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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
本編

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意地悪令嬢、お茶会の準備をする

 

 

 

 

 

 結局呪いの解き方については分からないまま、王立中央図書館に行った日から数日が経過していた。

 千年の呪いって言ってるくらいだし千年経ったら自動的に解けたりするやつだったりしないのかな。そうなれば一番楽に切り抜けられるのだけど。

 もしも自動的に解けない呪いだったら、そして解き方が分からないままだったら、私はまた短い生涯を終えることになってしまうのだろうか。

 そう思うと少しだけ怖くて、背筋がぞわぞわした。

 今までたまに感じていた「もしかしたら死ぬんじゃないか」という漠然とした不安はもしかしたら魂に刻まれた記憶のせいだったのかもしれないな。


「あらエレナ、なにをぼんやりしているの?」


「お母様。別にぼんやりしているわけでは」


「ドレスを仕立てに行くから準備をしてきなさい」


「ドレス?」


「そう。あなたたち学生は学園を卒業したら正式に社交界デビューをするから、在学中にお茶会なんかを開いて練習するものなのよ。だから、その時に着るドレスをね」


「はぁ……」


 正直私は死の瀬戸際(仮)なんでそんなことをしている暇なんかないのだが。

 そもそもそんな暇があるくらいならロルスを探しに行きたいし。……私にロルスを探す資格があるのかどうかは悩ましいところだけど、元気にしているかくらい、知ってもいいと思……いたい。出来れば。


「だからあなたにはぼんやりしている暇なんてないのよ」


「えぇ……」


「採寸を終わらせたら招待状を書かなければならないし」


「招待状」


「初めはクラスのお友達を誘えばいいのよ。仲良しのお友達とこの家でお茶会をするの。楽しそうでしょう?」


「まぁ……確かに」


「卒業してしまったら会えなくなる子も居るでしょうから、今のうちにたくさん思い出を作るの」


 確かに、今は毎日のように会えるけれど、卒業後の皆がどうなるのかなんて分からないし、少なくとも毎日なんて会えなくなる。


「それとこれは私の経験談だけれど、招待状やその他諸々の書き方は今のうちに覚えておいて損はないわ。私のように伯爵家になんか嫁いだ日にはあちこちに書状を送らなければならなくなる……」


 母の目がどこか遠くを見ていた。どうやら諸々の書状で苦労をしてきたらしい。


「でもまぁ、お友達とのお茶会は難しく考えずに楽しめばいいから。ちょっと忙しくなるけれど頑張りなさいねエレナ」


「はい、頑張ります」


「頑張れば、そのうちご褒美が降ってくるものだから、ね」


 母はそう言ってにこりと笑ったのだった。


 友人たちを招いてのお茶会に思いを馳せながら、準備を整えて馬車に乗り込んだ。


「……いや、お母様、ここでドレスを?」


 母に連れられてきたのは、王都でもトップクラスの人気を誇る仕立て屋さんだった。

 近所の仕立て屋さんに行くものだと思っていたので尋常じゃないほど驚いている。なぜならこのお店、人気も高けりゃ値段もお高いのだ。


「一度来てみたかったのよ」


「来てみたかったって」


 来てみたかったという理由で来るような店じゃない気がする。


「ほら、そのうちご褒美が降ってくるって言ったじゃない」


 まだ頑張ってなくね?


「それにしたって」


「あなたのお父様がまずは一着いいドレスを作らなければって言ってたから、ここでいいかなって」


 お父様が金に糸目をつけないってわかっててここを選んだようだ。


「お父様ならそう言いそうですが、大丈夫なんですか?」


「うちは由緒正しき伯爵家よ。あなたのドレスの一着や二着や……まぁ五着や六着くらい全然大丈夫よ」


 どんだけ仕立てるつもりなんだこの人。

 そんな会話をした後、お店に入ってからは怒涛の採寸タイムが始まった。

 ものすごく細かく測られている。

 母はデザイナーとなにやら楽しそうに会話を弾ませていた。


「お嬢様はどんなお色が好みですか?」


 推定お針子さんに尋ねられた。


「色、ですか。えっと、あまり考えたことがなくて」


「学生さんには、好きな人の髪や瞳の色を使ったドレスが人気ですよ」


 えへへ、と笑うお針子さんがとても可愛らしかった。

 しかし好きな人の色か。なかなかロマンチックな感じだ。


「もしも好きな人の髪が黒だったら、どうするんですか?」


「その場合、差し色に黒を使ったりしますね。全体的に深みのあるお色にして、黒のレースをそっと使ってみたり」


「なるほど。……じゃあ、深い緑色のドレスに黒のレースやリボンを使ってみたり、ってことですね」


「それはきっと素敵なドレスになりますね」


 お針子さんがとても楽し気にそう言ってくれた。


「あ、わたし読書が好きで、中でも六方の魔法騎士のルビー様の物語が好きなのですが」


「それなら赤いドレスもいいですねぇ」


 じゃあ赤いドレス作ってもらっちゃおうかなぁ!




