それぞれの決意
「畜生!!あともう少しだったってのに!」
皆が肩を落として立ち尽くす中、ビルが悔し気に壁を殴りつける。
ゼノン一派逃亡から数分後、ギガスと呼ばれた黒いアンドロイドによる音波の影響が完全になくなったことで、皆は急いで起き上がり奥の部屋へ突入した。しかし部屋は完全にもぬけの殻。数分かけて部屋内をくまなく調べるも、抜け穴や外に脱出できるような通路は見つからず、上空偵察を行っていたWDOのヘリですら、外部に脱出するものは一切見受けられなかった。
「通路もなんも見つからねぇなら一体どこへ消えた?超人ならまだしも、アンドロイドに瞬間移動のような芸当は今の技術では不可能なはずだ」
「でも…あのアンドロイドならそれぐらいやっても驚かないけどね。まぁ私はそんな技術知らないな…オリバーは?」
「私モソノヨウナ技術ハ聞イタコトガアリマセンネ…WDOノデータベースニハナニカアルカモシレマセン」
ビル、アマンダ、オリバーが話し合ってる中、巌流とキッドマンが生き残ったエージェント、エミリーとシドの介抱を行っていた。
「運よく頭と胸は外れたな…よし、簡易処置完了だ。どうだ、具合は」
「ありがとうございます、キッドさん。だいぶ良くなりました…」
「それよりもサトーは!?あいつはどうなんですか!?」
「落ち着けシド。…さっき確認したが、ここで治せるような傷じゃない。それに…本部に戻ったとしても、あの深手ではもう駄目だろう…」
「そんな…」
膝から崩れ落ちるシドの肩に、巌流はそっと手を置き慰める。
「二人がつらいのもわかる。だが、目前で逃したあの子ももっとつらいだろう」
巌流が目線を部屋の隅に向ける。視線の先では、サムがうずくまり泣きじゃくるアナに寄り添っていた。
「ごめんなさい、サム…わたし…捕まえられるチャンスだったのに…」
「いいんだ。あの状況下で僕らは動けなかった。ラプターを飛ばしただけでもすごいことだよ」
「でも…」
「それに奴らの名前はわかった。それだけで大収穫だ。それに、その情報はアナの力で勝ち取れたものだ。十分誇っていいんだよ」
サムが慰めていると、キッドマンが近付きアナの頭をなでる。
「安心しろアナ、今回みたいな乱入は滅多にない。周囲の侵入口を調べて制空権までこちら側だったにもかかわらず乱入してきたのは前代未聞だ。そんな中でここまで動けたうえに情報まで得ることができた。それだけで儲けものだ。初陣にしては大成果だぞ」
二人に励まされ、アナはあふれる涙を腕で拭う。その目は決意とやる気がみなぎっていた。
アナが決意を固めた瞬間。教会上部から通信が入った。
「こちら包囲部隊。サムさん、聞こえますか」
「?どうした?」
「この宗教の信者と思しきアンドロイドを一人保護しました。話がしたいそうです」
「なんだって!?」
数時間後 WDO本部
SIUメンバーとエージェントたちは信者と思われるアンドロイド、そしてジェリーとサトーの遺体とバックラー達の残骸と共に本部に帰還した。
アンドロイドは尋問室へ、巌流とビルも念のため診察室へと移送、シドとエミリーは治療室へと搬送された。アマンダとオリバーは、バックラーの残骸を調べるため研究室へ、その他のメンバーはSIU待機室へと帰還、それぞれが疲れをいやしていた。サムを除いて…
同刻 同所 長官室
「今回の作戦による死者は二名、エージェントジェリーとエージェントサトーです」
「そうでしたか…彼らはまだ若かった。残念です…」
「相当の手練れがいたと見えるね。やはり普通の宗教組織ではないようだ…」
肩を落とすハンドラーを横目に、パーシアスは自身の考察を述べる。
「身柄のほどは?」
「協力者の一人を除いて、教団幹部並びに信者たちは全員が忽然と姿を消してしまい、身柄の確保には至りませんでした。現在も周囲を捜索中です」
「ほかに何か情報は」
源一郎の言葉を聞き、サムはハンドパットを押す。すると、壁面にオリバーがボディカメラの映像をもとに編集した映像が映し出される。その映像をもとにサムは三長官へ説明を始めた。
ーー現状分かっていることとしては、教団の幹部と教祖と思わしき者たちの名前、教団が保有している戦力の一端です。
