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ガンズオブスプリンターズ  作者: サラマンドラ松本
第二章 機械仕掛けの夢
20/27

相容れぬ思い

サムたちが到着する少し前 アナがいなくなってから数分後


「だめだ…どこを探してもいない…」


息を切らしながら、サムはつぶやく。アナの不在が発覚してからというもの、SIUの面々は全力で工場周囲を捜索するも、一切の足取りを掴めないでいた。


「アナ…どこに行ったんだろ…」


「すまない…近くにいながら目を話していた我の責任だ…」


「気を落とすな二人とも。今ビルと颯が帰ってくる。いい報告を期待しよう」


巌流がレオンハルトとテリーをなだめた直後、ビルと颯がバトルホークに帰還する。皆は期待を秘めた視線を向けるが、帰ってきた答えは望むものではなかった。


「ホントにどこ行った…?まさか新手にさらわれたのか!?」


「さらって何の意味がある。仮にさらわれたとしても、なにがしか痕跡があるはずだ。何もないというのは…」


「もし彼女が自分からいなくなったとしたら?」


ビルと巌流が話していると、それを遮るように颯が言葉を発する。それにつられて皆が颯を見ると、彼はスマホ大の端末を見ながら、座席に座っていた。


「?何の端末だ?それ」


「僕が彼女につけた発信機の信号をたどるやつだよ」


「発信機!?そんなものいつの間に着けたんだ!!」


「そう怒らないでよサム。この後敵方と接触があってもいいように、さっき着けたのさ」


「さっき…あぁ、合流したときか…」


皆が驚愕する中、颯は端末をしまうと、バトルホークからゆっくりと歩み出る。


「それより急ごう。彼女はここから北に12kmの地点にいる。恐らく、ゼノンと一緒に」



現在



(右腕が痛む…頭にも鋭い痛み…何か突き刺さったか…)


気を抜けば今にも倒れてしまいそうなほどの激痛が、ゼノンの体を駆け巡る。眼前に立ちふさがる侍は、絶え間なく剣技を見舞ってくる。左腕でいなしてはいるものの、散漫とした意識では限界があった。


(胸のコアも露出寸前…ここは一度撤退を…)


「破天一刀流 大時雨(おおしぐれ)!」


ついに巌流の一撃が、ゼノンの左腕に深い傷を負わせる。ゼノンもさすがにまずいと感じたか、指の関節から紫のビームを発射し、周囲を薙ぎ払って間合いを作る。


(ぐぅっ…以前戦った時よりも固い…)


とっさに飛びのいた巌流は、自身の手に残る感触から、ゼノンの硬度を図っていた。先のハルキンソンでの戦いでは、浅いながらも一撃で傷を負わせることができていた。しかし、今は技を数回直撃させなければ傷すらつかない。


(明らかに前回より強化されている…)


巌流が思考を巡らせつつ、地面に着地したその直後。ゼノンが急速に間合いを詰めてきた。


「!?」


とっさに巌流は刀を構えるが一歩遅く、紫の光をまとった拳をもろに食らってしまった。接触と同時に、紫色の衝撃波が辺りに走る。

巌流の胸部のプレートは粉々に砕け、後方に大きく吹き飛ばされる。あわや地面と激突戦としたその時。


「とぉう!!」


済んでのところで、レオンハルトが巌流をキャッチするが、衝撃を殺しきれず、ジェットを噴射していながら、後方に大きく押し戻された。


「ぬおぉぉぉ!?」


「バトンタッチだよ!お侍さん!」


驚きの声を上げるレオンハルトの肩を踏み台に、颯が入れ替わる形でゼノンの元へ一直線に向かう。


「無策で突撃とは…手負いだからとなめられたものだ…!」


再びゼノンの指間接に光が灯る。しかし、颯はにやりと笑うと、猛進を続けた。


「突撃するさ。なんたって無策じゃないからね!」


突如上空から、ゼノンめがけ銃弾の雨が降り注ぐ。左腕で防ぎながらゼノンが見上げると、サムが両手の銃を連射し、一直線にゼノンへと向かってきていた。ゼノンはサムに標準を合わせ、左腕のエネルギー砲にパワーをためる。

