第12話:上級の意地
周りを騎士達が警戒する中で、俺はステラと共に雷小僧とグーランを治療スキルで回復させていた。
そんな中で気付いた事がある。
まず、俺の魔力が増えた事だ。
簡単に言えば<1800>から<2200>にだ。
これは<自己進化>か<自己強化>の恩恵だと思う。
性格はさておき、相手は上級貴族という名の強者だった。
だから経験値――それによって俺自身が強くなったのだろう。
更に<魔力限界突破>のスキルだってある。
このまま戦い続ければ、いずれはもっと増える筈だ。
――もう一つは<スキル吸収>についてだ。
このスキルはずっと、相手を倒せばスキルを吸収できると思っていた。
けれど、治療中のグーラン達も<スキル吸収>の対象にできたのだ。
もしかしたら一定のダメージ――つまり弱らせればスキルは吸収できるのかもしれない。
試したいし、実際グーランの持つ<鉱物鑑定>などのスキルは結構魅力だ。
だが、流石にそれは止めといた。
死体蹴り云々じゃないが、スキルを吸収する以上、相手はそのスキルを失う事になる。
そうなると流石に気の毒に感じてしまった。
俺も甘いよな。そう思ったが、やはり実行はできなかった。
実際、グーランの家はステラ曰く、鉱石などを主な商売にしていると言っていた。
なら<鉱物鑑定>のスキルは必須の筈だ。
ステラに負け、候補者から脱落した以上、彼等は没落したも同然らしいし。
流石にこれ以上、何かする気にはなれなかった。
『甘いよなぁ……俺も』
「えっ? 何か言ったニブル?」
「えっ、あ、いや……」
つい独り言が漏れてしまった。
なんか恥ずかしい。
それを誤魔化す為に、俺は気になっていた事を口にしてみた。
『ただ……なんで、こうも上級貴族が狙ってくるんだろうなってさ。いくら下級貴族で狙いやすいからって、少し違和感がある』
「実際、その通りだから……下級貴族は文字通りの実力が多いから、候補者を脱落させた――って実績作りにはこれ以上にない相手だもん。ある意味、小動物を狩るみたいな感じかも」
ステラはそう言って虚しそうに笑うが、笑い事じゃないだろうに。
俺は大丈夫だが、こんな実力者達が何度も襲ってきてたら限界きて、ステラや周りは耐えられないぞ。
しっかし狩りか。本当に下級貴族は貴族間じゃ立場がないんだな。
同じ土俵の連中で戦えば良いのに。
『つまりは雑魚狩りか。けど、それで負けてたら本当に立場がないだろうな。そして負けたら負けたで、今度は他の連中が報復か。そんなに面子が大事かねぇ?』
「分からないけど……その面子が大事なのかも」
「――その通りですよ」
『うおわった!!?』
「キャアッ!? いつから!? えっと、これはね……独り言っていうか――」
コイツ――グーランの野郎、いつの間にか目を覚ましてやがった。
マジでビビったぞ!
ステラも驚いて、慌てて俺との会話を誤魔化そうとしていたが、グーランは冷静な様子だった。
「……何を慌てているのか分かりませんが、私が目を覚ましたのはたった今ですよ。――どうやら治療されているようですが、なんと甘い事を」
うるせぇ、こっちも承知だ。
すぐに中断しても良いんだぞ!
俺はそう思ったが、ステラの意思が強くて中断は止めといた。
全く、ステラに感謝しろよこの野郎。
「あの……面子が大事ってどういう事ですか?」
俺がそう思っていると、ステラが先程の言葉について問いかけていた。
すると、グーランはその言葉にやや呆れた態度を見せた。
しかし同時に諦めた様子も見せながら、静かに口を開いた。
「言葉通りです……同時に、失うモノの大きさの違いでもありますよ。私達と、あなた達下級貴族とのね」
どういう事だ? 失うモノの大きさ?――プライドとかの、どうでもいい奴のことか?
ステラも気になったのだろう。
彼女もグーランへと聞き返していた。
「どういう事ですか?」
「そのまま意味です。上級貴族と下級貴族では失うモノが違い過ぎる。――歴史・名誉・誇り・領民・立場。このどれもが大事なものなのですよ。上級貴族は嘗められたら終わりなのですから」
そう言ってグーランは、魔石が無くなったネックレスを見つめた。
「嘗められたら……一度でも下に見られたら、それは死と同じです。失えば、私の大切な領民達が汗水流して採った鉱石すら安く買い叩かれる。理不尽すら平然と受けなければならない。――それが私の背負うものだった」
そうか、そりゃそうだよな。
失うモノは彼等にだってあるんだ。当たり前だよな。
最初はクズだと思ったけど、クズに徹していないと彼等は駄目だったのかもな。
嘗められない為に。
けどステラは納得できなかった様だ。最後の言葉。
まるでもうお終いの様な言い方に。
「背負うものだったって……でもまだ貴方は――」
「脱落者に言葉は不要です!」
そう言ってグーランは立ち上がった。
まだフラフラの状態だが、槌を杖代わりにして背を向けた。
だが途中で立ち止まると、グーランは口を開いた。
「これは最後の慈悲ですが……今のままだと、アナタ。生き残る事はできませんよ?」
「えっ、それってどういうことですか?」
「そのまま意味ですよ、これも。アナタには他の参加者にはあって、アナタには無い物がある。だから……必ず、それが課題となって負ける時が来るでしょう」
どういうことだ? ステラにあって他の参加者にはないモノ?
守るべきモノはステラにだってある。
じゃあなんだ? 下級貴族だから失うモノが少ないって事か?
俺はグーランの言葉に困惑し、ステラも困惑していたが、グーランは最後に笑うとフラフラ付きながら闇の中へと消えて行った。
そんな時だった。
「その通りだ、下級貴族」
次に目を覚ましたのはライド・ボルッテクスだった。
雷小僧はそう言うと、同じ様にふらつきながら立ち上がると、ステラを睨んだ。
「余計な事をしたな……下級貴族が! ハァ……ハァ……だが俺は……俺は……!」
ステラを睨んだ雷小僧だったが、最後に悔しそうな表情を浮かべながら背を向けた。
それを見てステラは思わず手を伸ばしていた。
「待って! アナタはもっと重症だった! だからまだ治療を――」
「うるせぇ!!」
うおっ! 雷小僧の野郎、電気出しながら腕を払いやがった!
だが、それだけで終わらなかった。
雷小僧はステラへ振り向くと、怒りの形相で睨みつけていた。
「甘いんだよお前は!! 下級貴族の前に一人の候補者として!! 時にはお前の様な奴の優しさが徹底的に敗者を惨めにさせるんだ!!――生き残るは自分だけ……そう思わねぇと、次は脱落するぞ」
『……雷小僧』
雷小僧――ライドはそう言い終えると、同じ様にフラつきながら闇の中へ消えて行った。
残されたのは俺とステラと騎士達だけ。
『なんだろうな……この感覚』
勝ったのは、生き残ったのは間違いなく俺達だ。
なのに、間違いを指摘されたように複雑な感情が沸き出てくるのは何だ?
ステラも言葉を失っていた。
自分の何かが間違っている。そう思ってしまっているから。
リンクしてるから分かる。
彼女は悩んでいる。悩んでしまっている。
だが結局、答えは見付からずだ。
そして翌朝、俺達はステラの実家――ブルーハーツ家へと帰還を果たすのだった。
確かな迷いの種を内心に宿しながら。
候補者:残り298人
あとがき
ストックがなくなったので第三章執筆開始します
遅くなりますが待っていてください(`・ω・´)ゞ




