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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
26/27

盾VS盾と矛

「ぐがっ!!」


巌流のヒートエッジがカナロアを貫く。と同時に突っ込んできた巌流と思い切りぶつかり、カナロアは吹っ飛んでいった。


「……終わった…」


か細い颯のつぶやきで、二人の体の力は一気に抜け、そのまま地面に倒れこむ。瞬間、耐え難い激痛が体中を稲妻のごとく駆け巡り、二人はうめき声を出さずにはいられなかった。


「がっ……!!…ぐ……はぁ!…はぁ!…はぁ!」


「だいぶ…つらいんじゃない…?巌流…」


「あぁ…ぐ……爆血の連発は…さすがに体が耐えられん……がぁ…!」


「まだアドレナリンが完全に切れてないからいいけど…そのあとはきついだろうね…」


「そういうお前もだぞ颯…ひどい顔だ…」


「まったくだよ…あいつ、お構いなしに殴ってきやがって……おかげで体中激痛だ…」


そう言って颯は腰のポーチから「複合薬」と書かれた注射器を二本取り出すと、一本を巌流に手渡し、もう一本を自身に打ち込んだ。

受け取った巌流も素早く自身の首筋に打ち込むと、立ち上がろうとする。


「あぁ…だが休んでる暇はない…早くいかなければ…」


「行くってどこに…?」


「決まってるだろう…アナたちの援護だ…ゼノンの奴、以前と見てくれが違っていた…恐らくロストウェポンを身に着けてる…援護に向かわなければ…」



「いかせるか…!」



突然、通路の奥から声が聞こえる。二人が見ると、胸を貫かれたカナロアがゆっくりと起き上がっていた。ただ、アームはピクリとも動いていない。


「まだ動けるの……?」


「当然だ…軍用アンドロイドがコアを破壊されただけで死ぬか…!!」


「アームは動いてないようだけど…?」


「制御機構が破壊されたんだ……そこの侍が貫いたせいでな…!」


「構えろ颯…こいつを野放しにするわけにはいかん…!」


二人は、耐え難い激痛をこらえながら立ち上がると、戦闘態勢をとる。しかし、当のカナロアは地面に身体を這いつくばらせたまま、起き上がろうともがいているだけだった。


「……巌流…こいつ、これ以上動けないんじゃ…?」


「グ…ご名答だ…背中の信号伝達システムも壊れて足が動かせん…クソぉ!!!」


「なんだ…脅かすなよまったく…」


カナロアの言葉で再び力が抜けた二人は、へたへたと地面に座り込んだ。そんな二人を見て、カナロアはあきらめたように動きを止めると、再び話し始める。


「あの方は…”ガーディアン様”は真にアンドロイドのことを思っていた…私だってそうだ…!貴様らのような我々よりも劣っている奴らに、好き勝手される仲間たちなど見たくなかった!!」


「それは違う…世界を見ろ。すべての種族は手を取り合っている…」


「ならばガーデハイトの人身売買はなんだ!?ヨーロッパ各地で未だ続く違法労働は!?各地のアンドロイド差別はどう説明する!?何も見えてやしない!お前たちは少数を見向きもせず、不都合な事実にふたをしているだけだ!!」


