのようなものしか出来ないけれど。


「と、いうわけで、今日の日中は新しいゲームを発掘しに行くこととする」


「どういうわけだか知りませんがお付き合いします」


 ロルスも付いてきてくれるらしい。やったね。


「面白いゲームと出会えればいいのだけど」


 私はぽつりと零す。

 神が、いや、フローラがゲームを作らなくなってからというもの、私はいわゆる神ゲーに出会えていない。

 私はきっとフローラの手によって他の作家のゲームでは満足出来ない身体にされてしまったのだ。

 あぁ、フローラが突然暇になってくれたりしないかな。

 心置きなくゲームが作れる環境で、ゲームを作ることだけを考えて生きていけるようになってくれたらな。

 ……私が石占い師として大儲けしてフローラに貢げばいいのでは……?

 などとくだらないことを考えながら、私はロルスと共に馬車に乗り込んだのだった。


「そういえば、こうして街に出てきたのは久しぶりね」


「そうですね」


 結婚してからこっち、何かと忙しくてバタバタしていたので我が家と先生のお屋敷周辺だけが私の活動範囲になっていた。

 元々インドア派なのでそれが苦にならなかったから、こうして久々になってしまったのかもしれない。


「折角出てきたし、ゲームだけじゃなく他のものも見てみようかしら?」


「はい」


「ロルスも何か見たいものがあれば遠慮なく言ってね」


「はい」


 そんな会話をしながら、私たちは手を繋いで歩いている。

 これはもしかして、デートなのでは!?


「エレナ?」


 すぐさま邪魔が入るじゃん! 誰だよ! と思って私の名を呼んだ声の主のほうへと視線を向ける。

 するとそこには懐かしのエリゼオ先生が居た。相変わらずいい声だった。

 まぁ卒業してそれほど時間は経っていないのでそれほど懐かしいわけではないけれども。


「エリゼオ先生! お久しぶりです」


 私が丁寧に頭を下げると、ロルスも一緒に頭を下げていた。


「石占い師としての日々はどうだ?」


「話せば長くなりますね」


 と、ちょっとしたドヤ顔を見せると、エリゼオ先生は小さく笑う。


「お前たちさえ良ければ、どこかでお茶でもするか」


「いいですね。ロルスは、いい?」


「はい」


 そんなわけで、私はエリゼオ先生お気に入りのカフェに行くことになった。

 そのカフェというのがまた落ち着いた雰囲気いで、さすがは大人の男が選ぶカフェ、と呟いてしまうほどだった。

 きゃぴきゃぴした女性客が居ないカフェだったので。

 通された席で、三人分の注文を済ませると、エリゼオ先生が微笑みながら小さく首を傾げた。


「それで、どうなんだ? 新婚生活は」


「ん、んん? さっきは石占い師としての日々はって言ってましたよね? まぁ新婚生活はとっても楽しいですけど」


「いやいや、こうして改めて二人が並んでいるのを見ると、本当に結婚したんだなと思ったんでな」


 エリゼオ先生はそう言って私とロルスを交互に見る。


「結婚したんですよ、本当に」


 えへへ、なんて照れを誤魔化すように笑いながらロルスのほうを見ると、ロルスの頬がほんのりと赤く染まっていた。

 うん、ロルスも照れてた。


「しかし見た感じ主従関係が完全に抜けたわけではなさそうだが」


「まぁ、確かに。でも最近やっとロルスがわたしのことをエレナって呼んでくれるようになったんですよ!」


 すごいでしょ! という顔で言ったのだが、先生はきょとんとしてしまった。


「……最近やっと?」


「そうなんです。わりと最近までお嬢様って呼ばれてたので」


 なるほど、と先生が納得したところで、さっき注文したものが出てきた。

 三人とも紅茶を注文したので、私たちの目の前には三つ分の湯気が漂っている。

 それと同時に、芳醇な香りもふわりと漂う。

 これをミルクティーにしてしまうのはもったいないのでは、と思っていたのだが、先生は遠慮なくミルクとお砂糖をぶっこんでいた。

 先生って顔に似合わず甘党だよな。

 以前学園にある先生の部屋に入った時も甘い匂いがしていたし。


「それで、改めて聞くが石占い師としての日々はどうだ? 面倒な依頼主は来ていないか? そういうやつが来た時のために害獣駆除の魔法を教えてやろうか?」


 いやこの人どんだけ私に害獣駆除の魔法教えたいんだよ。

 学生時代にも似たようなこと言われた記憶があるのだが。


「今のところまだ見習いの身なので面倒な依頼主は来てないですね。なので害獣駆除の魔法が使いたくなる瞬間も訪れてないです」


 私はくすりと笑いながらそう答える。


「エレナはたまにぼやっとしている時があるからな。少し心配だ」


「ぼやっと!? そんなこと初めて言われた気がします!」


 学園では成績が良かったのもあってわりと頼れるお姉さんポジションに居たつもりでいたのに。


「昔から、エレナは優しすぎるから。金持ち辺境伯の娘に絡まれた時も全く怒らなかっただろう?」


 そんなこともあったなぁ。


「あれは……怒る要素よりも呆れる要素が強かったので」


「そういうところだ」


 どういうところだ?


