第3話 暴走する少女達
更新です。
ノクターンに飛ばされないように注意しないとな……。
何故こうなった?
ベッドから体を起こした俺が見てる先には……見てるだけ凝視はしてない!
スケスケのネグリジェ姿のレナさんが体中を真っ赤にしながらうつむいている。
その足元には、ガウンだか、コートだか、ローブだか、わからないが脱ぎ捨てられている。
俺は先ほどの彼女の言葉を心の中で反芻する。
「わたくしをクロ様のものにしてください!」
彼女は凄く魅力的だった。
赤く染まった顔は凄く綺麗で、目は恥ずかしさを耐えながらこちらをしっかりと見つめている。
唇はいまにも奪いたいぐらいに、みずみずしく見える。
それに、普段は隠されている胸元にも目が行ってしまうのもしょうがないだろう。
服の下に隠されていたそれは、貧でもなく巨でもなく適乳とも言うべきモノだった。
体のラインは腰の……。
じゃない!
どうすればいいんだ!?
さっきから返事をせずに待たせているから、少しずつ彼女の目に涙がたまってきているぞ!
どうしてこうなった!?
なんで、レナさんが夜這いに来る事になった!?
俺は現実逃避気味に、思い出す、なにがあったんだ?
……けっしてヘタレじゃ無いぞ!
ヘタレじゃ……。
先週、キラーアントの巣を初めて殲滅してから、殆ど毎日アリの巣退治に出かけている。
質より量になるが、それなりに実入りが良かった事と、ギルドメンバー全員に適正なレベルの、狩場が他になかった(簡単すぎるもしくは少し危険)のだ。
まあ、急いで退治するほど大きくは無いようなアリの巣が結構あったのも原因だろう。
キラーアントがあふれ出すと森が大打撃を受ける事になるそうで、森の木々や妖精たちは感謝してるらしい(ティナ談)。
「で、シーナはこのまま貯めるんだな?」
「宝物庫まではまだまだ遠いしね~」
そんな俺たちはギルドコアの部屋に来ていた。
戦利品をGPに変換するのと同時に、使いたいメンバーの個人分のGPを使う為だ。
ギルド施設の設置などの行動はまだ俺以外は操作可能に設定していないのだ。
まあ、何かあって俺が居なくなった場合、マユさん、レナさん、セリア、ティナ、ミルファさん、シーナの順にマスター権限を譲渡するようには設定してある。
「訓練場の決闘の結界水晶はどうしよう? GPはもう直ぐたまりそうなんだよ!」
「ああ、特殊なアイテムがある場合はどうするか? 施設の必要性に応じて俺からGPで買い取る形にするか」
セリカは、まず訓練場を作るつもりのようだ。
まだGPなどが足りないので、訓練相手のゴーレムや撃破経験のあるモンスターの影を生み出すといった機能は当分先になりそうだ。
まあ、広くて、事故の起こらない訓練場だけでも使い道十分にある。
「決闘の結界水晶はいくらになるの?」
「まあ、訓練場なら結構便利そうだし、500GPでいいぞ」
「わかったよ! それじゃあ、あと2~3回アリの巣にいけばいいね~アイアンアントの方なら1回だ!」
そういえば、キラーアントではなくアイアンアントの巣にも1度行った。
キラーアントの巣と思っていたのが、いってみたらアイアンアントの巣だったのだ。
まあ、どっちにしても駆除の必要があるらしいのでそのまま殲滅した。
キラーアントよりも、防御に長けたモンスターで若干殲滅速度が落ちたが、ドロップアイテムが美味しかった。
アイアン(鉄)アントの名は伊達ではなく、地中の鉄鉱石なんかも食べていたのか、純度の低い鉄もドロップしたのだ。
形がちょっとフンの様に見えなくもなかったが気にしないことにした。
そんなわけで、数だけ多いアリ系のドロップアイテムらしく結構な量の鉄が確保できた。
その鉄はギルド用に保管しておいて、後で精錬して純度の高い鉄にする予定になっている。
「私は、前と同じように生産設備の増強ですねランク2のものを3にしていきます。炉なんかの鍛冶設備の設置はまだ先にします。鍛冶スキルはまだ使えませんし」
「そうだな、炉の方はこんどギルドのGPで作ってもいいかもしれないな」
そんな感じでマユさんは生産設備の充実を進める。
まあ、元がランク2(これでもこの世界では上等な方)でランクアップに必要なGPが少ない事もあり、もう直ぐ全部の設備がランク3になるみたいだ。
「私は、まだ……」
レナさんは俺の方を見るとすぐに、顔を背ける。
なんか耳が赤い気がするが大丈夫だろうか?
「お前! 姫様に何かしたのか!?」
レナさんのその様子にミルファさんが首筋に剣を突きつけてくる。
「知らないってば……」
ミルファさんには『隷属』や『命令』の縛りの効果が凄く弱い気がするが……気のせいだろうか?
「ミルファ何をしているんですか! しまいなさい!」
「はい、姫様」
レナさんに言われて即座にしまうが、俺に向ける視線は厳しいままだ。
まあ、気にしてもしょうがないや。
「で、ミルファさんは?」
「もちろん姫様に……」
うん、そうだとおもった。
GPを個人でも管理するようになってからずっと取得GPはレナさんにわたしてるからな。
コレも使い方の一つだし、まあいいや。
「で、最後にティナ……今日の分は決まったのか?」
で、GPの使い方で一番の問題はティナだったりする。
カタログ(設備一覧)の中から、やたらめったら注文する。
GP変換した個数なら飛びぬけて多い。
これは、彼女が溜め込んだ素材を寄付しまくってGPを大量にGETしたとかではない。
WMOのマイホームを飾り付ける家具の様に何の効果も無い設置するだけのものを大量に買い込んでいたのだ。
ゲーム内でギルドのGPで家具アイテムが手に入れられたかは覚えてないが、ティナに言われてカタログを見たところ大量にあった。
ほんの一部、何らかの補正がつくものもまぎれているが、基本置物で見た目だけだ。
そして、見た目だけの役立たずアイテムの価値はWMOでは安かった。
まあ、最上級の豪華なアイテムだと補正もあり、逆にバカ高くなるのだが……。
そんなわけで、ティナの部屋は早くもモノであふれて埋まりかけていたりする。
そういえば、部屋の拡張や増築なんかにGPを使うかどうか少し迷っていたな。
「う~ん、じゃあ、これと、これと、これと、これと……これ!」
今日はなんだ?
