立ちはだかる刺客
突如現れた三体のアンドロイドのような何か。それが発する不気味な機械音が当たりに響き渡った。その直後、三体の腕が細長く鋭利な刀のような形状に変化すると同時に、アナたちめがけてとびかかってきた。
「みんな下がれ!」
声を発すると同時に、レオンハルトがジェットを用いて皆をかき分け最前に躍り出ると、左腕を前に構える。すると、腕についていた装置が起動。即座に水色の幕を展開する。アンドロイドたちの腕は水色の幕に突き刺さり、動きが止まる。そのままレオンハルトは思い切り体を回転させ、アンドロイドたちをはじき返した。
その光景を見たアナの目がキラキラと輝く。
「レオンすごい!それなぁに?」
「はっはっは!そうだろう!我専用のエネルギーシールド発生装置『タイタニック』!これを持った我がいる限り、だれの攻撃も通さんぞ!」
レオンハルトが自慢げに話している中、アンドロイドたちはおもむろに立ち上がると、再びアナたちめがけて襲い掛かってくる。
その間にサムは、皆に作戦を伝える。
「颯、工場内に潜入し調査!誰かいれば全員確保してくれ!」
「オッケー!」
「こいつらは二人一組で倒す!レオン、アナを頼む!僕は巌流と、テリーはビルとだ!行くぞ!」
サムの掛け声で皆はそれぞれ固まると、向かってくるアンドロイドたちをそれぞれ迎撃する。
レオンハルトはアナを背中に乗せ、工場へと突進。車両用出入口を突き破り、工場裏へと戦いの場を移した。
巌流はアンドロイドと衝突した衝撃で、共に壁を突き破り工場内へ。サムも後を追った。
残るはビルとテリー。二人はその場で戦闘態勢をとった。
「ちゃっちゃと終わらせようぜ!テリー!援護は任せろ!」
「頼んだよ!」
そういいつつ、テリーは手を後ろに回すと大きくかがむ。その直後、疾風のごとき速さでアンドロイドへ猛進。振り下ろすアンドロイドの両手を、持ち前の鋭い爪で切り落とした。
すかさずビルはハンドガンを発砲、着弾したスタン弾から高圧の電流が絶え間なく流れる。
だが
あのゼノンをも苦しめたほどの電流をものともせず、アンドロイドは立ち上がる。と同時に、切り落とされた腕の付け根が管状に変化。そのままアンドロイドの切り落とされた場所に絡みつきくっつくと、何事もなかったかのように動き出し、ビルに向き直った。
「再生した!?」
「ならもう一回切り落とす!」
驚くビルをよそにテリーは踵を返し、再びアンドロイドへとびかかる。だがアンドロイドは即座に反応、左腕でテリーの爪を受け止めた。
「同じ手はくらってくれないか…!でも!」
テリーの腕に力が入る。そのままアンドロイドを地面すれすれまで押し込んだ。
「狼の力はこんなものじゃないよ!」
しかし、突如としてアンドロイドの腕が筋肉質に変化、膨張し始めた。それに比例してテリーも徐々に力負けし、地面すれすれまで追い込まれる。そしてアンドロイドの右腕が槍のように変化。そのままテリーの頭めがけて先端を向かわせた。
刃が眉間まで達しようかというその時
ドギュン!!
