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第23話:皆の理由

「それにしても、ソフィアに会えてよかったぁ……ようやく安心できたよぉ」


「アハハ……ファルは相変わらずだもんね」


 ステラとソフィアはベンチに腰掛けながら、そんな会話をしている。

 ステラは疲れた様に、ソフィアは同情する様な感じだ。 


 ただ聞く限りだと、二人からは信頼や優しさの雰囲気が会話の中から感じられる。


 候補者同士、下級貴族と中級貴族だと聞いていたけど大丈夫そうだな。


 最近は何かと襲撃が多かったから、無駄に警戒して仕方ない。

 だが流石に今回は肩の力を抜いても良さそうだ。

 

 俺はそんな事を思いながら、ゆっくりしていると、不意に話題が変わった。


「ところでステラ……聞きたかったんだけど、その剣はどうしたの? 前までは持ってなかったよね?」


「えっ? あぁ、この剣はニブル……魔剣ニブルヘイムっていうの! 氷の魔法が使える魔法剣! 北の極寒の山で出会ったの」


 そう言ってステラは俺の鞘を撫でてくれた。


 まさか、ここで話題が俺になるとは思ってなかったな。

 少しびっくり。


「……氷の魔剣」


 ソフィアもジッと俺を見てくるし、なんだろう。少し恥ずかしい。

 そう思っていると、今度は能天気な笑い声が聞こえてきた。


「アハハハハ! 北の極寒の山って、強力な魔物もいる危険地域じゃないか! ステラも無理をするねぇ!」


「アンタ程じゃないでしょ……ファル。主催者がここにいて良いの?」


「良いに決まってるさ! 幼馴染三人が集まるのに良いも悪いもないって。アハハハハ!」


 そう言って姿を見せたのは、能天気な顔で笑い声を出すファルだった。

 

 そんな彼の言葉にステラは呆れた感じに言うが、ファルは笑うだけだった。


「アハハハハ! でも無理をしてるのは確かだろ?――聞いてるよ、既に上級貴族二人に狙われたって」


 そう言ってファルの表情は、アホ面から真剣な表情へと変わった。

 なんだ、コイツこういう顔も出来るのか。


「そうだよステラ。私も心配したんだから」


「皆、耳が早いんだから……それもニブルのお陰で何とか勝てたから大丈夫」


 ステラはそう言って俺を撫でてくれるが、その表情は少し曇っていた。


 同時に俺にも流れてくる、彼女の気持ち。

 

――不安だ。戦う理由への不安だな。


「ねぇ……ソフィアとファルは、どうして戦うの?」


「それって……貴族王の戦いの事を言っているんだよね?」


「アハハハハ! 私が戦う理由は勿論、家族の為でもあるさ!――だけど同時に貴族王になって、この戦いを変えたいって想いもあるよ」


 ファルは真剣な顔でそう言うと、空いているステラの隣に座った。


「貴族王の戦い……勝てば願いも叶えてもらえて、貴族達のルールも変えられる王の最側近になれる。――だけど、その為に襲撃とかが後を絶たないし、領地に魔物が出た時も協力し合わなくなった」


