第20話:パーティーへ
『上級貴族・ブライス家より、候補者又は貴族間の親睦パーティへの招待状』
そんな招待状が届いてから数日後、俺とステラはブルーハーツ家の馬車に乗ってブライス家の屋敷へと向かっていた。
ステラはいつも鎧姿ではなく、戦ドレスといえばよいのか、戦闘も出来るドレスに身を包んでいた。
その姿は綺麗――よりも美し格好いいと呼べる姿だった。
『しかしパーティーか……大丈夫なのか?』
俺は最初、これは罠か何かと思っていた。
だがステラ曰く、ブライス家は上級貴族だけど、そんな事はしないタイプだという。
「今回のも本当にパーティがしたいだけだと思う。……ハァ」
そう言って疲れた様に溜息を吐くステラから、内心でブライス家の長男に会うのが面倒だというイメージが流れてきた。
おいおい、本当にどんな奴なんだ?
ステラからは面倒だが、悪い奴ってイメージはないし、本当にただのパーティー好きなだけなのか?
まぁどちらにしろ、ブライス家の顔に泥を塗らない為、候補者も間違いなく来るだろうとの事だ。
同時に決闘でもない限り、パーティー中での戦いもないとの事だ。
それこそブライス家に恥をかかせる事になるから、流石に候補者達も戦闘はないだろうとのこと。
それぐらい貴族のパーティーは特別な意味を持つらしい。
特に今回は親等の当主ではなく、招待相手に候補者を含めた各家の後継者を敢えて指定しているのも露骨な証拠だとステラは言う。
「ブライス家の長男も貴族王の戦いの参加者の筈だけど、それでもこんなパーティーを開くのは不思議じゃないの。それぐらいのパーティー好きだし、なんていうか……うん、馬鹿」
馬鹿なのか。なら尚更、馬鹿のパーティーに行かない方が良いんじゃないかと思うんだが?
『馬車に乗って難だが、帰らないか?』
「駄目だよ流石に……下級貴族の私が行かなかったらブライス家に恥をかかせる事になるもん。まぁ、アイツは気にしないと思うけど立場的にね」
そう言う割にはステラからは、パーティーが嫌だという感情が流れてくるぞ。
『パーティーは嫌いなのかステラ?』
「嫌いだよぉ……何かあるとすぐ下級貴族だからって馬鹿にされるし、他にも色々あるから本当に嫌だよ」
それでも行かないといけないとは、会社の飲み会みたいだなパーティーって。
俺は前世を思いだしながら、そんな事を思っていた時だった。
ゆっくりと馬車が止まり、カーテンの窓を開けると外にはステラの家の数倍はデカい屋敷が目の前にあった。
『デカっ!? ステラの家の数倍はデカイじゃん! 門だって立派過ぎるだろ……!』
「そりゃ上級貴族だもん……これぐらいは普通だってニブル」
だからって、これは凄いだろ。
至る所に銅像はあるし、細かい装飾だって門や壁にだって刻まれてるぞ。
良い仕事してるなって、一目見てすぐに分かったぞ。
俺はそんな事を思っている間に、ステラは従者の手を借りて馬車から降りていた。
そして門番に招待状を見せると、門番は笑顔で通してくれた。
『なんだ? 普通に対応してくれるじゃないか?』
「そりゃ、小さくても貴族だもん。使用人にすら馬鹿にされたらおしまいだよ?」
へぇ、なんかこういう時って、使用人にも馬鹿にされてるイメージがあったな。
まぁそこは下級でも貴族への対応ってことか。
『そうなんだな……っていうか、普通に俺を持って来て良かったのか? 剣とか普通に凶器だろ』
「駄目な家もあるけど、ブライス家は基本的に許可してるよ。万が一があった時に身を守れるのは自分だからだって」
『へぇー』
馬鹿だっていう割には、らしい事を言うんだな。
そこは共感できるぞ。
そんな他愛ない会話をしながら俺達は歩いていくと、やがて大きな玄関の前に辿り着いた。
「ハァッ……嫌だな」
ステラ……なんか残業明けで、休み前日に飲み会に誘われた時みたいな雰囲気だぞ。
『今からでも帰るか?』
「それが出来ないから苦労してるの……さて、行こうか」
覚悟を決めた様でステラは作り笑顔をしていた。
そして中へと入り、そのまま巨大なホールに入った。
――すると。
「――あれがブルーハーツ家の候補者か」
既にいた貴族達が一斉に、ステラと俺へ視線を向けるのだった。




