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第29話:足りなかったもの

 あの後、俺はステラの部屋の窓から外に出て、ステラを追いかけた。

 いや思うことは色々とあるけどさ、今は仲直りの方が先だと思ったからな。


 便利なもので、持ち主の居場所は直感的に分かる様になっているのは助かる。


『街の方に行ったのか……』


 馬を少し走らせた所に大きな街がある。

 確か貴族や平民達が暮らす街だと聞いたな。


 俺はそんなことを思いだしながらフワフワと浮いていると、突然だった。

 スキル『危機感知』が発動した。


『ステラが危ない!』


 それは本能の様な感覚だった。

 見てもいないのに持ち主の危機を察したんだ。


 俺が傍にいないのに発動したってことは、マジでステラがピンチなんだと思う。

 

 俺は急いで速度を飛ばし、街の方へ急いだ。


『間に合えよ……!』 


 街に入った俺は目的地が近いのを感じた。


 少し街の裏側だと思う。戦闘痕がある、やや広い場所へと辿り着くと、そこに二人の人物がいた。


『ステラ……! それとソフィアか!』


 見覚えのあるフード! やっぱりソフィアで間違いなかったか!

 

 俺は今にもトドメを刺されそうになっているステラを見て、一気に落下した。


『ステラ!!』


 そしてステラを守る様に、二人の間の地面へと突き刺さると俺の周囲に氷が飛び出した。


 そんな俺を見て、ソフィアは思わず距離を取っていた。


「なに! あれは……ステラの剣!?」


 おうよ、ただの剣じゃないぞ! 魔剣だ!

――いや、そんなことはどうでも良い。まずはステラの治療だ。


『無事かステラ! 今治すぞ!――ケアリオ!』


 俺はすぐに治癒魔法を唱えると、ステラの傷は徐々に癒え始め、やがてステラは立ち上がった。


 そして俺の傍までやって来たが、様子がおかしかった。


『どうしたステラ! 早く俺を抜け!』


「……ニブル。あたし……!」


 どうした覇気がないな。

 さっきのこと、そんなに気にしてるのか?


『さっきのことは、もう大丈夫だ! 俺だって気にしてねぇ!――いや、多少は傷付いたけどさ』


「ううん! 違うの……あっ、いや酷い言葉を言ったのは確かだけど」


 違うのかよ! いや多少は謝ってほしかったけどさ。

 っていうか、じゃあ何なんだ? なんで戦わない!? 


『相手がソフィアだからか! けどな、戦わなきゃお前が――』


「――《《それで良い》》と思う」


『……ハッ?』


 何て言ったんだ、今? それで良い? 


「私が『魔石』を差し出したらソフィアは……レイくんが助かるかもしれない。なら、ここで私が敗北した方が良いと思うんだ」


 ステラがそう言った瞬間、俺と彼女の心がリンクした。


 同時に先程までのソフィアとの会話が俺の中に流れてくる。

 

 貴族王を目指す覚悟。

 願いを叶えた者と、今まさに叶えようと抗ってる者。


 弟を救おうとするソフィアの言葉に呑まれたステラの感情が全部、流れてきた。


 そして、それを感じた俺はというと。


『――バッカじゃねぇの!!!』


 気付けば馬鹿でかい声でステラにそう言っていた。

 いや、だってそうだろ。実際、馬鹿じゃないか。


 そんな俺の声にステラは唖然としていたが、やがて怒った様子で俺のグリップを掴んできた。


「なっ……馬鹿ってなによ! 私は真剣に――」


『それが馬鹿だって言うんだよ! 願いが叶ってるから覚悟がない? 貴族王を目指す目指さない? どうでも良いわそんなこと!!』


 俺だって本当は声を荒げたくない。

 けど、これは言わずにはいられない。


『今はお前のソフィアの問題だろうが! それに領民や家の人達を楽させる願いが叶ってるって言うけど、なんでそれが悪いんだよ! 悪くもねぇし! 覚悟だってあっただろ! だからお前は俺を抜いたんだろ!!』


