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第4話:ステラ・ブルーハーツ

「――テラ……ステラ! ステラ・ブルーハーツ!」


「っ! は、はいお父様!」


 私――ステラは、お父様のいる執務室にいたが、ついボォ~っとして名を呼ばれた事に気付かなかった。


 そんな私の様子にお父様は勿論、お母様や執事長も心配そうな表情で私を見ていた。


 いけない。きっと余計な心配を掛けてるに違いない。

 そう思った私は精一杯の笑顔を浮かべるが、それは仇となった様だ。


「無理をしなくて良い……私達に余計な気を使う必要はない」


「す、すみません……」


 お父様達は余計に心配した様に複雑な表情を浮かべていた。


 自分で考えた事だが、かなり気恥ずかしい気がする。


「ゴホンッ!――話を続けるぞ。まずは良くやったてくれたな。貴族王を決める《《300人》》に選ばれた事を誇りに思うぞ」


「ありがとうございます」


 お父様へ頭を下げる私の首には、特殊な魔法石が着いたペンダントが輝いていた。

 これが証なんだ。貴族王を決める戦いの参加者の。


 『貴族王』――この<ルナリア王国>・国王の最側近にして、国中の貴族の王。


 それを決める戦い――その300人に私は選ばれた。


 選ばれる為に努力はした。

 魔法大国でありながら、魔力の少ない私達――下級貴族・ブルーハーツ家。


 武具の扱いは長けているが、魔法が弱い事で長年、下級貴族の椅子に座らされてきた私達。


 そんな私達が上級・中級貴族達も参加するこの戦いに参加する為に、出来る事は全てやった。


 領民達を魔物から守る為に戦ったり、嫌味を言われながら他の貴族の護衛をしたり、色んな事をしてきた結果がこれだ。


「これで……もし上位まで生き残れば、貴族王は無理でも家の位を上げる事は出来る筈です」


「ステラ……そんな事を考えなくて良いのですよ?」


「そうですお嬢様……お嬢様が無事である事が一番でございます!」


 私の言葉にお母さまと執事長が心配そうに言ってくれる。


 けど、私が決めた事だから。皆を、領民を、もっと楽させてあげたい。

 それが私の願いだから。


「ステラ……分かっているな? かなり厳しい戦いになるぞ」


「はい……分かっております、お父様」


 私はブルーハーツ家の証である蒼髪を揺らしながら頷いた。


 武器の扱い、そして肉体の強さには自信がある。

 けれど魔法に関してはからっきし。


 他の候補者――特に中級以上の者達は強力な魔法を扱ってくるはず。

 武力だけじゃ、いつか限界が来てしまう。


「せめて、もう少し魔法が使えれば違ったんだけどなぁ……」


 私はブルーハーツ家に生まれた事に後悔はしていない。

 領民は優しいし、両親も親戚も、使用人達だって優しくて大好き。


 けど、せめて魔法をもっと扱えればと思う事はやっぱりあった。


 私達――ブルーハーツ家の武と魔法が合わされば、上級貴族にだって負ける気はしない。


 少なくとも私はそう思っている。


「……ステラ。その事で少し話があるんだ。――セーバス」


「かしこまりました、旦那様」


 お父様が突然、執事長――セーバスの名を呼んで、何やら目線だけで指示を出した。

 

 何やら話があるようだけど、何だろう。

 このタイミングからして貴族王の戦いに関係しているはずだと思うけど。


「お嬢様……これは贔屓にしている商人達のお話なのですが、最近――少し離れた森や山で《《不思議な剣》》を見かける様になったそうです」


「不思議な剣?」


「はい。何故か持ち主はおらず、剣だけで動いているとの事です。そして何やら通常の魔物を始め、魔物の主まで討伐する程の物らしいのです」


 うそだ――剣だけでそんな事なんて出来るはずがない。

 きっと何かの魔物と見間違えただけじゃなんじゃ――


「因みにこれは嘘ではない。実際、何人もの人間が目撃している。――それと何より、その剣は高い魔力を宿し、氷の魔法も扱っていた様だ」


「氷の魔法を……扱う剣?――もしかして魔剣!?」


 魔剣は魔法を扱う事が出来る様になる文字通りの剣だ。

 今の私には喉から手が出る程に欲しい代物でもある。


 それを察してなのか、お父様も頷いていた。


「可能性はある。もしお前が手に入れれば、きっと力になるだろう」


「なるよ! 絶対になる! ねぇ! その剣はどこにあるの!?」


 自分でも興奮しているのが分かる。

 けど興奮を抑えられない。


 もし手に入ったら、本当に夢物語であった貴族王の可能性だってあるんだから。


 そして私の言葉にお父様はデスクに地図を広げると、ある一点を指し示した。


「聞いた話では、その魔剣は必ずどこかへ去って行くらしいが……その方角は必ず同じ場所との事だ。――氷の魔剣。それはきっとここに眠っているのだろう」


「白銀の山――<ホワイトマウンテン>!」


 そこは危険な魔物と、極寒の過酷な環境がある土地だった。

 でも確かに、あそこなら魔剣が眠っていたもおかしくはない。


「お父様! すぐにでも向かいます!」


「やはりな……お前ならそう言うと思っていた。――旅支度はセーバスに言って準備してある。護衛の騎士達も付ける。無事に帰ってくるんだぞ」


 心配そうに見てくるお父様の顔を見て、私は力強く頷いた。


「はい! 私だって蒼の武人と言われたお父様の娘だもの! 必ず魔剣を手に入れて戻って参ります!」


「気を付けるのよ、ステラ!」


「既に戦いは始まっております。何があっても大丈夫な様に……!」


「うん! 行って来るねお母さま! セーバス!」


 私はそう言ってすぐに部屋を出て行った。

 そしてすぐに自室に準備された装備を整えると、剣を腰に掛けて屋敷の正門へと急いだ。


 そこにはブルーハーツ家に仕える騎士達が馬と一緒に待っていてくれていた。

 

「お嬢様。護衛は我々、騎士団がお任せください!」


「ありがとう、皆。――良し! 行こう!」


 まだ日が明るい中、私達は急いで馬を走らせた。

 

 必ず魔剣を持って帰る。そして貴族王を決める戦いを生き残るんだ!

 

 そんな想いを胸に、私達はホワイトマウンテンを目指し、馬を走らせるのだった。


♦♦


 ステラ達が屋敷を出た頃、それを遠くより眺めている者達がいた。


「フンッ! 下級貴族が……目的は分からないが早速、動きだしたか。――おい!」


 金髪の少年は背後に控える騎士達に腕でサインを出した。

 

 するとその内の一人が彼の傍へと近づいてくる。


「若君……手筈通りに?」


「あぁ! 既に貴族王を決める戦いは始まったんだ! 最初の標的はあの身の程知らずの下級貴族だ!――行くぞ!」


 少年はそう言って馬を走らせると、他の者達も素早く馬を走らせて少年の後を追う。


 そして先頭を走る少年は歯を見せながら笑みを浮かべていた。


「アッハッハッ! 最初に戦果をあげるのはこのボク――上級貴族! 100位内の名門! ライド・ボルテックスだ!」


 そう叫ぶライドの腕には、ステラと同じ参加者の証――魔石が着いたブレスレットが身に付けられていた。

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