すさまじい発砲音と同時に、アンドロイドの右肩がえぐれる。その衝撃で右腕が大きくぶれ、地面へと突き刺さった。
テリーがアンドロイドの隙間から見ると、銃のように変形させたビルの右腕が硝煙を上げていた。
「テリー!そのまま伏せてろ!」
ビルの叫び声に反応しアンドロイドが振り返った直後、ビルは続けざまに五発発砲。銃弾はアンドロイドの左腕、右わき腹、胸へ三発着弾し、体勢を崩させた。
「おりぁぁぁぁ!!」
この機を逃さずテリーは体勢を立て直し、装甲の薄くなったアンドロイドの胸に両手を突き刺すと、アンドロイドを引き裂こうと力を籠める。
次第にアンドロイドの体はぶちぶちと音を立てると、「バツンッ!」とはじけるような音と共に二つに分かれ、地面にゴロリと転がった。
アンドロイドを倒し緊張が解けたテリーは、深いため息と共に地面に座り込む。
「あぶなかったぁ~…ありがとうビル、恩に着るよ」
「感謝はありがたいが、まだ終わっちゃいねぇぞ」
「え?」
ビルは右腕を銃の形から戻しつつ、二つに分かれたアンドロイドの残骸に顎をクイッと動かし、テリーに見るように促す。そのままテリーが目をやると、先ほど引き裂いた体の片側…頭部がついている左半身がうねうねと体の管を蠢かせていた。
「うわっ!まだ動くのこいつ!?」
「安心しろ、こういう奴の定石はだな…」
言葉が言い終わる前に、ビルは左腕を変形させ弾を三発、頭部めがけて発射する。
「頭を壊せば止まるもんだ」
全弾命中したアンドロイドの頭部は完全に破壊、同時に蠢いていた管たちも機能を停止した。
ビルは銃口から立ち上る煙をふっと吹き消すと、再び腕の形状に戻してテリーに差し出す。テリーもその腕につかまるとぐっと体制を起こし、パンパンと体についた土ぼこりを払った。
「まずは一機か。残り二機…テリー、お前どっち行く?」
「僕はレオンのほうに行くよ。室内じゃ動きにくしね」
「OK。そんじゃ、援護と行きますか!」
そういって二人は軽くストレッチすると、各々他メンバーが向かった方角へと走っていった。
同刻 工場内部 作業エリア
「破天一刀流 風車!」
巌流の回転する横なぎの連撃が、アンドロイドの胴を四つに切る。しかし、切断直後に肉体の管はたがいに絡みつき何事もなかったかのようにくっつくと、再び攻撃を始める。アンドロイドの蹴りが巌流に直撃、機材をなぎ倒して後方へと吹き飛ばした。
巌流と入れ替わる形で、サムが空中から両手に構えた銃を連射。全弾狂いなく命中するものの、アンドロイドは手で軽く防ぎ終わる。大したダメージにはならないようだ
一度後方で体勢を立て直す二人。先ほど工場内に吹き飛ばされてからというもの、攻撃の一切が致命傷にならず苦戦していた。
「困ったな…僕らの攻撃を意にも介さないね」
「まったくだ。恐らく頭が弱点なんだろうが、動きが速くて当てづらいうえに防御も欠かさない。厄介な相手だ」
「どうする?あっちも僕らの攻撃に慣れてきたのか、同じ手が通用しなくなってきてる。早めに決着をつけないと…っと!!」
サムの言葉が言い終わるのを待たずして、アンドロイドは壁を高速で這い二人に近づくと、勢いよくサムにとびかかる。サムはとっさに空中で身をひるがえし攻撃をよけるが、アンドロイドも腕の管を伸ばしサムの脚に巻き付けると、巌流を薙ぎ払い勢いそのまま地面へとたたきつけた。
とっさに受け身をとったとはいえ、地面にくぼみができるほどの威力。サムは即座に動けずにいた。
アンドロイドは腕を再び剣上に変え、サムの喉笛めがけてとびかかる。
しかし剣は届かない。
「ごめん、遅れた!」
突如聞こえた声に反応しサムが目を開けると、眼前まで迫るアンドロイドが糸にからめとられ動きを止めていた。
そのアンドロイドの背後の壁。ぴったりとヤモリのように張り付き、懸命に糸を動かしてアンドロイドの動いを止めている颯の姿があった。
その隙を逃さず、サムはジェットを起動し体勢を立て直した。
「颯!」
「少し早すぎやしないか?すべて見て回ったのか?」
「すべて見たけど誰もいない!この工場はもぬけの殻だ!それも数日前からね!気になるなら自分で見てみるといいさ、巌流!」
三人が話している間に、アンドロイドは颯の拘束から逃れつつあった。それを見た颯は、二人に手短に状況を伝える。
「サム!テリーたちはこいつを無力化!アナたちはまだだ!援護に行ってあげてくれ!」
「わかった!頼んだよ、二人とも!」
「「応!!」」
二人の返事を聞いて、サムはアナたちを援護すべく外へと向かっていった。
