第6話 エンカウント率が増えてきたな……
やっと冒険者の街につけそうです。
珍しくトラブルもない旅です。
「モンスターに襲撃されてるじゃない!」
「街の外の移動中に、エンカウントは普通だよな? レベリングも出来て一石二鳥じゃないか?」
「…………」
冒険者の街へ向けて馬車の旅を始めてから、もう10日以上たっていた。
シーナの話では、あと2~3日で冒険者の街に着くぐらいの距離まできているらしい。
俺の予定では1週間もあれば、余裕で到着できると思ったのだが……。
馬型ゴーレムで2~3日でつけるから倍の6日に余裕をもって1日多めで7日ぐらいかなと、シーナに説明したら思いっきり罵倒された。
曰く「あのゴーレムを基準にするな!」らしい。
それに今のペースでも、街で休息を取ったりしてない分十分に早いらしい。
多少時間的な余裕があったとしても、街を無視して進むような事はよっぽど急いでない限りしないしな。
俺達みたいに、野営場所に拠点取り出してなんてする旅人なんてそうはいないだろうし……。
あと、一応旅なれてるセリカにコレが普通なのか聞いてみたら……時間なんか気にしてないから解らないとか。
確かにあいつは計画的な旅なんてしそうに無いか……。
まあ、最初の日数計算のところで大幅に間違っていたのだが、それでも思ったように進めなかった理由はもう一つある。
馬が遅いのだ。
全力疾走までいかなくても、速いペースで走らせるとすぐにばてる。
「こんなに馬ってスタミナないものなのか?」とシーナにたずねたら、「名馬とかじゃなく普通の馬なんだからコレが普通よ!」と呆れられた。
他にも、モンスターなんかが現れた時に殲滅しながら進もうとすると……ティナやセリカがサーチ&デストロイで殲滅速度的にはいけるのだ。
馬がモンスターに怯えて進むのを止めるのだ。下手をすると引き返そうとすらする。
その上モンスターを殲滅したあとも暫く落ち着かせるのに時間がかかり出発が遅れるのだ。
「この馬、臆病すぎないか?」という俺の言葉に、「軍馬じゃないんだからコレが普通よ」とシーナがため息交じりで返してきた。
WMOの中の馬って、どんなランクの低い奴でも直接攻撃を喰らったりしなければ戦闘中に硬直なんてしないし、戦闘後に動かなくなるなんて事もなかったからな……。
「今日はそろそろ、進むのをやめて、この辺の森に入って拠点を出すわよ」
シーナが少し傾いてきた太陽と手元の地図を見ながら馬車を止める。
「ええ~~まだ明るいよ~もっと進もうよ~」
「今日はまだモンスターとあまり戦っていません!」
ティナとセリカが反対の声を上げる。
それにしても、なんだかんだ言って旅のメンバーは固定に近くなったよな。
まあ、それも当然かもしれない。
ティナとセリカは、留守番はいやと断固拒否だし。
マユさんは何気に家事が忙しくて、ほとんどこっちに参加できない。砦の部屋の掃除や片付けなど任せてしまってるからな。
レナさんとミルファさんは偶に付いてくるのだが、ミルファさんの動きがレナさんの護衛だから馬車から殆ど動かなくて戦闘に殆ど参加しない。
あと、レナさんが旅なれて無いせいもあって、疲れて次の日寝込んだりするんだよな。
少しずつ慣れるという意味では時々参加するのも悪くないんだけど……はっきり言って付いてくるだけなんだよな。
あと、リーフさん達はまだ狐っ娘姉妹の心の傷が癒えないから現状維持って感じだな。
すぐに治る様なものでもないか……まあ、俺が前に顔を見せた時、リーフさんにしがみついてガタガタ震えずに、リーフさんの手をギュッと力いっぱい握ってるだけだったから少しは前進してる気もするが……。
狐っ娘姉妹が落ち着いたらあの5人にもギルドの説明とかしないとな。
で……最後にシーナ。
