第1話 そのころ居残り組みは……
今回は、砦に行かずに居残りしてたメンバーの話です。
※マユさん視点です。
ジュージューと肉が焼ける音を聞きながら焼き加減を調整する。
キッチンには美味しそうな匂いが広がり、お腹の虫が鳴りそうになるけどがまんです。
「焼き具合はこれくらいでいいですね。あとは……」
食糧庫から取り出してきたいくつかの果実を、適当に切り分けていく。
エルフの森に居たころ、ティナさんに「日持ちのする果物とかないですか?」と聞いたら沢山集めてきてくれた物です。
まだ、硬くて食べられた状態じゃないものばかりでしたが、「暫くすると熟して食べられるんだよ~」って事でした。
あと名前は、ココの実とかクコの実とかココルの実とか彼女は言ってたけど、いまいち差が良くわかりません。
知っているアイテムや、マジックアイテムの素材とかならある程度鑑定はできるのですが……。
その時たまたま一緒だったクロさんが鑑定して「ちゃんと普通に食べられる実みたいだ」って言っていたので問題はないはずです。
切り分けた一つを摘んで、
「うん、甘酸っぱくておいしいです」
つ、つまみ食いじゃないですよ、味見です味見!
一応コレで完成ですね。
焼いた肉と果物だけの昼食ってのは少々さびしい気がしますけど、旅の途中の食事と考えたら十分すぎますか。
干し肉にカチカチのパンだけって事もあるそうですし。
あ、そういえばパンがないですね、食糧庫には……多少残っていますが残り少ないんですよね。
まあ、今日は無しにしておきましょう。
手に入れるには街などに行かないとダメですし。パンは森で収穫できる類の物ではなかったのでエルフの森では手に入らなかったですしね。
それでは皆さんを呼びに行きますか。
コンコンコン。
レナさんの部屋の扉をノックする。
「レナ……さんお昼ごはん出来ましたよ~」
レナ様じゃなくて……レナさんには、「様なんて呼ばないでください」とは言われているんですが……まだ慣れませんね。
「わかりました、ありがとうございます」
「お昼~? すぐいく~」
あ、ミルファさんも一緒でしたか。
感情を取り戻した直後はガチガチの従者という感じでしたが結構丸くなって……なりすぎな気もしないでもないですが。
レナさんは、友達や姉妹感覚の今の関係が凄くうれしそうなので良かったのでしょう。
クロさんが「ティナに毒されてる気がする。このままいくとまずいんじゃないか?」なんて言ってましたが気にしすぎでしょう、多分……。
レナさんとミルファさんは直ぐにダイニングに向かうと言っていたので、あとはセリカさんですね。
あと、狐さん姉妹は、まだ寝てる様子だったのでご飯の後にもう一度覗いてみましょう。
クロさん達が連れてきてからずっと眠ったままですが大丈夫なのでしょうか?
怪我とかは全てクロさんの魔法で回復させてはいるみたいでしたが……。
そんなことを考えながらセリカさんの部屋に行ってみたがいませんでした。
いったいどこに行ったのでしょうと外に探しに出てみると、店の前で素振りをしているのを見つけまた。
「セリカさん~ご飯ですよ~」
「今すぐ行くよ~」
剣を腰に戻して近づいて来ますが、良く見ると凄い汗だくになっているじゃないですか。
「ちょっと、セリカさん一体何していたのですか!?」
「この周りを探索してモンスターを探してみたんだけど、全然居なくてしょうがないから素振りをしてたんだよ。モンスターの大群とか襲ってきたら嬉しいんだけどね」
最後に凄く物騒なセリフが聞こえた気がしますが……無視です、なかったことにします! 本当に来たらこまりますから。
「ご飯の前にお風呂で体を流してきてください。お湯を作りますから」
「ありがと~」
そういえば、クロさんが「コレはお風呂じゃない!」と言ってお風呂を新しく作ろうとしていますが酷いですよね。
井戸水や川の水なんかの冷たい水で、それも屋外で体を流さずに、家の中でお湯を使って体を流せるんですから立派なお風呂ですよね!
そんなことにGP使うより「生産設備のランクが足りない」ってクロさんも言ってるんだからそっちにまず使うべきだと思うんですよ。
そうすれば私の分と合わせてもっといい設備でいいものが一杯作れますよ!
何て事を考えながらお風呂の大きな桶にお湯を溜めた。
出てきたセリカさんが「今日はなんか物凄くお湯が熱かったよ!」なんていってましたが、温度調節に失敗してしまったのでしょうか?
こんな初歩的なことで失敗するなんて、少し練習しなおした方がいいのかもしれませんね。
肝心のお昼ご飯は、レナさん、ミルファさん、セリカさんのみんなが、美味しそうに食べてくれました。
肉だけは、セリカさん達が色々仕留めてきてくれるので量的に足りないと言う事もないので、そういう苦情もでません。
ただ……何のお肉かを選ばなければですが……。
ですので、食事に出すお肉は”お肉”とだけ言って何のお肉かは言わないようにしています。
気にする人も居るでしょうし、気にしたら……だめです!
