第1話:魔剣転生
死んだ事だけは覚えている。
確か――そうだ子供だ。
ボールが道路に出て、それを追ってきた子供を車から助けたんだ。
全く、公園でボール遊びは禁止って書いてるあるでしょ。
柵も近日設置予定って書いてるけど、残念間に合いませんでした!
だって俺もう死んでるからね!
『……全く、呆気ない32年の人生だったな』
――って待て。なんで意識があるんだ?
俺は死んだはず……いや死んだんだ。それは覚えてる。
『――っていうか、ここどこだよ!?』
我に返って初めて目に飛び込んできたのは雪――極寒の白。
あと氷だ。クリスタルみたいに透き通っている氷の山が周囲にある。
凄い綺麗だな。東北出身だけど、幻想的っていうか、今まで見た事がない神秘さがあるぞ。
次に空へと目をやると、なんて事だ。月が二つあるじゃないか!
金色に輝く月と、赤い月だ。
『どういうことだ……! なんで月が二つ? それに俺は死んだ筈だ!』
「そう君は死んだ」
『っ! だ、誰!?』
突然の男の声。俺は周囲を見てみたが、周りには誰もいなかった。
なんだこれ。いや周囲っていうか、頭か? 頭に直接語り掛けられている様な気分だ。
「他者を助けて死んだ……それ故の恩恵。異世界は慣れないかも知れないが、まぁ頑張りなさい」
『ちょっ! 待ってくれ! 誰だよ一体!? それに異世界!? 異世界ってあのよくある転生的な――』
「それじゃ、頑張れ。ばいばーい」
そう言って男の声は消えた。
同時に気配らしきモノも消えて、完全にいなくなってしまったと俺は自覚する。
『異世界ってなんだよ!? ちょっと!』
それでも不安で思わず腕を伸ばそうとした時だ。
『あれ? 腕が動かな――っていうか、ない!』
腕だけじゃない! 足も、っていうか身体も!
そもそも感覚がおかしいぞ! 違和感っていうか、俺の今の身体って――ん? なんか頭に入ってくるぞ。
名称:魔剣ニブルヘイム
属性:氷
装備者:無し
魔力:800/800
スキル:絶対氷域・氷結・氷魔法・氷結付与・氷結耐性・鑑定・自己進化・自己強化・自己修復・浮遊・氷属性眷属支配・剣術・魔力付与・スキル吸収
『あぁそうか、俺は剣……魔剣に転生したのか。――って、えぇ!!』
目があるのかは分からない。
だが自分の状況は良く分かる。っていうか、自分は剣だって自覚が出てきたぞ!?
氷の台座に突き刺さる一本の剣。これが俺だ。
幻想的な蒼の刀身、長さは普通より少し長いな。
刀身に荒々しい蒼い線があって、持ち手も鍔も氷のイメージ的な装飾がされている。
しかし凄いスキルの量だな。流石は魔剣か。
ただ攻撃力・魔力は今一、凄いのか分からない。
比較対象がないし、とりあえず置いておこう。
だが自分が魔剣って自覚はあるし、魔剣である以上、凄い分類だと思いたい。
剣術4ってスキルを見ると微妙に見えるが、魔法系は高いじゃないか。
『しかし魔剣かぁ……そして異世界。――どうしろって言うんだ?』
あの男の声はもう聞こえない。
だが代わりに混乱が無くなって来たぞ。
俺は死んだ。そして魔剣=俺になった。
その自覚はある。違和感もなくなった。
けど前世に未練はある。親や兄弟達の事が心配だ。
友人だっていたし、まぁ不幸中の幸いは妻子はいないって事だな。
『せめて……家族や仲良かった友人達が幸せになってくれると良いんだが……』
「良いだろう。その願いは叶えるよ。だから君は、自分の心配をするんだ」
『えっ! さっきの声――』
思わず声を出してしまったが、また声は気配と共に消えて行った。
あぁ本当に何なんだ。家族とか任せて良いのか?
まぁ前世は仕方ない。今は目の前の事に集中するんだ。
『けど……魔剣なんだよなぁ。本当にどうしろっていうんだ』
目らしい部分は鞘辺りにあることに気付き、周囲は見える。
だが、見たところ極寒の地だろ。ここは。
魔剣である以上、使われる為にあるんだろうけど。
雰囲気的にここって、なんか隠しダンジョン的な場所か、通常ダンジョンの隠しエリアっぽいんだよな。
まず見つけてもらえないだろう。
『仮にみつけてもらっても、風呂に入らない様なおっさんは嫌だし、女性でも性格悪いのは嫌だな』
そもそも魔剣って格好良いけど、良い印象はないぞ。
勇者が持つのは聖剣だし、魔剣って大体悪者が持ってるじゃん。
それか妖刀の類だったら嫌だな。
スキルを見る限り大丈夫そうだが、持ち主が不運な事故ばかりに遭ったりしたら何か嫌だ。
いやそれ以前の問題だ。
そもそも動けないんだぞ。持ち主のことを考える暇はない。
『せめて自由に動ければ……!』
そう思って俺は何とかしようと、動こうとした。
――すると、なんか不思議な感覚に包まれた。
『なんだ? 優しい雰囲気っていうか、フワフワした感じが――って浮いてる!?』
気付けば俺は台座から抜けて浮いていた。
そうか! スキル:浮遊の力か!
これなら周囲ぐらいは見れそうだ!
良し! まずは周辺を見て回ってみるか!
俺はまるで知っているかの様に自由に浮遊し、空へと飛んでいった。




