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番外編 ヴァルフィッシュマンション

 本編にて主人公たちが行かなかった黒森の居住区、その一角にあるマンションが舞台。

 以下はあらすじ。グロ要素などが本編よりも強めとなっていますので、ご注意ください。


 取り残された七人。彼らは、助けが来るのをひたすらに待っていた。

 しかし、一週間が過ぎても助けは来ない。そうしている間にも、食料は尽きてしまう。


 彼らは生き残るべく、脱出を決意するが……

 悪趣味ではあるが、一見してそれは模様もように見えた。

 クリーム色の壁にランダムに走る赤い線。それは、正確には模様ではない。一日前に、突如として現れたのだから。

 一定のリズムで脈打ち、鼓動こどうを室内に響かせる。その上、今もなお成長をしているかのように数は増えるばかりだ。

 血管。と言っても、過言ではないだろう。成長し、数が増えることを除けば。

 もっとも、室内にいる誰にとってもそれが正確に何であるかを理解しているものは、誰一人としていない。

 室内にいるのは七人その中に、部屋の持ち主はいない。思い思いに逃げまどい、たまたま開いていた部屋に辿り着いたのだ。

 三十階建ての高層マンション――ヴァルフィッシュマンション。

 ザトウクジラをデフォルメしたシンボルを持つここは、周辺でもっとも多く立ち並ぶマンションだ。その十七階に彼らは集まっている。

 ここ、黒森シュバルツバルトの居住地区、ブラウクヴェル。ドイツ語で青い湖を意味する地には、他にも数十棟のマンション、アパート、あるいは一軒家が立ち並ぶ。

 他にも公園地区、商業地区と複数のエリアを持つ黒森の中でもとりわけ、人が集まるのは当然ながら、生活の基盤となる家があるここである。

 彼らはその無数とある中のひとつまみにすぎないが、なにも偶発的に集まったわけでもない。

 部屋の壁からもわかるように、今、この黒森では異質な事件が起こっている。

 理由についてもまた、誰もしらない。ただフィクションの世界では既に使い古された動く死体、いわゆるゾンビが方方ほうぼうから現れ、人々を襲いだしたのだ。

 彼ら、この部屋に集まった七人はただ逃げまどい、たまたま全員が一箇所いっかしょに集まっただけであった。

 そうして、原因がどうであれいずれは来るであろう助けを待つために、彼らはここでまんじりと動かずに数日を過ごしていた。

 だと言うのに、それぞれがあまり親しげな雰囲気は見られない。

 室内をうろうろと落ち着きなく歩く、作業着姿の男。いらいらとした様子を隠そうともせず、ときおり物に当たり散らしているのは、山形英二やまがたえいじ

 四十三歳。このマンションに住み込みで働く作業員だ。

 山形の出した音に驚き、怯えたように身体をすくめたのは若い、高校生ほどの少年。

 彼は、英二の発したそれが自分に向いたものでないとわかると、すぐさま手にした携帯に目線を落とした。

 若本信夫わかもとしのぶと言う。彼は、初日に逃げ込んできてからそのまま家族と連絡を取るべく、こうして携帯を手放さない。

 もっとも、それが誰かに繋がったことは一度も無かったが。

 その近く。苛立たしげに椅子に座るのは男女が三人。

 男が一人。男女が二人、並んで座る。

 久我光博くがみつひろとその妻である梨花りか。二人は三十代を間近に控え、順風満帆じゅんぷうまんぱんの日々を送っていたが、このほどに妻の浮気が発覚。事件のあった日は、その話し合いをすべくこのマンションに集まっていた。

 それはこの場であっても継続けいぞくしているのか、暇があればこうして三人が集まることは多い。

 梨花の隣に座るのは、夫である光博よりもいくらか若い男。二十代後半で、日焼けした肌に金髪に複数のシルバーアクセサリー。

 世間的にチャラ男などと呼ばれる姿をした男の名は、堂島晴彦どうじまはるひこ。ここ、黒森の商業地区で働くショップ店員だ。

 浮気の経緯けいいはどうであれ、まあ住んでいる地区内でことに至ればやがて発覚するのは必然。不幸といえば、その事に思い至らなかった二人の楽観的な思考か。

 ――もっとも、二人は知る由もないことであるが、久我光博も同じ穴のムジナである。世の中が平和であったなら、そこでまた一悶着ひともんちゃくあったであろう。

 そうして最後に、室内にいない二人。老夫婦だ。

 相葉喜一あいばきいちと妻、秋子あきこ。二人はかつて、食堂を夫婦で経営していた。その経験をいかしてか、あるいはこの中で最年長と言う意地か、この避難生活中の食事は彼らが取り持っていた。

