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第17話:VS魔糸使いのマオ(1)

 駆けながらステラが話してくれた。

 ステラは領民達に何度も助けてもらった事があることを。


 流行り病で高熱を出した時、大雨の中、領民達が必死にステラの為に薬草や栄養の摂れる食材を持って来てくれたこと。


 森や山で迷子になって泣いていた時、領民の人達が助けに来てくれたこと。


 それ以外にもステラはずっと語ってくれた。

 ずっと領民の人達に助けられていた事に。


――領民あっての貴族。


 ステラの親父さんは、ずっとステラに言い聞かせていたらしく、彼女もそれを心から理解している。


 だから家族同然なんだろうな。

 何度も助けてもらって、関わって心の暖かさを知ったのだから。


 そんなステラの大事な存在――領民を利用した元凶は、俺も許せねぇ!


 リンクしているからステラの静かな怒りが俺にも分かる。


 そして<俊足>のスキルで馬よりも速いスピードで駆け、<危険感知>を研ぎ澄ませ、元凶をついに見つけた。


 けどステラの怒りは既に限界を遥かに超えていた。

  

 飛び出すと同時に、俺を振るって敵の腕を両断したのだから。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! ボクの、ボクの腕がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「なっ! 敵襲だと!?」


「マオ様!!」


 やはり連れの騎士達もいたか。

 マオと呼ばれた少年――アイツが元凶で候補者か。


 右手の指輪に『魔石』があるのが見えたぞ。

 

「クソッ! 下級貴族風情がぁ!!」


 マオはそう叫ぶと切り口を氷漬けにされているにも関わらず、指から何かを出して後方へ、騎士達の後ろへ跳んでいく。


 あの動きに、あの動作――分かったぞ!


『ステラ! 糸だ! あの小僧、魔力の糸を操れるんだ!』


「魔力の糸……! それで領民の皆を操ってたの!!」


「チッ! 見抜かれたかぁ~下級貴族だからって油断した。伊達に上級貴族を二人も脱落させてないってことかぁ……!――だけどぉ~それで勝った気でいるなよぉ~! フンっ!」


 マオと呼ばれた小僧の奴、魔力を放出して切り口の氷を吹っ飛ばしやがった。

 

 だがそれで何をする気だ? 腕は既に両断したから隻腕には変わりないんだぞ?

  

「糸の本領を見せてやるよぉ~<ケアリオル・マリオス>!!」


「えっ! 斬った腕から糸が!?」


 なっ! あの野郎、斬られた部分から糸を出して、そのまま落ちてる腕へ繋げやがった!?


「そして、こうしてぇ~はい! 治療終了ぉ~!」


『マジかよ……! 斬った腕を繋げやがった……!』


 これ見よがしに繋げた腕の指を動かすマオの様子に、俺達は思わず言葉を失いそうになった。


 あの短時間で神経まで正確に繋げやがったのか!

 この糸小僧、ただのクズじゃない。自分の魔法を完璧に理解して使いこなしてやがる!


『ステラ! 気を付けろ……コイツ、自分の魔法に長けているぞ!』


「……そうだね。でも、それよりも聞きたい事がある」


 ステラはそう言ってマオを真っ直ぐに見ながら、そう言った。

 

 同時に俺は感じていた。ステラの怒りがまだ冷めていない事に。


「なにさぁ~?」


 糸小僧は面倒そうに聞き返してくるが、ステラは冷静さも失わず、静かに問いかけた。


「どうして領民の皆を利用したの? 直接、候補者の私を狙えば良かったじゃない。なのに、どうして!」


「そんなの大した理由は無いよぉ~その方が有利に進められただけだし、別に良いじゃ~ん。領民なんて代わりなんていくらでもいるしさ」


「代わり……?」


 言葉を選べよな。俺は心底そう思ったね。

 今の言葉でステラの怒りはまだ上がるの感じたから。


 だが糸小僧――マオはそんな事を知らずに、ヘラヘラと話していた。


「そうだろぉ~! 領民なんて犬猫みたいにいくらでも増えるんだよぉ~! だから利用してどうなろうが問題ない! それよりも貴族であるボクの役に立てるだけ、ありがたいと思うだろ普通!」


