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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
本編

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63/89

意地悪令嬢、約束する

 

 

 

 

 

「許せませんよ、謝られたって」


「そうか」


「千年の呪いって言ったって、覚えてなんかなかったけれど……覚えていなかったからこそ、正直どうでもよかった。この被害者がわたしだけなら適当に許すって言ってたかもしれません。でも、一番の被害者があの魂なんだもの。わたしじゃなかった」


 私はそう言って眉根を寄せた。胸が、酷く苦しかった。


 今私が誰と話しているのかというと、例の大地の神。

 私があの呪いの杭に触れた途端、青い宝石で出来た杭に亀裂が走り花火のようにはじけ飛んだのだ。それに驚いて目を閉じると、今までいた空間とは違う場所に居た。

 薄暗くもなく湿気もない、穏やかな場所だった。

 その場所がルビー様に初めて会ったあの湖のほとりだと気が付いて、そっと湖のほうへと足を進めると、そこには光の塊が浮かんでいる。

 なんだあれ、と思ったところで地響きのような音に交じって声が聞こえてきたので、あの光が大地の神なのだと悟ったわけだが。

 その声が最初に発した言葉が謝罪の言葉だったので、私は許さないと零したのだ。

 呪いが私にかかってしまったせいで、あの護衛の騎士は千年もの間あの薄暗く湿っぽい場所であの女学生を守り続けた。

 そして何度も何度も転生を繰り返しては悲しみ続けてきた。

 私は、ただ悲しませるばかりだった。


「千年の呪いを解いた褒美に、千年の祝福を与えよう」


「……いらない。もう、わたしたちを放っておいて」


「そうか」


「でも……一つだけ、ロルス、いや、あの魂の持ち主の魔力をもう少し増やしてあげてほしい、です」


 いずれ探し出す気ではいるけれど、離れ離れになっている間にあの子が困らないように、そう思ったのだが、それは出来ないと言われてしまった。

 千年の祝福とか言ったくせにそんな小さなことが出来ないってどういうことだよ。


「あの者の魔力が少ないのは、あの者の選択の結果だからだ」


「選択の結果?」


「あの者は、今より三つほど遡った前世で己の記憶の扉をこじ開け千年の呪いに気が付いた。そうしてその呪いに対抗すべく一つの筋書きを作り上げた」


「筋書きぃ?」


「最愛の魂が不幸になる、と見せかけて幸せになるという神の目を欺こうとした筋書きだ」


「筋書き、筋書き……シナリオ……乙女ゲーム」


「そう呼ばれていたな」


「乙女ゲーム?」


「そうだ」


 大地の神が言うには、あの母親が言っていた乙女ゲームのシナリオを書いたのはロルスの前前前世あたりの奴だったそうだ。

 最愛の魂、まぁ私が悪役として君臨して最終的に不幸になるシナリオを作り上げ、それがこの世界で実行されるように仕組んだらしい。

 さらにその裏に重ね掛けするように、そのゲームのヘビープレイヤーである母を私の側に配置し、イレギュラーである自分をも配置し、不幸を回避して幸せになるというシナリオを作り上げていた。

 まぁなんだか難しい話だが、要するに小細工をするために後先考えずに来世の分まで魔力をつぎ込んだわけだ。

 だからロルスの手元に魔力が残っていなかった。

 私に呪いを回避させようと来世の分まで魔力を使っちゃうなんて……マジであの魂どんだけ私のこと好きなの。さすがに照れるわ。

 っていうかその話をこの大地の神がしちゃってるってことは裏シナリオもお見通しだったってことだし失敗してんじゃん。不憫にもほどがあるな。

 さらによく考えたらそのシナリオなくても今が千年目なわけで、呪い回避どころか普通に解ける流れだったっぽいし?

 やだもう完全に魔力無駄にしちゃってるじゃん!

 なんだろう、愛すべきアホみたいな……!