「弱った候補者を狙う為ね。だから魔物の被害が貴族王の戦い以前よりも広がってる」


「そんな事になってたなんて……」


 やれやれ、皆色々と考えて勝ち残ろうとするものだ。

 少しでも立場を守る為に必死なんだな。


「まぁ、そう言う事もあるからさ。だから私は戦いを変えたい。芸術やダンス、そういうので競っても良いじゃないか。そっちの方が傷つく人がいなくて楽しい筈さ!」


「もう……ファルらしいと言えばファルらしいね」


「えっ、そうかい? アハハハハ!」


 ステラに言われてまたアホ面で笑うファルに、二人も思わず笑っていた。


「ソフィアは? 候補者として、どうして戦うの?」


「私は……《《守りたい》》ものがあるからかな」


「守りたいものって……《《弟くん》》かい?」


 弟くん? ソフィアの弟のことか。

 ファルの言葉にソフィアは頷いていた。


「……うん」


「弟くんって……エリックくん? エリックくんがどうしたの?」


 ステラは知らないのか、二人の顔を見ながらそう問いかけた。

 するとソフィアが静かに顔を下げた。


「病気なの……それも難しい病気で、今も眠ったままなの」


「私も頼まれて、可能な限り協力したんだが……ダメだったんだ。それぐらい難しい病気みたいでね」


 ファルも深刻そうな顔をして拳を握っていた。

 なるほどな。病気の弟さんを助けたい。それも確かな戦いの理由だ。


「だから……少しでも治せる可能性があるなら、私は戦う。それも貴族王にだって……!」 


 ソフィアはそう言って顔を上げ、ステラの顔を見た。

 その瞳は力強く、覚悟が宿っている瞳に俺は見えた。


 そして逆にソフィアはステラは問いかけてきた。


「ステラは……どうして戦うの?」


「私は……家や領民の皆を少しでも楽させてあげたい、それだけなの」


「アハハハハ! ステラらしいね! 君らしいし、家や領民を守る! それも貴族の役割さ!」


 ファルは楽しそうにそう言っていた。

 こいつは本当に楽しそうだな全てが。きっと悩みはないだろうな。


 俺はそう思いながら次はソフィアの様子を見てみると、少し驚いた。

 

「……」


 ソフィアは先程の優しい雰囲気から一変して、どこか冷たい表情をしていたからだ。


 どうして、そんな顔をするんだ? 

 まるでステラに対して敵意を向けてる様にも見える。それか失望?


 どちらにしろ、なんか変だ。


『ステラ……その――』


「けど、それだけじゃないんだろ? 君がそう言うって事は、何かあったからさ。私達に聞かせてくれないかい?」


 コイツ、本当に勘が良いな。

 俺は言葉を遮られたが、逆に言い機会だとも思って何も言わなかった。


「実は……」


 そしてステラも顔を少し下げてから、静かに語りだした。


 アスライト家・ボルテックス家の二人に言われたこと。

 自分にはないモノで、必ず敗北すると言われた事。

 

 その全てを。


 そして話し終えた後、ファルとソフィアは静かに頷いていた。


「なるほど……ね。確かにその二人の言う事も一理あるね」


「うん……寧ろ、本当に言う通りになると思う」


 意外な言葉だった。

 彼等にはステラに足りないものがある、それを理解しているようだ。


「二人もそう思うんだ……ねぇ、私に足りないものって何? 私、このままじゃ駄目なのかな……」


「いや、君の願いだけならもう叶ってるよ?」


 簡単な感じで言いやがったぞファルの奴。

 ステラの願いが叶ってるって、一体なんだ?


「どういうこと?」


「だって君の願いは家や領民達に、少しでも楽してもらいたいんだろ? なら叶ってるさ。既に上級貴族二人も撃破した以上、貴族王の戦いが終わったらきっと位は上がる。今よりは楽になるさ」


「そう……それ。ステラは貴族王にならなくても願いは既に叶ってる様なものなの。――だから他の候補者にあって、ステラにないものは《《本気で貴族王になる》》って気持ちかな」


「……あっ」


――あっ、確かに。そもそも俺も貴族王を目指すには弱い理想だと、心のどこかで思っていた事だ。


 なのに、それに気付かなかった。

 ステラの優しい性格を知っているから、彼女らしい願いだからと納得してたから。


 俺もそれを自覚したと同時に、ステラからも腑に落ちたという感情が読み取れた。


 そして暫く、妙に気まずい空気が流れた中で、空気を変える為なのかファルが思いだした様に口を開いた。


「あっ、そうだ! これを言っておかないと、そう思っていた事があったんだよ」

 

 今度は何を言う気だ。二人のバストが云々とかだったら凍らせるか。


 俺はそんな風に思っていると、ファルは真剣な表情でこう言った。


「二人共、《《候補者狩り》》について知ってるかい?」

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