 二人の見立てでは、食料の在庫はあと二日分。一日、一食の計算でだ。

 後は、満足に水が使えるなら食塩を溶いた物と水道水で食いつなぐ他にない。

 あるいは、ここを出るか。

 その案は既に皆が周知している。しているが、それだけだ。

 この七人。年齢も、性別もバラバラの七人。

 彼らは一週間を過ごしてなお、連帯感も何も産まずにいた。






「何時になったら助けは来るんだよッ!」

 英二がまた、強くテーブルを叩いた。

 助けを待つ。それは、状況が沈静化する見込みがあるならば最も賢い選択である。

 ゾンビの出現から一週間。

 動きも遅く、ただ近くにいる誰かを襲うゾンビを相手にするならば、近代兵器で武装した自衛隊が負けるはずがない。

 と言うのは、この部屋にいる全員の共通認識であった。それはおおむね間違いでは無かったが、結果はともなっていない。

「そうそう怒りなさるな。まだ一週間しかたってないじゃないか」

 と、喜一。彼はこうして英二をたしなめることが多い。

 が、この日は格別に虫の居所が悪いのか、英二は気にも留めない。

「もう一週間だろうがッ! こんな壁もグチャグチャになりやがるし、飯だってへる一方だ」

「それは、申し訳ないねぇ。ただ、冷蔵庫の中身ももう心もとないんだよ」

「うるせぇッ! そんな事は聞いてねえし、何回も同じことを言うんじゃねえ」

 英二が怒鳴る。

「お前こそ黙れよッ!」

 それに反射的に言い返すのは、テーブルで顔を突き合わせていた晴彦だ。

 話し合いと言うなの非難が一段落したのか、あるいは打ち切りたかったのか。晴彦はテーブルから離れ、わざわざ英二の元へと向かう。

「毎日毎日グダグダと……ッ!」

「お前らこそ、毎日毎日、よくもまぁ飽きないもんだな」

 掴みかかる晴彦をかわしながら、英二がさげすむ。

「うっせぇ! おっさんには関係ないだろッ!」

「ああ関係ないね。関係ないけど、だったら見えるところでやるんじゃねえよ」

「そんな場所がねえくらい、わかるだろが」

「かッ! 惚れた腫れたの何のなら、一階にコジャレたカフェがあるんだ、そこでやれよ」

「馬鹿かおっさん。今、外に出たら死ぬことくらいガキでもわかるぞ」

 外はゾンビだらけだ。マンションのベランダから外を見ても、それはたやすく確認できる。

 英二の言うコジャレたカフェは、個人経営の小さな店だ。趣味でやっているのか、値段はそこそこ外観もそこそこ。客の入りは、少なくとも今は金にならないゾンビが多数。

「そう言ってんだよ、バカが」

 事も無げに、英二が言った。

「てめッ!」

 激昂げきこうし、今度こそ晴彦が英二の胸ぐらを掴む。

 一触即発いっしょくそくはつの事態であっても、英二はへらへらと余裕の笑みを浮かべる。

 あるいは、もう何かを思えるほどの余裕がないのか。

「もうやめてッ!」

 そんな二人に割って入ったのは、おろおろとテーブルから見守っていた梨花だ。

「今、喧嘩しててもしょうがないでしょう」

「それは……」

 梨花が晴彦をたしなめる。その有り様を、英二は変わらずヘラヘラと見守った。

「おいおい、いいのかい奥さん。あっちで旦那が、こわーい顔をしてるぜ」

 ハッと、それで気がついたかのように梨花が後ろを振り返る。

 テーブルでは、一人残された光博がタバコをふかしていた。

「その、あなた……」

「いい。もう分かりきったことだ……ああ、そうだな。分かりきっている」

 タバコの火を消して、光博が立ち上がる。

「そんな事よりも、だ。いい加減に動かないか」

 全員に聞こえるよう、光博が声をあげた。







 光博の提案は一つ。助けを待つのをやめ、外に行こうというものだ。

「ゾンビがいる中、走れってか?」

 英二がバカにしたように笑う。

「そうだ。このままここにいても、飢えて死ぬか殴りあって死ぬかだ」

 光博は英二を、晴彦を、梨花を見てからせせら笑った。

「――なら、逃げたほうがまだ幾分か建設的だ。そうは、思わないか?」

「どーだか。案外、昼にでもひょっこり助けが来るかもしれないじゃん」

 反論したのは晴彦だ。ただ、自分でも信じきれていないのか、そっぽを向いてふてくされた様子である。

「ふん。なら、勝手にしろ」

「あん?」

「残りたいものは残れば良い。何も俺にはお前たちを引率する義務もないからな」

 言って、光博は全員が集まったリビングを抜ける。向かう先は風呂場だ。

 光博の姿が消えてしばらくすると、ガサガサと何かを漁る音が聞こえ始めた。

「……チッ。で、お前らはどうすんだよ」

 しばらく風呂の方を見ていた英二は、毒づきながら周りに話題を振る。

「私らは、残らせてもらおうかね」

「ええ。走ったりなんて、とてもじゃないですができませんから」

 まず答えたのは老夫婦の喜一と秋子だった。

 腰が曲がると言うほどではないが、やはりその老体に激しい運動は不可能と言える。

 彼ら二人は、先んじて決めていたのか驚くほどにすんなりと決めていた。

「……あの、私はいきます」

 おずおずと手を上げたのは梨花だ。

「俺も……」

 晴彦もそれに習う。先の姿勢からは一転してだ。

 つまるところ、子どもじみた反発なのだろう。光博が提案したから難癖をつけはしたものの、その実は彼もそう思っていたようだ。

「おい、ガキ。お前は?」

「ッ! えっ、と……うん。僕も、いきます」

 とうとつに話しかけられたからか、信夫は怯えたように震えてから、辛うじてそれだけを絞り出した。

「そーかい」

「つまり、相葉さんたち以外は行くということか?」

 聞こえていたのか、戻ってきた光博が開口一番にそういった。

 手にはモップが握られている。

「だ、そうだ。で、すぐに行くのか?」

「そのつもりだ――お前たちも、行くなら行くで自分の身を守る準備くらい、したらどうだ」

「わかってるよ。今、やろうとしてたところだ」

「はっ、はいッ!」

 晴彦が舌打ちしながら、信夫が慌てた様子で、動き出した。






 十五分ほどだろう。

 信夫の手には、箒の柄に包丁を縛り付けた簡易の槍がある。

 晴彦は椅子を壊して、その一部を英二と分け合う。

 光博は風呂場で見つけたモップだ。

「……本当に、いいんですね?」

 玄関へと向かう廊下に足を踏み入れて、光博が背後を振り返って問いかける。

「ええ」

「お若い方々と違って、私らはもう老い先も短いですからね」

 この場に不釣り合いなほど、老夫婦はにこやかに笑う。

「そうですか……では」

 光博が先立って脈打つ血管が広がる廊下を進んでいく。

 順々に続き、最後に残った信夫は恐る恐ると振り返り、慌てて頭を下げた。

「あっ、あのっ! ご飯、美味しかったです」

