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第3話 マユの品切れな一日

この所忙しい日々が続いていましたが、やっとひと段落着きました。

これからは2~3日に一度のペースで更新できたらと考えています。

よろしくお願いします。

 朝食の後、M&Mの開店準備の為に店に出てきてみると、シーナが商品棚の前で何かやっていた。

 シーナは確か、朝食作ってる最中にご飯を盗み食いしてそのまま王都に出かけたはずなのですが……どうしたのでしょうか?

 このところセリカさんから逃げまわってるようですし、戻って来るには早すぎる気がしますが……。


 よく見てみると、なにやら商品をごそごそとあさっている?

 まさか、お店の商品に手を付けようというのでしょうか?

 もしそうなら、キツーイお仕置きが必要ですね。

 カウンターの裏に隠してある防犯用のこんぼうを手に忍び足でシーナに近づいていきます。


「時間が無いわ。急がないと……」


 近寄って見てみると、商品ではなく値札の方に何か書き込んでいるようです。

 何をしているのでしょう?


 値札に……○? O? を書き込んでいる?

 『やくそう 15○G』? じゃないですね、『やくそう 150G』ですか……。


「って何してるんですか!」


 慌ててシーナの暴挙を止めます。


「あ、マユじゃない。丁度いいわ、貴方も手伝って」


 シーナは悪びれた様子も無く私にまで手伝わせようとする。


「手伝って、じゃありません! 何してるんですか!」

「だから、商品の値上げよ」


 当然な顔して何を言ってるんですか!


「値札に0を追加って10倍のねだんじゃないですか! そんな事手伝えるわけないじゃないですか!」


 私の剣幕と……手に持ったこんぼうに気づいたのかシーナは慌てて言い訳を始める。


「王都で商品の高騰が始まってるのよ!」

「高騰ですか?」


 シーナの言い訳にしては気になる単語が出てきましたね。

 そういえば、店の外がなんか騒がしいような気もしますし、王都で何か起こったのかもしれません。

 聞くだけは、聞いてあげましょうか、お仕置きはその後で考えてもいいでしょうし。


「そうよ、特に冒険で使う消耗品の類が高騰というか……ほとんど売れきれ状態。残ってるのなんてポーション1500Gとかのボッタクリぐらいよ。それでも買う奴は居るわ」

「なんですか、それ! 一体何があったんですか!」


 ポーション1500Gっておかしいです!

 家のお店はポーションを50Gで売りに出してますよ!

 1500Gで買う人がいるとかおかしいです!


「この所、例のエリクサーやS級モンスターの騒ぎで品不足になっていたのよ。それにともなって値段も上がっていたわ」


 ああ、シーナが説明していた話ですか……。

 ギルドにエリクサー募集のクエストが張り出されたとか。

 報酬が10億Gとかで皆がこぞって探したとか。

 作成レシピの偽者が大量に出回って色々な素材や回復アイテムをゴミの山に変えたとか……。

 伝説級のアイテムのエリクサーがそんな簡単に作れるわけ無いじゃないですか!

 10億Gでも安いぐらいですよ!

 そんな貴重なアイテムをクロさんは私の為に売ってしまったんですよね……。

 生涯をかけてもお返ししないと……。


 って、考えがそれました。

 エリクサーの騒動で、王都中の回復アイテムや素材、それどころか近辺の採取場所すら根こそぎ採り尽くす状況になったとか言ってましたね。

 一度採り尽くしちゃうと直ぐには復活しない。だから、ちゃんと一定以上は残して次も取れるようにするものなにに……。


 その上で、S級モンスターの出現で需要が増大して、このごろ素材すら買えないって話でしたね。


「偽レシピでゴミを作ったという話ですか?」


 本当にもったいない!


「そうよ。で、昨日の昼ごろに国が安全宣言を出したのよ!」

「安全宣言? なんのですか?」

「S級モンスターの話よ。S級モンスターは確認されなかったとか何とか言って」

「え? 何でそんな事を? 討伐もされて無いのに?」

「そうよ、国のお偉いさんは、国民はバカだからそれでだまされるとでも思ったんじゃない?」


 シーナがバカにしたように答える。


「でも何で国はそんな事でだまそうとしたのですか?」

「たぶんだけど、S級モンスターを討伐するための物資が値上がりしてたからなんじゃない? 収束したとだませば値下がりするとでも思ったんでしょ」

「そんなバカな事……」

「で、お昼ごろ出された安全宣言だけど、殆どだまされるような商人はいなくて逆に買い時だと睨んでますます品不足が加速したのよ」

「そ……それは……」

「で、昨日の夜、国が閉まった店をたたき起こして買占めをやったらしいのよ。それも相当強引な手段だったらしいわ」

「国が買占めですか……」

「そ、で今朝それが知れ渡ると、露天商なんかの店を持ってない商人の、ほんの少しの在庫に買いが殺到したと言うわけよ。国が買占めたのは店を持つ商人だけだったらしいから」

「…………」


 確かに、そんな事をすれば値段も高騰するでしょう……。

 王都の近くにS級モンスターが出たから保身の為になりふりかまっていられなくなったのでしょうか?


