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どうせ家には帰れないので魔女は白夜の森に町をつくることにした  作者: 奏多


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スクロールの意味


「光る薬草をここで再生産できるよう、尽力しますぞ!」


 そう言ってレブルさんは忙しそうに協会員に仕事を割り振り始めていた。


 ……なんだか問題が次々出て来る気がする。

 その晩、私はいつもの野営地でうーんとうなっていた。

 

 夕飯も終わって、一度眠った後で起きてしまった深夜のこと。

 だから側にいるのはルカだけだ。

 眠いけどまだ寝付けない二度寝の前は、ぼんやりと色々なことを考えてしまう。


 町ができて、そこに私の家ができるのはとても嬉しい。

 ルカと一緒に暮らせるのも、とても素敵だ。

 でも付きまとう、ダート王国との紛争の影を見聞きするたびに怯えてしまいそうになる。

 あの暗い記憶しかない国に、引き戻されそうで……。


「国境からもっと遠い町へ行くべきだった、かな」


 その方が、ダート王国のことを思い出すことは減るだろう。

 暗くつらい思い出が多すぎるから、国の名前を聞くだけでも身構えてしまうくらいだし。

 でも、ここには優しい人達がいて、自分の家もできる。

 何よりルカ……。


「ルカは白夜の森から遠く離れて生きていけるのかな」


 何日かに一度は森に入りたいというルカ。

 おそらくは食事をしているんだろう。

 ただ食事だけの用なら、他の場所で獣を狩るのでもいいのだろうか?

 ルカは話せないから、こちらがある程度推測して確認する形でしかルカのしたいこと、できること、したくないことを知るしかない。

 なので、私の知識が及ばなかったり、気づかなかったりすると、わからないままになることも多いのだ。

 

 でもそれで、白夜の森から離れたら生きていけないのだったら。

 選択肢は一つしかなくなる。

 その後……ここに残ることを私が自分で選んだと、そう言えるだろうか。

 ルカのせいにしてしまわない?


「聞かずに、決めた方がいいよね」


 その時、ふと手がポケットに当たる。

 中に入っているのは、万が一の時のお金とハンカチ。そして……。


「あ、アレクシスの頼み事」


 忘れたわけじゃないけど、お金が溜めないとなぁと思っていたので、一時置いておいたうちに意識に上がることが少なくなっていた。


「………今のうちに、果たそうかな」


 ルカと一緒なら、白夜の森の奥まで行けるだろう。

 他の魔物にも協力をお願いしたら、襲ってくる魔物から逃げることもできるかもしれない。


「あとは、私も何か武器を持てばいいのかな」


 でも剣なんて重すぎて振り回せない。

 魔術も使えない。

 ……と、そこで思い出したのがスクロールだ。


 アレクシスがくれた一個がある。

 これが何なのかをベルさんに聞いてみよう。

 そして光る草とかを売ったお金で、もう一つ買えないか相談してみるのだ。

 攻撃魔術の代わりになる物があれば、もっと安全が確保できるはず。


 翌日、私は町からやってきたベルさんに相談してきた。


「すみません。このスクロールってなんの魔術が入っているかわかりますか?」


「え、スクロール!? あ、ほんとだ! えええええすごいわねこれ!」


「うぉぉ。珍しいな」


「これは……かなり高価なものと推察しますよ」


「光の魔術だと思うわ。ね、ラスティ」

 

 話をベルさんから振られたラスティさんがうなずく。


「光魔術ですね。光線の魔術なので、魔物でも人でも攻撃可能です。使えば『ジュッ』と音がして、いい穴が開きます」


「…………」


 どこに穴が開くのかは聞くまでもない。

 想像しそうになって、私は強制的に考えを打ち消した。


「あと、魔物ならその効果はさらに上がります。穴がさらに大きく拡大するので、ダメージも大きくなりますよ。……これはどこで?」


「その、白夜の森を通れって言って逃がしてくれた、神教騎士の人……だったんですが。お金で苦労することがあったら、これを売るといいって」


 それを聞いたラスティさんが、ふと優しい表情をした気がする。


「ご自身でスクロールを作る能力があった方かもしれませんね。あと、万が一の時にはそれで魔物からあなたが逃げられるようにとも思って持たせたのでしょう」


 言われて考える。

 アレクシスは神教騎士だから、光魔術が使えるはずだ。

 そうじゃなければ神教騎士になれないと、どこかで聞いたことがあるから。


「本当に自分で作ったのかな……。でも光魔術が使えるのに、自分でスクロールを持ってても仕方ないよね」


「それより、ダート王国の神教騎士が黒魔術師にそこまで配慮するのは、本当に珍しいですね」


 ラスティさんはそこが気になったようだ。


「逃がしてくれるのは、元々計画していたことではないんですよね?」


「はい。たまたま素質を持っているのが発覚して……。それで連れて行かれることになったので。あ、でもこれを渡されるまでには、捕まってから少し間が空いてからでした。靴とかそういった物も用意してて……。思えばわりとしっかりと、旅の準備をしてくれてたなって」


 今も履いているこの靴がなければ、何日も歩いていけなかっただろう。

 あの時私が履いていたのは、長時間は歩いていけない室内用の靴だったから。


「では、君になんとか頼みごとを聞いてもらえるように配慮したんでしょう。急いでいたから、自分で魔術のスクロールを作ったのだと思います。作れる人間は、わりと道具を持って移動していたりしますからね。万が一の時に、仲間に持たせるために」


 私はうなずく。

 アレクシスは、無事に私にアールシア皇国までたどり着いてほしかったんだ。

 お金も服も、食べ物だけではなく、しっかりと靴も身を護る物も用意して。

 また、黒魔術師の素質があるから、魔物に多少は対処できるだろうという目算があったのかもしれない。


 そうまでして頼みたかったのかと思うと、ますます約束を早めに果たそうと思える。

 ベルさんが考え込む私に尋ねてくる。


「本当に、スクロールまでくれちゃうなんてすごいわねぇ。知り合いだったの?」


「いいえ。頼みごとをされてまして」


「頼みごと?」


「白夜の森のなるべく奥の方に、埋めてほしい物があるそうなんです」


 その時、どうしてかラスティさんが痛ましそうな表情をした気がした。

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