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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
本編

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意地悪令嬢、噂に惑わされる

※サブタイトル変更しました(6月9日19時時点)

 

 

 

 

 

 不可解な噂を聞いた。

 ここ最近、エレナ・アルファーノがいじめを受けているらしい。

 あぁ可哀想なエレナ様。エレナ様はなにも悪くないのに。

 そういった、不可解な噂を。

 何が不可解って、そのエレナ・アルファーノ本人がいじめを受けている自覚がないのだ。


 ……っていうかそれ本当に私かぁ?

 私が鈍いから気が付いていないだけ、というわけではない。だってただただ本当に、何もされていないのだから。

 もう一つ不可解なのは、あらゆる情報をあちこちから仕入れてきてくれるあのナタリアさんがこの噂を知らないというところだ。

 私がいじめられてるって噂が聞こえたのだけど、と相談してみたが、彼女はその話を一切知らないと言う。

 知らないのか、知らないふりをしているのかは分からないけれど。

 まぁ優しい彼女だから、私が現実を知ってショックを受けるかもしれないと思って知らないふりをしてくれているような気もするのだが。

 それにしたって実害のないいじめとは一体なんなんだろう。

 っていうか誰にいじめられてるんだろう、私。まずそこから分からない。

 パースリーさんとペルセルさんは知っているだろうか、と思ったのに、肝心の二人が今この場に居ない。どこ行ったんだあの二人。授業始まっちゃうぞ。

 居ない二人には相談出来ないし、今目の前にやってきたレーヴェとルトガーにでも聞いてみようか……。


「エレナごめんね、今日から一週間毎日家庭教師が来ることになっちゃって、放課後遊べないんだ」


 つらい。


「え、毎日?」


「うん、定期テストも近いからね」


 言われてみれば、そろそろ定期テストの時期だった。私も勉強しなきゃな。もう少し成績トップに君臨するエレナ様で居たいし。


「そうよねぇ、テストは大切よねぇ……」


 ルトガーも勉強したりするのだろうか、と視線を送ってみると、彼は苦笑を零している。


「俺も一応勉強しなきゃならないのに、ブルーノ先生の資料整理の手伝いをやらされることになっててな」


「皆忙しいのねぇ」


 今突然一週間丸ごと暇になってしまった。いや勉強しなきゃなんないけれども。

 まぁ暇になってしまったのは仕方ない。学生である以上遊びよりも勉強を優先すべきときもある。

 それは一度置いといて、だ。


「そうだわ、あのね二人とも」


「あ、先生来た」


「あ」


 私がいじめられてるって話聞いたことない? という私の問いは、担任の登場と朝のHR開始でひらひらとどこかへ飛んでいってしまった。

 ちなみにさっきまで居なかったパースリーさんとペルセルさんはいつの間にか戻ってきていた。トイレでも行ってたのかな。

 なんて暢気なことを考えていられたのはそこまでだった。

 なぜなら結局、この日は誰にも相談することが出来なかったのだ。

 皆何かと忙しいらしく、一切捕まらないし捕まったところで相談する間もなく去っていってしまう。

 もしかして、これがいじめなのでは?

 私は、クラスメイト全員に避けられているのでは?