それを見て、サムは突如方向転換。射線外へと即座に退避した。思わず目で追ったゼノンの左腕に、鈍い痛みが走る。ゼノンが視線を向けると、二機のラプターが連結して、手首にまで深く突き刺さっていた。


「ぐぅ…!」


ゼノンは呻きながらラプターを振り払う。これで武装はすべて破壊されてしまった。抗う術はほとんど残されていない。

ゼノンは必死に次の手を思考する。それが行動を遅らせた。


「やああああ!!」


雄たけびと共に、アナがラプターに乗って突進。ラプターの推進力を活かして、顎を蹴り上げた。


「が…」


よろめいたところに、颯がすかさず懐に入り込む。


「如月流糸術 大蜘蛛巣作(おおぐものすづくり)!」


颯の指先から伸びた糸が、ゼノンにからみ巻き付き、雁字搦めに固定する。


「レオン!今!」


「よしわかったぁ!!」


前方から声が響く。颯が飛びのくと、声の主があらわになった。レオンハルトが、目いっぱいの加速をつけて、こちらに突進してきていたのだ。


「くらえぃゼノン!!」


とてつもない勢いで突進してくるレオンハルトが、思い切りハンマーを振りかぶる。


「必殺!!バスタぁぁぁぁ!スタぁぁぁぁンプ!!」


ドガァァァァン!!


とてつもない轟音が、周囲に響き渡り、衝撃波で舞い上がる土煙が辺りに煙幕を作る。

ゼノンに一撃を浴びせたサムとアナは、空中で行く末を見守っていた。


「どうなったの…?土煙で何も見えない…」


アナは目を細め、土煙を凝視する。


ビュン!!


突然、土煙の中から空中にいるサムとアナめがけ、複数の光弾が飛んでくる。驚きながらも二人は回避するが、絶えず照射される光弾の雨を回避することに専念したため、二人は体勢を崩し地面に激突してしまった。大した高さではなかったためダメージはなかったものの、衝撃でサムのジェットは故障、アナのラプターも足からすっぽ抜けてしまった。


