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第六話 生存者

 肩で息をする。どうにか群れを突破できたけど、まだ油断はできない。見える位置や、声が聞こえる範囲ではまだゾンビがうろうろとしている。

「――はぁ、はぁ……ちとキツイな」

 汗がだらだらと流れていく。身体は熱くなって、ぐるぐる回った影響か視界が渦を巻いているような気分だ。

 少し、休まないと。

 視線を彷徨さまよわせる。

 民家が幾つか。それとコンビニを含むなんかの店が複数だな。

 コンビニは却下。見るからに荒らされてるし、隠れる場所が少ない。奥まった所で襲われたら逃げ切れない。

 なんかの店は、ありっちゃありだけど大体はシャッターが降りてるあたり立てこもっているか、そもそも営業してなかったか。

 最後に民家。ここは、まあ有りか。当たり外れは確認する暇はないけど。

「ゥゥォォォァギッァァゥォ」

 考えてる暇はないか。

 俺は追いつこうと此方に向かってくるゾンビに背を向けて、まっすぐに入りやすそうな家の窓へ走る。

 今にも息が切れそうだけど、もうひと踏ん張り。

 途中、手頃な大きさの石を拾っておく。鉄パイプがありゃいいんだけど、おいてきちまったからな。

 石で民家の窓を叩き割る。ちょうど、鍵の部分が露出するようにだ。

「っと、上手く行ったか」

 隙間から手を差し込んで、鍵を開ける。

 安全を確認する余裕なんてない。俺は、とっとと窓を横にスライドさせ、足をかけて民家の中へと入った。

 まだダメだ。まだ、休めない。この家の窓は低く、ともすればゾンビが進入する可能性が高い。

 部屋の中を見渡す。

 和室のようだ。調度品は少なく、遮蔽物しゃへいぶつになりそうなものは殆ど無い。

 あれこれと目線を彷徨わせている内に、入ってきた窓の直ぐ側に背の低い本棚があることに気がついた。

「これならッ!」

 そこそこの大きさがある。とりあえず俺が割った窓を塞ぐくらいは、できそうだ。

 綺麗に並べられた本を、乱暴に取り出していく。

 糞ッ、地味に数が多い。

 ガラスが割られた。

 横目で見れば、腕が窓から伸びている。四、いや六になった。最低で三体。

 大丈夫、まだ窓枠にひっかかってる。ここまで来るほどじゃない。でも、数が揃えばゾンビを足場に登ってこられる可能性はある。

 ゾンビが足場を唯一登る方法は、群となったゾンビが折り重なって段差よりも高くなった場合だ。

 そうなるより早く、穴を塞がなくちゃならない。

「良しッ」

 本棚を空にして、適当な所を掴んで高く持ち上げる。そこそこ重いし、バランスも悪いけど十分だ。

 俺はまず、伸びている手に向かって持ち上げた本棚を勢い良く振り下ろした。

「ゥォォォァァグィゥォァアア」

 悲鳴じみたゾンビの声がこだまする。もともと叫んでたけど、今は、そう聞こえた。

 叩きつけた本棚は、今は和室の畳にまたあった。

 嫌な感触が手に残る。

 血がじわりとにじんでいく。

 本棚の下敷きになった腕が、不気味に痙攣けいれんしていた。

「まだ動くか……」

 割れた窓の向こうでは、腕がなくなったり折れたりしたゾンビが、それでもなお止まらずに俺へと向かおうとするのが見えた。

 ゾンビの血が窓を赤く曇らせる。

 肉が、骨が、露出してなおゾンビどもが食欲にまかせて向かってくる。

 おぞましい光景だ。

 ある程度は慣れたと思っていた俺でも、正視に耐えない。

「ッ!」

 本棚を持ち上げて、窓枠に押し込む。横向きでは長さが合わないが斜めにして強引に壁代わりにした。

 腕がまともに動かなくなったゾンビが、幾度も壁を突破しようと本棚や窓を叩く。

 しつこい。

 けど、とりあえずはコレで時間が稼げそうだ。

 念のため、本棚に本を戻して重石にしてから俺は和室を後にした。






「だっ、誰ッ!」

 震える声だった。

 和室を出てすぐ。薄暗い廊下の向こうに、女が一人立っている。

 手には包丁。両手で包むようにして、刃先は女の怯えが伝播でんぱしたように揺れていた。

 見た目二十代にはいるかどうか。

 やつれた顔。服装は、ジーンズにオフホワイトでベストっぽい袖のない服だ。きっちりと止められたボタンの中に、同年代ではお目にかかれそうにないサイズが、収まっている。

 とはいえ、そんな風に下世話な眼を何時までも向けてる余裕はない。下手に刺激すると、そのまま襲いかかってきそうだ。

「あ~、悪い。すぐに出て行くから、道を開けてくれると助かる」

 両手を顔の近くまで挙げて、敵意がないよっと笑ってみせる。

 そりゃあ、どう考えても俺が悪いしね。むしろゾンビを抑えてる時とかこの部屋を出た時にグサーって来なかったことを感謝したいくらいだ。

 そうして睨み合っていると、とうとつに女は包丁を落とした。

「おね、お願い お願いしますッ! 助けて下さい。

 もう三日も、水ばっかりで、百菜ゆなちゃんは具合も悪くなって、それで……それで……。

 おねがい、します。助けてください。

 私の、私なら好きにしていいですから。身体で払えって言うなら、頑張りますから……」

 そうして、すがりつくように俺へと倒れこんできた。

うーん、次は7月1日の12時くらいで

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