 そんな不安がじわじわと立ち込めてくる。

 しかし悲しむにはまだ早い。なぜなら私にはロルスが居るのだから。


「さ、帰りましょ、ロルス」


「……レーヴェ様とボードゲームをする予定では?」


「忙しいんですって!」


 うっかり語気が強くなってしまった。これでは八つ当たりじゃないか。

 ロルスは何も悪くないのに。


「お嬢様?」


「今日から一週間は皆忙しいそうよ。わたしだけ暇なの」


「そうですか」


「……ロルスも忙しい? わたしのこと放ってどっか行っちゃう?」


「いえ、私はお嬢様の下僕ですので、ずっとお嬢様の側に居ります」


「よかったー、やっぱり持つべきものはロルスね、下僕」


「……僭越ながらお嬢様、逆では?」


「……持つべきものは下僕ね、ロルス」


 とにかく、私にはロルスが居るから暇だろうと寂しくないのだ。

 帰りにおもちゃ屋さんに寄って二人用のゲームでも買っちゃおうかな。ロルスと遊ぶやつ。


「ねぇロルス、二人で遊ぶ用に新しいゲーム買いに行かない?」


「はい」


「断られたって行くけ……ど、え、断らないの!?」


 驚いた。ロルスが二人で遊ぶためのものを断らないなんて。

 なんだろう、一周回って怪しい気がする。


「お嬢様が、あまりにも気落ちしているようですので」


「……まぁ、気落ちはしているけれども。うーん? でもロルスが? 二人用のゲームを買いに行くのに断らない?」


「断られたかったのでしょうか」


「いや、そうじゃないけど怪しい。優しすぎるロルス怪しい」


「え?」


「なんでもない。行きましょう」


 ダメだわ、気落ちしてる私を気遣ってくれた優しさを疑うなんて、疑心暗鬼も甚だしい。そもそもロルスが学園内で私をいじめるわけがない。

 馬車の中で反省しながら、おもちゃ屋さんへと向かった。


「どんなゲームにしようかしらね」


 辿り着いたおもちゃ屋さんで、私はロルスを引き連れながらゲームを物色する。

 しかしロルス、同行こそ拒否しなかったけれど一緒に選んでくれるわけではないらしい。


「これなんかどう? 古い古い魔女の洋館、ですって。魔女に誘拐されたあなたは魔女の手から逃れられるか……って。おもしろそう」


「脱出に失敗すると魔女のホログラムが飛び出してけたけた笑うそうですが、怖くて夜眠れなくなっても私は知りませんよ」


「大丈夫よ、怖い小説はちょっぴり苦手だけど怖いゲームは平気だもの」


 前世の私はゾンビを倒すゲームも大好きだったし、お化けから逃げるゲームも大好きだったし、殺人鬼に追われるゲームだって大好きだったのだから。


「ちょっぴり?」


「そこに疑問を持たないで」


 ゲームは平気だけど小説はダメなのよ。無駄な想像力のせいか絶対に怖い夢を見てしまうから。

 それで怖い夢を見ちゃうとロルスを頼っちゃおうって思っちゃう悪い癖があったりなかったり。


「とにかくこのゲームは買いましょう。あとは、そうねぇ。うーん」


 いつもならもっとテンションが上がるはずのおもちゃ屋さんでこんなにもテンションが上がらないのはやはり不可解な噂の影響だろうか。

 いじめられているらしいけれど自覚はないし、だけど噂があるのだから周囲からはいじめられていると思われているし、なんとも居心地が悪い。


「……これだけにしておこうかしら」


「お嬢様らしくありませんね」


「まぁ……うーん」


「レーヴェ様は、このゲームを好むのではないでしょうか」


 ロルスが指をさしたのは、確かにレーヴェが好きそうなボードゲームだった。


「そうね。忙しくなくなったら……遊んでくれるかしら」


「遊んでくださるかと。レーヴェ様はお嬢様と遊ぶのを楽しみにしているようですから」


「それ、いつの話?」


 私が首を傾げると、ロルスも同じように首を傾げている。


「いつもの話です」


「いつも……今日ではないわよね」


「今日はお会いしませんでしたが」


 忙しいって言ってさっさと帰ってしまったから、そりゃあ会わないわよね。多分。


「レーヴェ様になにか言われたのですか?」


「忙しいって言われただけよ。だけどその、皆が口を揃えて忙しいって言うから、避けられているのかなって、思ったのよ」


「きっと本当に忙しいだけかと」


「断言するのね」


 私がそう言って苦笑を零すと、ロルスはきょとんとしながら「当然です」と呟いた。


「お嬢様の周囲の皆さんは、お嬢様をとても大切に思ってくださっていますから」


 だ、そうだ。

 さも当たり前のように言ってのけるロルスを見て、私は少しだけ疑心暗鬼状態から復活した気がした。

 きっと本当に忙しいだけだから、暇になったら絶対に遊んでくれるはず。

 いじめられているらしいという不可解な一件は深く考えずに放っておこうと思う。


「ねぇロルス、やっぱりこっちの可愛いバランスゲームみたいなのも買うわ! ケーキの上にイチゴ積んで倒しちゃったら負けなんですって!」


「ケーキ」


 ケーキとしては明らかにおかしい不安定感のスポンジに、ケーキとしては明らかにおかしい量のイチゴを乗せるという単純なバランスゲームだ。二人でも大人数でも遊べそうだし一つ買ってみよう。


「そうだ、ちょっと本屋さんにも寄ってみていいかしら?」


「どうぞ」


 この際だから暇つぶしグッズを買い漁ろう。

 こないだブルーノ先生に聞いた六方の魔法騎士の話やエリゼオ先生に聞いた女性のルビー様の話が少し気になっていたので、その手の本がないだろうかと思っていたところだったし。


