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第二十話 黒森へ

 車の運転もだいぶ様になってきたように思う。

 と言っても、発進させて適当に走らせたりバックでそこそこ狙った位置に停めるとかその程度だ。

 交通法とかガン無視だから出来る事で、まともな時だったら間違いなくアウトだろう。

 まあ、講師役の百花さんよりは上手くなったのは間違いない。試しに乗せた百菜のお墨付きだからな。

 これ以上はガソリンの無駄だということで、ひとまず俺の練習はここまでとなった。

 車から降りる。

 窮屈きゅうくつな姿勢をずっと続けていたからか、身体が少し痛む。

 親父はこんな面倒なことを、出かける度にやってたんか。そう思うと、少しばかりセンチメンタルな気分になる。

 もっとも、今更だけど。

 もう会えない相手にどう思った所で、無意味だからな。

「あれ、どうしたの?」

「んっ? いや――慣れないことしたから、疲れたなって」

 助手席から降りてきた百花さんが、何気ない風で聞いてくる。

 それを、思わずごまかした。

「……そっか。それじゃあ、明日は交代しながら運転しようか」

「あれ、着いて来るの?」

 てっきり留守番だと思った俺は、思わず聞き返した。

「助けてくれるってゆった」

 むすっと、百花さんがふくれっ面を作る。

「いや、そんな膨れんなよ。ここなら、安全だし……」

「安全でも、じゅんくんはあっちにふらふら、こっちにふらふらするんでしょ。落ち着かないもん」

「う~ん」

 と言うか、俺としてはここでおとなしくしてるほうが落ち着かない。

 一人のほうが自由に動けるし、ゾンビの中を動き回ることもできる。誰かいたら、流石に気になってしょうがないからな。

 だから、強く着いて来るなって言えば、百花さんもわかってくれると思うけど、後のことを考えると無理強いはしたくない。

 関係がこじれて、色々と面倒な事になったら共同生活に悪影響が残ると思う。

 それに、俺としてもわざわざ嫌われるような真似はしたくない。

 さて、どう言ったものか。

「行き帰りの事を考えたら一人より二人のほうがいいでしょ。人手があったほうが、出来る事も多いし」

「それを言われると弱いな……いや、あの運転は嫌だけど」

 めちゃくちゃ荒いしな。いや、ゾンビをき殺すなら有りかもしれないけど。

「ともかく、私は着いて行くからね。勝手に行ったりしたら、怒るから!」

「……はぁ、わかったよ」

 こりゃ、本気で勝手についてきそうだ。俺が早く起きて準備すりゃあいいんだろうけど、下手したら車の中で寝てるかもしれない。

 学校内のゾンビはあらかた片付いたとはいえ、まだ何処かに隠れている可能性だって捨てきれない。

 夜中に移動されて食われてたりしたらと思うと、俺の目に見える範囲に居てもらったほうが良さそうだ。

「やたっ!」

「でも、百菜がダメだって言ったら残れよ、お姉ちゃん?」

 流石に一人にしていくのは可愛そうだ。待つのは

「とーぜん」

 結局、姉妹でどういう話が行われたのかは分からないが、百花さんは着いて来ることになった。

 送り際、百菜が妙に笑ってたのは気にしないでおこう。






 風間先生が補充してくれたので、ガソリンは十分ある。詳しくは知らないけど、リッターで十五キロは走れるらしい。

 それがどうすごいのかはわからないけど、普通に往復する分には全く問題ないようだ。

「準備は良いか!」

「はい」

 開けた窓から聞こえてくる先生の声に答える。

 運転席からは、正門に手をかけた先生とバットを構えた桐原先生が見えた。

 手順はこうだ。

 正門を開いて、俺がアクセルを全開で踏み込み、ゾンビどもを轢きながら外へ。その後、正門を閉じつつ中に入りそうなゾンビ共を桐原先輩が片付ける。

「――ふぅ」

 横の百花さんは、シートベルトを掴むようにして座っている。多少の衝撃なら、大丈夫そうだ。

 見ている俺に気がついたのか、ふんわりと笑った。

 軽く笑い返して、前を見る。先生が正門の鍵を外したところだ。

 準備はできた。

 窓を閉める。

 真っ直ぐ前を見て、タイミングを見計らう。

 正門がゆっくりと動いていく。

 うごめくゾンビの数は、十と少し。

 まだ早い。

 半分と少し、門が開く。中に入り込んだゾンビの頭を、桐原先輩が叩き潰した。

 あと、ちょっと……良しッ!

 ブレーキから足を離して即座にアクセルへ。

 駆動音くどうおんが高鳴り、正面から圧力が来る。

 シートに身体を預け、まっすぐに車が動くようハンドルは離さない。

 先輩がバックステップで正門から離れる。

 先生は見えないけど、あの人なら間違いなく大丈夫だろうと思えた。

 そうして、真正面には今にも近づきそうなゾンビ。

 ハンドルを強く握る。

 衝撃。思わずつぶりそうになる目を、見開く。

 跳ねたゾンビの身体が砕け、ボンネットに乗る。そのまま落ちた。

「きゃぁ!」

 車が段差を乗り越えて大きく揺れる。悲鳴は聞こえたけど、危機的な物じゃなさそうだ。

 正門を抜け、ゾンビを跳ね飛ばしながら道路へ。三方向にわかれた道路をそのまま真っすぐに走らせた。

 次回は7月14日の12時です


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