「それを止めるために僕らがいるんだけど…?」


「武力で意識は変えられない…我々に対する偏見が残る以上、我々への差別はなくならん…!」


「……ならまずは、お前が偏見を捨てろ」


巌流が、カナロアの目を見て言い放つ。


「…なに?」


返答を聞いた巌流は、重い体を起こすと、その場で正座し、まっすぐにカナロアの仮面の目であろう場所を見つめる。


「お前は…人間は下等で、自分たちでも劣っていると言ったな…?」


「当然だ!」


「…だったらアナはどうだ?」


「アナ…?」


「あの子は恐らくまだ十代。劣っている人間の中でも、精神的にも肉体的にも未発達。お前に言わせれば、特に劣っている部類に入るだろう」


「それがどうした」


「だが彼女を見ろ。お前たちが、世界が、この動乱を通じて世の中を武力で変えようとしている中、あの子だけが話し合いで、平和的な糸口をつかもうと頑張っているだろう!」


「それは単なるきれいごとだ…!」


「確かにきれいごとかもしれん。それでも彼女が話し合いで変わると思っているのは、お前たちに希望を見出したからだ」


「!」


「彼女は、先の工場で何かを見たのだろう。そして何かを聞いたのだろう。俺たちには話してくれていないが、明らかに顔つきが違う。だが、あの子はあそこで何かを見聞きしてなお、お前たちと分かり合えると信じている。それは、一切の偏見がないからじゃないか?」


「…だったらどうした」


「彼女を信じろ。偏見なく差別なく、心から平和を望み、心から君たちと手を取り合えると信じている彼女を」


「…信じる……」


その言葉を聞いたカナロアは、「フフッ」っと少しだけ笑うと、すぐに地面に横たわった。


「いいだろう。私は彼女を信じようじゃないか」


「あら…?もっとごねる者だと思ったけど…」


「勘違いするな。彼女は”ゼノン様”が一度期待した子だ。だから信じるだけだ。あと…」


「あと?」


「彼女はあの日、私たちアンドロイドのために本気で悲しんでいた。あの気持ちに偽りはなかった…と信じたいものだ」


「ふふ…その信じる心が、すこしだけ世界を良くしていくんだろうな…」


そういって、巌流は再び地面に倒れこむ。動かないだけでも地獄であるのに、正座して話すのは今の彼には酷なこと。彼は倒れこんだと同時に血を吐き、苦しそうにうめいていた。


「巌流…!しっかり…!」


地面を這いながら、颯はゆっくりと巌流に近づく。と、その光景を見てカナロアが口を開いた。


「だが…私以外はまだ彼女を信じないだろうな…特にギガスは…」


「どうかな…?実はもう和解してとっくに…」


颯がにやけながら話していた直後



ドォォォォォォォォン!!



廊下の奥からすさまじい轟音が鳴り響くとともに、壁を突き破ってレオンハルトとアレキサンダーが、ギガスと取っ組み合いながら出てきたかと思うと、勢いそのままに隣の部屋へ突っ込んでいった。


「やつはゼノン様の忠実なボディガード。ゼノン様が心変わりしない限り、あいつも止まることはないだろう。何があってもな」






同刻 アイアンエデン本拠地 二階大ホール


「ぬおりゃあああああ!!」


レオンハルトが風切る音をうならせながら、自身のハンマーを振り上げる。ギガスはすかさず両手を組んで防ぐが、勢いそのまま空中に浮きあがった。


「はぁぁあ!!」


その瞬間を逃さず、アレキサンダーはレオンハルトの背中を踏み台に、ランスをもってギガスに突っ込む。


「”グリング・スパイク”!!」


高速に回転するアレキサンダーのランスが、ギガスの肩に直撃する。が、貫くことなく表面で勢いが止まり、その瞬間を逃ないギガスのカウンターをもろに食らい、大きく後方に吹き飛ばされた。


「アレク!!」


「よそ見するなレオン!来るぞ!!」


ハッとしてレオンハルトが振り返った直後。


ドグッ


ギガスの空を切る拳が、レオンハルトの顔面を殴りつける。SIU随一の巨体と重量を誇るレオンハルトが、この一発で後ろに少し後ずさりするほどだった。


「ぐお…」


「……」


ひるんだ隙を逃さず、ギガスの放つ絶え間ない連撃が、レオンハルトの体に衝撃の跡を残す。


時に前線で皆の盾となり、時にジェットを活かした高速接近やタックルを戦法として多用するレオンハルト。その威力に耐えるため、身に着けているアーマーは普通の銃弾はおろか、対物ライフルや機関銃の銃撃にすら耐えることのできる特別仕様である。


