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第4話 置き土産

やっと、やっと更新できました。

すごくお待たせして申し訳ありません。




それにしても、この頃、集中力が持続しないな……なんでだろう?

 アンの初売りからしばらく、彼女の銅のナイフはポツポツと売れるようになって来ていた。安い割りに品質が良いと冒険者ギルドの職員の間で、密かに噂になっているとか……。

 あと、トラブルメイカーのティナは修行中で不在で問題も発生する事も無く、平穏な日々が続いていた。


 うん、続いていた……はずだった……。


 それが今日の夕飯の時に、シーナが「夕食の後にM&Mの商品作ってるメンバーは集まって」と召集をかけたのだ。

 彼女のいかにも面倒くさそうな表情を見て、聞きたくないなと思ってしまうのだった。




「不良品ですか?」


 夕食後にシーナが話した内容は、端的に言えばレナさんのこの一言に集約される。


「そうよ、この店で不良品が売られてるらしいのよ」


 シーナによると、そういう噂が流れているらしい。ただ、「ま、出元は結構怪しいんだけどね」と続けてるあたり、その真偽は疑ってるようだが……。


「そんなふざけた事を言うのは誰ですか!」

 

「困ったであります! 何か失敗したでありますか!?」


 マユさんの憤慨した様子と、アンの不安そうな様子が自身の商品の自信をあらわしている。


「もしかしたら、誤字脱字や落丁でもあったのでしょうか?」


「一応、店に出す前には一通り確認しては居ますが……」


 レナさんの呟きにミルファさんが答えている。それにしてもミルファさん、全部の本を確認しているのか!? それ、しゃれにならない作業になる気がするんだが……。


「ま、アンとレナは気にする事はないわよ」


 うん? シーナは何か確証でもあるのか?


「何ででありますか?」


「何故ですか?」


 アンもレナさんも俺と同様疑問に思ったようだ聞き返している。


「まず、アン。あんたの銅のナイフって。そもそも良品として売り出してないわよ。見習いが作った不良品もあるかもしれない商品として売ってるのよ。だから、不良品があっても問題に成らないわよ」


 確かに、ジャンク品とかで不良品として苦情を言う事はないよな。

 でも、シーナもう少しなんと言うかオブラートに包むとかしような。アンの奴、がっくりとうなだれてるじゃないか。


「レナの方は」


「私の方は?」


 レナさんは、アンを撃沈したシーナを警戒しながら先を促す。


「この世界の本は、基本的に手書きなのよ! うちみたいに印刷機で量産なんてしないのよ! だから一般レベルに流通してる本なら書き間違いなんて日常茶飯事なのよ。気にする人なんて居ないわよ」


「え!? 本てコピー機とか印刷機で作るものじゃないんですか?」


 レナさんの常識が色々毒されてきている!


「そんなわけ無いじゃない! どっかの軍が魔法陣を量産する為に、似たような魔道具持ってるという噂もあるけど、手書きが普通よ!」


 あるには、あるんだ。魔道具としてなら。

 ただ、魔法陣をただコピーしただけじゃ効果は無かったはずだから何か魔法的な処理も同時にするんだろうけどな。


「そうなんですか。あ、そういえば、お城に居た頃に読んだ本は全部手書きだった気がします」


 印刷だったら逆に気になるぞ、その本の出所が。


「私の石鹸類は入れ替えるだけだしね。中身を入れ間違えたりしてなければ問題になる事も無いでしょ」


「私も作った商品は全部鑑定してますから問題ないですよ!」


 マユさんは何処までの自分の商品には自信があるみたいだな。

 でも、ミスってたりしたら相当落ち込みそうだな。


「一番可能性のありそうなマユがこの調子だし、不良品自体は無かった可能性の方が高いわね」


「あれ? おかしいであります! それじゃあなんで噂が流れたでありますか?」


 うわ……実際に不良品があった時よりも面倒な気がするぞ。


「ま、簡単に言えば、よくある妨害工作のひとつね。評判が落ちるような噂を流すってのは……」


「誰ですか! そんな事をするのは! 今すぐとっちめてやります!」


 マユさんが珍しくヒートアップしているので、抑えて抑えてと落ち着かせる。


「噂の出所は、ごろつき連中のようね……。ただ、そこから先は解らなかったわ。怪しい男に前払いで金をもらったとかで……」


 軽い小遣い稼ぎみたいな感覚で相手をそんなに気にしなかったんだろうな。先払いって話しだし……。

 いや、知っててもマユさんが面倒起すといけないからだまってるのか?