 早口でまくしたてて、信夫は前を行く集団を追った。

「ふふっ。最後に、いい思い出が出来ましたね」

「……最後、か」

 微笑ましく背中を見送る秋子とは対照的に、貴一はむず痒そうに顔をそむける。

 そんな夫の姿を、秋子はまた微笑ましく見守った。

 やがて、二人の遠くなった耳に玄関の扉が閉まる音が届く。

「……それでは、私達も」

「ああ。そうだな」

 夫婦は手を取り合い、ゆっくりとリビングからベランダへと向かう。

 高層ゆえにか、外は風が強かった。

 陽射しは傾きつつある。見える景色でうごめく某は、いずれも人のそれではない。

「少し、寒いですね」

 落下防止のためだろう。ベランダの柵は、腰よりも高い位置にある。

 だが、乗り越えるだけならば椅子が二つあれば事足りた。

「そうだな。ああ、寒い」

 喜一は秋子の肩を抱いた。

 静かに、時間だけが流れる。

 どちらがそれを切り出したのか。それを知るものは、二人の他にない。

 ただ、ゆるりと立ち上がり、柵に手をかける。

「……」

「……」

 どちらにも声はなく。

 目と目で通じ合い、落ちた。

 強風にあおられ、枯れ枝のような体躯が空を舞う。

 これも、一つの決断である。

 生き残るために、命がけで外へ行く大勢と。

 諦観ていかんし、その身を投げ出すのと。

 どちらであっても、今の世の中ではごくごくあり得る決断だ。

 人として生きるか、せめて人らしく死ぬか。その程度の違いしかない。

 ――もっとも。

 どんな決断であっても、タイミングというものがあるのだが。

 空を舞う身体が二つ。そして、空を追う姿が一つ。

「ウワァアァァァァァアァッ!」

 どちらのものかわからない悲鳴が、晴れ渡る空の下に響く。

 それは、触手であった。

 マンションの階下、地面にほど近い位置からそれは伸びている。

 赤い。マンションに走る、亀裂の様な模様とごく同じ色。

 一定のリズムで脈打ち、鼓動を刻む触手。

「――ッ!」

 喜一が手を伸ばし、ぐるぐると廻る視界の中にとらえる長年を連れ添った、妻へと叫ぶ。

 届かない。

 声も、手も。

 しわがれた声で、喉が張り裂けんばかりに誰かが叫び。

 そして。

 外に響き渡るのは、どこかで呻くゾンビのそれだけになった。






 廊下もまた、血管の様な物がアチラコチラに伸びていた。

 ただ、ゾンビの姿はない。ただただ不気味な様子の廊下が続くばかりだ。

「……よし。まず、エレベーターに向かうぞ」

 周囲を覗っていた光博だが、自分たち以外に人の気配がないことを確認してから、周りにそう告げた。

「あん?」

「ここは十七階だぞ。一つ一つ階段を降りていては、日が暮れてしまう」

 光博が馬鹿にしたように言う。

「でも、出口にゾンビがいたら……」

「そうだ。いきなり襲われたら、逃げ場がないじゃないか」

 梨花の言葉に続いて、晴彦が言う。

「なら、途中の階で降りればいいだろう。いくらゾンビがあふれていても、全ての階にいると言うことはないはずだ」

「それを、どう確認するんだよ」

「ふん。扉の前に、障害物を置いて入るのを邪魔してる間に閉めればいいだろう。

 それに、そこの小僧の槍や俺のモップで押し出せるしな」

 びくりと信夫が震えた。

「他の方法があるなら、そうすればイイだろう」

「……わかったよ」

 しぶしぶと言う風に晴彦が同意を示す。

 それから無言のまま、一行はエレベーターに向かって歩き出す。

 最初はおっかなびっくりに。やがて、慣れて来たのか早足で動き出した。

 廊下はそこそこに長いが、それでも走るように動けば数分もしないで端から端まで移動できる。

 一行も例に漏れず、すぐにたどり着くことができた。

 エレベーターは一つ。そのすぐ脇には、上下に続く階段がある。

 扉は周りが血管だらけなのに反し、不気味なことにそのままの色を残していた。

 わずかに緑がかった白色。中を見ることはできない、完全な鉄製のそれには黒森を宣伝するイメージガールのポスターが、笑みを浮かべていた。

 光博が血管を避けるようにして、モップでエレベーターのスイッチを押す。

 二階にあった事を示すライトが消え、三階へと動き始めた。

「よし、まだ動いているみたいだな」

 ライト点滅を繰り返し、一階ずつ登ってくる。

「……大丈夫、ですよね」

「ゾンビがエレベーターを使うわけないだろ。あとはアレで下の階……二階に止まっていたから、そこで降りれば良いだろう」

 一番前にたち、光博が静かに待つ。

 十五、十六……十七。

 ありきたりな音がして、エレベーターがゆっくりと扉を開く。

「――えっ?」

 誰の声であったか。

 手が伸びていた。

 エレベーターの中。明るく光る密室の中から、手が伸びていた。

 長い。異様なほどに。

 関節が複数あった。肘の次に手首でなく、また肘が来る。そう言う形だ。

 例えば人の腕の関節ごとに次々と延長していけば、そうなるだろう。

 いや、実際にそうだ。

 それは人の腕を継ぎ接ぎして延長した物だった。

「あっ、がッ……ッ!」

「あなたッ!」

 梨花が叫ぶ。

 エレベータの中からのびた腕。その先には、当たり前のように手があり、それが光博の頭を掴む。

「うっ、うわぁぁぁぁぁっぁぁッ!」

「おいッ、置いていくなッ!」

 誰かが叫び、複数の足音が階段を駆け下りていく。

「梨花さんッ!」

 晴彦が呆然とする梨花の手を取る。

「待って! あの人がッ!」

「もう間に合わない!」

 戸惑い、その場で二の足を踏む梨花を何とか動かそうと晴彦が叫ぶ。

 そうして。

「ウァォォォォァァオアァウゥォ」

 うめき声が響く。

 頭がある。

 頭がある。

 頭がある。

 頭が、ある。

 合計、四つの頭部がそれぞれ適当な形で胴体らしき部位に付いている。

 腕は頭と同数、四つ。反面に足はない。足があるべき場所は、代わりに手があった。

 這いずるように。

 もしくは、滑るように。

 それはエレベータから出てきた。

「ヒッ……」

 ぎょろりと、無機質な目が動く。

「ウォァァァオアァオアァ」

「ォォアァァアァオアァオ」

「ォゥゥィォオァオアウォ」

「アアアォォゥォァウァオ」

 思い思いに、頭がうめき声を上げる。いや、最早それは鳴くと呼ぶに相応しい。

「なん、だよ……コイツ……」

 ゾンビなどとは似ても似つかない。およそ、人間が作る物とは似ても似つかない、異形。

 知らず、二人は後ずさりした。

「い――ぎっ――た、たすッ!」

 その長い腕に囚われ、宙に足を浮かせた光博が声を震わせながら叫ぶ。