二人は即座に体勢を立て直す。それと同時に巌流と肩を貸すビルとテリーが合流し、腕を変形させ臨戦態勢をとる。


「二人とも大丈夫!?」


「僕たちは大丈夫だ!巌流は?」


「見ての通りだ。立てはするが、激しい動きはもう無理だろう」


「いいや…何のこれしき…!」


よろめきながら、巌流は刀を構える。しかしビルの言う通り、立っているのもやっとという状態である。その手は小刻みに震えていた。


「俺はいい…それよりも…レオンさんだ…!」


皆が改めて土煙に向き直る。


徐々に晴れたことで全容が見え始める。

皆の目に映ったのは、レオンハルトのハンマーを受け止め、拮抗状態を作っている黒いアンドロイド、ギガスの姿だった。


「あいつ!あの時の!」


「ギガス…やはりいたか…みんな!レオンの援護に…」


サムが皆に呼び掛けた直後、再び光弾が降り注ぐ。


「破天一刀流 流石!」


直後、巌流が皆の前に立ち、光弾を全て受け流す。しかし体力の限界か、しのぎ切った直後、その場で膝をついてしまった。


「ぐ…」


「巌流!」


「あら、全弾はじいたの?すこし予想外だったわ」


心配するサムをよそに、ギガスの背後から女性の声が響く。皆が目をやると、ビルのように腕を銃の形に変形させた女性のセイレーンが、ゆっくりと歩み出てきた。


「新手か…?」


「初めましてね、WDOの皆さん。アナちゃんにはもう名乗ったけど改めて。セイレーンって呼んでちょうだい」


そういってセイレーンは、電光掲示板のようなフェイスパーツに映る黄色い四つの目で、ぱちりとウィンクした。

それと同時に、拮抗状態だったレオンハルトが、サムたちの元へ吹き飛ばされる。


「おおっと!」


「レオンさん…大丈夫か…?」


「我は問題ない!それにしてもあ奴、我の攻撃を受けてびくともしなかったぞ…」


「あんたと鍔迫り合いする奴なんて、うちの長官連中しか見たことないぜ…あいつ、相当手練れだぞ」


ビルが警戒していると、ゆっくりとゼノンが立ち上がる。しかしその足取りは、ふらふらと安定していない。あと一撃で倒れる気配だった。


「動くな!全員拘束する!」


「いいや…ここでつかまるわけにはいかん…今回も…去るとしよう」


そう言い放った直後、ゼノンたちの背後に、突如としてまばゆい光が差し込み、大きな穴が開く。その穴の先の風景は、こことはどこか違う場所のようだった。穴が開くとすぐに、セイレーンは「またね~」と手を振ると、穴の中にためらいもなく入っていく。皆は直感的に理解した。あれはワープゲートなのだと。

やはり特殊部隊というべきか。気づいた彼らの反応は早かった。


「いかせない!」


即座にビルが腕を変形、ゼノンに照準を合わせる。それよりも早くテリーがゼノンにとびかかった。だがギガスがそれよりもさらに早く二人の間に立ちふさがり、テリーの爪撃を腕で受けると、体を掴みビルめがけて投げ飛ばした。二人は回避が間に合わず、直撃。お互いダウンしてしまう。

サムと颯、レオンハルトが一気に距離を詰めようと突撃するが、ギガスの腕のアーマーが変化。銃のような形になった腕を地面に差し込み、前面に衝撃波を発生。すさまじい威力に、三人はえぐれた地面の破片もろとも吹き飛ばされた。

脅威がなくなったと判断し、ギガスが後ろを向いた直後。鬼気迫る表情で、巌流が切りかかる。しかし、穴の奥からカナロアが出現。二本のビームが照射され、巌流に命中。そのまま気を失ってしまった。


全員が倒れ、阻むものはいなくなった。ギガスに背中を任せ、ゼノンがゆっくりと光の穴に足を踏み入れる。


ガァン!!


突然背後で金属音が響く。ゼノンが振り返ると、アナがラプターに乗ってこちらに突っ込んできていた。すんでのところでギガスが防御するが、それでもアナは直進を止めない。ついにギガスをすり抜け、ゼノンの眼前まで突っ込んだ。

だがそれ以上進むことはできない。ギガスがアナの脚をつかんで離さないからだ。


お互いの顔は、目と鼻の先。しかしアナが手を伸ばしても、ゼノンにはあと一歩届かなかった。


「ゼノン…!待って!!」


「君が協力してくれないのは…とても残念だ…君がいれば…手荒な真似をすることなく…理想郷が作れただろうに…」


「戦争以外の解決の仕方はきっとある!今からでも遅くない!!話し合いましょう!だからお願い!行かないで!!」


「すまないアナ。現状これ以上の解決法を、私は知らないのだ」


そういってゼノンは壊れた左の手でアナを掴むと、勢いよく穴の外へと投げ飛ばす。地面に滑り倒れたアナは、痛む右手を抑え、ゼノンに相対した。


「アナ…次会う時が最後だ。私は、私の解決法を世界に知らしめる…それが間違っているというのなら…全力で止めにこい。君には唯一…私を否定する権利があるのだから」


ゼノンが言い放った直後、光の穴は消滅。アナの目には、倉庫のさびた鉄の壁面が映るだけであった。


数時間後 WDO本部



「…以上で報告を終わります」


ゼノン一派逃走の数秒後、目覚めたサムたち主導の元、WDOガーデハイト支部隊によって周囲20㎞がくまなく捜索された。しかし手がかりすら見つからず、捜査は中断。サムたちは本部へと帰投し、長官たちに顛末を報告していた。