サムが見えなくなると同時にアンドロイドは、自身を捕縛していた糸から完全に脱出。新たに参戦した颯に向かって三度とびかかってきた。
「巌流!」
「言われずとも!!破天一刀流 滝昇!」
颯が声を上げた刹那、巌流が横から切り上げの一撃を放ちアンドロイドの腕を切断、攻撃までの一瞬の間を生み出す。その機逃さずと颯は跳躍。再生を始めようとしていたアンドロイドの切断された腕を左右同時に蹴り飛ばすと、勢いそのまま体制を変え、頭部に後ろ蹴りをお見舞いした。
そのままアンドロイドは頭から壁に勢いよく激突、ずりずりと地面にずり落ちると、ピクリとも動かなくなった。それを見て二人は安どのため息をつく。
「ふぅ…やっぱり戦うのは慣れないね。どこかのお侍さんと違って」
「お前は少し貧弱すぎだ。帰ったら稽古をつけてやる」
「僕と君とじゃ業務が違うの。体力バカの考えを押し付けないでくれる?」
「お前な…」
だがそんな二人を影が覆う。壁に打ち付けられたアンドロイドが再び目覚め、背後からとびかかってきていたのだ。
だが
「「それはもう見飽きた」」
二人が同時に同じ言葉を口にする。その瞬間、またもアンドロイドの動きが止まる。颯が事前に糸を巻き付けていたようだ。だが二度も同じ手はくらうまいと、アンドロイドは先ほどよりもスムーズに体を動かす。
アンドロイドの右腕が縄から抜けたその時。
突如、アンドロイドを縛り上げている縄が赤く光り始める。アンドロイドの動きが一瞬止まると縄はさらにきつく締まり、体に触れる。途端に「ジュウウウウウ」という何かを焼き溶かすような音がし始めた。慌てるアンドロイドをよそに冷静な颯は、くるりと後ろを振り返りながらアンドロイドと目を合わせた。
「言い忘れてたんだけどさ。僕の縄って”ニクロム”が混ざってるんだよね。通常のよりもはるかに強力なやつ。ニクロムって電気抵抗が高いからさ、こうやって電気を流すと超高熱になるんだよ」
そう言いながら颯は、体から伸びる自身の糸を見せる。その一番先には、小型のバッテリーにつながれた糸が二本、赤熱しながら伸びていた。
徐々にアンドロイドの体に赤熱した糸が食い込む。外そうともがくほど、奥深くへと。
それを見て颯は特殊なグローブをはめて糸を握りアンドロイドに向き直ると、軽くウィンクをして、再びアンドロイドに背を向け、糸を力の限り引いた。
「如月流糸術 熱糸炎斬!」
とたんにアンドロイドの体はバラバラになる。その破片の傷口全てが熱で焼け解け、再生を阻害していた。しかし頭はまだ残っている。アンドロイドは頭にまだ動く胴を集め首下から剣上に変化。刺し違えてでも颯を打ち取らんとしていた。
「破天一刀流 王鹿突!」
それを巌流は見逃さない。横からの鋭い一突きで、アンドロイドの頭を貫いた。
頭が破壊されたことでアンドロイドは完全に機能を停止。貫かれた頭の前面に灯っていた不気味な黄色い光は消え、うぞうぞと動いていた破片の管たちも動きを停止し、ぼとぼとと力なく落下するのだった。
アンドロイドを焼き切った糸は、ピンと張りつめたかと思うと、すさまじい速度で颯の指先へと戻っていった。颯は手を何度かグパグパと開閉させながら巌流に近づく。
「まったく…いっつもおいしいところだけ持ってくんだから」
「お前の詰めが甘いだけだ。頭にもを巻き付けていればお前が倒せたんだぞ?」
「体を焼き切っただけいいじゃんか!そっちは頭に当たんないから苦戦してたくせに!」
「奴はとびかかりを多用してた。もう一度来た時に真っ二つにする算段だったのだがな」
「はい負け惜しみ~。ホント素直じゃないよね、巌流って」
「お互い様だろう」
「はぁ!?僕のどこが」
二人が口論をしていると、巌流が吹き飛ばされ壁に空いた穴からビルが腕を銃に変形させた状態で走りこんできた。
「二人とも大丈……夫そうだな。サムはどこ行った?」
「遅かったねビル。サムはアナちゃんたちの援護に行ったよ」
「そうか、よし!じゃあ俺たちもいくぞ!」
「一体相手に大所帯すぎても動きずらいんじゃないか?特にレオンは」
「そりゃまぁそうかもしんねぇが……うるせぇ!とにかく行くぞ!」
そういってビルは再び走り出す。颯と巌流も、やれやれと顔を見合わせ、後を追うのだった。
同刻 工場から2キロ先の荒野
「そうらぁ!」
レオンハルトのハンマーがうなりをあげて振り下ろされる。しかしアンドロイドは危なげなくひらりと避けると、レオンハルトに向けて斬撃を浴びせる。
