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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
番外編

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石占い師見習い、初仕事をする

サブタイトルが石占い師見習いになりましたが、内容はいつものエレナ視点です。

 

 

 

 

 

 魔法技術を継承してから数日が経過した頃、先生のお屋敷で夕食をいただいていた時のこと。


「え、わたしの初仕事ですか?」


「そう」


 私はまだ先生の元で絶賛見習い中なのだが、そんな私が仕事なんてしても大丈夫なのろうか。


「どうしても急いで私に占ってほしいって方がいらっしゃるのだけれど、都合が合わないのよねぇ。だから私の弟子で良ければって言ったらそれでもいいっておっしゃって」


 そんなに急いでるなんてめちゃめちゃ切羽詰まった人じゃん。本当に大丈夫なのか?


「先生ほどの人の弟子ならきっと腕は確かだろう、って言われて私もちょっと浮かれてしまって……」


「えぇ……」


 結局、浮かれちゃった結果了承してしまったらしい。


「だってエレナちゃんは私の自慢の弟子だし? 飲み込みも早いし、本当に腕は確かだし?」


「わたしまだ練習中ですよ? 本当に大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫よ! 私の宝石たちも大丈夫だって言ってるもの」


 人生の大先輩である先生の宝石が大丈夫だって言ってるなら大丈夫なのだろう。

 ……いや本当に大丈夫か? 不安だ。


「ロルスはどう思う?」


 ふと隣でもくもくと夕飯を食べていたロルスに問いかける。


「エレナの腕は確かだと、私も思います。ただ依頼者がとても切羽詰まった様子なのが気になります」


「わたしも気になります」


「エレナが急かされたり無理強いをされたり、危害を加えてくる心配はありませんか?」


 そこまで心配する? と問うつもりでロルスのほうを見ると、そこにはものすごく真剣な表情があった。

 この子、本気で心配してたわ。


「危害を加えてくる心配はないと思うわ、さすがに。相手はエレナのお父様と同じくらいの年代の男性でね、娘さんの縁談で悩んでいるそうなの」


「娘さんの縁談」


 先生が言うには、その方の娘さんには数件の縁談が舞い込んでいるのだとか。

 そしてその方は私のお父様とは違いどの人がいいのかを吟味しているのだそうだ。

 私のお父様は吟味などせずに片っ端から断っていたけど。


「縁談には期限もあるし、それなのに娘さんはなんとも煮え切らないし、ってことで私に相談したいそうなのよ」


「でも先生とその方の都合が合わず、と。なるほど。その方がわたしでいいとおっしゃるのなら、わたし頑張ります」


「よかった、ありがとうエレナちゃん。頑張ってね」


 そんなわけで、明日が私の初仕事の日となったのだった。



「本当に大丈夫なのですか?」


 眠る直前、ロルスに声をかけられた。


「うーん、まぁなんとかなるんじゃないかなぁ」


 革袋の中からルビーが「私がついているので大丈夫です」って言ってくれてるし。ロルスには聞こえないだろうけれど。


「私は心配です」


「心配してくれてありがとう。でも今後はこれがわたしの仕事になるわけだから早めに実践を積めたほうがありがたいとも思うのよね」


「それは、そうですが……」


「ロルスがキスしてくれたらとっても頑張れると思」


「おやすみなさい」


 食い気味でシャットアウトされました。


 翌朝、私は無自覚ではあるものの緊張していたらしく起きる予定の時刻よりも早く目が覚めてしまった。

 ふと隣を見るとロルスが瞳を閉じて横になっている。

 昔から必ず私よりも先に起きていたロルスが隣で眠っているのだ。

 実に可愛い寝顔である。

 そして可愛いほっぺが実に無防備である。

 ここは元意地悪令嬢として、何か一つ悪戯でも仕掛けるべきだろうか。