 足が振るえ、手はめちゃくちゃに顔を掴む異形の手を殴る。

「ゥォォァァオアァオアァオォアォァォ」

 異形が声を荒らげる。

 高く、遠くまで響く音。

 頭の一つ。口が大きく、開かれた。

「あっ、あっ、がぁぁぁぁぁぁッ!」

 梨花の顔が赤く染まる。

 光博の肩口から、血が吹き出していた。

 飲み下しているとでも言うのか、異形の喉らしき部位が幾度となく震える。

「――ぃ、ひぃゃァァァァァ」

 狂ったような声をあげ、梨花が階段へ向かって走りだした。

「あっ、待ってッ!」

 晴彦が後を追う。

 残されたのは異形と。

 その手の内でもがく光博だけであった。






 どこをどう走ったか。

 晴彦と梨花は、階段の中腹でようやく足を止めた。表示は『11F』。ずいぶんと降りてきたようだ。

「はっ、はぁ……梨花さん、大丈夫?」

「……」

 晴彦が気遣うように問いかけるが、梨花は荒く呼吸を繰り返したまま動かない。

「ともかく、まずはその顔を拭かないと……」

 ポケットをあさるが、何も出てこない。

「だ~くそッ……適当な部屋に入れっかな」

 晴彦は階段から顔をだし、廊下を見やる。

 無人。間近のエレベータは、未だに上階に留まったままだ。

 安全を確認した晴彦は、未だに立ち尽くして呼吸を繰り返す梨花を引きずるようにして歩く。

「……くそ、駄目か」

 無作為に扉を開こうとするが、どこも開かない。

「そうだ、梨花さん。一旦、梨花さんの家に移動しないか?」

 呆然と立ち尽くす梨花に、晴彦は明るくつげる。

「い、え?」

 梨花が戸惑ったように、言葉をくり返す。

「目的地も決まってませんし、そこに逃げこんで助けを待ちましょう」

 努めて明るく、晴彦が言う。

「そう……そうね……」

 つぶやく。その目は晴彦を見ていない。

「梨花さん?」

 晴彦が不思議に思い、なおも声をかけようとした時。

 電子音が鳴り響いた。

『蛍の光』だ。

 黒森に備え付けられた、定時になると聞こえるメロディ。子供の帰宅を促す曲が、設定された通りの時間にただただ聞こえてくる。

 そのどこか懐かしく、あるいは寂しい音楽に、はたと気がついたように梨花が反応した。

「いけない。そろそろ、あの人が帰ってくる時間だわ」

 梨花が言う。

「ごめんなさい、晴彦くん。今日はここまでにしましょう」

「えっ?」

 理科が晴彦の手を振りほどき、軽く頭を下げて走りだす。

 晴彦は事態がつかめず、その背中を見送ってしまった。

「嘘だろ、おいッ! 梨花さんッ!」

 慌てて晴彦もその背中を追う。

 辛うじて、エレベータを使わない程度には理性が残っていたのか。梨花の身体は階段に消えていく。

「くそっ、どっちだッ!」

 一歩、動くのが遅れた晴彦は消えた梨花の影を探す。

 影すら、階段には見当たらない。ただ反響するように誰かの足音が響いている。

 忙しなく頭を動かし、やがて、それも止めた。

「……クソッ」

 強く廊下を叩く。

 目尻には涙を浮かべ、歯を噛みしめる。

 敗北感が晴彦の胸を占めていた。

 晴彦と梨花の関係は、世間的には到底認められるものではない。それでも、彼は本気であった。

 だが、結局それは届かない。

 梨花は何を思ってか。それとも、夫の末路に狂ったか。

 どちらにせよ、もうここには晴彦の知る梨花はいなかった。






 かつん、かつんと音が響き渡る。

 晴彦が一人、階段を降りていく。

 足取りは重い。気分は暗く沈み、ただ惰性だせいで足を前に出す。

 心ここに在らずと言った有り様だが、それでも、それに気がつくことはできた。

「うわッ!」

 晴彦は思わず、声を張り上げて足を引き戻す。

 電灯と陽射しに照らされるそこは、不可思議な場所であった。

 赤い。

 上階では壁にだけあった血管の様な模様。脈打つそれが、床一面に敷き詰められているのだ。

「なんだ、これ……」

 つま先で突く。肉のような感触が返るだけで、ソレ以上の何かはない。

 壁に手をつき、身体を支えながら下の階へと続く階段を見る。

 赤黒い物は、まだまだ下にも続いているようだ。

「あいつら、ここを通ったのか?」

 先んじて逃げた二人を思い出しながら、晴彦は少し力を入れて血管らしき物を踏む。

 感触は到底、心地の良いものではないのだろう。晴彦は顔を嫌そうに歪めるも、さらに力を込めて踏みつける。

 すると、足がわずかに沈んだ。意外と頑丈なのか、ソレ以上の反応はない。

 通れると確信した晴彦は、覚悟を決めて一歩を踏み出した。

 二歩、三歩。階段に向かい、足を進める。

 先とは別の意味で、足取りは重い。

 歩きにくい上に、倒れないようにと壁に手をつけているが、そこも血管がそこかしこにある。触れないよう、場所を選んでいるせいで一向に進むことがない。

 それでも一歩、また一歩と進み次の階に辿り着く。

 もはや代わり映えのしない、赤い風景。それでも上階と違うところが、一つだけあった。

「――えっ?」

「あら?」

 呆然と、晴彦はその顔を見た。

 梨花は、不思議そうにその顔を見た。

「梨花、さん?」

 先立って見失った、梨花がそこにいたのだ。

 着替えをすませたのだろうか。簡素な色合いのスウェット姿に変わっている。手には財布があり、まるで少しだけ足りないものを近くに買いに行くかのようである。

 あれだけ浴びていた血の後はなく、代わりに髪が湿り気を帯びていた。

「ごっ、ごめんなさい。こんな格好で……」

 梨花は照れたように笑う。何事も、無かったかのように。

 異常な光景であった。

 赤い、血管が脈打つ廊下。

 その中で、買い物に出かけると言ってのける異常性。

「実は明日のパンを切らしてしまったの。これから、急いで買ってくるからあなたは先にお風呂に入ってて」

「えっ?」

 一瞬、梨花が何を言っているのか理解ができなかった。

 買い物に行くと。梨花は、そう言った。

「なに言ってるんだ。外はゾンビだらけなんだぞ」

 晴彦は梨花の肩を掴み、強く揺さぶる。およそ、正気とは思えない言動であったからだ。

 かくり、かくりと抵抗もなく梨花の首が揺れた。

「梨花さん……?」

 反応がない。

 仮に身体を乱暴に扱えば、反射でも抵抗を見せるようなものなのにだ。それもなく、手を止めた今はただどこか遠くを見つめている。

「……ともかく、家に避難しましょう」

 ここにいると言うことは、梨花の家が近くにあるのかと思い、晴彦はそう提案した。

「避難?」

「ええ。ここは危険です。その様子だと、家は無事だったんですよね」

「危険って? 何か事件でもあったの?」

 可笑しな人ねと、梨花が笑う。

(やっぱり様子が変だ)

