第4話 狩られるのはどっちだ?
普段怒らない人が切れると……凄く怖かったりします。
突然襲ってきたチンピラの様な盗賊たち。
とは言っても、シーナとティナの妖精達の索敵でずいぶん前から怪しい集団が隠れてるのはわかっていた。
避けるために街道をそれても、諦めるかどうかわからなかったし、それ以上に道に迷うのが怖かった事もありそのまま進んできたのだ。
ついでに言えば、こちらがまだ気がついてないと思って油断してくれた方が対処しやすいしな。
まあ、万に一つぐらい罪も無い一般市民って可能性もゼロではなかったので遠距離殲滅はしなかった。
そんな訳で、予想通り遭遇した盗賊たちなんだが、数は23人。
何かの毛皮で作った鎧を着て鉄製のアックスを持った奴がリーダーだろうか?
それ以外は、片方の篭手だけ鉄製でそれ以外薄汚れた皮の鎧だったり、穴の開いた金属製の鎧を何かの皮で塞いでたり、腐りかけた木の鎧、ただの厚手の服なんてのも居る。
武器も、さびた鉄の剣なんてのはいいほうで、きこりのオノだの、こんぼうだのを使っている奴まで居る。
4人ほどが少し離れた場所から弓で狙っているが、その弓もそこまで質がよさそうには見えない。
それに比べて俺達は……。
セリカは、結構傷だらけになっているが、それなりの防御力のある金属製の軽鎧に金属製の剣。
まあ、細かい性能については聞いたり見せてもらったりはしてない。
そんな話をすれば戦おうとか言い出しかねないしな。
ミルファさんは、少し凹んだ鉄の鎧に俺が適当に街で買った鉄の剣だ。
凹んでいるのは最初に会ったときの戦闘でついたモノだったりする。
シーナは、動きを阻害されにくい皮製の鎧に、金属製のナイフ。
まあ、防御力より速度重視だ。
ティナは、緑色をした何かの皮の鎧だ、一応ナイフは腰に刺しているが戦いに使っているのを殆ど見たことは無い。
そういえば、魔法の杖とかそういったものを装備した方がいいんじゃないか?
外観から戦闘要員に見えるのはこの4人だけだったりする。
もしかして、俺、マユさん、レナさんの護衛に4人がついているように見えたのか?
3倍程度の人数差で襲ってくるのはそれなりに強いからだと思ったのだが……。
装備の質とかから見ると、4対23で考えていそうだな。
ちなみに、残り3人の装備は……。
俺は、ゲームの世界での店売り最高の服。
もちろん、特殊な糸で織られた防御&魔法防御の高い一品だ。
それに加えて、これまた持ち込みのアクセ類。
武器は剣、持ち込み品ではあるけど、【モンスターマスター】で装備する為に少しランクの落とした店売り品だ。
まあ、ゲーム世界で適当に店売りでそろえたといっても、この世界ではどれも、国宝モノになりかねないらしい装備品らしい。
他のメンバーに貸すことも考えたりしたが、装備制限でペナルティなしで装備できなかったりして俺が全部使っている。
マユさんとレナさんは、厚手の布の服にジーンズの様な丈夫なズボン。
両方マユさんの持ち物だ。レナさんはそれをもらってサイズ調整の手直ししたぐらいだ。
武器も腰に挿したナイフぐらいで殆ど見た目は戦闘なんか出来そうには見えない。
それでは攻撃力はともかく防御力が不安だったので、俺がちょっとしたアクセサリーを作った。
素材はシルバーつまり銀だ。
金と銀についてはある程度素材をもっていたのだ。
金貨や銀貨って便利なものがあったからな……。まあ、金を使わなかったのは貧乏性だったりするが……。
そんな銀を使ってリングを作り、結構本格的に魔法でエンチャントをかけたのだ。
防御&魔法防御UPのエンチャントで、普通の鉄の鎧より堅くなったのは内緒だ。
うん、思いっきり見た目を裏切っているな。
とまあ、盗賊の20~30人程度なら特に問題なく殲滅するような俺達を獲物だと思い続けてる盗賊達。
「さっさと、大人しく武器を捨てな。悪いようにはしないぜ」
「そこのぼっちゃんは有り金全部置いてきな。命だけは助けてやるぜ~」
「さっさと、女でたのしもうぜ~」
「死にたくなかったら、さっさと脱ぎな~」
「ぎゃははははは」
「一応、女は売り物だから傷つけるなよ~」
「男は面倒だから殺しちまおうぜ~」
命が惜しかったらとか言ってるけど、お前ら無事に帰す気ないだろう。
まあ、俺達も降参する気あるわけ無いんだがな。
テンプレのやり取りだけど、様式美とかいうやつなのか?
