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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
番外編

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元意地悪令嬢、結婚する

 

 

 

 

 

「結べる?」


「……はい」


「時間かかってるみたいだけど」


「……正直なところ、指が震えております」


 今日はロルスと私の結婚式の日である。

 この世界の結婚式は、神殿でのお祈りの部とパーティーの部に分かれている。

 まぁざっくり言えばお祈りが日本でいうところの挙式に当たるものでパーティーが披露宴に当たるもの、といった感じだ。

 ただ両家の親族がパーティーの準備をしている間に新郎新婦の二人だけでお祈りに行くので、神父さんが居てなんやかんやを誓い合ったり指輪を交換したり誓いのキスをしたりなんてことはしない。残念ながら。

 あのヴェールをぺらっとやってもらって誓いのキス、みたいなの、ちょっと憧れてたんだけどな。なんて思いながら、私は準備が整うのを待っていた。

 お祈りにはお互いシンプルな白い衣装で行くのだが、新郎が着ているシャツのボタンを新婦が留め、新婦が着ているドレスの背面にあるリボンを新郎が結び終えると準備完了となる。

 というわけであと少しで準備完了なのだが、ロルスがもたついているのだ。


「なに? 緊張しているの?」


「そんなところです」


 まだ準備段階なのに何を緊張することがあるのよ、と振り向こうとしたら、ロルスがさっと私の視界から消えた。死角に逃げやがった。


「もう結べますので前を向いていてください」


「なんで?」


「しゅ、集中したいの、で……!」


 顔だけで振り向いたところで何も見えないと判断した私が体ごと反転したら、そこには真っ赤になっているロルスが居た。


「ど、どういうこと? なに、まさかロルス、照れてるの!?」


「いえ、あの……えーと……はい」


「て、てて、照れる要素どっかにあった!?」


 部屋に二人きりで最後の準備をしてるだけだっていうのに!?


「も、申し訳ございません」


「べ、別に謝らなくてもいいんだけど」


「……その、お嬢様のうなじを直視してしまいました」


 そんな理由かい。

 確かに髪をアップにしているし、背面のリボンは私よりも背の高いロルスが結ぶことを考慮して首のあたりに来るようにデザインしてもらったから、結ぼうと思ったらうなじが目の前に来るんだろうけれども。

 ちなみに背面のリボンは首から腰までの間ならどこでもいいらしい。

 こんなことなら腰のあたりにリボンをつけるべきだったかと思ったけれど、そうなるとロルスが跪いてリボンを結ぶことになり、それはそれで私が照れそうな気がしてならない。

 いや、二人ともこのくらいで照れてしまうのだから、誓いのキスなんて儀式がなくて本当に良かった。死ぬとこだった。


「結べた?」


「はい。お待たせいたしました。……お嬢様、とても綺麗です」


「うなじが?」


「う、いえ、すべてが」


「それはどうも。あなたもとってもカッコイイわ。出会った当初はもやしかと思うくらい貧相だったのに」


 ただ褒めればいいものを、余計な言葉を足してしまったなと思ってそろりとロルスを見上げると、こんな嫌味を言われているはずなのにまだ赤くなっていた。


「いや今のは照れる要素なかったでしょうよ」


「お嬢様はもう少し己の可愛らしさに自覚を持ったほうがいい……」


「えぇ……そんなこと言うのロルスかお父様かお兄様くらいよ。じゃあ準備出来たわね、行くわよ」


 ボタンを留めてリボンを結ぶだけなのに、なんだか時間がかかってしまったわ、なんて呟きながら部屋のドアを開けると、お母様が待ち構えていた。


「やっと準備が整ったのね! 遅いから何してるのかと、いや、なんで二人とも真っ赤になって出て来てるのよ何してたのよ」


「だってロルスがわたしのうなじを見て照れるんですもの」


「おじょ……っ」


「うなじぃ? まぁ分からなくもないけどそのくらいで照れててどうするの? そのリボンを解くのもあなたの仕事なのよ?」


 お母様はそう言ってからさっさと歩き出した。私もそれに続くように一歩踏み出す。

 ロルスは小さな小さな声で「ひぇ」と零していた。

 いや本当に誓いのキスなんてものがなくて良かったね、ロルス。


「じゃあ裏門から出たところに馬車が用意してあるから、それに乗っていくのよ」


「はい。それでは行ってきます、お母様」


「いってらっしゃい。しっかりするのよ、ロルス」


「はい。行ってまいります」


 現在地はアルファーノ家の本邸である。

 元々はロルスと私の新居であるあの家でパーティーを開くつもりだったのだが、スヴェンが来てくれることになったのでアルファーノ家の本邸を会場にしたのだ。

 一国の王子様が来るには、あの新居では狭すぎたから。


 そんなアルファーノ家本邸の裏門に、馬車が停まっている。

 白い馬が引く、立派な馬車だった。

 御者の方に挨拶をしてから、ロルスのエスコートで馬車に乗り込む。

 目的地は既に義理の母であるカメーリア先生が御者の方に告げているそうなので、私たちが乗り込んだところで勝手に動き出した。


「……大地の神が祀られている神殿、って言ってたわね」


「はい」


 今回、お祈りに行く神殿は先生が石占いで決めてくれたのだ。

 ロルスと私、二人と相性がいい神が祀られている神殿に行くべきだと言って。

 そしてその占いの結果、二人と相性がいいのは大地の神だった。

 先生が描き出した綺麗な魔法陣の上で、アイオライトがきらきらと輝いていて、それを見た先生が「大地の神がうきうきして待ってくれてるみたい」と、そう言っていた。

 そして、こうもはっきりと出てくれたのなら何も迷わなくていいわねぇ、と微笑んでいた。

 結婚する二人の相性があまりよくないとはっきり出ないこともあるのだとか。

 二人の相性が良かっただけなら私も素直に喜ぶのだが、大地の神かぁ。

 私、以前大地の神に「二人のことは放っておいて」って言ってしまったのだが、大丈夫なのだろうか。

 まぁ占いの結果では大地の神はうきうきしてるみたいって出てるんだけど。

 うきうきしてる場合か?