彼女は、旅のメンバーには必須で、本人が「今日はパス」とか言っても強制参加に近かった。
うちのメンバーの中で唯一(リーフさんもかも知れないが……)、まともな旅の知識を持っていたのだ。
地図をみて、「こっちの方が近道じゃないか?」とか聞くと、「今の時期そっちは道がぬかるんでそうだから馬車で通るのはきついわよ」とか……。
「何でもう馬を休ませてるんだ? 早くないか?」なんてのには、「いい水場がこの先なさそうなのよ、水は魔法で用意できても草とかの用意はめんどうだからね」とか……。
「今日はもう早いところ拠点を出してしまうわよ!」「まだ昼過ぎだぞ?」「雲行きが怪しいのよ、急いでないんだからどしゃぶりの中を強行なんてするもんじゃないわ」とか……。
旅の心得的なものを良く知っていたのだ。
ちなみに、俺たちはというと……。
「困難でも突破すればいいです!(力ずく)」
「色々あって面白いよ~(トラブルを楽しむ)」
「思うように行かない……(WMOと違いすぎる)」
はっきり言って役立たずだった。
留守番してる、マユさん、レナさん、ミルファさんは旅自体殆どした事が無いので問題外だし……。
下手をするとちびっ子4人の方が旅慣れてる可能性すらある。
そんな訳で、シーナは旅に欠かせなかったりするのだ。
っと……少し思考が脇にそれたけど、確かにティナやセリカの言うようにまだ拠点を出すに早い気がする。
何か理由があるのか?
「ここを過ぎると、もう森とかなさそうなのよね」
ああ、確かにそれだと、ここで拠点だして明日に備えた方がいいかもしれない。
旅にでて2日目ぐらいにそろそろ暗くなってきたからと拠点を出すのに手ごろな場所を探して酷い目にあったことがあるからだ。
結局あの時は、拠点出さずに野宿したよな。
さすがに、堂々と平原に拠点を出すわけには行かないしな。馬型ゴーレムの時のようにとんでもない騒ぎになったら困るしな。
あと、幻惑石を使ったりして隠蔽するのも平原でやるには少し難しい。
簡単に言うと、拠点そのものを隠す事自体は簡単でも、本来見えるはずの遠くの景色まで違和感無くってのが難易度が高いのだ。
背後が崖だったり森だったり、近くの物を見せるだけなら比較的簡単なのだけど……。
「リーちゃんに頼んで森を作っちゃう?」
「おばか! それをしたら大騒ぎになるでしょ!」
うん、森を作れるかどうかに突っ込まない辺りシーナも毒されてきたのかもな。
ただまあ、冒険者の街までもう森がないって言うなら……M&Mの方の防衛結界発生装置を、このあたりで設置しておいた方がいいかもしれないな。
「師匠! この森奥の方に、モンスターが居ます!」
うん、言葉の端々に倒しに行きたいという感情がにじみ出ている。
さっきまでは、モンスターと戦いたいから進むと言って居て、森のほうは馬車の近辺しか意識を向けてなかったんだろうな。
俺も詳しく森の方を索敵するとそれなりにモンスターが見つける事が出来る。
流石、冒険者の街に近づいただけはあるな。エンカウント率とか生息数が増えている。
「師匠!」
戦いに行っていいですか? とセリカは言葉ににじませる。
「シーナ、今回は数日ほどここに滞在しようとおもうから、その間拠点を出し続けても見つからないような場所探してくれ」
「え? 明日は進まないの?」
不思議そうにシーナはたずねてくる。
「M&Mの結界の設備まだ出来てないからな。ここで作ろうと思う」
「ああ、あれね~確かに、やるならもうこのあたりしかないか~」
ついた後に、冒険者の街に転移魔法のポイントを記録したりして、エルフの森でやるとかもあるけど……。
貴重な触媒が消えるからな、温存できるなら温存したい。
「それに、この森にはモンスターが結構居るからセリカやティナも退屈しないだろう」
