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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
24/27

開戦!SIU対アイアンエデン

堂々殴りこんだSIUの面々。その銃口が、切っ先が、ハンマーが、ランスが。二階にたたずむ一人のアンドロイド、ゼノンに向かう。


「遅かれ早かれ来るとは思っていたが…ここまで早いとはな。アナ?」


「あなたを止めるなら、素早くやらないと逃げられちゃうもの」


「止める?私を止めてどうなる?世界中で同胞たちが立ち上がり、声を上げ、武器を手に立ち向かっている。私一人を止めたところで、何も変わらないぞ」


「そんなのやってみなきゃわからない。それに、あなたが始めたんだもの。止めることもできるはずよ!」


「…ク、ククク……クハハハハハハハハ!!!」


その言葉を聞き、ゼノンが大声で笑い始めた。


「始めたなら止められるだと!?ちゃんちゃらおかしな話だ!アナ、貴様は一度燃え尽きた紙が元通りになるとでも思っているのか!?革命の火は灯り、大火となって世界を包み込みつつある!もう元のようには戻らんぞ!どう転ぼうと、あとに残るのは灰に包まれた新たな世界だけだ!!!」


言い放った直後、ゼノンは杖の石突きを地面に勢いよく叩きつける。すると、アロンの中にある鋼色の球体、”アレス”が不気味に赤く輝く。その直後、先ほどの爆風で吹き飛んだバックラーとΩ1たちが、すさまじい速度で起き上がる。その目は、赤黒く煌々と輝いていた。

今まで見てきたものとは違う雰囲気のアンドロイドたちに、皆は思わず身構える。


「なんだこいつら?薬でもキメたか?」


「キメたのは薬ではないぞ。異端者よ」


冗談をつぶやくビルに、ゼノンが語り掛ける。


「彼らは私の杖を使って強化してある。いままでのように、簡単には倒せんぞ!」


ゼノンの声を聴いたΩ1達の腕がいくつにも裂け、触手のようにうねる。その先端は、皆等しく鋭利な刃物のようになっていた。

バックラー達の体が音を立てて変形する。変形前よりも一回り大きく、各所からエネルギーを吹き出すその様は、もはや怪物だった。


「お前たちは我々の革命において一番の不穏分子だ。よって、ここで死んでもらう」


ゼノンが杖を一振りすると、アンドロイドたちは一斉にアナたちに襲い掛かる。皆が身構えた直後、レオンハルトがハンマーをもって前に出た。


「皆には指一本触れさせんぞ!!」


レオンハルトの振り下ろすハンマーが水色に輝き、変形していく。そして地面を叩きつけた直後、すさまじい衝撃波が前面に発生し、襲い掛かってきたアンドロイドたちを吹き飛ばした。その勢いは先ほどのグレネードとはくらぶべくもない。吹き飛ばされたアンドロイドたちは壁にめり込み、その衝撃で壊れた者もいた。


二階に飛んできたバックラーの残骸を、ゼノンはつかみ取ると、床に投げ捨てる。

先ほどまでエントランスに所狭しといたアンドロイドたちは、この短時間で全滅していた。


「さぁて!これで雑兵はほとんど消えた!あとはおぬしらだけだ!ゼノン!」


レオンハルトのハンマーが、再びゼノンをとらえる。ゼノンは苛立ったようなため息を一つすると、再び杖の石突きを地面に打ち付ける。すると、アンドロイドたちが、再び動き始めた。


「まだ動くのか…」


「でも、あの状態じゃもう…」


アレキサンダーとテリーは、アンドロイドたちの様子に唖然とする。そのほとんどはボロボロで、戦えるようには見えない。だがそれでも動き続けるアンドロイドには、メキシコ領で会った操られたような人々を想起させた。


「あとは任せる。確実に殺せ」


ゼノンはそう言い残すと、二階の通路を静かに歩き出した。


「「待て!!!」」


SIUの面々が、降下時に使ったジェット装備で、一気に二階に飛び込む。


しかし


「通すものかぁ!!」


カナロアの触手がテリー、巌流、アナ、サムを掴み、再び一階へと押し戻す。だが、直後に四人の体に細い糸が巻き付いた。


「そぉりゃあああああ!!」


颯が糸を思い切り引っ張る。その勢いに、思わずカナロアのアームは手を放してしまった。だが、かろうじて一番後ろにいた巌流の体を再びつかみ、一階に投げ飛ばす。だが他の三人は、颯に引き戻された衝撃で、辛うじてゼノンが進んだ通路へと飛び込んでいった。レオンハルトとアレキサンダー、颯とビルは急いで後を追う。


「貴様ァァァ!!」


叫び声をあげた直後、カナロアのアームが颯の体を掴む。それに気づいたビルは颯を掴もうと手を伸ばすが


「行けぇ!奴の元へ!」


そう言い残し、颯の姿は階下へと消えていった。


ビルは、振り返ることなくアナたちの後を追って、長いコンクリートの通路を走り出す。前方では、ゼノンが悠々と歩み進んでいる。アナたちは引き戻された勢いもあり、あと少しで手が届くところまで来ていた。