「……随分と買いましたね」


 正直テンションが持ち直した結果調子に乗ってしまった気がする。

 しかし、まぁいいだろう。別に。請求は直接お父様のほうに行くけれど、お父様なら許してくれる。


「エリゼオ先生が仰ってた例のルビー様を題材にした本が思ったより沢山あったのよ。どれも面白そうだし、つい」


 女性のルビー様を題材にしたフィクションの物語が多々あったのだ。

 強い女性を主人公にしたファンタジーが大半を占めていて、それがもうどれも面白そうで。


「お嬢様が元気になってくださったようでなによりです」


「心配かけてごめんなさいね、ロルス」


「下僕が主を心配するのは当然のことです。そして下僕に謝るお嬢様は、意地悪度5点ほど減点ですね」


「あああまた減点した」


 マイナス2万点以上になってしまう、取り戻せない。というか2万点超えてしまったら数えるのが面倒になってしまう……!


 そんな暢気なことをやっていた時から、一週間後のこと。

 忙しい忙しいと言っていた皆が暇になったらしい。

 そしてどういうわけか私がいじめられているという噂も立ち消えた。

 立ち消えた結果判明したのは私をいじめていた人物のことだ。

 なんと、私をいじめていたのは、ローレンツ様の試合のときに遭遇したあの金持ち辺境伯家のお嬢様だった。


「んんんー?」


 いじめっ子の正体が判明したときの私の第一声がこれだった。なぜなら、噂が出始めてから今まで、彼女の顔すら見ていないのだから。

 どうやって私のこといじめてたんだあの人。

 というかこの未来の意地悪令嬢である私を差し置いていじめっ子になるとは何事なんだあの人。

 どうせなら分かりやすいいじめを一発かましてもらえれば教材にしてやったのに。

 そんな陰湿通り越して隠密のようないじめなんかされたって気が付かないし参考にもならないじゃない。


 まぁそんなことは置いておいて、だ。

 いじめっ子の正体が判明すると共にもう一つ判明したことがある。

 それは、ローレンツ様の花嫁候補の件だ。

 どうやら正式な花嫁候補が決まったらしい。それもあの金持ち辺境伯家のお嬢様だった。

 どうもローレンツ様の花嫁候補がその子か私かに絞られたあたりで、彼女のいじめが始まり、花嫁候補が決まったところでいじめが収束したようだった。


「うーん……」


 私がいじめられているという噂、突然忙しくなる皆、いじめの収束と花嫁候補の確定、噂の消滅……なんというか、流れるように解決したように見える気がしないでもない。


「無事に解決して良かったですね、エレナ様」


 私にこの件の一連の流れを説明してくれたナタリアさんが微笑んでいる。


「無事、なのかしらね」


「え? エレナ様、誰かになにかされました!?」


「……いえ、わたしは、多分なにも」


 そもそも最初私がいじめられているという噂を知りもしなかったナタリアさんがこうして説明してくれているし「なにかされました!?」という言い方が、私がなにもされなかったことを前提とされているかのようだし、とにかく不自然だ。


「その、わたしは無事だけれど、ローレンツ様はそのいじめっ子と近いうちに婚約するということ、よね?」


「それは……そうみたいですけど」


 ローレンツ様はそれでいいのだろうか?

 いや、私のほうが良かったのでは、と言うわけではないけれど。金持ちは金持ちみたいだし、あっちのお嬢様。


「うーん……?」


 結局は解決したのだから、問題はないのだけれど、何かが腑に落ちない。すっきりしない。


「エレナ! しばらく暇になったんだけど、今日遊べないかな?」


「遊べるわ!」


 すっきりはしなかったけれど、レーヴェがこうして遊んでくれるのだから、クラスメイトにいじめられているわけではないみたいだし、まぁいいか。


「ロルスが飛び上がるほど驚いたゲームがあるのだけど、どうかしら? 良かったらナタリアさんも」


「え、ロルスさんが飛び上がるほど……!? 私は遠慮しておきます!」


 ナタリアさんには逃げられてしまった。


「あのロルスが飛び上がる……」


「あ、レーヴェは逃がさないから。一週間、わたしを寂しくさせた罰は受けてもらうわよ」


「あ、さ、寂、ごめんねエレナ……!」


 今ここで謝ったところで君が魔女の餌食になることはもう確定している!

 わざと間違えてでも魔女の餌食にしてやるんだから!

 と、喜び勇んで故意に魔女を飛び出させていたら、ロルスから意地悪度千点加点してもらえたのだった。





 

次回はレーヴェ回。

感想、拍手等、そしていつも読んでくださってありがとうございます。超励みになります。

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