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第二十四話 自衛隊員

 突然現れた煙に、俺はむせ返った。息を止めろとか聞こえたけど、あれだけ走った後にそんな芸当ができるわけない。

「さて、下手に動くなよ」

 煙の中、俺の身体が強い力で引っ張られる。

 百花さんの胸中にいたからか、上手く踏ん張ることができなかった。

 倒れそうになったが、誰かに二人揃って抱きとめられたようだ。

 がっしりとした体躯たいくから男で、それもかなり鍛えられていることがうかがえる。

「立てるかな、お二人さん」

 男は手を離し、俺と百花さんを開放した。

 外だ。まだ煙いけど、なんとか呼吸はできる。

「あっ、はい……」

「けほっ、けほっ」

 煙を俺よりも吸い込んだのか、百花さんが何度も咳を繰り返す。

「大丈夫?」

「――けほっ、うっ、うん」

「あのカマキリはタバコの匂いが苦手なようでね。コレはそれをまとめた物だ。

 彼女に害はないから、そうにらまなくてもいいさ」

 うっ、そんなつもりは無かったと思うけど。

 俺は気恥ずかしさから、思わず視線を外した。

 それでようやく、状況がつかめてきた。

 周囲に居るのは四人。この、助けてくれた男もふくめてそれだけいる。

 全員、迷彩模様の服を来て映画ぐらいでしか見たことがない小銃をぶら下げていた。

「自衛隊員?」

「その通り。と言っても、総勢十名と言ったところだけどね」

 助けてくれた男。階級はわからないけど、一番エライのか何となく貫禄かんろくがある。ヒゲのせいかもしれないけど。

 背丈は俺より低いのに、その鋭い眼光に見られているとどうにも萎縮いしゅくしてしまいそうだ。

「さて、お互いに色々と聞きたい事はあるだろうけど、まずはこの場所を離れるが、構わないね?」

 聞いて入るが、有無を言わせないつもりなのかさっさと歩き始める。

 まあ、俺達としてもまたカマキリに襲われるのは勘弁願いたい。

「順くん……」

 不安そうにつぶやき、百花さんが俺の手を取る。

 俺はその手を握り返し、前を歩く男の後を追った。






 男の後を追って歩くこと十分ほど。途中、ゾンビが襲ってきたが、全て自衛隊員が撃退してくれた。

 楽だ。楽すぎて、逆に落ち着かないほどに。

「見えてきたぞ。あれが、僕らの拠点だ」

 訪れたのは、森林のように木々が揃った場所の片隅にひっそりと隠れるように建つ、コンクリート製の建造物だった。

 正方形に限りなく近い形をしていて、青色の扉だけが見える。

 隊員の一人が先んじて扉を開ける。と、そこには地下への階段があった。

「この公園の噴水なんかを管理する施設でね。そのまま地下の下水道にも通じているんだよ」

「へぇ……」

 感心しながら階段を降りていく。

 地かだからか、水回りを扱っているところだからか、ひんやりとした空気が肌に絡みつく。

 途中、大きな機械があった。おそらく、コレが噴水を管理している何がしかだろう。今は使われていないのか、動いていない。

 俺達が通されたのは、そのすぐ側にある小さな部屋だった。

 管理室と書かれた札がドアにあり、室内には複数台のモニターや簡素な机と椅子が置かれている。

 ところ狭しと並んだそれらは、どうやら後から持ち込んだもののようだ。

 机には資料らしきものや、灰皿、コップなどが無造作に置かれている。

 案内してきてくれた他の隊員たちに指示を出し、部屋から出て行くろの見送ったところで、男はモニターが見える位置に座った。

「適当に座って構わないよ。

 改めて桑名広斗くわなひろとだ。二等陸佐――君たちに取っ手は、部隊の隊長をしていると言えば、分かりやすいかな」

 俺達は対面に座り、順当に自己紹介を返す。

角野順かどのじゅんです。こっちが、川澄百花かわすみももかさん」

「どうも」

 緊張しているのか、百花さんはぺこんと軽く頭だけさげた。

「さて、お互いにどこから話したものか……いや、恥を捨てて聞こう。

 君たちは、あのカマキリに何をしたんだ?」

「何をって言うのは……?」

「恥ずかしながら、我々はあのカマキリを相手に有効打を与えたことがなくってね。

 ところが、定時の見回りをしていると倉庫から怨敵の悲鳴を拾ってね。

 何かと思い大急ぎで向かってみれば、シャッター越しに君たちの会話が聞こえてきたと言うわけだ」

 自嘲じちょうするように口の端を持ち上げ、

「だからご教授願えないかな?」

「つまり、あのカマキリが悲鳴をあげた理由っすよね」

 ほんのすこし前のことだ。流石に、まだ忘れていない。

「あの倉庫にある銀色の扉。そこに鎌を突き立てたら、中の空気が漏れてきましてね。それを浴びたら、あんな悲鳴を」

「確か、あそこにあるのは冷凍庫だったな。

 ――ふむ。程度は分からないが、冷気に弱いということか」

 ゲームじゃないんだから、そうそう簡単に冷気なんて用意できないけどね。

 可能性があるとしたら、冬場だろう。

「ともあれ、ありがとう。参考になったよ。

 それで、君たちの方はなぜここに?」

「俺達は――」

 簡単に今、俺達が置かれている状況を説明した。

 学校で籠城ろうじょうの準備を進めていること。

 ここへは、食料を作るための材料を集めに来たこと。

 そして、自衛隊が生き残っていたら合流するか、脱出のための方法を聞くこと。

 ときおり質問をはさみながら、桑名さんは話しを最後まで聞いてくれた。

「残念ながら、脱出ということについては諦めてもらう他ないね」

 その上で、そう返ってきた。

次回は7月18日の12時です

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