第5話 ティナを止めろ!?
風邪ぎみでいまいち調子が出ませんが更新です。
むせ返るような血の匂い。
物が焼けるこげた匂い。
まさしく惨状呼べるものがそこにあった。
相手が盗賊だったので、同情するとか怒りを覚えるとかは無かったが、それゆえにその場の誰もが声を上げる事もできずに立ち尽くしていた。
そんな中、シーナが声を上げる。
「あつぅ! って、草原に炎が燃え広がってるじゃない!」
「まずい、直ぐに消さないと!」
慌てて俺が水の魔法を唱えようとすると、
「あんたはやめなさい! 一面を凍りつかせる気? マユ、頼むわ」
う、確かに制御しきる自信はない……本気で魔法に関しては、何とかしないとやばいかもしれないな。
「はい。『ウォーターボール』」
マユさんは、水系の範囲魔法を打ち込み消火する。
『ウォーターボール』は、消火活動とかには便利な魔法だが、攻撃魔法としては殆どダメージを与えれない。
一部の炎のモンスター以外には攻撃にならない、もっぱら水を出す為だけの使われ方の不遇な攻撃魔法(一応)だったりする。
ゲーム内では、宴会芸の一つの認識だったが、実生活には単体攻撃魔法の『ウォーター』と合わせ水の調達に地味に役立っている。
「ふう、何とか消えたみたいです」
マユさんは、額に浮かんだ汗を袖でぬぐっている。
「おつかれさん」
「おつかれ~」
「おつかれさま」
「それにしても、一体どうしたのあの子は!」
シーナが疑問の声を上げる。
「物凄く、強かったよ~。一度戦ってみたいよ!」
セリカ……あのティナを見てその感想を抱けるのは地味に凄いな……。
それはともかく、あれは……。
「多分、そこの人たちが2人目のエルフを捕まえるといったような事を言ってたからではないでしょうか?」
レナさんが先ほどのやり取りを思い出しながら答える。
「俺もそう思う。盗賊たちがティナを捕まえようと話はじめたあたりで、ぶち切れてた気がする」
あいつらが「2匹目だ」とか言ったあたりではもうぶち切れてた気がする。
「でも、何でいきなり切れるの? 盗賊が襲ってきたら普通に捕らえられるとかあるでしょ? 遭遇したあたりは普通だったわよ」
シーナは納得できないって感じでたずねてくる。
「言われて見れば……でも、2人目だっていうからには、他にも捕らえられた人が居るから怒った?」
でも、それなら盗賊ってものに対して最初から怒っていてもいいような気がする。
同族だから? う~んエルフの同族意識はいまいち解らないな。
「多分、エルフを捕まえようとする人間ってのに反応したんだと思います」
マユさんが声をあげる。
「マユ? 何かあるの? エルフを捕まえるって事に」
「大昔の人々がエルフを奴隷として扱ってた時代があったとかという話を耳にしたことがあります」
大昔か……。エルフの場合だと普通に子供のころの出来事でしたとかありそうだな。
そんな話をしていたところで、ミルファさんが声を上げた。
「お姉ちゃんを追いかけないの?」
あああああ~そうだった、あの状態のティナを放っておくのはまずい気がする。
「今すぐに追いかけるぞ!」
「ちょっとまって、レナやミルファを連れて行くのはまずい気がするわ」
直ぐに追いかけようとしたところでシーナがまったをかける。
「何でだ?」
「もし本当にエルフを捕らえて奴隷にしてるとすると、相手は普通の人間とは思えないわ。どんなものかはともかく、相当の力、権力的なモノをもっているんじゃない?」
「下手すると、相手はどこかの国のお偉いさんとかって事か?」
「その可能性もあるって事よ。そんな場所にレナ達がのこのこ出て行ったら……」
確かに、他の国のお偉いさんの所に襲撃するのに、レナさん(一応王女)達も加わったら外交とか政治的に色々まずい事になりかねないか……。
「となると、メンバーを分けた方がいいか……」
「ま、それが無難でしょうね。自分達を中心に戦争なんて絶対にごめんだわ」
と言う事で、俺たちはティナを追いかけるメンバーとして俺、セリカ。
この場で居残るメンバーとしてシーナ、マユさん、レナさん、ミルファさんに分けた。
シーナも追いかける方に入れようかと迷ったが、残るメンバーに索敵能力が殆どなくなるので、この人選にした。
彼女達にはこの近くに適当な大きさの場所を見つけてもらって、拠点をだし、そこで待ってもらう事になった。
「いくか!」
居残り組みと分かれて街道を進む。
「戦いだよ~!」
うん、しょっぱなから凄く不安になったが、まあ強襲を仕掛けるなら戦力的にはこれがいい……と思う。
気を取り直して、ティナを追いかける。
ギルドメンバーだから 『索敵(M)』スキルを使ってMAPを確認すれば位置がわかる。
うん、そろそろ街に入るところ……。
街に入る……。
「街に入る!?」
やばい、今の状態のティナが街に行ったらどんな事をしでかすか予想がつかない。
もしやフォレンストはこういう事態が起こることも込みで一緒に居るなら森の外に出ても良いって言ったのか!?
