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第十八話 学校を閉鎖せよ

 翌日。朝食もそこそこに、俺達は全体で動き始めた。

 車の運転は、そこそこ広くてかつゾンビの邪魔が入らない所で行う必要があった。

 そんな場所はない。

 ただ、平行してやらなければならない目的として、学校内の安全確保がある。上手くいけば、校庭がまるまる使えるようになるので、そこで練習する予定だ。

 俺達でゾンビの掃討を進めつつ、その間に風間先生が車を確保してくるということになった。

 問題は、こっちが最大で八人なのに対してゾンビはどこからか来るからほぼ無数ってところか。

「実際、まずはゾンビが中に入ってくるのを塞がねえとな」

 生き残った男子の内、最年長の先輩が言う。この場の仕切りはこの人に任せて良さそうだ。

 ガッチリとしたスポーツマン体型で、こんがりと小麦色に焼けた肌と相まって非常に頼りになりそうな雰囲気がある。

 今も、空き教室の一角で机をつなげた上に広げた、落書きみたいな学校の俯瞰図ふかんずを前に、あれこれとアイディアを書き込んでいた。

「侵入してきてるのは、正門と裏手ですね。君は、何処から出入りを?」

「出入りはフェンスを登ったっすよ」

 隣に座った生徒に答える。たしか、先輩だったと思う。この人も運動部だったはずだ。

 帰る時は、俺が下で待っている間に二人を先に上に登らせた。そこそこ手こずっていたけど。

「単に校門を閉めるだけじゃ、駄目っすかね」

 一人が声を上げる。

「悪くないけど、数が揃ってくるとそのまま突破されそうだよな」

「それ言い出すと、封鎖するのって不可能だろ」

「待ってください。どちらかだけを開放しておくのはどうですか?」

「てか、まず門を悠長ゆうちょうに閉めとく時間なんてないっつーの」

「一時的にでも門を閉じる事が出来れば、少なくとも中の掃除は楽になるんじゃないか?」

「楽に? はっ! まだまだ五十以上はいるじゃねえか」

 つられて、何となく外を見てみる。

 まあ、うじゃうじゃといるな。とは言え、無軌道むきどうにあちこちに動いているから、一体ずつならなんとかなりそうな気もするけど……いや、やっぱ無理か。

「そうだな……そういえば、角野かどのはどうやって数を集めたんだ?」

「数を?」

鳥元とりもとに行った時の武勇伝は、軽く聞いてる。なんでも、ゾンビの群れに突っ込んで食料を取って来たんだろ?」

「あー、まぁ」

 視線が集中するのを居心地悪く思いながら、俺は音でゾンビを集めて走ったことを伝える。入るときも、出るときも、音は非常に効率よくゾンビを集めてくれた。

 集めるだけってなら、同じ方法が使えそうだ。問題は、その後で無力化する必要があるってことだけど。

「音でおびき寄せる、か……」

「案外ありなんじゃね?」

 不意に、一人が声を上げる。

「ほらッ! ここ! 体育館なら、ゾンビを全部集めて扉を閉めちまえば!」

 興奮したように立ち上がり、大声でそいつは身振り手振りで俯瞰図の体育館を指さす。

 この学校の体育館は、校舎からは離れて建てられている。二階部分が渡り廊下でつながっているけど、それも階段部分から扉があるから、封鎖して物を置けば大丈夫だろう。

「……行ける。行けるぞッ!」

「ああッ! けど、問題はどうやって集めるかだな」

「音だろ。音楽室から練習用のCDプレイヤーとか持ってきて、セットすればいいんじゃないか」

「それだけだと、少し弱いな。オレは教室を回って音楽を再生できるプレイヤーを集めてくる」

「なら、何人かで回ると早いな」

「おう。俺も行くぜ」

「終わったら、それを体育館に設置してくれ。

 おれと何人かは、道中の安全確保とタイミングを見計らって正門と裏門を閉じるぞ」

「おう、任せとけ」

 続々とやることが決まっていく。

