第十三話 食料品の回収
投稿し忘れると言う痛恨のミス……ッ!
店舗に置いてあったゲームをセットし、最大音量で放置する。多少はうるさいし、ゾンビの注意も引くだろう。
「頼むから上手くいってくれよ……」
勝手にエレベーターが閉まらないよう、バッドを置いてから階下へのボタンを押す。
次に、適切な位置へと持ち上げて閉まるのを待った。
扉は閉じた。
ややあって、重い音を立ててエレベーターは階下へと向かっていく。
ほんの数十秒。間抜けな、チーンと言う音が聞こえた。
吹き抜けから見ていると、うまい具合に下へと降りたようだ。扉も一定時間ごとに開閉を繰り返している。
「よし。あとは、少し待って……いや、もういいか」
ゾンビは続々と増えている。全部を待ちたい所だけど、それまで待っていたら日が暮れそうだ。
俺は一斗缶を一つ持ち上げ、封を切る。
そして、上からぶちまけた。ドッドッドッと重苦しい音がする。
ぶちまけられた油は、ゾンビにかかったり床に溢れたりと辺り一面に広がっていく。
そうして、床にこぼれた油を踏んでゾンビが転ぶ。次のゾンビがまた、転ぶ。もがくように腕を動かせば、それもまた滑る。
滑稽な光景だ。
これが画面の向こうの出来事なら、そりゃあ笑うこともできたんだけど。
ともあれ、効果はあるようだ。場所を変えながら、油をどんどん撒いていく。
合わせて五個。全部を巻き終える頃には、集まってきたゾンビの大半が転げていた。
ゴキブリみたいに、その場で接着できればベストだけどな。まあいい、コレで一階の探索はやりやすくなった。
俺は最後に、一斗缶を上からゾンビ目掛けて投げつけてから、階下へと移動した。
「ゥゥォォァァァグゥォァ」
流石に、一階まで来るとゾンビのうめき声も大きくなってくる。
階段の途中でとまり、まずは前方確認。ゾンビはいるけど、移動中だ。少し待とう。
一直線に進めば食料品売場があり、右にいけば生活雑貨や薬局にお菓子屋ってところか。
横を見てみると、ゾンビが何十体も倒れているのが見えた。よしよし。
警戒するに越したことはないけど、しばらくは大丈夫そうだ。
前の方も、まあこれくらいなあ良いか。
二体ほどがいる。けど、走りぬけつつ頭をぶっ叩けば突破はできそうだ。
少し視線を横に向けると、俺が投げたリュックがある。ゾンビは減ってきてるな、先に回収しよう。
その後、食料品売場近くで放置されたカートを拾う。そこに食料品とかを詰めて、一旦階段へ。そこで荷物をまとめて脱出と言う段取りだな。
不測事態には臨機応変に。
「うしっ、行くか」
気合を入れて屈伸。
階段を飛び降りる勢いで走りだし、まずはリュックへ。手を伸ばし、上体を倒して回収。
姿勢を起こすと、ゾンビと目があった。
嬉しくないので、片手で勢い良く振りかぶったバッドを、無防備な頭へ叩きつける。
手応えは弱い。けど、流石に姿勢は崩れた。
――追撃。
は、しない。威力が足りないし、既に転倒しかけている。ここで殺す意味は薄い。
ゾンビを回避するように足を向け、走り抜ける。
カートへは一直線に行けた。リュックを中に放り込み、左手で持ち手を掴む。右手はバッドだ。
集めている最中に襲われたのか、カートの中には乾麺が入っている。
「そうか、スパゲティとか茹でれば食えるか」
缶詰とかばっかり考えてたけど、そう言う手もあったか。
選択肢を増やし、俺はカートを食品売り場へと向けた。
やはり食料は真っ先に持って行かれたのか、虫食い状態だ。けど、一人で持ち運ぶには十分な位には残っている。
カートにそうめんやうどん、スパゲティと言った乾麺を手当たり次第に入れていく。もともとセール用で在庫が多かったのか、割りと数は常備してあるようで、一箱分くらいは揃った。
あとは調味料。塩が一キロと、砂糖を一キロずつ。もっと欲しいけど、重いんだよな。せいぜい胡椒を一瓶くらいだ。
水は、まだ出るからやめておく。適当なペットボトルドリンクを三つ、おみやげにしておこう。
缶詰は――ほとんどないな。ただ残ったのもあるから、とうぜん入れておく。フルーツみたいな甘味料は、ご褒美にもなるしな。
「はいはい、邪魔しない」
向かってきたゾンビにカートを押し付け、頭をバッドで二、三回殴る。多少は、エレベーターに向かわなかった奴がいるようだ。
そうやって邪魔なゾンビをどかしつつ、食料をカートに詰めていく。
もう少し余裕があれば、在庫なんかを箱単位で頂いていけるんだけど、まあしゃーない。逃げるのも俺一人だし、持ち手も一人だけだ。
「……こんなもんか」
カートにはあふれんばかりの乾麺や、缶詰と栄養バランスフードが詰め込まれている。
あの二人がどうするかはわからないけど、しばらくは持つだろう。仮に学校へ行くなら、手土産としては十分だ。
俺は中身をこぼさないよう注意しながら、二階へと向かう階段へ歩いて行った。