レオンハルトも背中にいるアナを手で包み守るが、自身には鎧に少し傷がついたのみであり、意に介すこともなかった。
「大丈夫かアナ!」
「うん、大丈夫!」
アナは頭上に飛ばしていたラプターを二機、正確にアンドロイドの両腕に命中させる。衝突の勢いでぐらりと体制を崩したアンドロイドをレオンハルトは見逃さない。すかさず持っていたハンマーを横薙ぎに食らわせ、アンドロイドを吹き飛ばした。
「ようやく一発当たったか……」
「でも決定打じゃない……」
アナの言葉通り、アンドロイドに大したダメージは入っていない。せいぜい体の管が少し細くなった程度だ。
「…レオン、私いいこと思いついた」
そう言うと、アナはレオンハルトの背中からぴょんと飛び降りると、腰からラプターを追加で二機射出、計四機を周囲に漂わせ始めた。
「聞こう」
「私がかく乱するから、その隙に思いっきり叩いて!」
「?それなら我の背中からでも…」
「それだとレオンは私をかばうから全力が出せない。だから…」
「…!まさか!」
「私も囮になる!」
言い終わるのを待たずしてアナはぴょんとジャンプすると、その足元に素早くラプターを入り込ませドッキング、すさまじい速度でアンドロイドへ突っ込んでいった。
「待てアナ!さすがに危険すぎる!」
引き留めようとレオンハルトは手を伸ばすが届かない。
アナは勢いそのままアンドロイドへ突進、今まさにぶつからんとしていた。しかしアンドロイドは即座に反応、機動力であるラプターとアナを”切り離す”べく、足めがけて剣状の腕を横に切り裂こうと腕を振った。
だが、直前でアナはラプターとのドッキングを解除。身体はアンドロイドを飛び越え後ろのほうへと飛んでいく。アンドロイドがそちらに気をとられ、視線がアナを追って背後に向く。そこにはすでに配置されていた別のラプターが二機、アナの着地を待つようにその場にとどまっていた。
「”ぜんぽーふちゅうい”だよ!アンドロイドさん!」
次の瞬間、元々アナが乗っていたラプターがアンドロイドの右肩と左脇腹に激突する。そのままラプターは勢い衰えることなく直進。背後にあった岩に身体ごと突き刺さった。
「レオン!今よ!」
「おぉ!!」
アナに呼び掛けられたレオンのジェットブースターが激しくうなりを上げ、すさまじい炎を吐き出し突っ込んでくる。アンドロイドはよけようともがくが、絶えず食い込んでくるラプターにてこずっていた。
「さぁホームランといこうかぁ!!」
レオンハルトは大きくハンマーを振りかぶる。その瞬間、ハンマーの後部からもジェットが噴射。さらに勢いを増したレオンハルトは、渾身をもってハンマーを振った。
だが
ハンマーが激突する刹那、アンドロイドは自ら頭をもぎ取ると、頭を持っている右手を切断。力の限り投げ飛ばした。腕と頭はそのままアナに勢いよく激突、その衝撃でラプターの制御が聞かなくなったアナは、アンドロイドの頭もろとも工場側へと飛んで行ってしまった。
「アナ!」
レオンハルトのアナを呼ぶ声は、自身のハンマーから鳴るすさまじい破砕音でかき消えたのだった。
ズシャァァァァァ!!
とてつもない速度で、アナは地面と激突する。幸いにも足のラプターを回転させ、逆噴射によってある程度勢いを殺したため大事には至っていないが、即座に動けるほど軽いものでもなかった。
「いたっ…うぅ…」
強打した痛みが全身を駆け巡る。あまりの痛さにアナはその場であおむけになるしかできないでいた。
(そうだ、あのアンドロイド…)
アンドロイドがともに飛ばされてきたのを思い出したアナは、痛みを耐えながら上体を起こす。すると、足元で何やらかさかさと蠢いていた。
アンドロイドの頭部だ。切り落とした右手を再構成し、針のように細い足を形成して体を起こしていた。少しかわいいとも思えるような形状になったアンドロイドを、アナはじっと眺める。すると、突然アンドロイドの頭部がグルンと回転、アナを見るなりかさかさとかなりの速度で近づいてきた。
反撃しようにも体が動かない。ラプターを操作しようとするが、痛みで意識が散ってしまいうまく動かない。アナはぎゅっと目をつぶった。
しかし、いつまでたってもアンドロイドからの攻撃が来ない。
不審に思ったアナがそっと目を開けると、アンドロイドの頭がカチャカチャと変形していた。
アナが観察していると、突如ホログラム映像が小さく空中に投影される。
そこに映っていたのは、他ならぬ捜索中の最重要ターゲット。
アイアンエデン指導者、ゼノンだった。
to be continued