「エレナ、お前は自覚していないようだが、かなりのお人好しだからな?」


「そうですかね……?」


 私は思いっ切り首を傾げていたが、ロルスはこくこくと頷いていた。


「お前が面倒な奴に付け込まれて苦労しないか心配だ」


 ものすごく呆れたような声でそう言われた。


「面倒な奴がエレナに近寄らないよう、私が尽力します」


 ふと、ロルスがそう言った。


「あぁ、頼む。ロルスはしっかりしているからな。エレナに関しては特に」


 そうかしら、と首を傾げていると、先生がくすりと笑う。


「エレナは知らないだろうが、エレナに妙な奴が近付こうとすると、ロルスはものすごい顔で睨みつける」


「え」


 マジか、と思いつつロルスの顔を見るも、ロルスは素知らぬ顔で紅茶を飲んでいた。


「昔、華占いの教師に何か言われたことがなかったか?」


 華占いの教師というと、種を爆発させて「面白かった」と言い放った教師のことだろうか?


「あったかもしれません」


「あったんだと思う。あの教師はもうエレナには二度と近づけないかもしれないと零していたからな」


「ロルス、覚えてる?」


「はい。ナタリア様がエレナを占ってくださった際花の種が爆発し、それを知った教師がわざわざ占って花の種を爆発させた上に「面白いものが見れた」などと言ったのであれはエレナにとって有害であり今後エレナの人生に必要のないものだと判断しました」


 めちゃくちゃ覚えてるしめちゃくちゃ怒ってた。


「な、なるほどねぇ」


「そういうとこだぞエレナ」


 反論の余地もございません。

 完全に忘れてたし、多分面白がられたあの時一瞬しか怒らなかったし。

 今では怒ったかどうかも分からない。ムッとはしたはずだけれども。


「……そういえば、わたしはロルスが人を睨みつける顔なんて見たことないわね。最近はよく笑っているけれど、昔は表情筋なんか一つも機能してなかったし」


 話をすり替えよう。


「昔からエレナに近付く奴に対して値踏みするような視線は送ってたぞ」


「そうなの?」


「さあ」


 間髪を入れずに適当な返事が飛んできた。


「俺も値踏みされた」


「えぇ」


 先生もかぁ。


「そして許された」


 それは良かった。


「わたし、全然知りませんでした」


「まぁ、ロルスは大体エレナの背後に立っていたしな。しかし、そんな過保護従者だったロルスがエレナと結婚出来て、俺は嬉しい」


 なぜ先生が喜ぶのか、なんて思いながらロルスの表情を伺えば、一瞬きょとんとした後顔を赤くしていた。


「う、嬉しい……?」


 というロルスの呟きに、先生は深く頷く。


「エレナが別の男と結婚して二人が離れ離れになったらロルスは死ぬのでは? と心配していた。だから、嬉しい。まぁ親心のようなものだ」


 学園に居た頃に見ていた先生はあまり表情を崩さず、どちらかというと厳しい先生という印象が強かったけれど、それも親心からくるものだったのかもしれない。

 そして教師と生徒という関係じゃなくなった今はただただ優しいお父さん気分で卒業生を思ってくれている、といったところか。

 だとしたらエリゼオ先生ってめちゃくちゃいい人なんだなぁ。

 さすがはルビー様の子孫である。


「親心……でも先生、結婚してませんよね?」


 優しく微笑んでいたはずの先生の顔から表情が消えた。

 過去のロルス以上に表情筋が仕事を放棄している。


「してない。出来ないんじゃなく、してない」


 まさか先生、結婚出来ない男なのでは……!?


「でも先生、モテますよね?」


 声も顔もいい男なんだよ!? しかも教師だし、モテないわけないよね!?


「モテない」


 まさか!

 私の石占いで確認してやろうと思ったが、今日は石を持ってきていない。


「結婚したい気持ちはあるんですか?」


「なくはないが……してない」


 先生の顔がほんの少ししょんぼりしてきてしまった。

 やだ可哀想。


「……あの、先生、よければ今度わたしの屋敷に来ませんか? 先生が嫌じゃなければ石占いやってみません?」


「……する」


 返事がくるまでに、たっぷりの間があった。

 占うかどうか、悩みどころなのだろう。

 結婚願望がないわけではないみたいだし、占いの結果が「結婚出来ない」だったら凹むもんな。


 そんなわけで、私たちはお互いの予定を合わせて、後日先生の命運を占うことにしたのだった。





 

結婚できない男エリゼオ・ランディ。


ブクマ、評価、拍手ぱちぱち等いつもありがとうございます。

そしていつも読んでくださってありがとうございます!


そういえば先日拍手にて、エレナの中身が5歳の頃から現在まで大差ないから現在何歳なのかが分からないとのコメントをいただきましたが、このお話の時点でエレナは17歳です。

本編も分かりやすくなるように近々改稿いたします。

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