 胸中きょうちゅうで晴彦は思う。

 そもそも。この廊下の変わり様に疑問を持たず、そのまま買い物に行こうとする事がまずおかしい。

「ともかく、行きますよ。案内してください」

「案内って、あなたの家じゃない」

 くすくすと梨花は笑う。

 それで、晴彦はようやく、違和感の一つに検討をつけた。

「……頼むよ。行こう」

「はいはい。それじゃあ、帰りましょう」

 微笑みを貼り付けたまま、梨花は晴彦に背を向けて歩き始めた。






 信夫と英二は、二人してようやく二階にまで辿り着いた。

 その手に握っていた武器はすでになく、一階一階を、怖がりながら下へと向かっていたのだ。

「げほっ、ごほっ……」

 口元をハンカチで抑え、信夫は階段の途中から顔だけを出して一階を覗く。

 およそ、そこは人の住んでいた場所とは思えなかった。

 ハンカチ越しでもわかる、何かが焼けたような匂い。

 壁面や床は、上階のそれと違って赤茶けた肉質の何かに変わっている。あるいは、血管がよりあつまるとそうなるのだろうか。

 異変は、それだけではない。

 このマンションの出入口は、階段から真っ直ぐ行って左に折れた方向にある。そこにエントランスがあり、出入りは皆がそこで行っていた。

 距離として見れば、五十メートルほどだろうか。走ればたやすい距離ではあるも、足場が悪い。

 加えて、一階にはゾンビがいた。

 いや、ゾンビだけではない。

 エレベーターから現れた、多頭の異形。姿形が同じものは居ないが、五体ほど守衛のように佇んでいる。

「くそ、コレじゃ通れねえぞ」

 英二が毒づく。

 多少の数ならば、避けて走り抜けることもできただろう。だが、そこにいるゾンビは二人の両手を合わせても足りないほどだ。

 これを越えるのは、難しいどころの話ではない。

 打開策が見えない現状に、英二はイライラと階段を上下に行き来する。

「おい、どうすんだよ」

 ジッと、一点を見つめて動かない信夫の肩を掴む。

「ねっ、ねえ……あれ……」

「あん?」

 信夫は振り返らない。代わりに、廊下の一点を指さした。

 そこは異形が二体、並んで建つ場所だ。

 かつては部屋があったところであろうが、今はただポッカリと空洞が口を開けている。

 部屋――と呼べるものがあるかは見えない――からは明りが漏れ、ゾンビの声に混じって何か機械が動くような音がとどろく。

 そうして、不可思議なことに。

 穴からはゾンビが出てくるのだ。

 歩みは遅く、どこを目指しているのかさえもわからない。ただ、ただ、次から次へと止まることなく現れる。

「ゾンビの製造工場でもあるってのかよ」

「わからないけど……アレがあるせいで、脱出はここからじゃ無理です」

 壁から離れ、信夫は階段を昇っていく。

「くそ、振り出しかよ……」

 英二が後を追う。

 先を行く信夫の背中はすぐに見えたのか、急ぎ足をやめてゆっくりと近づく。

「二階から飛び降りるか?」

「出られれば、そうしたいけど……」

 信夫が手を伸ばすと、手が赤い血管に触れた。

 ゴム質の感触があり、力強く反発する。

 それらは壁一面に張り付いて居て、階段の中腹にある窓を覆い尽くしていた。手でどかすことは、無理そうだ。

「四階から上なら、外にも出られると思いますけど……」

「高すぎるな」

 英二が壁を蹴りつける。

 状況に変わりはない。ただ、時間だけが過ぎていく。

「どーでもいいが、早く行こうぜ。こんな場所、何時までもいたくないしよ」

「それは、そうですが……」

 まず上の階に。何をするにせよ、精神的に気分が参りそうに成る景色を見続けるよりはマシだろうと、二人は階段を昇っていく。

 やがて、四階につこうかと言うところで。

「えっ、あなたは……」

 立ちふさがるように、晴彦が立っていた。






 目はうつろ。上着を赤く染めあげ、足取りは不安定。どこかで脱いだのか、靴はなく裸足のまま不気味な床を踏みつける。

「がっ……た……っ……」

 耳から血を流し、晴彦は恐怖に怯えきった目で必死に手を伸ばした。

「なんだよ、おい……」

 英二が足を止め、怯えたように一歩下がり、身代わりにするように信夫を押し出す。

「ぎぃっ……」

 追いすがるように晴彦が進む。

 一歩。そこで膝から崩れ、彼の身体が階段の方へと倒れていく。

「うっ、うわぁあぁッ!」

 半ば反射だったのか、倒れてくる晴彦に向けて身体をかばうように信夫が手を出す。

 結果的に、その身体を信夫は辛うじて支えた。

「だっ、大丈夫、ですか?」

 震える声で、晴彦に声をかける。

 返事はない。

 ただ、晴彦から伝わる体温が生きていることだけを教えていた。

「どう、しましょうか……」

「知るかよ」

 吐き捨てるように言って、英二は先んじて何気なしに廊下を見る。

 そこに、もう一人。

 女だった。

 姿は裸体。場所が場所であれば、十二分に扇情的せんじょうてきな肢体を惜しげも無く晒している。

 振り乱した髪は何かで濡れているのか、固くまとまって肌に張り付いていた。

 梨花だ。

「おい、お前……」

「あら、あなた。どうしたの、そんなところで」

 英二が声をかけようとした瞬間、梨花が明るい声を出す。

 英二を見て、だ。

「あん? 何言ってんだよ、お前は。俺は、お前の旦那なんかじゃねえよ。

 手前てめえのは、ここでぶっ倒れてるやつだろうが」

 階段の影、梨花からは死角になっている方を指さして英二が言う。

「何を言ってるの?