そんなレオンハルトのアーマーが、一撃を食らうごとに鈍い音を立て破片を飛び散らせ、徐々に小さなヒビが大きな亀裂へと変わっていく。肉体にじかに届くのも時間の問題だろう。


「おぉぉぉぉぉ!!」


ギガスの横腹を、ジェットを点火したアレキサンダーのランスが、豪速で直撃する。突然の横からの一撃に体勢を崩したギガスは、そのままアレキサンダーの勢いに押し負け、横へと押されていく。


しかし


「どんだけ硬いんだこいつの体は!!」


アレキサンダーのランスは、ギャリギャリという鈍い金属音を出すだけで、一行に身体を貫くことはない。

そのまま突き進んでいくうちに、ギガスは体制を整え踏ん張ると、ついに二人は制止。そのままギガスはこぶしを振り上げ、アレキサンダーめがけて迷いなく振り下ろした。


「そぉりゃあああ!!」


だが、後ろから迫ってきたレオンハルトが横降りでギガスは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「大丈夫かアレク!」


「しいて言うなら、叫びすぎでのどが痛いくらいかね?」


「それは致命的だな!叫ばなければ力はわかん!喉は大事にせねば!」


「あんたこそ大丈夫か?俺の喉よりもズタボロだぞ」


「問題ないぞ!今はまだな!だがこれ以上食らえば、このアーマーも体も持つまい…」


「奴のあの連撃…速度も威力もけた違いだ」


「さながらバルカン砲だ…そうだ!あの連撃を『バルカンナックル』と名付けよう!」


「のんきなもんだぜまったく…」


二人が話しているうちに、土煙の中からギガスが首をゴキゴキと鳴らし顔を出す。先ほどの二人の攻撃をもってしても、一切ダメージが無いようだ。


「どうする?あいつの攻撃は易々通じて、俺たちの攻撃はまるで効かない。まるで山だ」


「1メートルの鋼鉄を貫けるお前の突きが通じないとなると…かなり難局だな」


「…しょうがない。力比べで勝てないなら、今度は手数で行こう」


「わかったぁ!!」


レオンハルトの返事と同時に、二人のジェットエンジンがうなりをあげる。何かに気づいたギガスが戦闘態勢をとろうとした直後。


「おっしゃああ!!」


目にも止まらぬスピードで、二人がギガスに迫る。そのまま間髪入れず、アレキサンダーのランスが連撃を放った。


「”ラピッド・スピア”!」


ギガスの体中を、空を切る速度の突きが襲う。ダメージはないものの、威力に押し負けギガスの体は徐々に後退していく。


「”マシンガンスイング”!!」


そのギガスを待ち受けていたレオンハルトが、横降りの連撃を浴びせる。

前後双方からの絶え間なく、それでいて身が砕けるような衝撃がギガスを襲う。単体だけでは傷にすらなりえないアレキサンダーの突きが、反対側のレオンハルトの連撃によって相対的に増幅されているのだ。次第にギガスの体に、浅く小さいながらもランスによる傷ができ始めた。


「レオン!いけるぞ!徐々に手ごたえが出てきた!」


「よぉし!!このまま砕いてやろう!!」


だんだんとあったまってきた二人の肉体が、技の速度を速めていく。次第にアレキサンダーの槍が風を切る音が増していき、レオンハルトのハンマーが放つ衝撃波がより一層強まる。比例するように、ギガスにも変化が現れ始めた。