「噂だと、王位継承権をもった王族が何人か僻地に避難を始めてるって話もあったしね」


 この国の王家は本当に腐っているのでしょうか。

 レナ様は悪い人には見えないのですが……。



 その後、商品の値札を修正を続けて何とか開店時間には間に合わせれた。

 クロさん、セリカさんにも手伝ってもらって何とかと言う感じでしたが……。

 途中、店の前に集まってきてる人の数に気がついたシーナが0をもう一つ追加しようかとか言い出したけど、流石に其れは止めました。

 ボッタクリは好きじゃありません!

 10倍でも高すぎると思っているのに……。


 そして、M&Mの扉を開ける。


「M&M開店で……」


 扉を開けたと同時になだれ込んできた人の波に押し流される。


「ポーション20個」

「やくそう30個くれ!」

「どくけし20個ある?」

「回復アイテム1000Gで買えるだけお願い!」

「ポーション500G? それなら100個、買うぞ!」

「やくそうあるだけ全部くれ」

「え? ポーション売り切れた?」

「やくそう30個!」

「やくそう……売り切れ? ポーションも? 回復アイテム何か残ってない?」


 ……

 …………

 ………………


「ありがとうございました~」


 最後に残ったスパイダーネット(くもの糸で作った丈夫な網で行動阻害効果もある)が売れて店の在庫は0に成りました。

 一応、自分達用のアイテムは残っては居ますが、販売用はすべてなくなりました。




「…………」

「やっとおわった~」

「こんなに売れたのはじめてです……」

「つ、つかれた~」

「お疲れ様ですみなさん」


 手伝ってくれたクロさん、シーナ、セリカさんは疲れ切った様子です。特にクロさんは何か燃え尽きてる感じがします。

 レナさんは手伝えなくて申し訳なかったといった感じで水を用意してくれています。



 水を飲んで一休みすると皆もなんとか元気を取り戻していた。

 

「シーナ、久しぶりに勝負よ!」

「断る!」

「クロ様大丈夫ですか?」

「…………たぶん……」


 さて、お店の商品がすべて売れてしまったと言う事は在庫が全く無いと言う事です。

 直ぐにでも補充しないとM&Mは営業できません。

 もう今日は休みとしても、明日には店を開けるぐらいにはしたいです。


「セリカさん、今日はシーナさんとの勝負は諦めてください」

「え、な……」


 セリカさんは私に文句を言おうとしたようですが、何故か直ぐに口を閉じてしまってます。

 彼女には珍しい事ですが、急ぐので気にしないようにしましょう。


「シーナさん今すぐ王都で材料を仕入れてきてください。多少高めになるのはかまいません」

「あ~むりむり、粗悪品のぼったくりがあれば運がいいほうって感じよ」

 

 手を振りながらやる気なさそうに答えてきます。


「え?」

「だって、商品買えないなら素材から作ろうとするのが普通でしょ。素材ですら普通に高騰してたわよ」


 そんな……それなら……。


「それじゃあ、素材採集をお願いできますか?」

「それも無理よ、王都の周辺は採り尽くされてるし、少し足を伸ばせばいけるような場所は冒険者であふれてるわ」

「じゃあ、迷いの森はどうです? こっちなら……」

「迷いの森は騎士団の奴らが結構入り込んでいるわ。気配を消して偵察程度ならどうとでもなるけど、採取は無理よ」

「え? 隠れて採取すればいいんじゃないですか?」

「偵察って足跡すら出来るだけ残さないようにするのよ? 採取跡なんて足跡どころの騒ぎじゃないわよ!」

「と言う事は迷いの森の採取も無理と言う事ですか?」

「そうよ」

「でも、迷いの森ってS級モンスターがいて危険とおもわれてるんですよね? そんなに騎士団が入ってくるとは思えないのですが……」

「ああ、使い捨ての斥候って感じのが結構入ってるわね。殉職と言う形で殺したい人間なんてそれなりに居る物よ」


 シーナがちらりとクロさんに目を向けたのが少し気になりますが、それより問題は材料です。

 何とか材料を探さないと売り物が無いです!