 あなたはあなたじゃない。

 ああ、それとそこにもいるのね。まったく、もう少しで準備ができそうだったのに逃げちゃうんだもの。

 それとも、もしかして本当にあなたも浮気してたのかしら?」

 くすくすと笑う。目はそのまま、英二を捉えて離さない。

 そのまま、梨花は英二へと進んでいく。

「来るなッ、来るんじゃねぇ!」

 どう見ても様子がおかしい。そう判断した英二は、威嚇いかくするように叫ぶ。

 梨花は止まらない。

「くそッ……うん?」

 逃げるように後退りした英二は、ふと何かに気がついたように顔を止めた。

 視線は信夫を、その手の中にいる晴彦を見ている。

「おい、早くそいつを押し出せッ!」

「えっ、でもこんな……ッ!」

「ぁ……ぇえ……」

 何を言われているのかは理解できるのか、晴彦は震える声で何事かをつぶやく。

「いいからやれ――もういい、糞ッ!」

 信夫に走りより、ぐったりとした晴彦の身体を強引に立たせると、押し付けるように梨花へとぶつける。

「そら、お前の旦那だッ!」

「あなた?」

 よろけながらも、梨花は晴彦の身体を抱きとめる。

 愛おしい者を招くように。

 そうして。

「はっ、あっ?」

 はたしてそれは、誰の声であったか。

 破裂した。

 噴出した血が立ち上り、晴彦の衣服を汚していく。

 それは触手であった。

 梨花の口から、耳から生えた触手が晴彦の耳を貫き、うごめく。

「あっ、ぎゃ……」

 抱きとめられた晴彦の身体が痙攣けいれんする。

 びくり、びくりと。

 ぐじゅ、ぐじゅと。

「あ、ひぃやぁあぁぁぁッ!」

 英二が叫び、走りだす。

 何処でも良かった。ただ、この異常な光景から、ただ逃げたかった。






 信夫はただ悲鳴を聞いていた。

 身体は震え、腰が抜けたのか満足に立つこともできない。

 ただ、梨花が晴彦の耳を、もしくはその先にある脳を蹂躙じゅうりんする様を、見守ることしかできないでいた。

 やがて、それも終りが来る。

 触手が勢い良く引きぬかれ、梨花は晴彦の身体を離した。

「あら、あなた?」

 梨花が言う。

 また。夫を呼ぶように、信夫へ。

「ひっ……!」

 引きつった声は、もはやかすれて音にならない。

「どうしたの、そんな所で。ほら、帰りましょう?」

 にこやかに笑う。

 裸になり、赤く染まった上半身をそのままに。

「やっ、やだ……助けてよ、お父さん、お母さん――」

 這うようにして逃げる。助けを求める声は、届かない。

「あなた……?」

 梨花が追う。

 歩みに迷いはなく、不安定な足場でもまっすぐに。

 速度の差は歴然れきぜん

 やがて、信夫の足が梨花に捕まった。

「もう、早く帰りましょう?」

「やだっ、いやだッ!」

 叫ぶ。じたばたと、がむしゃらに身体を動かし、なんとか逃げようと足掻あがく。

 手が壁を掴む。

 汗で滑り、すぐに離れてしまう。

 手が床を掴む。

 伸びていた爪がひっかかり、剥がれた。

 空いた足は、梨花を蹴る。

 それでも、止まらない。

 途中、倒れ伏した晴彦を拾って、梨花は進む。

 その先は、ぽっかりと穴が開いていた。






 走る。がむしゃらに、上へ。

 今、英二が目指しているのはかつて寝泊まりしていたあの部屋だ。

 出るべきでは無かったと、今では胸の奥でただひたすらに発案した光博を罵りながら。

 代わり映えのしない、不可思議な赤い血管に覆われたマンションを英二はただ走る。

「なんだ、これ……」

 不可思議なことに。行けども行けども、視界は赤い。

 うごめく赤い血管はその範囲を急速に広め、かつては真っ当に見えた床も、既に下の階とそう変わらない有り様だ。

 もとより。あの血管の様な模様は、唐突に現れた。それの範囲が広がっていたとしても、なんら不思議はない。

「くそッ、くそッ、くそッ」

 階段を駆け登る。

 あの部屋に戻れば安全だと信じ、疲れで震える身体に鞭打って。

 肺の中に空気はもうない。

 呼吸はただただ荒く、霞む視界は侵食されていくマンションをとらえる。

「がっ、はぁ……はぁ……」

 やがて、足も止まった。

 年が年だ。ここまで走れただけでも、十分であろう。

 しかし。周囲――状況――は、それを許さない。

 侵食は変わらず進む。英二がどう思おうと、どれだけ必死にもがいても。

 もはや英二には、ここが何階であるかもわからない。

 呼吸は限界を超えたのか、短く、早く繰り返される。

 足は震え、立っていることさえ辛そうだ。

 やがて、わずかな段差に腰をおろしてしまった。






 どれだけそうしていたのか。

 英二は、ふっと顔を持ち上げた。

 周囲はすっかりと赤くなっていて、もはやここがマンションであったことなど、誰もわからないだろう。

「行くか……」

 つぶやき、重い腰を持ち上げる。

 だが、何処へ。

 英二自身もわからないまま、せめて楽な方へと歩き出す。

 ――ふっ、――ふっ、――ふっ。

 一歩、足を動かすごとに息を吐き出す。

 吐いて、吸って。また、進む。

 果てに、そこはあった。

 いくら見た目がありえない物に変貌へんぼうしようとも、マンションの構造それ事態は、変わっていないのだろう。

 部屋だ。

 かつて――ほんのすこし前まで――は、そこにドアがあった。

 今はない。一直線に部屋へとつながっていた。

 たしかに、そこは部屋だ。

「ここは……?」

 そっと、中に入り室内を見渡す。

 不可思議な場所であった。

 室内は廊下と同じように侵食され、何もかもが赤く脈打つ血管の中に埋まっている。

 遠く、うめき声に似た何かがする。

 だが、ようやく入れた部屋だ。英二は、意を決して中に踏み込んだ。

 異臭が鼻をつく。英二はむせるように咳をして、口と鼻を抑えた。

 慎重に、ゆっくりと足を進めて行く。

 何もない。

 いや、部屋には人がいた。人だったものが、あった。

 リビングだったらしき場所。

 散乱したお菓子の袋や、飲みかけのマグカップ。それらは侵食の折に、中途半端に血管に飲み込まれて挟まっている。

 そのすぐ側。壁や、ソファ、あるいは床に彼らはいた。

 うめき声だけが漏れている。

 血管の中。どういう理屈か、取り込まれているようだ。

「へっ、へへ……」

 だが、英二は意に介さずに残されたマグカップに手を伸ばす。

 埋め込まれたように動かないが、それでも二度、三度と揺らしているとだんだん動きが大きくなり、やがてとれた。

 少しこぼれた中身は黒い。一気に飲み干すと、冷めた苦味のある液体が英二の喉を通り抜ける。コーヒーだろう。

 次に、腹ごなしと残されたお菓子の袋に手を伸ばして、ビスケットを取り出してつまむ。

 いくぶんか湿気ったそれは、しかし英二にはごちそうであった。数十は残っていたのか、次々と平らげていく。

 ひと通り食い荒らし、最後にもう一つのマグカップをとって中身を飲み干す。

 一息。ようやく落ち着けたのか、英二は改めて床に埋め込まれた人型をみた。

 形状から、おそらくは男だろうと当たりをつける。

 玄関から見て突き当りにいるのは女だろうか、胸部らしき部位がやや膨らんでいる。

「こいつら、何だって捕まってるんだ?」

 英二の疑問はそこだ。

 この空間にいる。それが条件であるならば、英二たちはとっくの昔に壁の一部になっているはず。だが、そうならずに自由に動くことができている。

 侵食の時であれば、それもまた英二は捕まっていなければおかしい。

 つまり。

「何か、いるのか」

 もしくは、いたか。

 ぶるりと、英二の身体が震える。

 思い出すのは、多頭の異形。あれが、まだどこかを徘徊しているのではと、思い至った。

 室内を見渡す。代わり映えのない、赤い景色。

 異常なはずであるのに、見慣れつつあることが英二には恐ろしく思えた。






 部屋を出る。休もうかとも考えた英二だが、やはり何かがいるかも知れないと思いたち、ともかく外へ向かう事をふたたび目指し初めたのだ。

 階段を降りていく。

 途中、どこからか悲鳴が聞こえた。

 女のそれだ。だが、何処からかはわからない。助けに行く義理も、余裕も英二にはない。

 ただ自分が逃げ切るまで、こっちに来るなと胸中で神に祈る。

 無言のまま階段を降りていき、やがて英二は一階にまで辿り着いた。