さっさとはじめよう。
こんな男達を奴隷にしたくもないから、その点は注意して戦わないとだめだけどな。
そんな事を思っていたところで、盗賊の一人がティナの方をみながら震えた声を上げた。
「お、お頭。緑の鎧のやつ、エルフじゃねえですか?」
それに気づいた盗賊たちが、ティナの方を指差してざわめき始める。
「確かにそうだ。俺達ついてるぞ! わざわざ向こうから来てくれるなんてな。おう、お前ら。話は変わったあのエルフ以外は皆殺しにしてもいい。エルフだけは無傷で捕まえるんだ。逃がすんじゃねぞ!」
盗賊の頭の声に少しの驚き混じりだが、うれしそうな感情が透けて見える。
なんだ?
なんか雲行きがおかしな方向になって来たな。
「ついてるぜ! もう、2匹目だぞ!」
「それに今回はあのバカ高い魔法の罠をつかってねぇ。大もうけだなこりゃ」
「…………」
こいつら、エルフを捕まえに来たのか?
高値で売り買いとかされてるのか?
「おい、ちょっと気が変わったそこのエルフを置いていくなら、他は見逃してやるぞ、ありがたく思え」
「…………」
盗賊のリーダーらしきやつが言ってくるが、俺達はそれに声を返すことが出来なかった。
なぜなら、俺達のメンバーの中で恐ろしいプレッシャーを放ち始めたやつが居たからだ。
何故盗賊たちが能天気に笑っていられるか理解できない。
こいつら命が惜しくないのか?
「……2匹……目……?……」
感情の抜けたまっ平らな声の呟きに俺達は恐怖のあまり無意識に一歩下がる。
「おう、いい心がけじゃねぇか。長生きできるぜ~」
何で、お前達は気がつかないんだ?
死にたいのか?
「お仲間にも見捨てられたな。諦めて大人しくしな」
盗賊の一人が彼女に手を伸ばそうとする。
ボトン。
何かの塊が地面に落ちる音がする。
次の瞬間。
その場は真っ赤に染まる。
「ぎゃあああぁぁっぁあ~~~」
伸ばした手を肩から切断された盗賊が絶叫をあげる。
「…………」
そのまま彼女が手を振ると、その盗賊の両足が切断される。
「な…………お、お前ら何をほうけてるやっちまぇ~」
あっけに取られていた盗賊たちに、いち早く気を取り戻した盗賊の頭が声を上げる。
その声で慌てて動き出そうとする盗賊たちだが少し遅かった。
まず最初に離れた場所で弓を持っていた4人の盗賊を紅蓮の炎が焼き尽くす。
「「「「ぐあぁぁぁぁ~」」」」
すぐに四人分の断末魔の叫びがあがる。
「…………」
炎に目を取られていた次の瞬間には、盗賊たちの一角が凍りつき、そして彼らごと木っ端微塵に砕け散る。
「や、やべぇぞあいつ!」
「な、なんとかしろ!」
なんて盗賊の慌てた声が上がるが、近寄る間もなく次の攻撃が彼女から放たれる。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁあ」」」」
数人の盗賊がまとめて岩の槍に串刺しにされる。
「…………」
「と、とめろ~~」
生き残りの盗賊たちが近づいた所で雷撃のなぎ払う。
その一撃で生き残りの殆どが消し炭になっていた。
「……ぐ……ぁ……あ……」
「な…………」
「…………」
殆ど一瞬の虐殺の後、生き残ったのは、盗賊の頭と最初に近づいて両足と右腕を切断された盗賊だけだった。
「…………」
いつもは能天気に笑っている彼女の顔からすべての感情が消えていた。
彼女は一歩前に出ると、最初に向かってきた盗賊の頭をつかみ、その頭と彼女の腕が真っ黒い闇に一瞬包まれる。
次の瞬間には盗賊は事切れていた。
その躯を投げ捨て、一歩一歩盗賊の頭の方に近づいていく。
「…………」
「…………」
「く、くるな~くるんじゃね~~」
あまりの恐怖に盗賊の頭は、座り込んだ姿勢で後ずさる。
しかし、直ぐに彼女は直ぐに追いつく。
そのまま、真っ黒い闇をまとった手で、盗賊の頭の頭をつかむ。
「…………」
「や、やめ……ぎゃああああぁぁぁ…………」
盗賊の頭は叫び声を上げるが次第に小さくなっていき、彼の体から力が抜ける。
「…………」
彼女は、そのまま動かなくなった盗賊の頭をその場に捨てる。
「…………」
そして、街道の先を暫く見つめていたかと思うと、物凄い速度で駆け出していった。
最後に見えた彼女の……ティナの瞳は、長い年月で感情が磨耗しきった長寿の種族がそうあるように、何の感情も写していなかった。
次回は……ティナの行方です……。
彼女による虐殺劇が始まるのか?