教祖と思われる者の名は「ゼノン」。黒と紫を基調としたアーマープレートに身を包んだ推定二メートルほどのアンドロイドで、特殊な杖と腕に内蔵されているビーム兵器を武器としているほか、肉弾戦にも特化しており、遠近共に強力です。今回エージェントジェリーとエージェントサトーを殺害しました。
次に「カナロア」と「ギガス」です。恐らく幹部だと思われます。
カナロアは170cmほどの赤いダイヤの刻印が刻まれた白い仮面をかぶったアンドロイドで、ビームを放つことのできる六本のアームを主な武器としています。今回の集会で神父の役割を担っていました。
ギガスはゼノンよりもすこし大柄で角の生えた黒いモノアイのアンドロイドです。ゼノンよりも強力な装甲を有しており、ペネトレーション弾すらはじき返すほどの硬度を持ちます。そしてその装甲を変形させ妨害や防御を行う…”もっとも信頼のおけるボディーガード”といったところでしょうーー
「ふむ…組織のトップ連中が直々に介入してきたわけか。そこまで重要な何かがあそこにあったのか…?」
「我々が捜索した限りでは、重要と思われるものは確認できませんでした。信者獲得数は、他の拠点を調査していないので何とも言えませんが…」
「それよりも…重要なのはその教団の戦力です。これは本当なのですかサム?」
「はい、ハンドラー長官。奴らは兵隊としてバックラーと呼ばれている”機械大戦時のアンドロイド”を保有しています。オーランド邸襲撃や門番といった雑務でも使用しているところから、恐らく相当な数を所持しているとみていいでしょう」
「しかし、報告のあったアンドロイドは機械大戦時の資料には残っていなかった。確証はあるのか?」
「オリバーとアマンダが現在、バックラーの残骸を調べています。先ほど途中経過が送られてきましたが、『スペックは第四世代とそん色ないものの、基板やその他の器官を見るに第二世代のもので間違いない』そうです」
「ふむ…あの二人が言うのなら間違いはないだろう…ご苦労だった。こちらに情報が入り次第随時連絡する。君達でも、引き続き調査を進めてくれ」
「はい、では失礼します」
サムが一礼し退出しようとすると、ハンドラーが「待ってください」とサムを呼び止めた。
「なんでしょうか?」
「今回の作戦、アナさんを出撃させたそうですね。どうでしたか、彼女は」
「…教団幹部ギガスと教組ゼノンの名を知ることができたのは、アナのおかげです。他にも、私やアマンダの命の危機を救ってくれたのも彼女です」
「そうですか…わかりました、ありがとうございます」
「では失礼します」
サムが去った後、長官たちはけげんな表情で資料を見つめる。
「記録にない大戦のアンドロイドか…二人は何かわかるか?」
「わからないな。そのころのアンドロイドの情報は、アテナが秘匿していたせいで滅多にないからね」
「私も聞いたことはありませんね。あの頃のアンドロイドは、当時の話をあまりしたがらない方が多いので」
「そうか…ならばこちらでも調べてみる必要があるな」
源一郎が真剣なまなざしをしていると、パーシアスがにやにやしながらハンドラーに近寄る。
「そういえばハンドラー。あんなにあの子を毛嫌いしていた割に、もう心配するようになったのかい?」
「彼女の行動を注視しているだけですよ。いつ何時我々に牙をむくか、知れたことではありませんから」
「そうかそうか…フフ」
「何笑ってるんです、パーシアス!」
「別に~?」
言いあう二人を源一郎はそっとなだめる。
「二人とも、じゃれあいはそこらへんにしておけ。これから尋問の結果も来る。しっかりと精査していこう」
同刻 SIU待機室
「戻ったよー…」
「おかえりなさい、サム。任務お疲れさま、大変だったわね」
長官たちへの報告を終え待機室に戻ったサムを、エリザベスは優しくねぎらい、暖かいお茶を手渡す。
「ありがとうエリー。予想外が多くてね、そっちのほうで疲れちゃったよ…」
「休めるうちに休んだほうがいいわ。今回の任務を聞く限り、厄介な案件のようだから。今夜はとびっきり豪華なご飯を作るわね!」
「ありがとう、助かるよ」
意気込んでキッチンへと向かうエリーの後姿を見送ったサムは、ソファーに勢いよく座り込みもらったお茶を一気に飲み干すと、深いため息をついた。
「今回は取り逃がしたくなかったなぁ…」
ぼそりと独り言をつぶやくと待機室のドアが開き、レオンハルトに肩車をされたアナとオリバーが入ってきた。
「あ、おかえりサム」