「ロルスに前世の記憶は」


「魔力がないのだから記憶の保持は不可能だ」


 せめてもの救い。

 私も今の話は出来る限り早く忘れてあげよう。聞かなかったことにしよう。そうしよう。

 そう強く決意したところで、背後から声がかけられた。


「レディ!」


 ルビー様の声だ。

 くるりと振り返ると、そこにはルビー様と女学生をお姫様抱っこした護衛の騎士が立っていた。


「大丈夫か?」


「大丈夫。今大地の神と、あれ、居なくなってる」


 さっきまで光の塊があったはずの場所を見ると、もうそこには何もなかった。

 話は終わったってことだろう。


「えっと、二人とも本当にありがとう。二人が居てくれたから無事に呪いが解けた。案外あっさりね」


 そう言うと、二人はゆるゆると首を横に振った。


「それで……、さっきこれからは幸せを繰り返しましょうなんて啖呵切っちゃったけど、居ないのよね、ロルスが」


 何か手がかりはないかな、と期待を込めたまなざしを送ってみたが、やはり二人にも分からないそうだ。そりゃそうだが。


「大丈夫だ。この魂は、あなたの魂なしでは生きられない」


 それはそれで大丈夫なのか? と思ったが、それを口外することなく頑張って飲み込んだ。


「大丈夫ですレディ。私はあなたの味方です。いつまでも」


「ありがとうございますルビー様。前にも貰ったその言葉、とっても心強かった」


 と、微笑み合っていたところで全員の体が透け始めていることに気が付いた。

 呪いも解いたことだし、解散なのだろう。


「じゃあ、護衛の騎士さんはその子のことよろしくね」


 無事に成仏してほしい。成仏って言うのかは分からないけれど。


「わたし、ロルスのこと探し出して絶対幸せにするから!」


「いえ、レディの幸せを優先してください」


「ロルスが幸せならわたしも幸せだから大丈夫! 頑張るね!」


 そう言って、私は長い夢から覚めた。



「三日くらい寝続けてた気がする……体がだるい」


 そんなことを呟きながら起き上がる。

 今日から立て続けにお茶会が開かれるのだからぼんやりしていられない。

 お茶会の合間にロルスを探さなければならないわけだし。


「よし、お菓子焼こう」


 ロルスの好きなケーキを焼いたらもしかしたら匂いにつられて戻ってくるかもしれない……なんて、さすがにそんなことはないだろうけど。でももしかしたら。うん。……うん。ないか。

 まぁでもルトガーも来るし、絶対喜んでくれる子が一人はいるんだからやっぱり焼こう。学園を卒業したら食べさせてあげられなくなるかもしれないし。

 そんなことを思いながら厨房で黙々とお菓子を焼いていたら、侍女から声が掛かった。

 そろそろ着替えなければならないようだ。

 私は深い緑色のドレスを選び、それを着てお茶会に出ることにした。


「エレナ、本日はお招きいただきありがとうございます」


 一番にやってきたのはレーヴェだった。

 正装に身を包んだレーヴェはキラキラ度が普段の五割増しになっている。さすがは乙女ゲームの攻略対象キャラクターだ。


「来てくださってありがとう。……せっかくレーヴェが来てくれたのにゲームが出来ないなんて、なんだか変な感じね」


 そう言って、私たちはくすくすと笑う。


「エレナさん、えっと、本日はお招きいただきありがとうございます」


 次にやってきたのはフローラだった。

 綺麗に着飾った彼女はとっても美人だった。

 最初に見たときは思ったより地味では、なんて思ったけれど、今では地味さよりも美しさが勝っている気がする。

 パラメーターを美女寄りに振ったのだろうか。ヒロインだし。まぁこのゲームにパラメーターがあるのかどうかは知らんけど。


「これ、お土産です」


「お土産?」


 手土産なら使用人から使用人に渡されるはずだが、と思いつつも彼女に差し出された袋を手に取る。


「父に、あ、産みの父のほうに、ルビー様を題材にしたゲームの話をしたら形にしてくれて、まだ試作品なんですけど良かったら、って」


「嬉しい!!!!!」


 神が創りたもうた推しのゲーム!

 近くに居た侍女にこの宝物を丁重に私の部屋へ運んでくれと頼み、私たちは席についた。


「エレナさんのドレス、ロルスさんの色ですね」


「……うん、そうなの」


「見つからないな、ロルス」


 皆探してるのに、とレーヴェが呟く。


「どこに行っちゃったのかしらねぇ、あの子。でももうこうなったら普通には戻ってこられないと思わない?」


 私がそう言うと、二人ともこてんと首を傾げる。


「だってこれだけ探してるのに見つからないのよ? それなのに普通にひょっこり帰ってきたら面白くないじゃない」


「面白さを求めるところじゃないと思うんだけど」


「ある程度面白さも求めなきゃやってらんないわよ」


「あ、ちょっと怒ってるんだねエレナ」


「怒ってないもん」


 怒ってない。怒ってはいないけれど、普通に戻ってこられたってどうリアクションしたらいいか分かんないじゃない。


「エレナさんの身に危機が迫っている! って時に颯爽と戻ってきてくれたらとってもかっこいいと思います!」


「いいわね!」


 さすがフローラ。そういうの大好き!


「エレナの身に危機が迫るってどういう状況なの」


「わたしが道端でふらついてるのを助けてくれたのがロルスだった、とかね」


「いいですね! きっとエレナさんは差し伸べてくれた手だけを見てロルスさんだって気付くんだと思います!」


「確かに気付くわ。だってロルスの手だもの!」


 きゃっきゃきゃっきゃと盛り上がる私とフローラを眺めるレーヴェの顔がほんのり引き攣っていた。

 そして呟くのだ。


「ロルス、早く帰ってこないと大変なことになるぞ……!」


 と。

 確かにこのままだとハードルは上がり続けるのだろうな。頑張れロルス。


「わたしは逆でもいいのだけれど」


「逆?」


「ロルスの身に危険が迫ってるところにわたしが颯爽と救出に行くのよ」


「エレナさんかっこいい! ルビー様みたい!」


「本当!?」


「ロルス、もうすでに大変なことになりかけてるぞ……!」


 ……頑張れロルス!


 そんなこんなで、私が開いたお茶会は大変楽しいものとなった。

 しかし、このすぐ後に我が家史上最大の揉め事が勃発するなんて、その時の私は露ほども思っていなかったのだった。





 

ロルスもうすぐです!

評価、ブクマ、感想、拍手等いつもありがとうございます。励みになっております。

そしていつも読んでくださってありがとうございます。

活動報告にも書きましたが、小説家になろう公式コンテンツ「今日の一冊」にこの作品の紹介を載せていただきました。

あらすじと登場人物紹介が読めるのでそちらもどうぞよろしくお願いします。

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