「少し遠出して材料集めましょう!」

「マユさん、其れはやめてくれ」


 クロさんが何とか口に出したと言った感じでつかれきった体を起す。


「え! どうしてですか!? このままじゃお店の商品が!」

「まだ、ミルファさんが目を覚ましてないから、行くとなるとメンバーを二手に分ける必要が出てくる。最悪、国が攻撃してくる事を考えると、分かれたくは無い」

「でも、シーナは色々出かけてますよ」

「偵察に……だからな。見つからないように行動するし、最悪みつかっても渡したアイテムで戻ってこれる」

「ま、そんなドジするつもりはないけどね」


 シーナは右手の人差し指の指輪を見せる。

 前にクロさんが作ってる所を見せてもらったけど、相当強力な魔法が込められていたのを覚えて居ます。

 見たこともないような材料を使ってましたが、相当上等な物と言う事は解かりました。

 それに、同じ材料を私が使っても作れるような気がしないような高度な技術で作ってました。

 いつかあんなアイテムも作ってみたいです。


「ま、シーナがドジするかはともかく、採取となると隠れてやるのは難しいしな。最低限ミルファさんが起きてからじゃないときつい」

「そ……そうですか……」


 これでは商品なくてM&Mは開けないです。


「でも、素材が全然入手できなくなったのは問題だな、何か考えないと」


 クロさんはクロさんで何か難しい顔で悩んで独り言を呟いています。


 こうなっては仕方がありません近場の採取場所を取りつくしてでも……。

 

「近くの採取場所を採り尽くすとか考えないでよね。マユ」


 シーナにすら釘をさされました。

 本当にどうしましょう。



 昼食のあと、何か無いかと店の周りを探してみるけど、採取できるのは石ころぐらい……。

 はぁ……どうしたら。

 何て考えてたら、クロさんはそんな石ころを集めていました。

 何をする気なんだろうと近づくと、


「あ、マユさん丁度良かった。ちょっと石をあつめてくれない?」


 手に石を抱えながら頼んできます。


「いいですけど……石なんてなににつかうのですか?」

「まあ、それはあとで」


 まあ、やれることも無いですし、石で何か作れるなら手伝いましょう。



 それから30分ほど……。

「ふう、結構集まりました」

「あつまったな~」


 石は膝元ぐらいの高さまで積みあがっています。

 こんなに集めて何をするのでしょうか?


「じゃあ、早速だけど見ていてくれ」


 クロさんはそういいながら、石を一つ手に取るとその石に魔力を込めていきます。

 しばらくすると、ほんのりと赤い色の光を発するようになっていました。

 もしかして、エンチャントでしょうか?

 でも、あれにはちゃんとした素材が必要だったはず……石ころにかけるなんて無茶は出来ないはずなのですが……。


「うん、こんなものか」


 クロさんは石の出来を暫く確認して高と思うと、5mほど先にその石を放り投げる。

 何がしたいんでしょうか?

 そのまま、見続けると、地面に石がぶつかって半分に割れると同時に火が上がりました。


「う~ん。威力はともかく、一応は出来るのか……」


 本当に石ころにエンチャントしてしまったのでしょうか?

 効果発動後は燃え尽きて使い捨てになるとはいえ、其れは其れで使い道があります。


「石にエンチャントなんて出来たのですか!?」

「う~ん、一応エンチャントではあるんだけど……」


 クロさんの歯切れがどうも悪いです、何か問題があるのでしょうか?

 素材が最低ランクなんですから、性能の悪さはしょうがないと思うのですが。


「何か問題でも?」

「アイテムに属性をエンチャントするというよりも、どちらかと言うと、戦闘中のバフなんかに近いからな」

「バフですか」


 バフと言えば、魔法で一時的に能力をあげるような補助魔法のことですよね?

 どういうことでしょうか?


「そ、対象が壊れた時に発動する魔法をかける感じかな?」

「其れの何処が問題なのでしょうか?」

「アイテム作成のエンチャントと違ってアイテムに刻み込む物じゃないって所だな」

「????」

「簡単に言うとさ、戦闘中のバフと同じように時間がたつと効果が切れるんだよ」

「それは……」

「まあ、効果時間重視でかければ1~2日はもつかもしれないけど、まあ商品になるかどうかよりも訓練用にはいいと思ってね」

「エンチャントの訓練と言うのはわかりますが、そのエンチャントって何の意味があるのですか?」

「生産系はひたすら作って熟練度あげるだからな。安物の材料で訓練するのは一つの手だ」

「訓練ですか」


 う~ん、そういうものなんでしょうか?