「やぁ三人とも、ただいま」
「今回の任務、手ひどくやられたそうではないかサム。次は我が出よう!どんな輩も叩き潰してくれる!」
「心強いよレオン」
元気よく胸を叩くレオンハルトを、サムは軽くいなす。そして「そうだ」と区切りを入れつつ、オリバーに先程まで行っていた検査の結果を聞いた。
「オリバー、バックラーの残骸から何かわかったことはあるかい?」
「残骸カラハ、途中経過ノ報告以上ニワカッタコトハアリマセンデシタ。タダ、アノ機体ノ出所ヲ調ベテイタラ、嫌ナコトガワカリマシタ」
「開発元が僕らのなじみの企業だったとか?」
「アアイヤ、結局出所自体ハ未ダ特定デキテハイナインデスガネ。アノアンドロイド達、ドウヤラ巌流サンガ検挙シタカルテルノ警護ヲヤッテイタラシインデスヨ」
「なんだって?」
「ソレデ巌流サンガガーデハイト西部ノWDO支部ニ確認シタトコロ、カルテルノボスガ詳シイコトヲ話シタラシク、ボスイワク「数年前ニ、大柄ノアンドロイドニコノビジネスノ話ヲモチカケラレタ」、ト証言シタラシイデス」
「もしや…カルテルのアンドロイド違法売買自体、勢力拡大のためにあの教団が焚きつけたことだったと…?」
「恐ラク…」
この話を聞き、周りの皆は言葉を失った。
「もしそうなら、教組の言っていた同胞救済もただの客寄せのための文言にすぎない…いよいよ目的がわからなくなってきたな…」
「マァ、詳シイ内情ハアノ信者ノ方カラ聞キ出セルカモシレマセンシ、ソレヲ待ッテ結論ヲ出シマショウ」
オリバーの言葉を聞いたアナが突然、レオンハルトの方から飛び降りオリバーに駆け寄る。
「ねぇオリバー。その人は今どこにいるの?」
「タシカ、第四尋問室デアマンダサントビルサンガ取リ調ベヲシテイルハズデスヨ」
「オリバー。そこまで案内して」
「へ?ソレハ構イマセンガ…」
それを聞いたアナはオリバーのドローンを掴むと、サムとレオンハルトの静止も聞かず、一目散に駆け出して行った。
数分後 WDO尋問室
「よお。どうだ、調子は」
「…あんた、ここの回し者だったんだな」
ビルは教会で唯一身柄を確保することができた協力的な信者、ビルが教会潜入前にわざとぶつかりモノボールを張り付けたアンドロイドを尋問するために、尋問室の椅子に腰かけた。
「まぁな。ここの教祖がなんか企んでそうなんで、調査のために潜入した」
「じゃあ足が悪いってのも嘘か?」
「…悪かったよ。急にぶつかっちまって」
「そこじゃない。騙したことに怒っているんだ」
声を荒げて怒るアンドロイドの言葉を聞き、ビルは机に脚をのせ、天井を見上げた。
「潜入ってものに嘘はつきものさ。そこをいちいち突っかかられちゃ困るな」
尋問下に流れる暗い雰囲気に耐えきれず、ビルはパンと手を叩くと、質問を再開する。
「さて、こんな暗い雰囲気はごめんだ。お互いの為にもとっとと終わらせよう」
そういってビルは体制を整える。
「何故俺たちに協力しようと思った?潜入調査でも命令されたか?」
「違う。集会中の行為を見て、手を伸ばすやつを間違えたと思っただけだ。だが別にあんたたちを信頼してるわけじゃない。そこは勘違いするな」
「そうか…なら、なんで信用してくれないのか教えてくれないか?」
「…決まってるだろ。あんたたちは俺が死にかけてる時に助けてくれなかった。どれだけ助けを求めてもだ。そんな奴らは信用できない」
「そうか。さらに信用を無くすことを言うが、あんたの経歴を勝手に見た。2870年代のセキアテックス社製第四世代アンドロイド「REX5200」…レックスって呼んでも?」
「勝手にしろ」
「オーケイ。あんたは製造されてから17年間、しっかりと市民権を得て生活していた。だが2888年にガーデハイトのカナダ領で行方不明となり、二年後にハルキンソンで目撃された…アンドロイド売買のカルテルにつかまり、その後買われたとみていいな?」
「…」
「無言は肯定と受け取るぞ。じゃあその後のことを話してくれ」
しかし、先ほどまでうつむきながらビルの話を聞いていたレックスは、途端に腕を組み椅子にどっかりと腰かけた。
「断る」
「なに?」
「断るといったんだ。お前らに話す気が失せた。俺を家に帰せ」
「…それはできないな。今回の作戦で唯一の重要参考人だ。悪いが話してもらうまで家には帰せないぞ」
「ならいつまでもここでにらめっこだな」