美味しく食べる為に!
お昼ご飯の後、レナさん達に食器の後片付けを任せて、私は狐さん達の様子を見に行きます。
コンコン
ガタガタガタ
部屋の扉をノックすると中から物音が聞こえてきます。どうやら目を覚ましたようですね。
「入りますね」
そう一言かけてから私が部屋に入ると、部屋の隅で布団に包まっておびえた瞳を向けてくる狐さん姉妹。
「…………(ブルブルブル)」
「…………(ガタガタガタ)」
彼女達は互いに抱き合って震えています。
物凄くおびえられています……これはどうしたものでしょうか?
「何もひどいことはしませんから……」
「…………(ブルブルブル)」
「…………(ガタガタガタ)」
これは困りました。
ここまで怖がられると、下手な事をすれば悪化しそうです。
ご飯なんかの必要そうな物をこの部屋に運んであとはそっとしておいた方がよさそうですね。
「今からご飯を用意しますからちょっとまっていてくださいね」
「…………(ブルブルブル)」
「…………(ガタガタガタ)」
私は、そっとその部屋を出る。
狐さん姉妹は相当酷い目にあったんでしょうね……。
彼女達がこれまでを考えると本当に心が痛みました。
その後、狐さん姉妹の分のご飯を作って、彼女達を余り刺激しないように入り口あたりにそっと置きました。
一緒に水がめと木のコップを二つも運び込んで喉が渇いても困らないようにしておきます。
本当ならお風呂とかに入れてきれいにしてあげたいところなんですが、今はまだまだ無理そうです。
あと、トイレ用に壷などを一応用意しましたが、部屋が汚れてしまっても今はしょうがないでしょう。
今はとにかく狐の姉妹が体調をくずしてしまったりしないように気をつけてあげるぐらいしか出来そうにないです。
そして暫く後にもう一度部屋に行くと、ご飯がきれいになくなっていてスヤスヤと眠っていたのでひとまずは安心しました。
狐さん姉妹の世話もひとまず終わり、時間があいた昼下がり、私はポーションなどを作ることにしました。
これからまだトラブルが続くにしても消耗品などがありすぎて困る事はないでしょう。
それに早々簡単に痛んだりしないので作り溜めておけばどこかの街に到着した時にすぐにお店が開けるようになります。
倉庫の容量に困ってる事もないですしね。
あと作成にあたっては修行もかねて、作成時には追加素材を使わないようにクロさんに言われています。
追加素材を入れると品質がいいものが出来やすいのですが……。
使わなくてもいいものを作れるように成るための修行らしいです。
たしかに、クロさんは使ってないのに簡単にSランクのものを作っていました。
あ、Cランクのポーションになってしまいました。
考え事しながらの作業はやぱりだめですね、やるなら集中しないと。
これは、商品になりませんクロさんの作る上級の薬の素材用に……。
今度はBランクですか……。
コレも素材用ですね。
B、A、A、C、A、B……。
う~ん、今日はSランクが中々出来ません。
調子が悪いようなので今日はやめておきましょう。
出来たAランクのポーションを特売用としてお店の在庫に加えて、後は全てクロさんの素材行きです。
「上級薬の素材なら品質のいいほうを使いたいのだが……」
なんてクロさんの声が聞こえるような気がしますが、そっちは商品なのです!
そんなことを考えながら早々に生産を切り上げかたづけをしていたところ……。
『クロ(ギルド):マユさん~手が空いてたらギルドコアのところまでお願いします。返答待ってます』
頭の中にそんな言葉が浮かんだ。
これは前にクロさんとシーナが使っていたPTチャットのようなものだ。
クロさんが言うにはギルドチャットと言うらしい。
彼以外は発信できないが、受信だけなら皆が出来る。
それに、ギルドコアにはメンバーにメッセージを送る機能があるので、一応手間はかかるが私たちが拠点に居る限り意思の疎通はできるようになっている。
何かあったんでしょうか?
ともかく、ギルドコアまで急ぎましょう。
皆さん無事だと良いのですが……。
次の話は、クロとシーナで砦を探索します。
ココの実・クコの実
仁果類つまりリンゴとかナシの仲間の果物っぽい。
両方色はオレンジ。
味は品種改良されてないリンゴ(ココの実)、水分が大目のリンゴ(クコの実)って感じ。
ココルの実
柑橘類つまりみかんなんかの仲間の果物っぽい味。
赤い皮で小袋の中の果実も赤色。
見た目としては赤いグレープフルーツのような感じか?
※アイテムなどの品質について
内部変数的には±α、つまり-α~+αの範囲で変動する。
αの値は、それぞれのアイテムによって決まっている。
ただ、それぞれの品質の呼び方はばらばらである。
例えば……。
品質:A
品質:よい仕事をしている
品質:不良品
品質:+3
などなど作り手(生産者ではなくWMOの世界の作成者)が設定できるので多種にわたる。
時には最高品質の物に 品質:できそこない なんて捻くれたつけ方をされたアイテムも……。