「ふぅむ…光る穴の中に消えた…か。にわかには信じがたいね。まるでSF映画のワープ装置じゃないか」


「同意見だ。機械大戦終結からワープ装置の研究はされているが、実用化はおろか成功事例すら見つかっていない。脳震盪が原因の幻覚か見間違いじゃないのか?」


「あの場にいた隊員全員が、話してもいないのに同じ幻覚を見るでしょうか?それこそ、私としては信じがたい事象です」


「その意見にも一理ある。それに事実として、手段はどうあれ奴らは逃げおおせた。それは揺るがない事実だ」


「…返す言葉もありません…」


「パーシアス。捜索の結果は?」


「残念ながら成果なしだね。アナの証言にあった大量のアンドロイドも確認できなかったし、以前の尋問で得た情報をもとにほかの拠点にも突入調査をかけたものの、今回の工場と同じくもぬけの殻。リストに出た施設は全て調べ終わった。手がかりも何もない。情報自体がガセだったのか、内通者がいるのか…」


「内通者の線は薄いでしょう。唯一怪しかったアナの潔白が証明されたんですから」


三人が話していると、ハンドラーがいくつかの資料片手に、アナを連れて長官室に入室してきた。


以前颯とボンブが話した内通者説を知ったハンドラーは、今回のアナの独断行動と動けるにもかかわらず目前でゼノンを逃がしたことに不信感を感じ、帰還後即座に身柄を確保。颯の発信機を回収し、各種調査を行っていた。

颯がつけた発信機は、ハルキンソンでビルがレックスに張り付けたモノボールのように、音声も受信できるものだったため、ゼノンとアナの会話は録音されていた。結果、会話内容とアナの音声解析から、内通者ではないということが正式に判明。今しがた検査と隔離を終えたアナは、ハンドラーに連れられ、長官室にやってきたのだった。


「アナ…!平気かい?」


「大丈夫。最初は悲しかったけど、もう疑われないって聞いてほっとしたわ」


「そうか…ごめんよ、つらい思いをさせて」


「いいの。私も疑われるようなことをしちゃったし…」


そういってぎこちなく微笑むアナの頭を、サムは優しくなでる。アナは照れくさそうにしながらも、どこか安心したような顔をしていた。

二人がある程度話し終わったのを見計らい、ハンドラーが「ではそろそろ」という前置きと共に話し始めた。


「今回の調査でアナの潔白が証明されました。同時並行で各職員の素性も洗いましたが、該当者なし。たんにゼノンの対応が我々の想定より速かったと考えるべきでしょう」


「職員の身辺調査に君がここまでかかるとはまた珍しいね。何か他の調べごとでも?」


「ええ。その通りです」


そういってハンドラーは自身の側頭部を軽くタップする。すると、目からプロジェクターのように映像が映し出された。


「これは、ゼノンらアイアンエデン幹部の身元を調査したものですが、詳しくはアナが聞いた通り。ゼノン、カナロア、ギガスの三体は、機械大戦において拠点防衛を主として作られた幹部「ガーディアン」とその直属の配下であるということがわかりました。バックラー達も同様に、ゼノンがガーディアンだったころに率いていた部下であることもわかっています」


「それもまた驚くべき事実だが…君がわざわざ判明した情報を言うということは、付随情報でもわかったのかな?」


「そうですよ…いちいち茶々をいれないでください、まったく…」


にやにやと不敵にほほ笑むパーシアスを横目に、ハンドラーはぶつぶつと愚痴を吐きながら、再び側頭部をタップする。


「これは?」


「これはアテナが戦争終結間際、人類超人連合に対して使用しようと画策した超常兵器の製造計画と、その種類に関する資料です」


そうして映し出された映像には、古いデータ記録と計画書が映っている。そこに映る兵器は、いまだかつて誰も見たことのないような摩訶不思議なものだった。


to be continued

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