ビルはあきれた声で問いかける。
「…あんたの行動がわかんねぇな。わざわざつかまって途端にだんまり。妨害行為か?」
「勝手に思ってろ」
レックスの無愛想な態度に、ビルもだんだんイラつきを隠せないでいた。
「あのな。どれだけつらい過去があろうが、お前に同乗してる暇は悪いがねぇんだ。話に来たんなら話してくれ。でなきゃ牢屋行きだぞ」
その言葉を聞いたレックスはじろりとビルをにらみつけ、机に脚をのせた。
「あのなぁ、いい加減に…」
ビルが声を張り上げようとすると、尋問室のドアがゆっくりと開く。おもわず二人がドアに目をやると、ドアの向こうからアナがゆっくりと部屋に入ってきた。
「アナ!?なんでここに…」
「ビル、この人と二人で話したいの。いい?」
「なに?いや、それは許可できな…」
「お願い」
ビルは戸惑いつつ少し考えたが、アナのまっすぐなまなざしに折れ、軽く手を挙げて部屋を退出した。レックスと二人きりになったアナは、先ほどまでビルが座っていた椅子にちょこんと座る。
そんなアナをじろりと見て、レックスは再び悪態をついた。
「今度は子供を連れだして話させる気にしようと?つくづくクズだな」
そんなレックスの悪態を聞いたアナは、目を閉じて深呼吸をすると、そっと口を開けた。
「ねえ、レックスさん。私たちに力を貸してほしいの」
「なぜ」
「あなたがいた宗教が悪いことをしてるかもしれない。それを調べるには、あなたの話が一番の手がかりになるから」
「なぜおまえたちに話さなきゃいけない?そんな義理はない」
「困ってる人たちを助けたいから」
アナの言葉にレックスは反応する。しかし決して良い反応ではなかった。
「…なんだと?困ってる人を助けたいだ?」
「そう。だから…」
「いい加減にしろ!!」
そう言ってレックスは机をひっくり返す。その勢いはすさまじく、勢いのまま壁に激突した金属製の机はとてつもない音を部屋に響かせた。
「綺麗ごとぬかすな!お前らWDOは俺たちが捕まった時に何もしてくれなかった!運よく逃げ出せて助けを求めてもだ!今だって情報を得られそうだから利用しようって魂胆だろ!?それで口を閉ざせば脅迫だ!やってることはカルテルの連中と変わらない!だのに”ほかに困ってる奴がいるから助けてください”だと!?ふざけるのも大概にしろ!!」
レックスは怒りをあらわにし怒号を上げる。怒りゆえか、その手は小刻みに震えていた。
そんな手を、アナはそっと握りしめる。
「なんの真似だ!」
レックスは勢いよく振り払う。それでもまた、アナは手をそっと握った。
「だからなんの!」
「レックス」
レックスはただ一言、自分の名前を呼ばれただけだ。しかし、先ほどまで一切目を合わせる気のなかった彼女の目を、なぜか見たくなった。
思いそのままにアナの目を見る。その目は大粒の涙であふれていたが、なにか芯のあるものを感じた。
レックスがあっけにとられていると、アナが泣きながら話し出す。
「あなたが昔、どんなひどい目にあったのかは私にはわからない。でも、きっと本当につらい目にあって誰にも助けてもらえなかった…それはわかるの」
アナはレックスの手を握りながら近寄る。
「だからこそ、その気持ちを利用されてほしくはない。あなたの感じた痛みは、苦しみは、分かった風に近寄ってくる悪い人たちに利用されていいものじゃないから!」
手を握る力が強くなる。
「あの教団は人身売買を焚きつけた…あなたが感じなくっても良かった苦しみを味合わせて、手を差し伸べるふりをした…あなたの気持ちを利用した奴らは、今もどこかで誰かを苦しませて、その気持ちを利用してる。お願い、私たちのためじゃなくていい。あなたと同じ人たちのために、力を貸して」
さらに握る力は強くなる。
「あなたと同じ苦しみを抱える人たちに、手を伸ばしてあげて…」
アナは手を離し、その場で泣き崩れてしまった。
確かにレックスは市民権を得て生活していた。しかし、アンドロイドとの大規模な戦争が終結してすぐのころということもあり、迫害を常に受け続けていた。
奴隷にされ、どこの者とも知れないものに買われ、終わりの見えない暴力の果てに、聴力を半分失った。
唯一手を差し伸べてくれた教団も、結局は利用するために近づいたと目の前の彼女は語った。なぜか涙を浮かべて。
「…なぜ君は泣いている?」
