第5話 人形と隷属
一日あいてしまいましたが投稿です。
「あの……どなたですか?」
銀髪の少女に目を奪われていた俺に重ねて彼女が尋ねてくる。
まるで引き込まれるような感じすらする。本当に綺麗だ。ただ、その全てを諦めた表情が気になる。何か力になりたいと思ってしまうぐらいに。
って、早く返事をしないと。
「俺は……冒険者のクロといいます」
「暗殺者ではなくて……ですか?」
少女が困惑気味に尋ね返してくる。
出あった相手の一番最初の候補が暗殺者とか……何か色々抱えてそうな少女だな。
「いえ、ただの冒険者です」
「そうですか……」
一応は納得したという感じだが、警戒はまだとかれていない。まあ、当然だろうな。
「それで? あなたは?」
「あ、わたくしはレナと申します」
少女は自分の名前を聞かれたことに少し驚いていたが、慌て名前を口にする。
レナさんか……でも何故名前を聞かれて驚いたのだろう?
「ところでクロさんは、何故こんな所に来たのですか?」
まあ当然の疑問だな。
さて、何て答えるか……まあ正直に言っても問題ないか。
「この国の第二王子とちょっとありまして……逃げ出す途中だったのですが……この塔だけ妙だったので……」
「妙とは?」
「ここだけ兵の配置がなく、その上この城で一人だけ敵対していない人物の表示をみつけましたので……」
「表示?」
「索敵スキルで調べたんですよ」
レナさんは索敵スキルと聞いて一瞬警戒をしたが、諦めた表情にもどる。
索敵スキルを持ってる事で、再び暗殺者の疑いを持たれたのかもしれない。
「そうですか……それでこの後どうするのですか?」
「う~ん、どうするか?」
早く城から逃げ出さないといけない事は変わっていない。
ただ、レナさんを見てこのまま見捨てる事はできそうもない……。どうしたものか?
「……あの…………」
レナさんが何かを切り出そうとするが、その言葉が途切れる。
その表情からはかすかな希望と、強い迷いがうかがえる。
「どうしたんだ?」
「あの……あの……私とミルファをここから助け出していただけませんか?」
レナさんは迷いを振り切るように不安げな表情で助けを求めてくる。
「助け出す?」
「報酬は、この身で払います! どうかミルファだけでも助けてください!」
報酬のことを聞いたわけではないのだが……。それにしても体ではらうとか……。
少なくとも、切羽詰った事情がありそうだ、出来る限り力になろう。
「助け出す云々の前に事情を説明してもらえないか?」
「はい、解かりました」
レナさんは一つうなずくと説明を始める。
「あれはまだこの塔に囚われる前の話しです……」
「と言う事で、ミルファを助けて欲しいのです!」
レナさんは話の最後にそういって締めくくる。
内容は、親しい者たちを兄弟にすべて消されて、最後残った親友もレナさんを人質に言いなりにされているといった感じだ。
貴族とかの跡目争いっぽいな。こんな歳の少女すら排除しようとするとは……。
ただ生かしたままというのが少々腑に落ちない。
肉親の情? まさかな……だが何でだ?
邪魔になりそうだから排除したのではないのか?
レナさんの話でもその辺は解からなかった。
う~ん、しょうがないから『人物鑑定(M)』のスキルを使ってみるか、何かわかるかもしれないしな。
「レナさん、今から『人物鑑定(M)』のスキルを使って調べさせてもらってもいいですか?」
「え? わたくしをですか…………解かりました助けてもらうようにお願いしてる身ですものね……」
レナさんは少し迷ったようだけど、最後にはうなずいてくれた。
隠したいことでもあったのか?
俺はレナさんに対して『人物鑑定(M)』のスキルを発動させる。
名前:レナ・セレンティア・セントリナ
職業:プリンセスLv6
種族:ヒューマン(セントリナ王国第三王女)
備考:………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
調べた結果は想像以上に厄介そうだった。
レナさんは王族だったのか!?
それもあの第二王子の兄弟。名前からして腹違いっぽい気はするけど、この国の命名について詳しくはしらないからな。
「やっぱり、見えるのですね……確かに私はあの男の、娘です。ですがその名前はもう捨てました」
自分の父親に対する憎しみを見え隠れさせながら、はっきりと決別した事を宣言する。
まあ、あんな事をされてまでこの国いやこの王家に居たいとは思わないんだろうな。
それにしても、一つ気になる事があった。
職業が【プリンセス】になってる事だ。たしかレナさんは最初の転職すらしてないはずだ。彼女自身もはっきりと言っていた。
なのに、隠し職業についているのは何でだ?
其れも結構、転職難易度だけは高い方だったはずなのに……。
もしかして王族補正とかあるのか?
だとしたら……王族全てが【プリンス】や【プリンセス】の職業についているのだろうか?