想像以上にやっかいそうだぞ。
「セリカ急ぐぞ、ティナがもう直ぐ街に入る! 今のあいつは何をやからすか解らないか街に入れたくは無い!」
「はい、師匠! 戦ってでも止めるって事ですね!」
うん、嬉しそうにするなセリカ!
本気で人選間違ったかもしれない……。
俺たちは全力で走って、速度UPの魔法やスキルも使って急いだのだが、結果は……。
「間に合わなかったか……」
街の門扉だっただろう残骸が散乱し、門番が二人ほど倒れていた。
「大丈夫か?」
近寄ってみると、どうやら気絶してるだけのようで少しほっとする。
一応無関係の人間を問答無用で殺すほど理性が飛んでいるわけではないようだ。
街の中はパニックとかが起きている様子もない。
それにしても、門が破られたのなら、もう少し人が集まってきていてもいいような気がするんだが……。
「うわ~~~門をぶっとばしているね~すごい~~」
セリカ、そこまで行くと少し尊敬するかも。
「バカな事言ってないで急ぐぞ!」
街に入りティナの居る場所に向かっていると、住民たちの殆どが同じ方向を見ているのに気がつく。
俺の目的地もそっちの方角だ。
黒い煙が上がっているのが見えたりする。
きっと工場か何かの煙に違いない……そうであってくれ……見なかったことにしようかな……。
う、やばいつい現実逃避しそうになった。
「あの煙、たぶんティナだよ! 見つかったね師匠!」
セリカでもそう思うよな、はぁ。
この後始末どうすりゃいいんだ?
何はともあれ、まずはティナに合流しないとな。
たどりついた先は一軒の豪邸。
そこは、すさまじい惨劇の舞台になっていた。
大量の死体。それも切り刻まれたり、焼かれたり、凍らせたり、頭が消し飛んだり……。
手当たり次第に殺された感じだった。
屋敷に入る前には死体の類は見なかったから、無関係の人間を手にはかけてないのだろう。
それだけは安心した。
まあ、入り口で悩んでいても仕方ない。
こうなったら、俺たちも突入しかないな。
「いくぞセリカ」
「はい、師匠!」
俺たちはそのまま豪邸の中に入っていく。
MAPを見なくても良くわかる。
蹂躙した後をたどればいいのだから……。
そして、暫く進むと、戦いの音……いや、誰かの断末魔の叫びが聞こえてくる。
多分ティナはそこに居るだろう。
そういえば……。
ティナに追いついても、俺に出来る事なんてあるのだろうか?
追いつくことばかりで、何も考えてないぞ!?
そもそも、ここに捕まったエルフが居るのか?
う……指名手配の張り紙が仲良く三つ並ぶのが思い浮かんでしまった。
ティナ、行き当たりばったりじゃないだろうな!
ちゃんと成算があるんだろうな。
(「うん、ちょっと大きな御家の人に聞いてみよう」)
なんか凄いいやなイメージが浮かんだ。
めちゃくちゃ不安になったぞ。
大丈夫なんだろうな!
本当に、大丈夫なんだろうな、ティナ!
次の話はやっとティナに追いついて……。
エルフ救出なるか?




