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第七話 小休止

 場所は二階に移した。一応はふさいだとはいえ、まだゾンビが入ってこなくなると決まったわけじゃないからな。

 改めて考えると、この家の住民にとっては迷惑以外の何物でもないな俺。

「えっと、これ本当に……?」

 二階に来る前に台所から持ってきた食器。その上に並べられた、缶詰の中身やカロリーメイトを見ながら百花ももかさん――川澄百花かわすみももかさんが呆然と聞いてきた。

 やつれた顔立ちはそのままだが、一応は受け答えできるくらいに回復はしたようだ。

「本当に、良いの?」

 具合が悪いと言っていた百菜が、ベッドの上で申し訳なさそうにしている。

 良くはないんだが、まあここまで来て拒否するほど俺も非道じゃない。

「まあ、俺も喰うけどとりあえず三つも開ければそこそこは腹もこなれるっしょ」

 適当に言って、俺はカロリーメイトを一つだけかじる。ポソポソしてるから、好きじゃないんだけどなこれ。

 反面、百花と妹の百菜はそれこそかぶりつく勢いで食べている。彼女たちの名誉を思うと、忘れた方が良さそうな有り様だ。

 あー、まあ俺はまだ多少は持つから少しだけ我慢するか。

 缶詰の桃を最後に一口つまみ、それで一旦、俺は手を止めた。

 さて、そうなるといささか手持ちぶたさだ。

 することがないので、部屋の中を見渡してみる。

 全体的に部屋の色彩は、淡い色で落ち着いているみたいだ。

 窓際にはベッドがあり、足元の方からベランダに出ることができる。

 床の絨毯じゅうたんは軽い感触で、直接座っていてもそんなに違和感がない。間違いなく、学校の教室で寝るよりもいい夢がみられるだろう。

 家具類は、普通なのかな。軽く飾り付けされてて、いわゆるオシャレな感じ。それ以上は見ないでおこう。

「ちょっとベランダに出させてもらうけど、良いか?」

 大した量もないから、すぐに食べ終わるだろうけど見てるだけってのも暇だから、俺はリュックを持って立ち上がって聞く。

「あっ、うん」

 答えた百菜を背後に、俺は窓の鍵を開けた。






 ベランダから一望できる景色は、少なくともいいものじゃなかった。

 まあ、民家の二階だしな。そもそも下に広がる地獄絵図じごくえずがあるかぎり、気持ちのいい展望なんざ望むことはできない。

「あー、あれ鳥元とりもとか?」

 いくつも連なる民家の屋根。その向こうに、青い鳥がガッツポーズをしているエンブレムが見える。

 全国チェーンを展開する大型スーパーだ。確かに、この町で一番の品揃えを誇るのは黒森シュバルツバルトだけど、何も日々の食料品なんかまで、ワザワザ買いに行く人は少ない。

 そう言う、ありきたりな消耗品は当然のようにでっかいスーパーなんかで買うのだ。

 立てこもりされてなければ、あそこで消耗した食料品とか補充できるな。あとで百花さんに聞いてみよう。

「あとは……んー」

 邪魔臭いゾンビばっかだな。

 流石に、町の住民のほとんどがゾンビ化したってことはないと思う。とは言え、この数はいったい何処からいてくるんだか。

 その上、これを突破して人口的にさらにゾンビが居るであろう黒森に行くつもりなんだから正気の沙汰じゃねえな。

 いっそ逃げるかとも思わないでもない。百花さんたちとかと協力して、食料類を確保して立てこもればしばらくは廃退的たいはいてきな生活をできる。

 ふと、倒れこんできた時の柔らかい感触を思い出す。

 ――でかかった。あれはイイものだ。

「いやいや。駄目だろ」

 頭を振って、煩悩を追い出す。ほにゅんとか、そう言う擬音がしそうな感触なんて知らないよ。うん。

 一時の快楽に流されてもいいが、それはそれで先がないのは目に見えてる。まだ諦めるには早過ぎる。

 救助とか来る可能性だって否定できないし。

 そう考え、ふと違和感を覚えた。

「……そういえば、何だって自衛隊が救助に来ないんだ?」

 ゾンビは確かに勝手に増えるし、そうそう簡単に死なないしと個人で相手にするなら脅威きょういではある。

 とはいえ、俺でも対処できる相手と言えばそうだ。銃火器や戦車なんかをもってる自衛隊なら、対処法さえ確立できればどうにでもできるはずだ。

 のに、何時までたっても状況は好転してない。あげく、町を壁で隔離かくりするなんて情報を拾う始末だ。

 あるいは、内外で自衛隊が動けない事情があるのかもしれない。

 例えば、まあよくある自衛隊不要論的な理由。一方で、そう言う面々がこの町への電力供給を止めてない可能性もある。

 もしくは。考えたくないけど、自衛隊でも対処できない化け物がいるか。

 思い出すことがある。ゾンビの発生原因は、深海で発見されたUFOだって噂。

 もしも、だ。これが本当だとして、その中に宇宙人のゾンビがいた場合そいつはどんなやつだ。

 例えば、一体で一軍を倒しきれる化け物だったり、未知の技術で作られた装甲服を着込んでいて、攻撃が効かなかったりするんじゃないだろうか。

 自衛隊はそいつを突破できないか、倒せないから他の町へ通さないように防衛戦を引いていたり。

「……いや、ないない。ない、よな」

 苦笑する。

 でも、俺はその妄想を振り払えなかった。

次回は7月2日の11時にします。

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