もしそうなら、問題は無いが、彼女だけが特別なのだとしたら、兄弟などに危険視された原因やこの周りの警備の薄さも納得できるかもしれない。
【プリンセス】は、女性専用の職業で、男性なら【プリンス】という名前のほぼ同じ職業になる。
その戦闘能力ははっきりいってへっぽこで戦力には数えられず、足手まといにしかならない。
能力補正も最低値、成長率も最低値、スキルもこれといった攻撃スキルも持ち合わせていないとボロボロだ。
ただし、この職業は特殊なスキルを持っている。
『カリスマ』『魅力』『みんなのアイドル』『応援』…………などで、効果はパッシブで仲間達全体に常時効果があるものだ。
能力値を常時5%UPとか、HPを常時回復とかそこにいるだけでさまざまな効果を発動するのだ。
まあ、PT戦では護衛、本人含めて2人以上の効果になるかといえばまずそこまでにはならないので、足手まといは変わらないのだが……。
だがしかし、この効果は、PT全体にではなく仲間全体なのだ。
生きてくるのはギルド戦や勢力戦となる。
味方の陣営の全員の能力の底上げが出来、バフスキルや別メンバーの同スキルと重ねがけできるというとんでもない効果なのだ。
人数が多ければ多いほどその効果は計り知れなくなっていく。
これで一つ謎が解けたな。
彼女を生かしている理由だ。
戦争などに、彼女を連れて行くだけで戦力が大幅に上がる。
居るだけで発動なので、彼女がどう思おうと関係ない。鎖につないで戦場に連れて行くだけでいいのだ。
それにもし、彼女だけが【プリンセス】になっているのであれば……王位あらそいでこれほど脅威は無いだろう。
「あの、何か気になる事でもありましたでしょうか?」
「【プリンセス】という職業について何か聴いたことは無いか?」
「伝説の職業ですね、その職業を持った王女がいるだけで戦には連戦連勝だったみたいで、後々女王になったとか」
ここでも伝説か……【ロードナイト】といい【プリンセス】といい本気でこの世界では隠し職業は歴史込みでも殆どいないのかもしれないな。
其れはともかく、伝説といわれるまでなら、王族みなが【プリンス】【プリンセス】というわけではなさそうだ。
この事が原因で間違いないだろうな……。
「あの……それで……ミルファを助け出しては……私は全てを貴方にささげます。だから……ミルファだけは……どうか……お願いします」
レナさんは深く深く頭を下る。
物凄く厄介ごとに巻き込まれる気はするが、もうすでに厄介ごとの只中なんだ、一つ二つ増えた所で変わりは無いか……。
まあ、ここでレナさん達を見捨られないしな。
「解かりました。二人とを連れて逃げましょう」
「ありがとうございます」
涙を流さんばかりの表情で頭を下げ続ける。
「それで肝心のもう一人、ミルファさんはどこですか?」
「それは……」
その時、階段を誰かが上ってくる音が聞こえた。
カツカツカツ……。
なにか機械の如く正確な足音だ。
「あ、ミルファがやってくる時間みたいです。丁度良かったです」
レナさんは無警戒にミルファを迎えようとするが、俺は違った。
『索敵(M)』スキルで表示されたままのMAPを見ていたからだ。
今この塔には俺のマーカーと、味方の緑色のマーカーに変化したレナさん、そして敵対する赤色のマーカーが一つ何処からとも無く現れている。
まったく、前触れも無く現れた、隠蔽スキルが相当高い……それこそ最初にレナさんが言っていた暗殺者かもしれない。
レナさんを右手で制して後ろに下がらせる。
そして、俺はゆっくりと魔法で剣を生み出し準備する。城に武器の持ち込みはできないだろうと、剣などのこちらで手に入れたモノはM&Mにおいてきたのだ。
カツカツカツ。
規則正しかった足音が部屋の前でぴたりと止まり扉が開いていく。
「やっぱりミルファでしたね」
レナさんが安堵を浮かべて彼女に近づこうとするが、俺は彼女を後ろに突き飛ばし、剣を振るう。
剣と剣が交差しつばぜり合いになる。
レナさんがミルファと呼んだ少女がいきなり切りかかってきたのだ。
うぐ、結構重い。
『ショックウエーブ(M)』で少女を吹き飛ばす。
「ミルファ!」
レナさんの悲鳴が後ろから聞こえるが、そちらにかまっている余裕はない。
少女はゆっくりと起き上がり剣を構える。
手入れのされていない長い金髪に能面のような表情のまったく浮かばない顔。ガラス玉のような瞳……人形のようになったというレナさんの話は誇張ではなく本当だったみたいだ。
それでも、人形の様な美しさがあるのだから……普通の状態だったらどうなっていたか……。
「くっ」
「お願いです。ミルファを傷つけないでください。操られているだけなんです」
この意思の無い瞳、これを見ればそれは用意に想像がつく。
だが……少女の剣の連撃を受流し、避け、受け止めながら……俺は焦りを覚える。