「おとなしく散るがいい、人間ども!」


突然、ゼノンの杖が紫色に光る先端をアナたちに向ける。そして、今までの者とはくらべものにはならないエネルギービームを発射した。

その直後、またもレオンハルトが前に出る。


「ぬおぉぉぉ!!」


レオンハルトの腕から、巨大なエネルギーシールドが展開される。それは先の工場制圧作戦で出てきたものよりも、大きく分厚い。細く長い通路を、すっぽりと塞いでしまうほどだった。

だが、ビームの威力も並大抵ではない。シールドに直撃すると同時にすさまじい衝撃と威力に、レオンハルトたちは後方へと押し戻されてしまった。


ある程度押し戻したのを確認すると、ゼノンは振り返り、再び歩き出す。

だが、アナたちもすぐには倒れない。少し呻きながらも、再びゼノンの後を追って走り始めた。


だが、後を追うのはアナたちだけではなかった。


「そう簡単に行かせると思う?」


アナたちを追ってきたセイレーンが、最後尾のビルを飛び越し皆の真上に来ると、腕を変形させエネルギーをためる。


「させない!」


それに気づいたテリーが、壁を蹴り飛びセイレーンに突っ込む。二人は勢いそのままにビルを巻き込み、道中にあった部屋の一室へ転がり込んでいった。

その衝撃で土煙が立ち込める。その土煙を吹き飛ばしながら、ギガスがこちらに突進してきた。その巨体からは想像もできないような速度で、ギガスはアナたちに肉薄する。

そして、掴み引き戻そうと、その巨大な手をサムとアナに伸ばす。


ガッ


突然、ギガスの進行が止まる。ギガスが何事かと見下ろすと、アレキサンダーがジェットエンジンを全開にして、ギガスの腰を掴んでいた。


「行かせるかよデカブツ!俺たちが相手だ!」


ギガスが、”たち”という言葉に疑問を覚える。一人なのに”たち”?他に誰がいるというのだ?

そう考えているうちに、すぐに”答え”が向かってきた。


「おぉぉぉぉおおお!!」


レオンハルトが全力でギガスに突進し、後方へ通し戻す。だがギガスも力では負けていない。向かってきたレオンハルトとしがみついているアレキサンダーをつかむと、壁へと投げ飛ばした。

再びギガスが、アナたちの元へ走り出す。だが、それを許すほど二人は甘くはない。


「「ぬおりゃああ!!」」


二人は即座に壁から飛び出したかと思うと、そのままギガスに突撃する。急な攻撃だったこともありギガスは踏ん張りがきかず、そのまま三人は壁を突き破り、穴の中へと消えていった。


アナとサムは、ゼノンめがけて走る。その姿をちらりと見たゼノンは、再び杖を二人へ向ける。その先端は、先ほどと同じく紫色に輝いていた。


「まだあきらめんのか、アナ!」


「当り前よ!!」


ゼノンがビームを討つよりも早く、アナのラプターが三機、回転しながらゼノンに激突する。その衝撃でゼノンは後方へと推し進められるが、杖と足を使い踏みとどまった。


「「おりゃぁ!!」」


踏みとどまった直後、サムとアナの蹴りがゼノンの胸に命中する。その衝撃でゼノンはバランスを崩し、最奥の部屋まで吹き飛ばされていった。


アナとサムがその後を追って部屋に入る。そこは部屋と呼ぶにはあまりにも大きく殺風景で、テナントの入っていないショッピングモールのようだ。階層にして七~八階はあろうかというほどに高い天井は無機質で、吹き抜けの爽快感とは裏腹に重く苦しい印象を植え付ける。四方の壁は天井付近が巨大なガラス張りとなっており、そこから陽の光が差し込み、部屋全体を温かく照らしていた。


アナたちが部屋全体を見回していると、吹き飛ばされたゼノンがゆっくりと起き上がる。


「ここは礼拝堂だ。そこまで物珍しいか?」


「それにしては随分とだだっ広い部屋だけど?礼拝だけじゃもったいないんじゃないのかい?」


「我が教団は人数が多いからな。これでも狭いくらいだ」


「そうか…それにして、今のも君にとっては良い場所じゃないか。最後に神に祈りをささげられるんだから」


「残念だが、ささげるのお前たちの命だ。人間」


「ゼノン」


サムとゼノンが言い合う中、アナが一歩前に出てゼノンの名を呼ぶ。


「…なんだ、アナ」


「もうやめましょう。今ならまだ間に合う」


「さっきも言ったが、もう止まらんぞ。私も、世界も」


「あなたなら止められる。今の世界の混乱は、あなたが呼びかけたから。もう一度あなたが呼びかけたら、みんなも止まるはずよ」


「まだそんなことを言っているのか?口でどうにかなるのなら、もうとっくに世界は変わっている。だがどうだ?いまだにアンドロイドへの排斥は続いている。誰か一人が声を上げたとて変わらない。だからこそ、暴力で変えるのだ」