「ま、この方法は魔法が使えない一般人にお試しに魔法使わせるみたいなクエストの時に使ってたものだけどな」

「ああ、お試し」


 まあ、それなら需要はあるかもしれませんね。

  

「商品になるかはともかくとして、一度やってみるか?」

「はい、クロさん」



 なんてやり始めたはいいんですが……。

 凄く難しいです。


 手に乗った石に火の魔法を付与。


「あつ!」


 直ぐに魔力に耐えられず石が砕け散ります。


「普通に付与しても石ころじゃ容量がなくて失敗するぞ。魔力を込める感じじゃなくて魔力でおおう感じだ」


 クロさんのアドバイスでもう一度挑戦。

 

 手の上の石を火の魔法でおおう。

 そのまま、石を炎が焼く。


「あつつつ」


 慌てて投げ捨てる。

 すぐに、水を一杯にいれた桶に手を突っ込んで冷やす。


「大丈夫か? ちょっと見せてみろ。『ヒール』」


 クロさんがすぐに魔法で治療してくれた。


「ありがとうございます」

「いやこっちこそ無茶な事させてるからな」


 無茶な事? 

 新しい方法を試すんだから失敗も当然なんだと思うのですが……。



 そんな感じで続けていても中々成功しません。

 途中、「水魔法の付与なら失敗してもやけどしないんじゃないか?」とクロさんに言われた時には凹んで一瞬立ち直れなくなりかけましたが……。

 なんども、なんども挑戦します。

 水魔法でやるようになってからは治療をはさまなくなっただけ効率はあがりましたが、中々成功しません。

 

 

 1時間、2時間とつづけ、ついには日も落ちかけた頃……。


「で、できました……」


 やっとです、やっと一つ成功しました。

 あとは、試してみるだけです。


「お、できたか? それじゃあ試してみるか?」

「はい」


 手に持った水魔法を付与した石を「えい」と投げます。

 そして……。

 地面にぶつかって割れると同時にぽちゃんって感じでほんの少し水が出ました。


「やりました~。クロさん、ついに出来ました!」

「お、おう。おめでと~」

「ありがとう~ございます」


 やっと、やっと出来ました。

 うれしいです。


「出来てしまったか……。生産スキル無しで作れてしまったか……」


 何かクロさんが難しい顔で呟いていますが、いまいち聞き取れません。

 それよりも重要なのは成功した事です。

 これで、これで……しょうひ……あれ?

 この付与できても商品にはならないじゃないですか!


「クロさんこれって商品には……」

「無理だろうな」

「そ、そんな~」


 力が抜けてその場で座り込んでしまいます。

 暫く何もやる気力がおきません。


「俺も色々ためしてみたけど、効果時間が短すぎるな。長くてたぶん1日持ちそうに無い」


 クロさんはなにやら魔法陣が書かれた木箱に、沢山の石を指差してます。

 うっすらと幾つ物色の光を帯びた石。

 赤、青、黄、緑……白なんかもありますね。

 それよりも気になるのは。


「その木箱の魔法陣はなんですか?」

「ああ、このエンチャントって素材がもろくなりやすいから暴発とかしないように魔力無効化の魔法を時間重視でかけておいたんだ。店にあったアンチマジックボムのような物だな」

「でも時間って……」

「石の効果が切れるまでぐらいなら発動続けるさ」

「そうですか」


 すぐに暴発するアイテムじゃ売れそうに無いですね。


「ま、M&Mは暫く休むしかないだろうな」

「……そうですか…………」


 

 

 

 その日の夜。

 爆発音を聞いて店の外に出てみると、ところどころ、こげたり、凍りついたり、どろどろになったり、切り傷の跡がついたりしたシーナが倒れていた。

 木箱は中身と共に忽然と姿を消していた。


 回復魔法を付与した石もあったと言うし、特に命に別状はなさそうなので放置する事にしました。

 シーナにはいい薬でしょう、たぶん……。

次回はレナさんの一日の予定。





クエスト:魔法を使ってみたい。

 WMOの世界で一般人が募集するクエストで2番目に多いもの。

 ちなみに1番は危険地帯の観光についていく護衛。

 上級魔法とか持っているとこれだけでちょっとしたお小遣い稼ぎが出来たりする。

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