先ほどまで、連撃を受けはすれど防ぐことのなかったギガスが、徐々にアレキサンダーの攻撃に対して防御の姿勢をとり始めたのだ。


「さぁラストスパートと行こうかぁ!!」


二人の連撃の速度がピークに達する。


その直後



カッ



ギガスの胸が、一瞬まばゆく輝いたかと思うと、直後に極大の衝撃波が発生。もろに食らった二人は吹き飛ばされ、壁に身を強く叩きつけた。


「がは!!」


「ぐ!!」


うめき声と同時に二人は血を吐き、ずるずると地面に倒れこむ。二人の強固なアーマーですら完全に防げないほどの衝撃が、二人の体を襲った。

膝をついて体制を整えようと二人がもがく中、ギガスがゴリゴリと首や肩を鳴す。身体からは、白い上記が噴出していた。


「なんだ…今の…」


「衝撃波か…こ奴め…ようやくやる気になったというわけか…」


二人はつぶやきながらも、血の混じった咳をする。しかし、二人の顔の笑みは、まだ消えてはいなかった。


「がぜんやる気がわいてきたぁ!!ここまで手ごたえのあるやつは初めてだぞ!!なぁアレク!!」


「最近は骨のあるやつはいなかったからな…久々に楽しめるぜ!」


そういって、二人は武器を持ち直す。先ほどの衝撃波で受けたダメージが嘘かのように、二人の立ち振る舞いは元気そのものだった。


「……まだやるのか」


突然、ギガスが口を開く。


「!?」


「おぬし、話せるのか!?」


「あぁ……口下手なんでな」


「そうかそうか!!だが、話せるのなら聞かせろ!なぜゼノンに付き従う?おぬしほどの腕があれば、我らのようにWDOにでも入れたはずだ!」


「初めて声聞いた奴を勧誘とは…あんた底抜けに戦闘バカだな…」


「何を言うか!我は真剣に言っているのだ!!」


レオンハルトは、持っていたハンマーを地面に立てると、真剣に話し始めた。


「もしおぬしがゼノンの心情にひかれたのであるならば!WDOに来い!平和を守り、そして種族を守れる!願ったりかなったりではないか!!」


「…貴様は何もわかっていないな」


「そうとも!おぬしのこともゼノンのことも、詳しいことはよくわかっておらん!!」


レオンハルトは再びハンマーを握り締める。


「だからこそ!ぶつかり合って語り合おうではないか!!口下手なおぬしにはうってつけだろう!?」


「…あんたとなら話せそうだ。だが…」


突然、ギガスのアーマーが白い煙を吹き、ガシャガシャと駆動音を立てる。


「変形?また音波か?それなら対策済みだ。もう効かないぞ!」


アレキサンダーは、自身が身に着けているヘルメットをコンコンと叩くいて見せた。だが、どうやら違うようだ。


変形するにつれて、アーマーは徐々にギガスの体を離れていく。


(ここにきて新しい戦法?先手を取られてはまずい…今のうちに!)


アレキサンダーがゼノンめがけて突っ込んでいった直後。バシュンという音と共に、アーマーが宙に飛ぶ。そして、ギガスの黒鋼(くろがね)のボディがあらわとなった。


「いまだレオン!一気にケリをつけるぞ!」


「待てアレク!!そ奴とはまだ!!」


アレキサンダーの速度がさらに増す。レオンハルトの制止を振り切り、今まさにランスの先端がギガスの横腹を貫かんとしたその時。



ガキイイン!!!



鈍い金属音が部屋に響き渡った。


たまらず目をつぶったレオンハルトが再び目を開けると、ギガスとアレキサンダーの間を、黒い物体が割って入り、ギガスへの攻撃を守っていた。


「!?」


「こ奴…ギガスのアーマーか!自立して動けるとは…!」


レオンハルトが感心していると、アーマーはアレキサンダーの攻撃を宙へと流し、自身も飛び上がると、再び空中で変形する。


ホール天井から降り注ぐ日差しをバックに、その明るさと対をなすような黒い物体に、四本の脚が生える。その足は、大型のネコ科動物のようにしなやかで、それでいて鋭い爪を有していた。やがて大きな翼が生え、だんだんと体が型取られていく。


その姿は、翼の生えた黒色のライオンだった。体長はギガスよりも大きく、その眼光は赤く光り輝いていた。


「…俺とお前との会話に邪魔はいらない。…だから…そこのランサーの相手は、こいつに任せる。俺の相棒、『シャルル』に」


シャルルの耳をつんざくような雄たけびが、ホール全体に響き渡った。


to be continued

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