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つい、好奇心に負けてしまって悪役令嬢を目指すことにしたものの  作者: 蔵崎とら
本編

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17/89

意地悪令嬢、攻撃魔法に触れる

※怪我をする描写がありますのでご注意ください。

 

 

 

 

 

「過去の種が爆発したってことは、エレナは過去虐待でもされてたのか?」


「エレナ様になんてこと! あなたは繊細な心遣いってものが出来ないの!?」


 ルトガーがパースリーさんに叱られている。最近よく見る光景なので最早驚きもないし、いっそ軽快なBGMのようにも感じられる。


「虐待をされた覚えはないわね。心配しないでパースリーさん、虐待については先生にも疑われたから、その考えに行き着いたのはルトガーだけじゃないわ」


 私がそう言えば、その場に居た全員が一瞬目を瞠った。

 まだそれほど長く生きていない私の過去に何かあったのだとすれば、今よりももっと小さな頃だという考えに行き着くことは当然のことなのだ。


「エレナの家族って、お父様とお母様と、あとお兄様が居るんだっけ」


 と、レーヴェが言う。


「そう。誰も虐待をするような人じゃないわ。まぁ、お父様とお兄様には「エレナを産んだのはお母様じゃなくて俺だ」みたいな変な嘘をつかれていたけれど、それは虐待には入らないわよね」


 なんだったんだろう、あの変な嘘。皆もちょっと笑ってるし。


「お兄様もこの学園に通っていらっしゃるのですか?」


 というペルセルさんの問いに、私は首を横に振った。


「わたしとお兄様は少し年が離れているから、もう卒業しているの。もう少し勉強したいからって、今はー……どこに居るって言ってたかしら?」


 現在地は手紙で知らせてくれているのだけど、いかんせん転々としすぎていて把握しきれないのだ。

 一番最近来た手紙には図書館がどうとか資料館がどうとか、そんなことが書いてあった気がする。

 と、そんな私の和やか家族トークを聞きながらも、浮かない顔をしている子が一人居る。


「あの……エレナ様、あれは私の失敗で爆発したのでは……」


「この学園で一番の華占い師である先生が占っても爆発したのだから、あれはナタリアさんの失敗ではないの。むしろその先生と近い結果を出したのだから、ナタリアさんは将来有望なのよ」


 浮かない顔をしている子、それはナタリアさんだ。

 そう、なぜこの種爆発の話を蒸し返しているのかというと、ナタリアさんがとても凹んでいる上にあまりにも必死な形相で種と向き合っていたので皆で彼女をどうにかしようと試みたのだ。