「本来はそういう場所避けると思うんだけど……」
「了解です! 師匠!」
「うん、面白そうだからいいよ~~」
こんな感じで暫くの間、この森で過ごすことになった。
時間も、いくらかあるし、留守番してるメンバーのレベリングもやっておこう。
M&Mの方の防衛結界発生装置は、3日間ほどで完成した。
砦の施設整備用ゴーレムをこっちに投入して、大幅に時間短縮が出来たのだ。
森のモンスター退治は、最初の予定から少しずれていた。
ティナが森の中の妖精さん達から、「モンスターがこの頃増えて困ってる」と言うような話を聞いてきたのだ。
その話を聞いて、セリカとティナがますますやる気を出して森のモンスターを絶滅させかねない勢いで戦いまくったのだ。
結果、「妖精さん達に凄い感謝された」とティナが言っていたのだが……モンスターの勢力図が変わって妙な事にならないか少し心配になった。
そういえば、この森凄くモンスターの種類が豊富だったよな。
獣系、植物系、ゴーレム系、昆虫系、鳥系、エレメント系……。
よく今まで、共存できていた物だ。
絶妙なバランスとかだったら確実に破壊してるよな……。
そして、朝日が昇って間もない時間。俺たちは森を出発する。
ティナが「またね~みんな~」とか言って手を振っている。多分妖精の皆に対してだろう。俺には見えないが……。
その後の行軍は少し強行軍にする事になった。
普通に行けば2日間の行程だが、野営に拠点が使えないのでいっそのこと野営無しで進む事にしたのだ。
夜間も進めば、明日の昼前には冒険者の街につける距離だったからだ。
まあ、普通はそんな無茶はしないのだが……野営で見張り番を立てて~なんてやるよりも普通に進んだ方が手っ取り早いと言う事だ。
「「夜は夜で別のモンスターと戦える(を見れる)から!」」
「見張りは退屈だからな~」
シーナは、俺たちの言葉に頭が痛そうに暫くうめいていたが……「あんたも色々染まってきたわね……」なんて何か色々諦めたように言葉を漏らしていた。
食事も弁当を、明日の朝の分まで馬車に積み込んで作る必要もない。
馬を休める以外は、ノンストップで冒険者の街まで進んだ。
そして、翌日の昼前……。
「あ~~~~見つけた~~~アレが冒険者の街だ~~~~」
ティナがずっと遠くの方を見ながら声を上げる。
多分、妖精か何かの力を借りて千里眼とか遠視とかそういった類の力を使っているのだろう。
普通に視力が恐ろしくいいってのも否定できないけどな。
「あれ? でも……なんか……ボロボロだよ?」
歓声を上げていたティナの声が怪訝そうな色合いを帯びる。
ボロボロ? 古い街だから古い建物ばかりとかそういう事か?
ちょっと気になったので、『遠視(M)』スキルを発動する。
このスキルは、遠くの物が見えるようになる索敵スキルの一つだが、いまいち使い勝手が悪くて好きじゃないんだが……。
簡単に言うと、近くの物が見難くなるのだ。
「ああ、あれが冒険者の……って、本当にボロボロじゃないか!」
「だから言ってるよ~」
俺が、『遠視(M)』スキルで見た冒険者の街は……。
門が破られ、町の所々から細い煙が上がっていた。
見た感じだと、今火事が起きているとか、襲撃を受けてるわけじゃなく、襲撃を受け終わった後って感じだ。
「って、待ちなさい! 異常事態が起きてるなら慎重に様子見するのよ!」
セリカが、シーナから馬の手綱をぶんどり馬車を加速させる。
一体、冒険者の街になにがあったんだ!?
とにかく俺たちは、馬の速度をあげ、冒険者の街に急行する。
次章は、冒険者の街です。
一体なにが起こったのか!?
乞うご期待。
慎重派(?)のシーナさん……色々苦労が耐えません。
他の皆があまりに「ガンガン行こうぜ!」過ぎるのか?




