第18話:VS魔糸使いのマオ(2)
「強化騎士が!?――チッ、アースガル・マリオス!」
一瞬で強化騎士を俺達が倒したのを見て、マオはすぐに動きを見せた。
近くの岩に魔糸を放つと、その岩は浮き上がり、やがて獣人を模した姿となった。
野郎、まだそんな特殊な魔法を持っていたのか。
俺は内心で愚痴るが、マオ――糸小僧の動きは止まらない。
「やれ! 岩人形!!」
奴が指を動かすと、岩人形は動き始めた。
そして岩の爪をステラへ向けながら飛び掛かって来た。
「っ! 氷刃剣!!」
ステラも負けじと俺を振るうが、相手は岩だ。
いくら魔剣でも半端な攻撃じゃ破壊まではできず、腕を砕くだけだった。
まっ、ただの剣ならここまでだろうがな。
俺は魔剣だぞ!
『ただの斬撃が無理なら魔法を込めれば良い! 行くぞステラ!』
「うん! お願いニブル! 行くよ――」
俺の掛け声にステラは頷くと、その場で大きく跳んだ。
そして同時に俺達は呪文を叫んだ。
『「アイスガ・ソルドン!!」』
氷の魔力を大きく纏い、巨大になった俺をステラが振るうと、岩人形は氷漬けになりながら砕け散った。
う~ん、下手な魔物より硬いな。
普通の岩じゃなく、魔法で多少の強化がされるようだな。
俺は手応えが思ったより硬いと思い、その考えをステラにリンクすると、彼女も頷いて理解してくれた。
これで半端な攻撃はしなくなるだろ。
魔力もまだまだある。さぁ、どんな攻撃でも来やがれ糸野郎!
「クソッ!――マリオス・フェノミノス!!」
糸小僧は焦りからだろう。先程よりも大げさに腕を振るうと、周囲の木々に糸を張り付けた。
すると、今度は木々が次々と人型を模し始めた。
更に腕は槍の様に鋭利なものとなり、次々と俺達へ飛び掛かってきた。
「その程度で止められると思うな!!」
だが怒りに満ちたステラには、そんな脅しにもならなかった様だ。
アイスガ・ソルドンで次々と振るい、木人形を切り裂いていくステラ。
しかし数が多いな。
ここは一気に全滅させるか!
『ステラ! 数が多い! 一気に潰す!!――新技行くぞ!!』
「うん! やってニブル!!」
俺の意思がステラに伝わり、ステラは俺を前方へと翳した。
魔力を込めろ。吹雪として、驚異的な災害となれ!!
その呪文――その名が俺の脳裏に過る!!
『行くぞ!!――ディルビオス・ブリザドン!!』
俺が力を込め、それを放つと、それは巨大な猛吹雪となって目の前の木人形達を包み込み、そのまま粉々に砕いた。
更にその余波が糸小僧を襲った。
「うわぁぁぁぁ!! 寒い! 寒い寒い寒い!!!」
その余波が糸小僧の左腕を凍らせていく。
全てを凍らす絶氷の吹雪だ。絶対に逃がさないぞ!
俺はそう思って半ば、勝利を確信していたが、その次の瞬間――糸小僧から巨大な魔力の光が溢れたんだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 寒い寒い!! よくもやったなぁ~!! この腐れ下等貴族がぁ!! だが嘗めんなよ!! ボクだって《《ラドゥガ級》》や《《ディルビオス級》》の呪文は使えるんだ!!」
「この魔力……! ニブル! 大きいのが来るよ!」
『あぁ! 受けてやろうぜ!』
何が来ても負ける気はしない。
――ただ気になる事を言っていたな。確かに、ラドゥガ級・ディルビオス級って。
脳裏に浮かんだ呪文だったが、もしかして意味のある呪文だったのか?
俺は思わず意識がそちらの方に向いてしまったが、すぐに意識を目の前へ戻した。
そして、奴の魔力が一定の輝きを見せた瞬間、それは放たれた。
「喰らえ!!――ディルビオス・マリオスレイダス!!」
『ッ! 悪魔……!?』
それは一言で言えば翼が生え、羊の頭部を持つ巨大な悪魔の姿だった。
そんな悪魔が現れたと思えば、六本の腕から魔力糸を出し、周囲の岩や木々を引っ付けた。
そして、一斉に俺達へ放ってきた。
「デカい!?――ニブル!!」
『おう! アレがアイツの最大呪文なら、俺達も最大呪文だ!!』
「うん! やるよニブル!」
俺の言葉にステラはそう言って天に俺を翳した瞬間、糸小僧を超える魔力の輝きを放った。
「なっ! ディルビオスよりも魔力が大きい!? まさか、それ以上の呪文を――!」
何か言っているが無視だ!
放つんだ、あの魔法を! グーラン戦で見せた最大魔法を!!
『行くぞステラ!! 俺達が勝つんだぁ!!』
「勿論!!」
俺が叫ぶと同時にステラが俺を前方へと向けた。
そして――
『「ブリザイオウ・ヘル・ニブルヘイム!!」』
グーラン戦でも見せた巨大な氷の剣を放つと、それは次々と岩や木々を凍らせては砕いていった。
そして最後は糸小僧の出した悪魔――<ディルビオス・マリオスレイダス>を突き刺し、そのまま氷漬けにして砕いた。
そんな様子に糸小僧――マオは唖然としていた。
「ば、馬鹿な……僕の呪文が……僕の最強の人形が――このボクがぁ!!」
悪魔が砕け散っても俺達のブリザイオウは、そのまま消滅しなかった。
そのままマオを直撃して吹き飛ばし、奴の指輪に付いた『魔石』を砕いた。
「ちくしょおぉぉぉぉぉ!!!」
その言葉を最後に吹き飛んだマオは、地面に叩きつけられ、最後は氷漬けとなった。
こうして、ブルーハーツ領内での候補者の戦いは終わりを告げた。
だが、俺は少しだけ気がかりがあった。
『ステラ……どうする? 今回は見捨てるのも手だぞ。自業自得でしかないんだからな。――それとも、こんな奴等でも治療するか?』
「……」
俺の言葉にステラは返答しなかった。
ただ、静かに顔を下へ向けると、静かに頷くだけだった。