「将来有望……でも、でもエレナ様、私……!」


「ナタリアさんがそんなに気にすることなんてないのよ。でも、どうしても気になるというのなら、先生が発芽させたあの芽がどの花の芽なのかを、いつか調べてほしいの」


 結局面白いものが見れたとか言われてムッとしてしまったばっかりにあれがなんの芽だったのかは分からずじまいだったのだ。


「分かりましたエレナ様、私頑張ります!」


「ええ、お願いね。わたしも頑張るわ、石占い……」


 頑張らなければならないのは私のほうだった。私の石たちは未だに凶暴な光りを放ち直視すらさせてくれないのだから。


「エレナの石、占うどころじゃないもんな」


「こらルトガーさん!!」


 ルトガーがパースリーさんに叱られている……。

 私がぼんやりしながら石の入った革袋を撫でていると、レーヴェがぽそりと呟く。


「占ってもらいたいのになぁ、エレナに」


 と。


「占えるようになったら占ってあげるわね、レーヴェ。いつになるか分からないけれど……」


 ちらりと革袋の中を覗いてみると、やはり攻撃的な光りが漏れ出てきた。やっぱダメだ。袋からも出せない。


 その日の放課後のこと。


「あ、エレナちゃん」


 廊下に出たところでローレンツ様に呼び止められた。

 学年が違うローレンツ様が私の教室の前を偶然通りかかるなんて不可能だし、どうやら彼は私を待っていたようだ。


「お久しぶりです、ローレンツ様」


「少し相談があるんだけど、時間はあるかな?」


「今からですか?」


 前回カウンセリングしたときよりも遥かに良くなった顔色を見るに、今日は別にカウンセリングを求めてきたわけではなさそうだ。


「そんなに長い時間はとらせないつもりだけど……今日が無理なら、明日でも」


 今日はロルスと図書館にでも寄ろうとしていただけで、明日はレーヴェとゲームをする約束をしている。うん、明日は無理。


「今日で大丈夫です。あ、でも……あ! ルトガー、お願いがあるんだけど、玄関のとこに居るはずのロルスにちょっと遅くなるって伝えてもらってもいいかしら?」


 丁度通りかかったルトガーに声を掛けた。

 ルトガーはちらりとローレンツ様を一瞥した後、特に興味のなさそうな顔のまま頷いてくれる。


「おう、わかった」


「ありがとう。今度お礼するわね」


「クッキーな」


 流れるような注文。


「ええと、それじゃあ行きましょうかローレンツ様」


「うん。先日と同じ裏庭でいいかな?」


「はい」


 そうしてやってきた裏庭で、ローレンツ様に聞かされた相談というものに、私は果てしなく興奮していた。


「エレナちゃんのおかげで魔力量は伸びたのだけど、なかなか勝てなくて悩んでいるんだ」


 私はローレンツ様の言葉を聞きながら、彼に渡された教科書を読み込む。


「なるほどなるほど、攻撃魔法の授業には幻影兵術なんてものがあるのですね!」


「次の試合では、どうしても勝ちたいんだ……。女の子のエレナちゃんに攻撃魔法についての相談を持ちかけるのも変な話なんだけど、でもエレナちゃんならなにか助言をくれるんじゃないかって思ってね」


 まぁ確かに攻撃魔法を習う女子は滅多に居ませんからね、と呟くように答えながら、教科書を熟読する。

 そこに書いてあるのは幻影兵術という術だった。

 まず魔法で幻影兵を出現させ、それに魔法を付与して戦わせるという術らしい。死ぬほど楽しそうである。

 要するに自分の好きなアバターを作り出して戦わせる格ゲーってことでしょ。死ぬほど楽しそうでしかない。

 幻影兵のサイズは自由、人数も自由、付与する魔法も自由ときた。

 巨人クラスの兵を作ろうと小さな兵を大量に作ろうと自由なわけだ。まぁあまり大きかったり多かったりすると兵を作り出すためだけに大量の魔力を投入することになるのでわりと無駄になるみたいだけれど。


「ローレンツ様はどういった幻影兵を作るのですか?」


 私は教科書に載っていた手順を見て、自分の身長と同じサイズの幻影兵を作り出しながらローレンツ様に問いかける。

 出来上がったのは半透明の幻影兵だが、投入する魔力次第では薄く色付けすることも可能らしい。楽しいが過ぎる。

 さくっと幻影兵を作って見せた私に目を瞠ったローレンツ様は、負けじと自分の幻影兵を作り出す。

 彼の作り出した幻影兵は鎧の騎士のようだ。こちらももちろん半透明だ。


「戦わせてみますか」


「エレナちゃん、そんなに可愛い幻影兵で大丈夫なの?」


「幻影ですからね。重要なのは姿じゃなく付与する魔法でしょう」


 私は自分の分身のような幻影兵に、大きめの鎌を持たせてみた。大きな武器を持つ少女という図がなかなか熱い。我ながら。

 ローレンツ様が幻影にどんな魔法を付与するのかが分からないので、とりあえず様子見で鎌に炎の魔法を纏わせてぶんぶん振るわせる。

 コントローラーなしで、脳内のイメージ通りに動く幻影に興奮が抑えきれない。


「え、わ、おっ」


 ローレンツ様は動揺しながらも己の幻影を動かし始めた。

 鎧の騎士だから剣を持って戦うのかと思ったが、どうやら火の玉を投げる戦法のようだ。いやいやいや腰の剣は飾りかよ。

 脳内でそうツッコミを入れつつ、私は鎌に纏わせた炎を一旦消して、水の魔法を付与し直した。そして飛んでくる火の玉を水の魔法で消しながら間合いを詰め、最終的には飛び上がって鎧の騎士の背後に回り、上半身と下半身を真っ二つにした。あまりの楽しさに攻撃魔法を選択しなかったことを激しく後悔している。


