第16話:中級貴族・マオ・マリオンズ
「い~い眺めだねぇ! 必死に領民を傷付けないで頑張ってるよぉ~!」
ブルーハーツ家・領内の外れ。
その開けた森の中で、複数の騎士を引き連れた赤髪の小柄な少年――中級貴族マオ・マリオンズは、そう言って歪んだ笑みを浮かべていた。
「い~いねぇ! 最高の人形劇になりそうだ!」
両手を前に出し、十本の指先から《《魔力の糸》》を出しては指を器用に動かすマオ。
彼は今、ブルーハーツ家の領民を魔法糸で操り、候補者――ステラを襲撃している最中であった。
操り人形となった領民の視界を通じ、ステラが必死になっている姿を見て笑うマオ。
それを見て、同じ様に周囲の護衛騎士達も笑みを浮かべていた。
「この調子なら楽勝ですね、坊ちゃま」
「えぇ、これで三人目ですね」
そう既にマオは、このやり方で候補者を二人脱落させていた。
その二人も領民を傷付ける事を嫌い、最後は弄られながら魔石を砕かれてしまった。
それを思いだしてか、マオは歪んだ笑みを更に歪ませた。
「あぁ、そうだったねぇ~最初の二人も愚かだったけど、今回の人形は更に愚かだねぇ~足を刺されても反撃しないよぉ~」
「それはそれは、最早イカれてますね」
マオの言葉に周囲の護衛騎士達は、そう言って小馬鹿にする様に笑い合う。
マオも内心で更に笑っていた。
あまりに愚かだと、馬鹿だと。
領民なんて人形以外に使い道のない、ゴミ寄りの存在でしかない。
少なくともそう思っているマオは、ステラ達の行動が理解できなくて仕方なかった。
領民の為に頑張る? 何かをしてあげる?
――逆だよぉ~領民が汗水ながして、ボク達貴族に尽くすんだろぉ~?
昨日の様子を見ていたマオはすぐに分かった。
ステラが領民達と笑い合っているの見て、コイツも最初の二人と同じく馬鹿だと。
「領民の為にとかいう奴は絶好のカモだからねぇ~少しでも多く脱落させて得点を稼がせてもらうよぉ~あと30人ぐらい脱落させればボクも上級貴族かなぁ~!――ん?」
そう言って楽しんでいたマオだったが、領民からの視界を通じて異変に気付いた。
ブルーハーツ家の当主が、騎士を引き連れて妨害してきたのだ。
その間にステラも離脱してしまい、マオの顔から僅かに笑みが消えた。
「萎えるなぁ~予定外の演出は白けるよぉ~候補者もどっか行っちゃったよ」
「なっ! 大丈夫なのですか? こちらに向かっているのかも……!」
騎士は慌てた様子でそう言うが、マオは一切動じてなかった。
「大丈夫だよぉ~魔力糸は普通じゃ見えないんだぁ~僕の居場所も分からなければ、この距離だよぉ? 馬を使っても時間が掛かるさぁ~」
ステラのいた場所から、この場所まで並みの馬でも20分は掛かる。
神速の様な速度や、速度を上げる魔法がなければまず無理だ。
場所、時間、どれを考えてもステラが自分の下に辿り着くのは不可能に近かった。
異変を感じれば場所を変えればいい。
その為に場所の把握は幾つか行ってもいたのだ。
だからマオに敗北の文字は存在していなかった。
「あっ! そうだぁ~何ならブルーハーツ家の当主を操って、親子同士の殺し合いをさせるのもいいかもぉ~これは絵になるよぉ~」
「アハハ……そうですね」
そう言って笑うマオの言葉に騎士達も少し引いたが、彼等の中にも敗北は無かった。
理由はやはり、ここまでの距離だ。
この場所の探知だけでも至難なのに、分かった所で距離もある。
だからどう動こうが、彼等に敗北は――
「――見つけた」
「えっ――」
女の声? 森の中から誰かが――
マオがそう認識した時には時すでに遅し。
彼の目前に、森から飛び出し、ニブルを振り下ろすステラの姿があった。
そして直後、彼の左腕が宙を舞うのだった。