セリカの時と同じだ。
レベル差が大きくネックになっている。
その上、彼女を救う方法だ……。
彼女の状況はたぶん【ドールマスター】の『マリオネット』のスキルで間違いないだろう。
ゲーム中でもスキルを成功させるのには難易度が高いが、一旦掛かるとそれなりに厄介なスキルだった。
解除する手段が、結構面倒なのだ。
一つ目は、単純に操ってる【ドールマスター】のスキルを解除させるか倒す。
これは倒されるような場所に居ない事が殆どなので実行する事そのものよりも、そこまでたどり着くのが問題だ。
今回も簡単には見つけられないだろう。
二つ目は、『マリオネット』の消費コストを払えきれなくしてスキルを解除させる方法。
ゲーム内では基本的に『マリオネット』にかかってもかけられたキャラクターの資産などは減らない仕様になっていた。
まあ、其れは当然だ。マリオネットで操ってアイテムをすべて譲渡させれるように出来たらゲームが成り立たなくなる。
そのため、アイテムやお金の譲渡はもちろん、装備の損傷やデスペナまでも受けない状況になるのだ。
その類が発生した場合は、『マリオネット』の使用者がコストを強制的に支払わされて肩代わりする事になるのだ。
主にMPなどで肩代わりする事になり、維持コストも支払い続ける必要があるので、故意にコストを増大させて維持できなくするという手段である。
ただ、今回はこれも難しいだろう、デスペナを与えるというのはゲームだから出来た方法で、こっちでは殺す可能性がある。
もしかしたら、ゲームのように【ドールマスター】が肩代わりするかもしれないがそんな危ない賭けはできない。
あと、装備品などの所持品は、準備期間があるのであれば裸にしてから『マリオネット』かければいいだけだしな。
其れぐらいやっているだろう。
三つ目は戦闘終了だ。
勢力戦などは期間終了で解除されるし、PKなどでは戦闘が終わった時点で強制的にセーブポイントに飛ばされたはずだ。
この世界になって明確な戦闘の定義がなくなっているので、これも難しい。
3つの方法どれも現状では難しそうだ。
どうする?
少女の剣を受け止めながらもう一度、『ショックウエーブ(M)』で距離をとる。
意思が無いための弊害だろう。攻撃が単調でこちらに対応してくる事が無いのが救いか……。
「ミルファ、お願いやめて、クロ様が助けてくれるんです。一緒に逃げましょう!」
レナさんが説得するがまったく反応する様子も無い。
どうしたらいい?
何か方法は……。
少女はただひたすらに前進し剣を振るってくる。
大分なれてきた俺は、簡単にいなせるようにはなってきていた。
だけど、俺も元々逃げ出していて時間がない。
時間が過ぎれば過ぎるほど逃げにくくなる。レナさん達を連れて行くことにした今はなおさらだ。
早々に決着をつけなければならない!
「ミルファを元に戻す方法は無いの!?」
レナさんの悲痛な声が響き渡る。
無いことは無いが、今はどれも現実的じゃない。
解除以外に彼女を何とかする方法はないのか!?
もういっそ、一か八か『隷属』の効果で奴隷にして命令で動きを封じるか?
投げやりになって一瞬そう思った時、思い出す。
『隷属』の呪縛の上書き効果があった!
だが、いいのか『マリオネット』をといたとしても、奴隷になってしまったらかわらないのではないか?
「レナさん……一つ手がある……」
「それでお願いします」
レナさんは即座に返事をする。
「だが、彼女に掛かってる呪縛の上書きだ、俺の呪縛は解除方法がまだわからない」
「それは……」
「俺は、彼女に命令とかはするつもりは無いが……それでも呪縛する事になる……」
「…………」
「どうする? レナさん。判断は任せる」
「…………解かりました。クロさんを信じます。あんな男達の元にいるよりもよっぽどいいと思います」
レナは迷いに迷って苦渋の決断とばかりに言葉搾り出す。
「解かった」
俺は少女に『パラライズショック(M)』のスキルを使う。
彼女は一瞬ピクリと痙攣したかと思うと、力なくその場に崩れ落ちた。
『ミルファ(ヒューマン・女)に掛かっていた『マリオネット』の効果を上書きし、隷属させました』
「ミルファ!?」
レナさんが慌てて近寄るが息をしてるのを確認して安堵する。
この少女のことよりも、逃げる方が先だ。
結構時間をくってしまったし、【ドールマスター】には、ばれてしまっているだろう。
ミルファをお姫様抱っこの形で抱き上げ、レナさんには背中に負ぶさってしっかり捕まるように言う。
そのまま、魔法で3人の姿を消し、風の魔法で塔から城壁に飛び移る。
城壁に張ってある結界は『結界透過(M)』のスキルで抜け、そのまま暗くなった王都の建物の屋根を伝って街の外へ逃げ出していく。
次回はM&Mに戻ります。
果たしてマユさん達はどうなったのでしょうか?