「まだ起きるには早い時刻ですが、緊張しているのですか?」


 起きてた。


「……もうちょっと寝るわ」


 私はそう言ってロルスに背を向け、背中をぐいぐいとロルスに押し付けながら二度寝をすることにした。

 するとロルスももぞもぞと動き出す。


「ぐぇ」


 動き出したと思ったら私に覆い被さってきたしちょっと潰されて漏れた声に思わずといった感じでくすくすと笑いだした。

 そしてそのままいつのまにか二人とも眠っていた。


 中途半端な二度寝のせいで少し眠いけれど、やはり緊張のせいか眠気はすぐに飛んでいってしまう。


「さて、わたしは一度浄化の森に行くけれど、ロルスはどうする?」


「行きます」


 この時間ならきっと先生もあの場所に居るはずだ。

 水晶の洞窟に入れば、案の定そこには先生が居た。


「おはようございます、先生」


「おはようエレナちゃんロルスくん。二人とも眠そうね?」


「緊張してちょっと早く目が覚めてしまって。そしたらロルスがじゃれついてくるから……」


「違っ」


 そんな和やかな雰囲気でなんとなく緊張が和らいだ気がした。


「何かあった時に私がすぐに助けられるよう、エレナちゃんの仕事部屋を私の屋敷に作ったから、今日はそこで仕事をしてね」


「はい」


 そう言って通されたのは先生の仕事部屋の近くの一室だった。

 雰囲気づくりのためと宝石や魔法陣の光りを際立たせるため薄暗くされた部屋に、心を落ち着けるという花の香りがふわりと漂っている。

 真ん中に置かれたテーブルには柔らかくて上質な布が敷かれていて、私が座る椅子には可愛いクッションが置かれていた。


「これは私からの贈り物よ」


「贈り物?」


「初仕事記念の贈り物」


 そう言って渡されたのは大きめの宝石箱だった。

 蓋や側面には薔薇と蔦が彫られていて、色とりどりの小さな宝石がちりばめられている。

 蓋を開けると柔らかくて手触りのいいクッションが敷かれている。


「わぁ、可愛い」


「エレナちゃんは宝石を革袋に入れてるみたいだけれどこういうのに入れるのも可愛いでしょう?」


「はい! ありがとうございます!」


 私が宝石を革袋に入れていたのは過去網膜を焼き切らんとするレベルで光り輝いていた宝石から視力を守るためだったのだが、先生はそれを知らない。

 そんなことを考えながら、私は革袋から取り出した宝石たちを宝石箱に移す。

 可愛すぎてテンションが上がる。


「それじゃあエレナちゃん、初仕事頑張ってね」


「はい」


 先生と別れてから少し時間が経ったころ、初めてのお客様である男性がやってきた。

 私が若造だからとなめられたらどうしようかと不安だったのだが、彼は部屋に入るなり律儀に頭を下げてくれた。


「今日はよろしくお願いします。無理を言ってしまい申し訳ありません」


 第一声すらも律儀だった。


「こちらこそ、まだ見習いの身ですので至らぬ点があるかと思いますがよろしくお願いいたします。では、どうぞ」


 私と男性はテーブルを挟んで向かい合わせで座る。


「今日は、娘の結婚について見ていただきたいのです」


「娘さんの結婚、ですね」


 私はそう言いながらテーブルの上に魔法陣を描く。

 まずは目の前の男性、娘さん、そしてその相手の分の魔法陣を。

 そしてその上に、宝石箱から取り出した石たちを転がしていく。

 男性の魔法陣の上と、娘さんの魔法陣の上に転がった宝石が、一本の真っ直ぐな光の柱を立てる。

 光り方がそっくりなので二人は似た性格の親子なのだろう。真っ直ぐと筋の通った素直な人だと石も言っている。


「娘さんのお相手は……二人いらっしゃいます?」


 お相手の魔法陣の上に宝石が二つ転がってきらきらと美しく輝いているのだ。


「は、はい。二人のうちどちらにするかを悩んでいるのです」


 元々はもう少しいたのだが、最近やっと二人に絞ったのだとか。

 石が言うには二人とも家柄も性格も問題ないそうだ。結婚すれば娘さんをきっと幸せにしてくれるだろう、とも言っている。


「娘はどちらでもいいと言うのですが、娘の気持ちが分からないまま私が決めるのもどうかと思っていて」


「なるほど」