「で、でも……ニブル、私が願いを叶えてるのは事実だし――」


『叶えたらもう終わりか!? なんで《《次に》》進もうとしない! 次の願いを見つけても良いだろ! お前には《《今が》》あるんだぞ! 俺と違って! そんなんじゃ負けた連中だって立つ瀬がねぇだろ!!』


 俺は既に死んだ身だ。身体だって人間から魔剣になっちまってる。

 少なくとも、色々と出来る様になったが人としての生はもう出来ない。


 敗北した連中だって沢山のモノを失ったはずだ。

 なのに、そんな戦いの勝者が簡単に諦めるなんて許せるか!


『諦めるなんて、馬鹿だっていつでも出来る選択肢を軽々しく選ぶな!! 少なくとも、雪山で出会ったお前は! 諦めたくないから俺を抜いたんだろ!』


「ニブル……」


 僅かにステラのグリップを握る手が緩んだ。

 

『それに本当に親友だったら諦めてる場合か!? 助けてやる……《《一緒に戦ってやる》》ぐらい言ってやれよ! 親友の願いを叶えてやる、そんな願いでも良いだろ!!――前に進めよ馬鹿野郎!!!』


 ゼェ、ゼェ……出し切ったぞ。

 俺が思っていたことは大体。


 これでも諦めるなら、もう良い。

 俺は山に帰るだけだし、あとはステラ次第――


「変わった剣ね……ステラ。けど、ただいつまでも握ってるだけじゃ終わらないわ」


 あっ、そうだ。ソフィアがいたんだ!?

 向こうは身構えてるぞ! どうすんだステラ! 戦うのか逃げるのか!?


「これで終わらせてあげる――レイド!!」


 ヤバイ! ソフィアのトンファーが光った!?

 強化したトンファーの一撃が来る!


『うおぉぉぉぉぉぉ!! 来るぞステラ! マジでどうする決め――』


「終わりよ――ステラ!!」


 あぁ! もう駄目だ!!

 俺はソフィアの一撃が来ると思い、咄嗟に目を閉じてしまった。


――その時だった。


「……ごめんニブル」


 ステラのその言葉が聞こえた瞬間、俺は地面から抜かれた感覚を覚えた。

 

 そして目を開けると、そこには俺を握ってソフィアの攻撃を防いだステラの姿があった。


「なに……!?」


 防がれると思ってなかったのか、ソフィアも驚きの表情をしている。


『ステラ……?』


 俺も思わず聞き返すと、ステラは静かに口を開いた。


「ごめんニブル……ごめんねソフィア。私……諦めてる場合じゃなかったね。――でも、もう大丈夫。私、前を向くね」


 そう言って俺を強く握った瞬間、俺達の心が一つになった。

 

 そして俺達の周辺に大きな冷気が吹き荒れ始め、それを見たソフィアは思わず下がった。


「この力……! ステラ……いつの間に、こんな……!」


「ごめんソフィア……私、貴族王を目指す覚悟が足りなかったね。《《本気で》》貴族王を目指す覚悟……それが私に足りなかったもの」


 そうか、それか。グーランが言っていた足りないものって。

 

 願いを叶えたも同然のステラは、本気で貴族王を目指す覚悟が弱かった。


 だからソフィアの様に本気で目指す者達に、いつか負けると思ったんだ。


「ステラ……アナタ……!」


 吹き荒れる冷気の魔力に驚愕しているソフィアだったが、ステラが俺を強く握って身構えた。


「ソフィア……私がアナタの助けになる。けど、その前に見せてあげる。私達の覚悟!――だから手伝って、ニブル」


『ふんっ、当たり前だろ! お前が俺の持ち主なんだからな!』


 そうさ、お前が俺の持ち主なんだステラ!

 だから頼れ、俺も頼らせてもらうからよ。


 一緒に前に進むぞステラ!


『さぁ! やるぞステラ!!』


「うん! 行こうニブル!!」


 そう言って満面の笑顔で俺を構えるステラを見て、ソフィアは表情を歪ませていた。



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