率直な疑問がレックスの口から漏れた。アナは涙を拭いて答える。
「あなたが…あなたがつらい目にあったから…耳が聞こえなくなるまで暴力されて…そんな仕打ち受けなくてもよかったのに…」
彼女は自分のために泣いている。
それは、レックスにとっては初めての感覚だった。自分の身を案じ、心配し、あまつさえ涙を流すものなど今まで誰もいなかった。
「今日はここまでだ」
ビルが扉を開け、アナを連れだそうと泣きじゃくる彼女の手を優しく掴む。その姿を見て、レックスは彼女の言葉を思い出した。
「アイアンエデン」
不意にレックスがつぶやく。
「…なに?」
「アイアンエデン。教団の名前だ。ガーデハイトはもちろん、世界中に支部があるらしい。ほかにもいくつか知っている…話してもいいか?」
「あ、あぁ。少し待っててくれ、新しい機材を持ってくる」
そういってビルは退室する。再びアナとレックスの二人きりになった尋問室で、アナは問いかける。
「どうして…話してくれるの?」
問われたレックスはアナに近づくと、彼女を優しく抱きしめた後、両肩に手を置いてアナの目を見つめた。
「困ってる誰かに手を伸ばしたくなっただけさ」
数分後
レックスへの尋問は終了。ビルとアマンダ、そしてアナは、協力の例も兼ねてレックスをヘリポートまで送っていた。
「なぁレックス。その…悪かったな。嫌な態度とっちまって」
「いいんだ。尋問のためで、本心でやったわけじゃないんだろ?」
「…ばれてたか」
「”いい警官と悪い警官”。よくある尋問手法だ。それにしても、そんな小さな子がいい警官役なのか?」
「いや、本当はあたしだったんだけど…必要なかったみたいだね」
「なら彼女は…?」
「この子は今回の尋問では一切関わるはずがなかった。なぜか来ちまったが…だからこそ、俺みたいに演技をしたわけじゃない。彼女の言葉はすべて本心だ。それはわかってくれ」
「そうか…」
レックスはアナに目をやる。作戦の疲れか、はたまた泣きつかれか。彼女は眠そうに両の目を手でこすっていた。そうしているうちにヘリポートに到着する。既にレックスを本土まで送り届けるヘリコプターが、プロペラを回転させてレックスの搭乗を待っていた。レックスは三人に軽く会釈すると、ヘリへと足を進めた。
去り際にレックスはアナに話しかける。
「お嬢ちゃん…アナって言ったか。ありがとう、君の気持は忘れない。奴らを倒してくれ。俺みたいなやつを増やさないために」
その言葉を聞いたアナは、しっかりとレックスの目を見つめて「うん!」と力強くうなずいた。
レックスを乗せ飛び立ったヘリを三人は見つめる。レックスから得た情報は、間違いなくアイアンエデン検挙につながる。先の作戦で苦汁を飲まされた面々は、ゼノン確保のため再び動き出すのだった。
時は少しさかのぼり
世界のどこか
「ゼノン様!意識が戻られましたか!」
SIUから逃亡したゼノンは、度重なる電流によって体全体に多大なダメージを受けていた。帰還して早々その場に倒れこんだゼノンをギガスとカナロアは医務室へ搬送。数時間に及ぶ修理の末、ゼノンは再び目を覚ましたのだ。
「ココは…?」
「我々の基地でございます、ゼノン様。ご無事で何よりです」
「心配をカケたな、カナロア。信者たちは?」
「現在広場にて、祈りの最中でございます」
「そうか…」
ゼノンはゆっくりと起き上がり、そばに置いてあった自身の杖を手に取ると、部屋を出て歩き始める。それに追随する形で、カナロアも部屋を後にした。
「しかしよかったのですか?公の場では名を呼ぶことは控えろとおっしゃっていたのに、自ら名前を明かすなんて…」
「ほかの者たちに知らレタのは痛いが、あの子には名乗らねバナらなかったからな」
「例の子供…確かほかの連中から”アナ”と呼ばれていましたね。なぜ彼女にこだわるのです?下等な人間ごとき、皆滅せばいいものを」
その言葉を聞いてゼノンの足が止まる。
「彼女だケは特別だ。あの子は…母様が唯一可愛がっていた子なのだから」
「なんですって!?」
驚くカナロアをよそに、ゼノンは次なる指示を出す。その声に、一切ノイズは混じっていなかった。
「カナロア、おそらくWDOは次の手を打ってくる。早急に各種準備を進めろ。あの子を旗印に真なる楽園を作り上げる。人間など存在しない、鋼鉄の楽園を…」
to be continued