 私はそう言って、娘さんの魔法陣にもう一度宝石を転がす。

 そして男性の魔法陣にも宝石を転がした。

 男性の魔法陣の上で転がる宝石が、強く輝く。


「……あなたの直感に頼るのがいいみたいですね」


 ぽつりと零せば、男性の眉が情けなく下がる。


「迷っているから助言を聞かせてもらいたいと言っているのにそんな突き放すようなことを……!」


「あ、いえ、すみません、そういう意味ではないのです。順を追って説明しますね」


 これは完全に私の言葉選びのミスだった。石の言葉をそっくりそのまま言うだけではダメなのだ。

 彼を不安にさせてしまった。


「まずは娘さんですが、彼女は本心からどちらでもいいと思っているようです」


「本心から……?」


「はい。現在迷っている二人とも家柄も顔も性格も文句の付け所がなく、逆に決め手がないみたいです。彼女のどちらでもいいという言葉はとっても素直な本心です」


「ほ、本心からどっちでもいいと……」


 まさか心の底からどっちでもいいと思っているとは思わなかったようだ。

 そして、と私は相手の魔法陣で輝いている宝石を指す。


「わたしはこの二人に会ったことはありませんが、どちらも淀みもくすみすらもなく輝いているので、とても好青年なのだと思います」


 ただ、娘さんの真っ直ぐさが強いので、結婚したら尻に敷かれそうではある。

 それは伝えるべきか黙っておくべきか……。


「それで、先ほどの言葉に戻るのですが、あなたは直感がとても鋭い人のようです」


「直感、ですか?」


「はい。その直感の鋭さは生まれ持った才能の一つのようです」


「言われてみれば……昔から直感で動いてよかったと思うことが何度もあった気がします」


 それはそうだろう。この人は直感だけで生きたほうが幸せになれると石が言っているから。


「ですので、あなたがこの二人を見て、自分の娘を幸せにしてくれるのはこっちだと思ったほうを選ぶと娘さんは幸せな結婚が出来るのではないでしょうか」


「なるほど……どちらも、娘との相性はいいのですね?」


 男性の問いに、私は大きく頷く。


「どちらとも、性格の相性も、前世からの縁の繋がりもいいみたいです」


 と、石が言っている。

 石は前世の繋がりとかも見えるのか。知らんかった。


「私が選んでも大丈夫なのか」


「はい。あなたから見て娘さんを安心して任せられると思った人を選ぶと娘さんはもちろん家族ぐるみで幸せになれそうです」


 そう言って笑顔を見せると、彼はやっと安心したような笑みを浮かべていた。


「ありがとうございます。もしもまた迷ったら、相談に来ます」


 男性はそう言って帰っていった。

 彼と娘さんと選ばれたお相手が幸せになれますように。

 娘さんの魔法陣に転がった宝石の光り方、誰かに似ていた気がするけど誰だったかな。


「エレナ」


「ロルス。初仕事、終わったわ」


 部屋から出たところにロルスが居たので、私は遠慮なくロルスの胴体に抱きつく。


「大丈夫でしたか?」


「大丈夫。ただ、一つだけ失敗してしまったけれど」


 言葉選びのミスで男性を不安にさせてしまったのは問題だった。

 言葉選びは今後も勉強していかなければならない。

 心配そうに私の顔を覗き込むロルスに、私は笑顔を見せる。


「日々勉強ね」


 私がそう言うと、ロルスも小さく笑顔を見せてくれて、そっと頭まで撫でてくれた。


 次の仕事がいつになるのかは分からないけれど、勉強を重ねて先生のような皆に信頼される石占い師になれるように頑張ろう。

 そう決意した翌日、早速私のもとに迷える子羊がやって来るのだが、この時の私は知る由もなかったのだった。





 

ブクマ、評価、拍手などいつもありがとうございます。

そしていつも読んでくださってありがとうございます!


最近ナチュラルにいちゃつけるようになってきましたエレナロルス夫婦。

いちゃつくというかじゃれつくというか、といった感じではあるのですが。

次回はあの人が来ます。お楽しみに!

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