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「ん?」


「突然口数が減ってしまわれたので。どこか具合でも悪いのですか?」


「そんなことないわ。神殿で何をお祈りしようか考えてたの。まずはロルスがわたしをエレナと呼んでくれるようにお祈りするわね」


「えっ」


「えっ、て。この先永遠にお嬢様って呼ぶつもりなの? 正式に結婚したら呼ぶって言ってたのに! っていうかもうすぐにお嬢様って年でもなくなっちゃうのよ!?」


「……善処します」


 善処してくれ今すぐに。


 そんな会話を交わしていると、馬車が止まった。どうやら神殿に着いたようだ。

 神殿は石造りの建物で中央に輝く尖塔が聳えている。あの輝いている部分はクリスタルが使われているらしい。

 中に入ると、そのクリスタルを通した光が七色に輝いていてとても綺麗だった。

 ここがRPGの世界ならどんな状態異常も回復してくれるやつ。

 なんてくだらないことを考えながら、神殿の奥にある祭壇の前に二人で並び立つ。

 そこで一度頭を下げ、瞳を閉じて指を組む。

 誓いの言葉も誓いのキスもしないけれど、こうして祈りを捧げることで、結婚の儀式は完了となる。

 放っておいてと言った手前、大地の神に二人が幸せになれるようにと祈るのはどうなんだろうと思いつつも、文句を言われている雰囲気は感じないのできっと大丈夫だろう。

 ふと目を開けてロルスのほうを見ると、ロルスはまだ祈っている途中だったようだ。

 長々と何を祈っているのだろう。なんて、ロルスの長いまつげを眺めながら考える。


「……お待たせしました」


「ううん」


 私たちは祭壇に向かってもう一度頭を下げてから、その場を後にした。

 これで、二人は晴れて夫婦となったのだった。


「あ、ロルス、これやって帰りましょう」


 これこれ、と私が指したのは、ちょっとした占いだった。

 願い事を書いた紙を水に浮かべてそれが早く溶ければ願いが叶う、という日本のどこかの神社にもあったようなやつだ。

 ただその水が入っている器がものすごく巨大なアイオライトをカットして作られている。これはきっと日本にはない。


「二人で同じ願い事をしましょう」


「同じ願い事、ですか。それでは……二人が永遠に幸せになれるように、でいいですか?」


「いいわね。じゃあ私が書くわね。えーっと、二人の魂が永遠に幸せになれますように、と」


「魂」


「あ、ついうっかり。魂なんて書いたら今の私たちどころか来世も一緒になっちゃうかもしれないわね」


 書き直す? と問いかける前に、ロルスがその紙に自分の名前を書いていた。

 ロルスがこのままでいいのなら、と私も名前を書いて、二人で水の上にスタンバイする。


「せーの、で浮かべるわよ」


「はい」


「せーの」


 浮かべた。と思ったその瞬間、もう紙は溶けてなくなっていた。

 酸でも入ってんじゃねぇのかってくらい早かった。びっくりした。


「こんなに早く溶けるものなのね」


「驚きましたね」


「大体こんなものなのかしら?」


「溶け残りを掬って捨てる道具があるのでもっと残るものなのかと思いましたが……」


「……跡形もないわね」


 こんなに瞬時に跡形もなく溶けるということは、きっと願いが叶うということなのだろう。

 幸せになれるならなんでもいいけど。


「これで、我々は永遠に幸せですね」


 そう言ったロルスのほうを見上げて、そうねと相槌を打とうとしたのだが、私はうっかり言葉を詰まらせてしまった。

 なぜなら、ロルスが幸せそうに笑っていたから。

 寡黙で表情筋をあまり使わないこの男が、とんでもなく幸せそうに笑っていたのだ。


「お嬢様? ……あ、え、エレナ、様?」


「様はいらないわぁ」


「……エレナ」


「ありがとう、わたしは幸せ過ぎて気を失いそうだわ」


「えっ」


 冗談じゃなく気を失いかけたわ。ロルスの笑顔のせいで。

 危険だわぁ。微笑みの爆弾じゃん。危な。


「そろそろパーティーの準備も出来るころでしょうし、戻りましょうか」


「はい」


 歩き出そうとしたところで、ロルスに腕を差し出されたので、私は遠慮なくその腕に己の腕を絡ませたのだった。





 

次回はパーティー編です。お楽しみに。


ブクマ、評価、感想、拍手等いつもありがとうございます。

そして変わらず読んでくださって本当にありがとうございます!

こうしてゆるっと書くのも楽しいな~と思ったら書きたいものがあれこれ浮かんできてるのでゆるふわ~っとお付き合いいただけると嬉しいです。ゆるふわ~。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語と何にも関係無いのですがつい残したかったので言います 微笑みの爆弾ってそういう意味だったのですね やっと幽遊白書のopの名前の意味がわかりました ありがとうございます(op風)
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