夢
この作品では当時の中国の呼び方を「唐」で統一しています。
古代中国の呼び方は時代ごとに多くありますが、現代でも中国文化の事を「中華」と呼んでいるような物とご理解ください。
寛平三年(八九一)。内裏の紫宸殿で二人の男が顔を合わせていた。これからのこの国の運命を変えていく二人である。二人の目的がこの国にどれほどの影響を与えるのか、この二人にさえもわからない。だが、
「私も主上(帝)のおっしゃる通りだと思います」
男が帝を感嘆の表情で見上げていた。
「私の言う事は、途方も無い夢だとそなたは思うか?」
若い帝の言葉に男は首を横に振ると、微笑んだ。
「夢は叶えようとする者がいなければ永遠に夢のままでございます。主上のその夢は今、私の夢になりました。私はこれから恐れ多くも主上と夢を分かち合う事が出来ます。決して途方も無いなどと言う事はありません。我々がこうして夢を追う決意を持ったのですから、いつの日かきっと叶う日が来るはずです」
この帝の言うとおり、この時代に見た二人の夢はまだ途方も無かったかもしれない。
しかし、この二人の夢と覚悟があったからこそ、この国にはこの国固有の言葉や文化、人々の心が作られていったのであろう。実は二人の夢はこの二人で叶えきることは出来ず次代に受け継がれる事となったのだが、二人の夢が無ければ後の世、この国の文化は変わっていたかもしれない。
この物語はそんな二人の夢の結実とも言える、
「古今和歌集」
を作り出した男達の物語である。