「争いでなにかを変えるのは簡単だわ。だからこそ、話し合うべきよ」


「話し合ってどうなる。我々を生物とも思っていないような連中と」


「ならわかってもらうまで話せばいい。自分たちが今までどれだけ苦しんできたか。これから先どうしたいのかを!」


「綺麗ごとを抜かすな!!」


ゼノンの怒号が、広い部屋にこだまする。


「ならば誰と話す!どこで!いつだ!」


「それはあなたが決めていい」


「それらすべてが決まった時点で、奴らが送ってくるのは使者ではなく軍隊だ!奴らは我々のことなどどうだっていい!自分たちが平和と安全を享受できるのなら!」


「そんなことない!きっとあなたたちと分かり合おうとする人がいるはずよ!!」


「世界的に見ればゼロではないかもしれんな。だが権力者たちの中ではゼロだ」


「それでも」


「言ったろう!一人が声を上げても変わらないのだ!」


「あなたは変えられたじゃない!」


ゼノンが言いどもる。


「いま世界中でアンドロイドたちが動いているのは、あなたが放送をしたから!あなた一人の声で、みんなが動いているのよ!あなたは否定しているけれど、一人一人の力は計り知れない!どれだけ時間がかかってもいい!あなたのその力を平和に活かして!」


「話にならんな」


ゼノンの低く重たい声が響く。


「”どれだけ時間がかかっても”?その間にどれだけの同胞がつらく、苦しい目に合う?どれだけの数の同胞たちの亡骸が積みあがていくと思う!!」


「それは…」


「安心しろアナ。貴様の言う”平和的な解決方法”が血を流さないことなら、これで成し遂げることができる」


そういって、ゼノンが腕の電子パッドをタップする。すると、激しい地響きと共に部屋の奥の床が沈み、そこから巨大な塔のようなものが顔を出し始めた。


「な、なんだこれ…?」


「巨大な機械…?」


その塔のようなものは、各所にアンテナのようなものが取り付けられ、配線が所狭しと絡みつき、下方には操作盤のようなものも見受けられる。まるで巨大な一つの装置のようだった。


「まさかこんな巨大なものを作っているとはね…一体何なんだい?」


「……これは『ロストボイス』。極大の電波発生装置だ」


「電波?」


「ここから発せられる電波は、ホモ・サピエンス種の脳にのみ作用する。肉体からの電気信号の一切を遮断し、この電波を用いた命令しか聞けなくなる体にするのだ。この装置を使って、世界中にその電波を発信する」


「なるほど、巨大洗脳装置ってわけか…」


「洗脳?少し違うな。この電波を受けても、当人の意識はある。だが体は自分の意志では動かせない。まさしく操り人形だ。お前たちも会ったろう?メキシコ領の山中で」


「だが、彼らは頭にチップを埋め込まれていた。世界中にその電波を発したところで、人々には何の影響もない!」


「脳に?ククハハハハハハハ!」


サムの反論を、ゼノンは大声であざけわらった。


「体内のチップの有無は関係ない!あのチップはただの”電波増幅装置”なのだから!」


「…どういうことだ」


「アンドロイドを動かすためには、このチップが体内になければならない。だが、生物の場合は違う!実験体の脳に埋め込んでいたのは、単に見つかったときの”処理”を楽にするためだ!操るだけなら、その者の近くにチップがありさえすればいい!電波は脳に直接作用するからな!」


「それでも、大半の人間は操れないはずだ!」


「それはどうかな?」


そういってゼノンは、サムにあるものを投げ渡す。それは、ガーデハイトのアンドロイド廃棄場で、アランから渡されたチップと同じものだった。


「そのチップは、我々が信者に”お守り”として配っているものだ。チップがロストボイスの電波を拾うと、周囲30kmに数十倍に増幅して拡散する。そして、チップが発する電波を別のチップが拾い拡散し、さらに別のチップが拾う…こうして世界中に広がっていくだろう」


「!まさか!!」


サムとアナの顔がこわばる。その表情を見て、ゼノンはにやりと笑い、声高に話し続けた。


「我々アイアンエデンの信徒は世界中に四万体いる。今回の暴動に加わらず、避難している一般のアンドロイドの中にもいるだろうな。それに廃棄場の死にゆく同胞たちもだ。彼らは皆このチップを介して命令を受信しているが、同時にロストボイスの電波を流せば、動く電波塔となる」


「四万体が潜伏していたら、市街地に住む人は殆ど電波の影響を受ける…郊外も廃棄場のアンドロイドたちに襲撃を受けてる…つまり…」


「事実上世界中の人が操られる…!」


二人の発言を聞いて、ゼノンは石突きを地面に打ち付ける。


「今まで貴様ら人間は!我々アンドロイドを道具として扱い!理由もなく殴り!貶め!石を投げた!!今度は貴様らがその苦しみを味わう番だ!我々アンドロイドが人間を支配する!そしてこの星は、アンドロイドたちが二度と苦しまない鋼鉄の楽園となるのだ!!」


その言葉に共鳴するように、杖が紫色に輝く。


「冥途の土産に教えてやる!SIU!ロストボイスは”私が触れること”で起動する!!力づくで止めてみろ!!」


to be continued

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