 だが、そこはやはりゾンビが無数とうごめく場所。通り抜けることは不可能だ。

「……」

 一つ上の階に戻り、廊下の端まで移動する。

 ドアの開いた部屋はなく、役立ちそうな物もない。

 逆側。外に通じるところは、例によって血管かあるいは触手か肉塊か、いずれかに覆われて抜けることは不可能であった。

 順々に階をあげ、通れそうな場所を探す。

 すると、一箇所だけ開いた場所があった。

「ここは……?」

 床には赤色の血管とは別に、黒ずんだ後が廊下から室内に続いている。

 先立って、晴彦が耳を触手に破られた場所だ。

 しらず、英二は喉を鳴らした。

 室内は、上階の開いていた場所とは比べ物にもならない。

 薄暗い。だが、不可思議なことに進む分には問題がない程度で、英二は少し躊躇ためらった後に、中に進んだ。

 虎穴に入らずんば、などという覚悟があったわけではない。ただ、他に行く宛が無かったからであった。

 所見ではトンネルに見える。

 生臭い匂い。地面はぬめり、壁が絶えず脈打つ様はどちらかと言うと巨大な蛇の口内を思わせた。

 しばらく、道なりに進んでいく。すると、少し開けた場所にでた。

 空洞が幾つか立ち並び、それぞれが何処かへとつながっているのだろう。

 英二は一先ず、眼についた正面の穴に向かった。

 狭い。斜め下に伸びるそれは、一度入れば出てくるのは難しそうだ。

 他のところも似たようなもので、英二が出入りしていた穴と、もう一箇所しか行けそうな所は無かった。

「この先か……」

 近づくと、奥から何かの声が聞こえた。

 ゾンビや、上階で聞いたうめき声とはまるで違う。

 どこか、男の性的な興奮を誘う声だ。

 英二は興奮したように息を荒げ、奥へ奥へと進んでいく。

 その内に、視界の先が開けてきた。

「うげっ」

 英二が思わず声を漏らした。

 牧場であった。

 かちくがいる。

 男が、女が。

 子供が。成年が。中年が。

 それぞれが壁から伸びた触手に繋がれ、まぐわっている。

 声はつまるところ、嬌声であった。

 所構わず、誰構わず交わされる淫行。

 遠目に見ても、異常な状況だ。にもかかわらず、彼らは、彼女らは進んでそれをしているように見えた。

 ときおり、拘束する触手から枝分かれした一本が口に張り付く。何かを送り込んでいるのか、嚥下えんげするために喉が動いた。

 餌の時間だとでも、言うかのごとく。

 ゆえに、ここは牧場である。

 ゾンビのためのか、それともソレ以外のかは計り知れないが。

「うん?」

 出口はないかとキョロキョロしていた英二は、遠くで動く人以外を見つけた。

「エイか、あれ?」

 飛んでいる。

 黒い三角形で、下腹部らしき部位には無数の触手が生えている。

 もはや、彼にはその異形に対する驚きはない。敵意がないかどうかだけが、感心ごとだった。

 遠目には、エイに似たモノが小さな体躯や、ぐったりと動かない何かを触手で掴んで奥へ奥へと向かっていく。人を襲ったり、食料としている様子はないようだ。

「……あのエイに付いて行けば、何処かに着くか?」

 そっと、広間に出る。

 性交を続ける人々は、英二に気がつかない。誰もが行為に夢中であった。

 もしくは、ソレも幸せなのかもしれない。

 少なくとも、彼らに英二の様な不安はなかった。






 エイの後を追うと、三方向に道が枝分かれしていた。

 うめき声の聞こえる道。暗く、なにも見通せない道。そして、わずかに明りが漏れる道だ。

 先を進んでいたエイは、うめき声の聞こえる方に向かった。鉢合わせを避けるためには、残り二つから選ばなければならない。

 少し悩み、英二は明るい左側の道を選んだ。

 特に理由はない。ただ、明るいほうが歩きやすいだろうと言うだけの判断だ。

 進む。

 道はぬめりが強くなり、滑りやすい。

 慎重に、周囲の生きたように動く壁を掴んで歩んでいく。

 だが、その先にあったのは行き止まりであった。

「ハズレか?」

 穴がある。

 そこには何か、液体がたまっているのか波打っているのが見えた。

 それを見ながら英二は、マンションの構造を思い出す。ここの管理を仕事としていただけに、多少はその知識もあるのだ。

「確か、地下に下水道があったか」

 生活用排水せいかつようはいすいを流すための物である。英二は、そこにつながっているのではと、当たりを付けた。

 波打つ水には、よく見ると何かが浮いている。ただ、流れがないのかそれは視界から消えていかない。

 背後を振り返る。まだ、エイは来ていない。だが、何時かは来るおそれはある。もしくは別の、何かが。

 水までの正確な高さは、目算では十メートルほど。逆に水深はまるでわからない。

 他の道の方が安全かもしれないと、英二は少しためらう。

 だが、移動している間にエイと鉢合わせる事を考え、英二は身体を震わせた。

 通路は狭い。その上、滑りやすいので走って逃げるのは難しそうだ。

「……行くか」

 覚悟を決めたのか、英二は力強く顔を叩いた。

 深く息を吸い、口の中に貯めこむ。

 飛び込むときは足からだ。どれだけ浅くとも、これで最悪だけは逃れられる。

 落ちるように前へ。

 身体が浮遊感に包まれ、急速に落ちていく。

 眼は固く閉ざし、手は鼻をつまむ。

 ――着水。

 意外と深く、英二の身体は頭まで沈んでもなお余裕があった。

「ぶはっ」

 呼吸を求め、水上に。

 深く、足の付かない水の中を泳ぐようにして見渡す。

「うっ、ウワァァあっ!」

 思わず、悲鳴をあげた。

 晴彦がいた。

 顔を半分、水の上に浮かべて。のこりの半分は、もうない。だらしなく垂れた舌が、根本から千切れて水の中に沈んでいく。

 すでに息絶えているのは、目に見えてわかった。

 いや、晴彦だけではない。

 腕が浮いていた。足があった。

 見知らぬ女がいた。

 何れも人体のパーツか、もしくは死体だ。

「死体処理場だってか、くそったれ」

 見渡し、毒づく。

 ゆっくりとだが、水は流れているようだ。小さくなった人体の部位が、徐々に先へと進んでいく。

 反対側へと英二が視線をむけると、同じように浮かぶ死体が見えた。すこし見ていると、何処からか落とされたのか幾つかが落ちて、水しぶきをあげた。

 濡れて、重くなった上着を脱ぎ捨てて英二は泳ぎだす。

「くそったれ」

 身体が痒いのか、ときおり止まっては患部をかきむしりながら。

 進む。

 かく。

 泳ぐ。

 かく。

 濡れた顔を拭う。

 かく。

 目に入った水を手でこする。

 かく。

 かく。

 かく。

 かく。

「かゆ、い」

 もはや泳ぐのをやめ、英二はあちこちで発生するかゆみをひたすらにかく。

 ――いや。

 もはやそれは、かゆみから逃れるよりも自傷に近い。

 患部からはあちこちと血を流し、眼はいつの間にか閉ざされて血の涙を流す。

「ごっ、がっ……」

 舌には幾つか、穴が空いている。

 その奥、喉は溶けて消えている。

 耳奥。そこでは濡れた鼓膜が徐々に溶かされ、その先を犯していく。

 爪は剥がれて落ちた。それでも、英二はかくのをやめない。

 英二は知らない。

 ここは、死体処理場であると同時に、微生物によって肉を解体し、栄養のある流動食に変換するための再処理場でもあることを。

 英二は知らない。

 知らないまま、生きたまま、ゆっくりと。






「いづッ!」

 意識がはっきりすると同時に、信夫は身体の痛みを自覚した。

 周囲を落ち着きなく見渡し、事態を確認すると途端に顔を青ざめさせる。

 そこはまるで、工場であった。

 異形がいる。

 多頭のそれ。あるいは、エイ。もしくは巨大な木にも見えるバケモノ。

 エイに似たバケモンのは、どこからか集めてきたパーツや赤子を投げ捨てるように床に置いては、また消えていく。

 木のバケモノは、無数に枝分かれさせた手でエイが持ってきた人体をより集め、手にした糸と針で縫い合わせていく。

 それらはやがて、多頭の異形になった。

 もしくは人型の異形になった。

 あるいは、ただの人間の――ゾンビの――姿になった。

「なんだよ、ここ……」

「知るか」

 呆然と呟く声に、反応があった。

 信夫が慌ててそちらを見て、思わず悲鳴をあげる。

「うるさいぞ、連中が気がついたらどうする」

 光博だ。

