第4話 囚われる少女
今回は少し短いです。
今のわたくしの世界は、この塔の天辺のこの部屋と部屋の窓から見える景色がすべてです。
ここに閉じ込められて以来この部屋から出たことはありません。
幼馴染で親友のミルファ以外にはだれとも会えずに、ただただ時間が流れるのに任せる日々。
もしも、ミルファが昔のように笑いかけてくれるのなら……感情をなくした瞳でただ作業を行うだけの……やめましょう、誰も助けることの出来ない無力なわたくしが悪いのです。
ミルファ以外全てを失ったわたくしですが、彼女だけは……。
無力なわたくしは、ミルファを助ける機会が来る事を祈って、その時の為にせめて心折られぬよう過去の幸せだった日々にすがるのです……。
あのころは……、やさしいお母様、お小言が多い乳母のサリィ、乳母の娘のミルファ、その他にも色々な人々に囲まれて幸せな日々でした。
父親のあの男には年に数回会う程度で、寂しく思うことはありました……あの頃はまだ家族の間の愛情というものはあったのかもしれません。今は血のつながった者たちには憎しみしかありませんが……。
他にも、上に2人の兄と2人の姉、下に1人の妹が居ました。一つ上の姉と妹とはそれなりに交流はありましたが、他の兄弟とはめったに顔をあわせませんでした。
何時もミルファと遊びまわってサリィにお小言をもらったり、勉強を抜け出してお小言をもらったり、城から抜け出してお小言をもらったり……もしかしたら、わたくし達、お小言ばかりもらっていたのでしょうか?
こほん。それはともかくとして、何時も隣にはミルファが居ました。
そんな平和で楽しい生活がおかしくなったのはいつからでしょうか?
確か……育成の儀にいったあたりからでしょうか?
わたくしの家は……いえ、この国の上流階級の人間はといった方がいいでしょうか? 戦闘を志すもの以外は、一定の年齢になると優秀な騎士や冒険者などとPTを組みモンスターを狩りに行くものなのです。
もちろん、戦闘経験のないわたくしのような者はただ見ているしかないのですが……。
身近に在るモンスターとの脅威を知っておけと言う事らしいのです。そして、最低限そういう状況に遭遇した場合に動くことができるように慣れておく為なのだそうです。
だいたい成人するまでに数十回のモンスター狩りを経験するらしいのです。
わたくしの始めての育成の儀は騎士団の隊長他5名とわたくし、ミルファの合わせて8人で行きました。
最初の相手はスライムというモンスターでした。
数日前に戦士に転職したばかりのミルファが必死に戦っていたのを覚えています。
ちなみにわたくしはまだ転職はしていません。わたくしの家では長男以外は一部の例外を除き成人の儀まで職を決めないことなっているのです。
そんなわたくしは、隊長さんともう一人の騎士の人に守られながらの見物でした。
そうして皆さんがモンスターを次々に倒していき、最初の育成の儀は無事に終えることができました。
その日の夜、ミルファがスライムを10匹倒せたと大喜びしてお母様達に話していたのを覚えています。
具体的な転機は其れから数日後だったでしょうか?
仕事をこなすことだけに忠実で仕事以外はまったくつながりの無かったとあるメイドが心を開いてくれるようになったことでしょうか?
その時は、うれしく思ったものでした……一週間とたたずに彼女が行方不明になるまでは……。
それからです、何かがおかしくなったのは……。
何度か新しいメイドがやってきて、仲良くなると行方不明になっていく……。
そうして、ついにはサリィが事故で亡くなったのです。
それに続くようにしてお母様は反逆罪に問われ処刑されてしまいました。
何がなんだかわかりませんでした。
あとで見張りの方が教えてくれた話では、わたくしが兄達を脅かす事になっていたとか。
わたくしにとって特につながりのない兄達には、それまで特にこれと言って感情をもっていませんでした。
ですが、その時から彼らに憎しみを覚えるようになります。
お母様やサリィをそんな理由で殺した彼らには……。
それからしばらくして、わたくしも塔の最上階に閉じ込められることになります。
その後、ミルファも処刑されそうになりましたが、あの男に頼み込みなんとか彼女の命は助ける事が出来ました……命だけは……。
そして、わたくしの監視と世話の為にやってきたのが、感情を失って人形のようになったミルファでした……。
せめてミルファだけでもと思うのですが、わたくしは本当に無力です……。
そんなある日です。
ミルファが監視するようになって以来はじめて他の人があらわれたのは……。
この国ではめずらしい黒い髪に黒い瞳が特徴的な少年でした。
「どなたですか?」
久しぶりに発した言葉はそんな短い言葉でした。
次回はミルファさんが登場か?