「領民あっての貴族じゃないの……?」


 ステラは怒りで顔を下へ向けながらそう言った。


 期待なんかするなよ、ステラ。

 今の言葉だけでも、あの小僧の心の中身が分かった筈だろうに。


「何を言ってるぉ~? 貴族あっての領民に決まってるじゃ~ん。領民なんて使い捨ての道具だよぉ~! 見せたあげたいね、君にもさ。ボクが定期的にやる領民を無理矢理使った人形劇をさ! 上手く動けなかったり、抵抗したら骨を折るんだ。最高だろぉ!」


 案の定、碌でもない事を言ってやがる。


『俺だったら金を貰っても見たくないね、そんなもの』


「うん……私もだよ、ニブル」


 俺の言葉にステラは頷くと、俺を握る手の力が強くなるのを感じた。


 そして腰を落とし、身構えた。


「お前を貴族王にさせる訳にはいかない……!」


「貴族王? そんなどうでも良いよぉ~! どうせ最上位の上級貴族には勝てないんだからさぁ~適当に得点を稼いで、ボクは上級貴族にあがるだけさ! そしたら、どんな人形劇を――」


「黙れ――!」


 うおっ! ステラ……凄い殺気だ。

 そりゃそうだ。大切な者達を傷付けられたんだ。涙を流させたんだ、この糸小僧は。


 ステラの怒りは既に、臨界点を超えてるんだぞ?

 そしてステラの怒りを感じたんだろう。糸小僧は目を大きく開くと、両手を前へ出した。

  

「っ! お前等! 出番だ――<ゴウ・マリオス>!!」


「お任せを!!」


「力が漲る!!」


 見えたぞ、魔力糸!

 あの糸を使って今みたいに領民を操ってたんだな。


 俺は糸小僧の指先から出る魔力糸が、10人はいる騎士達に繋がるのが見えた。

 そして同時に騎士達から強い魔力を感じた。


『強化したのか……! やるぞステラ!』


「うん……力を貸して、ニブル!」


 ステラは更に腰を低くした。

 最早、獣の様な態勢だが、ステラの俺を握る力は更に強まっていた。

 

 それには気付かず、糸小僧は勝ち誇っていた。


「どうだぁ~! この魔法は人形を強化することが出来るんだ! その力は本来の10倍以上の力! さぁ、やれ騎士人形たち!!」


 糸小僧がそう言った瞬間、一斉に騎士達は俺達へ向かって来た。

 だが、その瞬間にステラは小さく呟いた。


「ニブル……<俊足>と刀身に氷魔法を」


『あいよ』


 俺は一切の迷いなく、スキルと魔法を発動した。

 するとステラの両足に魔力が溢れ、俺の刀身が吹雪に包まれた。


――瞬間、ステラは飛び出した。


「氷刃剣――」


 飛び出したステラは、まるで狼の如く、駆け、そして剣を騎士達へと振るった。


「がはっ!!?」


 一人。


「ぐえっ!」


 また一人と。次々と氷の斬撃を浴び、一瞬の内にステラは騎士達を斬り伏せていく。


 そして最後の一人を斬った後、残されたのはステラが通ったルートに、氷の道が出来ていた。


「――狼走氷葬(ろうそうひょうそう)


 斬られた騎士達は氷漬けとなり、その斬撃跡もまるで狼の牙の様な跡だった。


「なっ! 馬鹿な――」


 一瞬で強化騎士達を倒した事でマオの表情に、ようやく焦りが現れた。

 

 だがもう遅い。俺もステラも、今までになく怒ってるんだからな!


『やるぞステラ……! このふざけた人形劇も終演だ!』


「うん! 皆を――人を人形扱いなんて、絶対に許せない!!」


 俺達はそう言って、ステラはマオへ俺を向けるのだった。


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