「ま、負け……」


 あ、やっちまった。


「ローレンツ様が手加減して見せてくれたおかげで分かりましたわ、この幻影兵術で重要なのは付与する魔法の種類と、あとは想像力ですね」


「て、手加減して見せた甲斐があった! ……付与する魔法の種類と、想像力?」


 つい、うっかりローレンツ様のプライドをずたずたにするところだった。今のフォローでずたずたは免れただろう。ちくちくくらいで。危なかった。


「次の試合で勝ちたい相手が得意な魔法をご存知ですか?」


 という私の問いに、ローレンツ様は一度首を傾げたが、勝ちたい相手を思い出したのか表情が少しだけ険しくなる。


「あいつは氷の貴公子と呼ばれている。得意な魔法は氷柱だ」


「あぁ、だからローレンツ様は火の玉を出していたのですね。しかし火の玉は飛び道具ですし当たらなかったときの魔力がもったいない気がしますね」


 幻影兵を出すだけで魔力を使うというのに、無駄撃ちで魔力を消耗していたのでは魔力がいくらあっても足りない。


「確かに何度も外して魔力不足で負けたことがある」


 無駄撃ちで魔力不足になるなら火の玉向いてないね。やっぱり騎士は騎士らしく剣で戦うべきだ。


「わたしがさっきやったように、その騎士さんの剣に炎を纏わせてみてはどうでしょうか?」


 私は私の幻影兵の装備を鎌から剣にチェンジする。そしてその剣に炎を纏わせる。

 これを振るえば氷柱が落ちてきたところで溶かしてしまえるというわけだ。


「おぉ、戦いやすいし見た目も格好いいな! 相手は雷の魔法を使ってくることもあるんだが、何かいい対処法はないだろうか……」


「雷なら電気を通しにくい土の壁を作ってみたらどうでしょうね? 自分と相手の前に土の壁を作って、最終的にはその土壁ごと炎の剣で相手の幻影兵を串刺しに、と」


 何事もタイプ相性というのが大切なのである。と、私のゲーム脳が言っている。

 二人である程度戦略を考えた後、折角なので、と私とローレンツ様は実戦形式で特訓してみることにした。

 私の幻影兵に氷と雷の魔法を付与し、ローレンツ様は炎と土壁で対抗する。

 タイプ相性的にはローレンツ様が有利なのだが、魔力量は私のほうが上らしく、ローレンツ様の楽勝というわけにはいかない。

 そうしていつしか熱くなったローレンツ様が放った炎の魔法が大きくなり、何故か私に向かってきた。幻影兵ではなく、私に。


「お嬢様っ!」


 気付けば避けるよりも消火するよりも先に、どこからともなくやってきたロルスが私を庇うように抱きしめていた。

 ロルスの胸で視界を遮られたけれど、その場に広がった焦げ臭い匂いでロルスが火傷をしたのだとすぐに分かった。


「やだ、ロルス!」


 私はロルスの腕をするりと抜け出して、ロルスの背後に回る。

 そして火傷の程度を確認するよりも先に治癒魔法の教科書にあった一番強い治癒魔法を施した。


「エレナちゃ」


「お嬢様! お嬢様!」


 一番強い治癒魔法は、結構な魔力を使うらしい。

 身体の中からごっそりと力が抜けた気がしたと思ったら、視界が徐々に暗転していった。

 せめてロルスの無事を確認してから倒れたい、と思ったけれど、それは出来なかった。

 だけど、私の耳にはロルスの大きな声が届いているので、きっと大丈夫だろう。





 

評価、ブクマ等ありがとうございます!

そして拍手ぱちぱち、コメントもありがとうございます!楽しんでいただけているようで何よりです!

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