 首元を手でおさえ、荒く呼吸をしているが意識ははっきりとしているのか、信夫の方をちゃんと見ている。

 ただ、大量に血を流したからか。それとも別の要因か、顔はやや青ざめていた。

「いっ、生きてたんですか?」

「ふん。お前らが見捨てて逃げた後、あのバケモノに連れて来られたんだよ。おい、他の連中はどうした」

「えっと……わかりません」

「役に立たないな。まあいい、か。おい、ここから逃げる。手を貸せ」

「逃げるって、どうやって」

 命ずるように言う光博に、信夫は困惑した声を返す。

「知らん。だが、特に拘束されていないんだ。歩いていれば、何処かには出るだろう」

「でもッ!」

「それとも、お前はあんなわけのわからないバケモノになりたいのか?」

 見るようにうながされたそこでは、また一体のバケモノが生まれていた。

 地を這うように動く。

 足が四本ある。

 頭が七つある。

 だが、手は二つ。前足から分岐するように生えている。

 そんな、奇妙な形。加えてどこから調達したのか、機銃が一つ。顔と顔の間にあった。

「ああやって、おもちゃにされるのとどっちがマシだろうな」

「……わかり、ました」

「それでいい。そら、肩を貸せ。身体がだるくて、上手く動けないんだ」

 身体を起こし、信夫は光博に肩を貸してまたゆっくりと立ち上がる。

 幸いにも、部屋の主達はまだ誰も信夫たちに注目して居なかった。






「たしか、ゾンビが出てきてる出口が一階にありました」

 呼吸の荒い光博を担ぎながら、信夫は言う。

 逃げ出した後、英二と一緒に向かった一階で見た光景だ。

「なら、ここは一階か?」

「わかりません。捕まったのは、四階くらいだったと思いますけど」

 通路は暗く、狭い。

 エイやゾンビ、多頭を避けて通れそうな道はここしか無かった。

 一応は信夫の携帯が生きていたので、多少は明りを確保する事はできている。だが、電池ももう残り少ない。

 赤くなった充電マークが、信夫には自分の寿命に見えた。

「……」

「はぁ――はぁ――」

 しばらく無言。光博の息遣いだけがお互いに聞こえている。

 遠くでは唸り声。

 遠くでは何かが振動する音。

 遠くでは、か細い悲鳴。

 どれだけ歩いたか。

 どこまで歩いたか。

 徐々にだが、周囲の風景に変化が現れた。

 肉のような、血管のような生生しいものから文明を感じさせる金属質になったのだ。

「これって、何なんでしょうか」

 むろん、マンションのそれではない。

 だが、同時に二人の知識にもないものだ。

「知らん。が、歩きやすいのはこっちだな」

 皮肉げに、弱り切った光博が言う。

 信夫は曖昧あいまいに笑った。

「そういえば、噂でありました。この異変は、宇宙人の仕業だって」

「ありがちな設定だな。ならば、この先に宇宙人がいるとでも?」

「かも、知れませんね」

「バカバカしい」

 光博が吐き捨てるように言った。

 信夫もそこまで本気でなかったのか、ソレ以上は追求せずに前を向く。

 足音が反響し、二人の間に新しい音を生み出す。

 その中をひたすら進み、とうとつに足が止まった。

「あっ、あれッ!」

 信夫が声を張り上げる。

 指差すその先。まだ遠いが、はっきりと光が見えた。

「はぁ……ああ、見えるぞ」

 弱々しい声で光博も答える。

 そこが希望の光かどうか。そんな事は、二人には関係がない。

 ただ、目指す先に光がある。それだけを糧に、二人はさらに足を進めた。






 ――そこにはひとつ、石柱があった。






 人の体を括りつけた物だ。

 石柱と同化しているのは、乳白色の女だ。が、顔は見えない。両腕、両足と一緒に顔も石柱の中に埋まっている。

 辛うじて露出した胴体部分。その胸部には、やや大きめの膨らみがあることから、女だろうと言えた。

 石柱の頭部からは血管が伸び、鼓動こどうを一定のリズムで刻んでいる。

 その石柱を中心に、ぐるりと計器類が設置された壁があった。

 表示される文字は、およそ地球上に存在し得ないもの。

「なんだ、これは?」

 困惑し、しかしソレ以上は体力が続かないのか、光博はただ正面の石柱を見つめる。

「……噂は、本当だったんですかね?」

 信夫が少し、前に出る。

「だとしたら、我々は原因の一番近くに居るということか」

 また、皮肉げに笑う。

「どうする。解決できれば、いちやく英雄になれるぞ」

「解決って、どうやれば……?」

「ふん。ともかく、調べてみろ。出口も探さなければならないしな」

「はぁ」

 気のない返事をして、信夫は光博を壁の近くに下ろす。

 光博は息も大分荒く、玉のような汗を顔中に浮かべていた。

「調べろって言われても」

 ぐるりと、その場に立って見渡す。

 奇妙な文字を写す画面。何かを調整するつまみや、スイッチらしきものもある。だが、それが何か、信夫には検討もつかない。

「宇宙船って言っても、映画みたいな感じじゃないのかな」

 最新のSF映画では、ディスプレイは空間に投影するタイプが主流だったなと、信夫は思い浮かべる。

 この中にあるそれらは、どちらかと言えば監視カメラの置かれた部屋を思わせた。

「出口はなし、か」

 そう広くない部屋だ。ほんの数十秒歩くだけで、簡単に一周する事ができた。

「とすると、やっぱりコレかなぁ」

 自身なさそうに、石柱の前に立つ。

 マンション内で見かけた血管のようなもの。それらの中心は、やはりここだろうと彼も当たりをつけていた。

「けど、どうしよう」

 おっかなびっくりに、殿部でんぶの当たりに手をやる。

 ひんやりとした感触があった。見た目通り石なのか、感触も硬い。

 そのまま手を這わせる。

 下。股間らしき部位。

 上。胸らしき部位。

 なんの反応もない。

 いよいよ、手詰まりだった。

 逃げる道はなく、同時に原因らしきものにも反応がない。

 せめて、何か反応があればと適当にボタンを押して見る。やけっぱちに近い心境だが、一度目で反応がないとわかると次々に押すことができた。

 それも、結局は空振りに終わったが。

「どうしましょうか」

 いつの間にか寝転んでいた光博に問いかける。

 返事はない。

 呼吸も、止まっていた。

「ねぇ、どうしたらいいかな?」

 目をそらし、次に石柱の女に聞いてみる。

 反応は、

『――あlkjfvwhGAうい』

 あった。






 音がする。

 それは、機械の駆動音だ。

 高く、大きく。狭い室内に響き渡り、信夫は思わず耳を塞いだ。

 床が断続的に揺れる。

「――」

 何が。そういった言葉は、しかし彼の耳には届かない。騒音に紛れて、消えていく。

 変化は室内に現れた。

 信夫が入ってきた道。そこが閉ざされ、代わりに浮遊感が彼の身体を支配する。

 震動が強くなり、信夫は身体を倒して強く目を閉じた。

 長く、長く、揺れは続いた。

 が、それもやがては終わりが来る。

 揺れが徐々に小さくなり、音も次第になくなっていく。

 信夫がおそるおそる目を開ける頃には、全てが静寂せいじゃくに戻っていた。

「止まった?」

 周囲を見渡すが、変化らしいものは見られない。

 いや、一つあった。

 唯一の出入り口。その先。

 遠いが、青々とした芝生がかろうじて見える。

 外は夜なのだろう。暗いが、人工の明りで照らされるそこは、まさしくマンションの出入口だ。

「出て、良いのか?」

 振り返り、物言わぬ石柱に問いかける。

 答えは返らない。

 ただ、信夫は感謝するように頭を下げて走りだした。

 金属の床を叩く。

 呼吸が弾む。

 身体は痛むが、それでも足は止めない。

 走る。

 やっと、出られるのだと。その期待を込めて、脇目もふらずに。

 あと十メートル。

 五メートル。

「クゥルルルルルルルルルル」

 あと数歩。

 その前に、信夫は鳴き声を聴いた。



 ――完。

 これにて全編完結となります。


 ながらくお付き合いありがとうございました。


 現在、別のファンタジー企画なども『のべぷろ』さんにて企画中となりますので、また仕上がり次第お邪魔させていただくこともありますので、そのおりはよろしくお願いいたします。

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