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第九話 スーパーの中へ

 移動自体はもはや手慣れたもの。テキトーにゾンビを集めて、反対側をダッシュで抜ける。俺だけなら、これで突破できた。

 で、どうにか鳥元のすぐ側まできたけども。

「うわっ、マジかぁ……」

 呆れるほどにゾンビでごった返しているようだ。

 鳥元の付近は、やはり買い物客を集めるためか広く作られている。隠れたり、あるいは避けて移動する分には問題はないんだけど、それはあくまで周辺に限った話だ。

 入り口に段差がなく、かつ扉が開放されっぱなしと来れば、音に集まるゾンビ共があふれるのは道理。ざっと見た感じ、店内にはそれこそ大群といえる数がいた。

「あの人、よくここから逃げてこれたな」

 下手したら、路上を歩く数よりも鳥元の中に居るほうが多いかもしれない。

 だけど、これは困ったぞ。

 中に入っても、あれだけいたんじゃ思うように動けそうにない。必殺のジャイアントスイングも、流石に無理がありそうだ。

「となると、中の連中をコッチに引きずりださなきゃな」

 ゾンビを誘導するには、やっぱり音だ。

 でも、今は鳥元から聞こえる音楽のせいで、生半可な音じゃ連中には聞こえない。同時に、大体があっちに引き寄せられてるから、俺が動きやすいって利点もあるけど。

「う~ん?」

 さて、なんかないかな。

 理想はうるさく、そして継続的に音を出し続ける物だ。

 きょろきょろと周囲を見渡してみるが、さて。

 街灯、壊れた車があちこち、動く死体とそれから動かない死体にあとは西部劇よろしく転がっていく空き缶――俺が投げたやつ――くらいか。

 空き缶に引き寄せられるようなのは、せいぜいが数体。そもそも、店内までは聞こえないだろう。

「となると、車か」

 目についたのは、玉突き事故のような形でかたまっている車が数台。ここに限らず、路上ならよく見られる風景だ。

 適当に選んだ一台のドアに手を伸ばす。けど、開かなかった。

 乗り捨ててあるというより、持ち主が戻らなかった感じかな。そこにぶつかる一台の軽自動車は、エアバックを枕に持ち主が寝ていた。

 そっとドアを開ける。

「ッ!」

 身体が地面に押し倒された。後頭部をぶつけなかっただけ、幸いか。

 死体は、つまり動く死体だったのだ。

「くッ」

 俺がドアを開けるのと同時に、その音に反応してコッチに倒れこんできやがった。

「ゥォォゥゥグゥッァァァア」

 足で、のしかかろうとしてくるゾンビの身体を支える。

 噛みつかんと迫るあごは、まだ少し遠い。

 両腕は、どうにかコッチが掴んで動かさない。

 ヨシッ、初手は防げた!

 と、思ったけどまずい。

 ゾンビがコッチに向かってきてる。

「こっ、のッ!」

 蹴りあげる。ゾンビの下半身は、エアバックと車の間に挟まってなかなか動かない。

 二度、三度。

 四、五と数を重ねて。

 八度目で、ようやく浮いた。

 そのままゾンビと俺の上下が反転し、腕を軸に足で横に投げつける。

 対して俺は逆に転がり、距離を開く。

「たくっ、シートベルトぐらいしときやがれ」

 ごろごろと転がって、どうにか安全を確認してから立ち上がる。

 痛む身体を確認し、ドキリとした。

 手足をりむいている。転がったりしたからあたりまえだけど、それは良い。

 問題は、この傷口にゾンビが触れたかどうかだ。

「……」

 移動する。今は考えない。ともかく、中に入る方法を用意しなくちゃ。






 ゾンビになった持ち主を片付け、クラクションが鳴りっぱなしになるようにその辺の棒きれやゴミを固定する。

 周囲にいたゾンビが気付き、こっちに移動を始めたようだ。中までは、どうだろう。気がついているといいんだが。

 離れて待っててもいいけど、何時になるかもわからない。その間に、数が少ない方へ向かって走る。

 鳥元とりもとへは付かず離れず。入り口によれば、ゾンビが見えて離れすぎれば別のに襲われかねない。

 糞、こんなチープなデパートに入るだけなのに、どこまで苦労させられんだよ。

 内心で毒づいて、それでも周りを走り続けてようやく見つけた。

 ちょうど東側。未だにきっちりと閉じられた扉には、辛うじてゾンビが少ない。

 よく見れば、店内のゾンビが一定の方向に向かっているのが見える。全部ではないが、成功はしているみたいだ。

 問題は店内への出入りを阻む自動ドアか。

「開くのを待ってるのは無理か……」

 走りながら、探す。

 ない。都合よく落ちてるレンガも、ボールも。

 とはいえ、まだ俺の背中には背負ってきたリュックがある。多少は減ったけど、中にはまだ缶詰やらペットボトルやらが入っている。

 こんなことなら、あの家に置いてくればよかったな。

 背中からおろし、走りながら右手に持ち替える。手応えは、程よく重い。

 振りかぶって、投げた。

 まっすぐとは行かないが、的はデカイ。

 勢い良く投げたリュックは、自動ドアをしっかりと捕らえて砕いた。

 ガラスの欠片が当たりに散らばる。普段はやっちゃ駄目だとわかっているから自制するとはいえ、こういうのは気分が良いな。

 遠く、リュックが滑っていくのが見えた。

 ガラスの上を走る。

 店内へ。落ちたリュックは、ゾンビの中。まずは保留。

 ざっと見渡すと、右手側に階段。まずはそこへと向かう。

 一体、物陰から。しゃがみ、小奇麗な白いタイルの上を滑ってかわす。

 立ち上がり、跳ねるように階段を登る。

 未だにつきっぱなしの音楽と、ゾンビのうめき声だけが背後から聞こえていた。

 なんとなく14時頃がアクセスが多いみたいなので、次回は7月4日の14時からです。

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