「……なんてことがあって、なんだかとても疲れたの」


 仕立て屋さんへ行った翌日。

 私は教室内でぐったりしていた。


「ドレスを作ってもらうのは楽しいですが、採寸って面倒ですよね」


 パースリーさんとぺルセルさんが同意してくれる。


「女って大変なんだな」


 と呆れ顔をしているのはルトガーだ。


「そうだわ、ルトガーも誘ったら来てくれるのかしら?」


「お茶会にか? 俺は平民だぞ」


 そう言うと思ったけれども。


「お茶会と言ってもうちで開くものだし、基本的には思い出作りが主みたいだしせっかくだからルトガーにも来てほしいのだけど」


「うーん」


「お茶会の時に出すお菓子はわたしが作るのよ」


「仕方ないな。エレナがどうしてもって言うなら行く」


 ルトガー超簡単に釣れるじゃん。


「じゃあ……あ、フローラさんも来てくれるかしら?」


「え、私が行ってもいいんですか?」


「仲良しのお友達を誘いたいので、来てくれたらとても嬉しいの、です」


「行きます!」


 神が来る! 神が来るぞー!!

 これは張り切ってお菓子を作らねばなるまい!


「よし、じゃあ初めてのお茶会はフローラさんとレーヴェとルトガーと、ナタリアさんにパースリーさんにぺルセルさんを呼ぶことにするわ」


 クラスメイトばかりなので教室に居るのと大差ない気はするけれども。

 そんなことを思いながらお茶会の時に作るお菓子の材料をメモしていると、レーヴェが声をかけてきた。


「ちょっとだけゲームして帰らない?」


 と。


「する! じゃあロル……、なんでもないわ」


 居ないんだったわ、ロルス。


「今日は二人で対戦するゲームにしよう」


「ええ、そうね」


 いつも三人以上で遊ぶボードゲームばかりやっていたから、二人での対戦ゲームは久しぶりだった。

 ありったけの対戦ゲームを食い荒らすように遊び、バランスゲームに手を出していた時のこと。

 真剣な顔をしたレーヴェが小さな声で「相談があるんだ」と零した。


「もしも、俺がフローラと結婚するかもって言ったら、エレナはどう思う?」


「羨ましい」


 そんな言葉が口を衝いて出た。


「う、羨ましい?」


「わたしも男に生まれてフローラと結婚したかった」


「そっち?」


 神と結婚したらずっと神と一緒に居られるじゃん。

 そして私が男だったら結婚して死ぬほど働いて、神にゲーム作りに専念してもらう場を設けたい。


「まぁ、それはそれとして。どう思うって、どういうこと? っていうかレーヴェ、フローラのこと好きだったの?」


「いや、まぁ好ましいなと思ってる感じではあるんだけど」


「結婚の話が出たの?」


「具体的な話が出たわけではないんだ。ただ、やっぱりそろそろ結婚の話が出始めるころだし」


「そうよねぇ。わたしはお父様とお兄様が居るからあまり出ないけれど」


 あの二人が堰き止めてしまうからね。と、私が苦笑を零せば、レーヴェも小さく苦笑を零す。


「相手として頭に浮かんだのがフローラだったんだ」


「そう。お似合いだと思うわ」


「あと、エレナも浮かんだ。正直な話、フローラと結婚したら、結婚後もエレナに会えるかなって思った」


「どういうこと?」


 私が浮かんだのに、私との結婚とは結び付かなかったのか。


「小さい頃からずっと一緒だったから、エレナと会えなくなるのは寂しいなって、ふと思ったんだけど」


「だけど、わたしとの結婚は考えなかったのね」


「考えなかったんじゃなくて考えられなかった、っていうか。ロルスからエレナを奪うわけにはいかないなって思って」


「いや、どういうこと? ロルスは従者……いや、元従者じゃない。っていうか今どこに居るかも分からないし」


「そうなんだけどね。分かってるんだけど、でもなんとなくエレナとロルスは二人で一つだと思ってるからその間に入っちゃだめだなって思ったんだ」


「二人で一つ、ねぇ」


 確かにずーっと二人で居たからセットだと思われてても仕方ないよなぁ、と今日何度目かの小さな苦笑を零す。

 私の推測が正しければ、前世もその前世もそのまたずっとずっと前世も一緒に居たかもしれないくらいだからなぁ。ただの推測であって確証はないけれども。


「ねぇレーヴェ、もしも今わたしが死んだとしたら、ロルスは悲しむかしら?」


「え? そりゃあ悲しむと思うよ。きっと誰よりも悲しむんじゃないかな」


「わたしも、そうだったらいいなって思うけれど、それはわたしの願望じゃないかしら」


「願望?」


「なんでもないわ。ほらレーヴェ、手が止まってるわよ」


「え、わ、おいおいおいわざと揺らすのは反則だって」


 私とレーヴェはゲームへと意識を戻した。

 難しいことを考え過ぎた時は、こうして息抜きをしなければ。

 考えすぎたところで事態が好転するわけではないのだから。


「……わたしは、いつかまたロルスと会えるのかしら」


「会えるよ、きっと」


 本当は今すぐにでも会いたい。

 お茶会のときのお菓子を自分で作ることにしたのも、匂いに釣られてロルスが帰ってきてくれたりしないかな、というアホらしい考えが頭をよぎったからだし。


「寂しくなったら俺がこうしてゲームに付き合うから、元気出しなよエレナ」


「うん。ありがとう。レーヴェが幼馴染で、本当によかった」


 考えなければならないことだらけだけれど、もう少しだけ頑張ろう。

 頑張ればいつかご褒美が、って母親も言っていたことだし、ね。





 

ロルスまだです!

ロルスが帰ってくる前に読者様が離れていくのではないかと不安になってきたところです。

いつも読んでくださってありがとうございます!!

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