ボトルシップにタペストリー? これは塔? 五重塔の絵か?
他には、中に入れる大きな万華鏡?
あとは、何とか人形とかいう割っても割っても中に小さな人形が出てくるやつ……ゲーム世界らしく少し物理法則が無視されて恐ろしい数になっていたり……。
などなど、ティナ主観で面白そうと言うものをかたっぱしから注文していく。
部屋の拡張とか増築にGPを貯める為の我慢は出来なかったようだ。
「う~ん、後残ってるGPは……あ、この隠蔽本棚!」
なんて言いながら、小型のラックの小さな本棚を注文してくる。
本棚を注文とは珍しいと思ったが、最初の接頭語がミソなのかもしれない。
「何だこの本棚?」
「持ち主が操作すると、入ってる本の見た目が変わるんだって」
うん? 見た目が変わるだけか、エロ本隠すぐらいしか意味が無いんじゃないか?
と思ったら、カタログの見本の絵には薄い本が大量に入った本棚の中身が、辞書などのまじめな本に姿を変える様子があった。
中身もセットってことは無いよな?
…………。
まあ、触れない方がいい気がする。
中身が腐っていたらイヤ過ぎる。
そんな訳で、ここ数日のみんなのGPの使い道。
俺:露天風呂に向けて貯蓄中。5割に到達してない。まずは普通のお風呂を作って、拡張してもいいかと迷い中。
シーナ:宝物庫の為に貯蓄中。6割程度といった所。
マユさん:生産設備をランクアップ! 元からあった設備をランク2→3にしている。9割方終わったそうだ。次は商店の機能アップかランク4で悩み中。
セリカ:訓練場に向けて貯蓄中。9割ほど溜まった。最初から多機能の訓練場にするのではなく、割高になるが、徐々に拡張するようだ。
レナさん:まだ何に使うか決まっていない。ひたすら貯めている。
ミルファさん:全額レナさんに譲渡。本人がそれでいいなら別にいいんだけどね。
ティナ:面白そうなものを片っ端からGET。ガラクタの山に部屋が埋もれそう。ただ置物類を店で売ったら、物によっては結構儲かりそうな予感も……。
本日の戦利品……ほとんどがティナのガラクタを指定場所に設置して、今日の精算を終了する。
ここ最近のレナさんの様子がおかしいので、彼女に話しかけようとしたが、その前にぱっと視線をはずして逃げていってしまった。
追いかけようにもミルファさんが怖い顔で牽制してきたので、やめておく。
う~ん、それにしても俺なにかしたか?
おかしくなったのは最初にアリ退治に出かけた後ぐらいだった気はするんだが……。
その後、夕食の時も視線があうと、すぐにうつむいて真っ赤になったりして、とても話せる感じじゃなかった。
少し寝不足なのか隈が出来てる気がするので、相談に乗りたい所なのだが……ミルファさんに任せておくしかないか。
そんな感じで放置していたのが悪かったのか、深夜近くに気配を感じで起きると(敵意がないと危機を探知するようなスキルには反応しない)、レナさんがローブのようなものを脱ぎ捨てる所だった。
そして、俺の布団にもぐりこもうとこちらに近づいた所で、俺と視線が合う。
「あっ」
「どうしたんだ? こんな夜遅く」
レナさんは、真っ赤になって固まる。
そのまま、体感時間で数分が経った時、もしかしたら実際はもう少し短いのかもしれない。
「わたくしをクロ様のものにしてください!」
体中の気力をかき集め、彼女はその一言を告げた。
そして現在に繋がる訳だ。
「うっぅ」
まずい、何も返事を返せずにいたら、レナさんの瞳に涙がたまっている。今にも決壊しそうだ!
据え膳は何て言葉もあるし、レナさんの泣き顔は見たくないし……。
「本当に俺でいいのか?」
少しかすれ気味の俺の問いに、
「はい!」
少し涙声だがはっきりとレナさんが答える。
「わかった。こっちにおいで」
「!!」
布団をめくって迎えると、ドンという感じで、俺の胸にレナさんが飛び込んできた。
パジャマが涙で濡れていくが、気にせず彼女の背中をなで続ける。
そして、大分落ち着いてきた感じがしたので、イザとレナさんの顔をみたら……。
凄く気持ちよさそうに眠っていた。
そういえば、寝不足みたいだったしな……。
今日だけって訳でもないしな……。
でも……、でも……、この状態のお預けは酷いと思う。
かといって、彼女を無理やり起すのもな……。
はぁぁぁ……。
そして次の朝、『危機感知(M)』のスキルが俺をたたき起こす。
目の前にいたのは、殺気を隠そうともしない一人の鬼神!
彼女の剣が俺の首筋に突きつけられている。
いや、ほんの少し血が……。
「貴様! 姫様になにをした!!!」
それは、怒声を叩きつけるミルファさんだった。
次の話は鬼と化したミルファさんです!
クロは生き残れるのか!?




