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どうせ家には帰れないので魔女は白夜の森に町をつくることにした  作者: 奏多


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約束を果たすならお急ぎで

「埋めてほしい……か。一体なんだろうな」


 ヨランさんは興味津々だ。


「中身が何かは聞いたのか?」


 私は首を横に振る。


「いいえ。人の秘密を覗くのも悪いですし、何か悪い物でもなさそうですし」


 小さな小袋は、固い石とかは入っていなさそうな感触がする。

 それに、埋めてほしい場所は人が生活している場所から離れているし、ほとんど誰も来ないだろう地点だ。

 悪いことをさせようと思ったら、そんな所に埋めてほしいわけもない。

 単純な、彼の願いが入っているんだろうと思う。

 だからこそ、彼が神教騎士という立場の人でも中身を詮索するのはダメだなと感じていた。


 ベルさんも同じ判断をしたようだ。


「まぁ、場所が白夜の森の奥なんでしょ? 神教の兵器になりうる何かではないと思うわ。うっかり魔物に掘り返されないように、ちょっと深く埋めた方がいいとは思うけど」


 そういう問題もあったかと私は気づく。

 小さなスコップで掘る程度じゃだめだろうか……。


「それで、いつ行く?」


 ヨランさんが軽い調子で聞いてきた。


「え? ヨランさん達行ってくれるんですか? でも冒険者ギルドで、相場が10万だって見てて、私、そこまでお金貯められてないんです」


 だからルカの力を借りて、そのための万が一の方法としてスクロールを買い足せないかと思っていたのだけど。


 するとベルさんが笑う。


「だからあんな値段付けるなって言ったのに。純粋な人ほど信じちゃうに決まってるじゃない」


「だってあの時はだな、面倒な貴族が奥地にまで行きたいってうるさかったから……」


「面倒ごと除けならあの値段で正解ですが、ほとぼりが冷めてはいるはずなので、掲示は取り下げた方が良かったかもしれませんね」


 ラスティさんまでやれやれと肩をすくめてる。


 え? この反応ってことはまさか。


「ギルドに白夜の森深部に潜れるって掲示していたの、ヨランさん達のパーティーなんですか?」


 ベルさんがうなずく。


「そうなのよ。一時、深部に行きたがる貴族なんかの依頼が多くて、それを門前払いするために、なるべく高額にして掲示してたんだけど」


「薬師協会とか、ギルドの活動の支援で潜る時は、あんな値段じゃないけどな。そもそも、そういった公益性の高い理由じゃないと、めったに白夜の森の深部になんて潜らないから」


 ヨランさんがお値段について説明してくれる。

 本当の値段より相当釣り上げていたから、こんな反応をしてたのか。

 でも理由があってのことだし、内容を聞いたらそうもなると納得できる。


(それに公益性のことを考えてのお値段だったなら、普段は低めで受けてるんじゃないかな)


 あれこれ考え併せてみると、もしかしてあの十万レビという値段は、優しいヨランさん達には高いと感じるかもしれないけど、妥当な額だったのかもしれない。


「ええと、そうしたら相場のお値段を教えてもらえますか?」


「大丈夫。ギルド長からリーザの保護のために、定期的な賃金ももらってる」


「保護? 賃金? なんですかそれ!?」


 初耳だ。驚いて思わず聞いてしまう。


「誰にもできない、光る草を、光を消さずない状態で摘むことができるのも一つ。あれ、効果が段違いになるらしい。とはいえ、広まるとリーザが誘拐される恐れもあるし、あの群生してる野草を一人で摘み続けるとか重労働だろう? だから秘密にしようってギルド長が言っていたはずだ。そのためにも保護が必要と判断された」


 続いてラスティさんが言う。


「薬師協会にバレると、大変ですよ。おそらく種まき段階からならどういう影響が出るか。土を耕した場合はとか、様々な実験に付き合わされて、いつの間にか薬師協会に囲われることは確実です。植物を育てて生きていきたいなら止めませんが、薬師協会だけではあなたの秘密を守って、しかも防御までできるかどうか。……物々しい警護付きで暮らすことになるでしょう」


「う……それは嫌かも」


 せっかく自由に生きられると思ったのに、貴族令嬢時代みたいな鬱屈した生活になりそうだ。


「あとはルカとか、他の魔物のご訪問ね」


 ベルさんが二つ目の問題を挙げる。


「いずれこの新しい町にも、もっと人がやって来るでしょう。建築のための職人が通い始めてるけど、一人で野営をし続けてるリーザのことを不思議がってる人もいる。今のところは薬師協会の関係者って感じでごまかしてるけど、家を本格的に建て始めたりしたら、職人の数も、おさんどんしてくれる人達や、物を売りに来る人も制限できなくなるから……目立つわ」


「たしかに、女子一人で野営しててパーティーも組んでなさそうって、なんか不審者っぽいですよね」


 これがおじさんだったとしたら、勝手に住み着いたと間違われて追い出されてしまいそうだ。


「そんな風に事情を知らない人が増えた場所で、魔物と交流してたら、角材持って怒鳴り込んでくる人もいるかもしれないし」


「あああぁぁ」


 何も知らない人からすると、魔物を呼び込んだように見えてしまう。

 魔物と一緒に討伐対象になりそうだ。


「パーティーで行動しているんだと思えば、魔物と会っているのを見かけても、ギルドの依頼で何かしているのだろうと思うでしょうし。女性一人よりも、突っかかっていきやすいと思われなくなるので安全です……って」


 補足のように説明していたラスティさんが、ふと思いついたように言う。


「建設中は、なるべく森に採取に行ったりしていた方がいいかもしれませんね。あの訪問してくる魔物も、リーザがいなければ町に出ないでしょう」


「あ、そうね。だったら深部に行くのもちょうどいいわ。ちょくちょく出歩いている方が、冒険者として活動しているっぽく見えるし。家は最優先で作ってもらえばいいわ」


 その話に、ヨランさんがうなずく。


「簡単な家だから、人海戦術でやってもらえば一か月で塀までなんとかできるだろう。ギルド長に、職人を大量に入れるのを速めてもらえばいい。よし、ギルド長が来てるはずだから言ってくる」


 決めるとヨランさんはさっそく歩き出しながら告げた。


「出発の日時決めておいてくれ」


「わかったわ」


「了解しました」


 ベルさんとラスティさんが返事をしている。


「え、行くんですか?」


 肝心なことを聞いた私に、ベルさんが笑った。


「もちろん。私達も、白夜の森の奥にある採取物とかで稼いでいるから、なかなかおいしい仕事なのよ、これ」


 そしてベルさんが手を打って付け加えた。


「あ、そんなわけで護衛の賃金はギルドからもらってるから、リーザが依頼料を払う必要ないわよ」


 驚いたことに、依頼料無しで一緒に白夜の森へ行ってくれる人が見つかってしまった。

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