「角野は俺と一緒に、正門の方に来てくれ。正直、あそこが来る数もいる数も多い」

 件の、リーダーっぽい人が俺に声をかけてくる。

「りょーかいっす」

 立ち上がり、それぞれが奔走ほんそうを開始した。






 外。前と同じように、俺と三年の桐原きりはら先輩――話しかけられてるのを聞いた――は、ゆっくりと外に出た。

 このへんは大丈夫だけど、校舎にそって校庭側に歩いて行くともうそこは危険地帯だ。

 二人揃って、少しだけ顔をだすと遠くでゾンビと目があった。

 来ることはないけど、心臓には悪い。

 ざっと数えて、二十以上。たんにそれより多くは無視してるだけだ。

「だんどりは良いな」

「うっす。俺が走って手当たり次第倒して、その隙に先輩が扉を閉めると」

 音で集めることも考えたけど。それはあまり上手くない。下手に校舎内に侵入されると、中が危ない。

 それに、四方八方から囲まれると音を出してる奴が危ない。

 となると、ギリギリまで倒して速攻で閉めるしかないわけだ。

「――ふぅ……行くぞッ!」

 走る。

 予定通り、俺は右から。先輩が左から。

 どちらも武器はバットだ。通りがかる中、無理のない程度にゾンビの頭をぶん殴る。

 手応えは鈍い。

 横目に、ゾンビが倒れるのを見てからまた前を向く。

「ゥォォォァァグググギギゥォ」

「邪魔するんじゃ、ねぇッ!」

 先輩が叩き、ゾンビの頭がはじけた。

 うはぁ、すげぇ力。

「おぅっと」

 飛びかかるようにして襲い来るゾンビの腹を殴り、阻止する。

 赤黒い吐瀉物としゃぶつが、服の裾にかかった。

 返す刀ってんだっけ、そのまま今度は反対側のゾンビに向けて振りぬく。

 子供の頭があった。

 ちょうど、いい位置に。

 振りぬいたバットが、子供の頭を飛ばした。

「ちッ」

 気分は良くないが、それは捨てていく。目標は目前だ。

 ゾンビはまだ、外からこっちに向かってきている。十くらいか。大丈夫、距離はある。

 左。先行していた先輩が、正門に手をかける。

 邪魔するように先輩へ向かうゾンビを蹴り倒し、足を踏ん張って近づくヤツの頭を叩き潰す。

「先輩ッ! まだっすかッ!」

「嘘だろッ! くそッ! 鍵がかかってやがる」

 ゾンビを殴り、時に蹴っ飛ばして時間を稼いでいるのに、正門はいっこうに閉まらない。

 また近づくヤツを殴る。

 やばい。コレ以上は対処しきれないぞ。

 破れかぶれに、先輩がバットで正門を固定してる鎖と南京錠なんきんじょうを叩く。

 でも、壊れない。

 やばい。音に反応して、遠くのゾンビもこっちに向かい始めた。

 最悪だな、おい。

 それでも、近づいてくるゾンビを倒す。

 バットで。足で。時に、拳で。

 それでも、完全に殺しきれてないから徐々に徐々に、ゾンビの数は増えていく。

 いよいよ限界だ。そう思い、先輩に声をかけようと振り向く。

「だ~、くそッ! 逃げる……あん?」

 先輩が何かに気がついたように、逃げる前に近くの塀によじ登る。

 軽い身のこなしは、さすがの一言だ。

「おい、おい、オイオイオイッ!」

 言って、飛び降りてすぐに俺に向かって逃げるぞと叫ぶ。

「はっ、何が」

「いいから走れッ! ちくしょっ、ゾンビに噛まれるのも勘弁だけど、かれるのもゴメンだッ!」

 直後、俺にも理解できた。

 車のエンジン音だ。それも、まっすぐにこっちに向かってくる。

 状況は向こうも把握してないはず。

 まあつまり、無遠慮に突っ込んでくるっと。

「事前の打ち合わせってのは、大事だな」

 大人になれたら、ほうれんそうはきちんとしよう。

「ゥォォァァァァァァゥォ」

 ゾンビを殴り倒し、俺は正門に背を向けた。

 次回は7月12日の12時です

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