 その辺の情報収集はシーナに任せて肝心の事を尋ねる。


「それで、対策はどうするんだ? 悪評が流れているんだろ?」


「放置でいいんじゃない?」


「「「「……………………」」」」


 そのシーナの答えに皆が絶句する。

 そして、いち早く復帰したマユさんが、


「じゃあ、何で皆を集めて話をしたんですか!?」


 と、ツッコミを入れる。


「ああ、この程度の悪評を広めるぐらいならどうってこと無いけど、うちらに危害を与える意思を持った奴が居る事を警戒するのは必要でしょ」


 マユさんは、”この程度の悪評”って部分に少し顔をしかめていたけど、一応は納得したみたいだ。

 他の面々も「気をつけましょう」とか注意喚起には、なったみたいだ。

 言いたい事はわかるけど、それなら夕食後に皆に一言言えば十分なんじゃ? と思ったまま口にすると、シーナがニヤっと意地の悪い笑みを浮かべた気がした。


「そうね、あんた意外にはそれで十分かもね」


 まってましたとばかりにそんな言葉を返して来る。

 う、やぶ蛇だったか? 

 そんな事を考えてる間に、


「どういうことですか?」


 と、レナさんが不思議そうにシーナに尋ねてしまう。


「ちょっとね……クロ達がアンデッドを殲滅してきた件でね……聞きたいことがあるのよ……手に入れた素材ってどうしたの?」


 なんか、シーナがゆっくり、言い聞かせるような調子で此方に視線を向ける。


「は? レアなのは、倉庫に保管して他はGPに変換したぞ」


 うん、ボスドロップらしきものは倉庫に厳重に仕舞ってある。

 あ、闇属性の転職用のクリスタルと拠点コアについても考えないとな。


「本当に? あ、レアな素材ってやつは後で保管とかについて話があるわ。今はそれ以外ね」


「アンデットの素材なんて殆ど使えないだろ、上級の奴らのならともかく……それに神聖系の攻撃で倒したから殆ど残らず浄化されたぞ」


 本当に、言いがかりも甚だしい。俺の普段の行動がそんなに信じられないんだろうか…………あれ? なんか追求されるとまずい気がする。


「そうね、それじゃあ、例えばスケルトンとかが持っていた朽ち果てた武器とか防具はどうしたの? 錆びた剣とか装備してたでしょ?」


 うん? もう、武器とは呼べず、鉄クズとかの金属の塊って感じの奴だよな。そういえば、どうしたっけあれ?


「あんた、まさか!?」


「いやいや、ちょっとまて、アンあれどうしたっけ?」


「知らないであります。素材置き場にもそれっぽい物はなかったであります」


 GPに変えた覚えもないな。何処いったんだ?

 確か……ティナが妖精さん達に運ばせて……GPに変換しても二束三文にしかならないような酷い状態だったから……あ!

 「じゃあ、土と闇の子達が欲しいって言ってたから上げちゃうね~」ってティナというか妖精さん達に上げたんだった!


「へ~どうやら思い出したようね? で?」


「ティナが妖精さん達に上げるって……」


「あんた、よりにもよってあの子達に渡したの!」


 ゲーム中だとどんな入手法でもクズ鉄はクズ鉄だったからな。呪われてたら鑑定で出てたし。こっちでは……う~んやばい自信がない。

 今、考えたら軽率だったような……。


「うん、ティナのバカも色々問題だけど……あんたも結構なものよ。あ、クロ以外の皆は店への妨害に気をつけるって事でこれで解散ね。で、あんたは、今日はジックリと話し合いましょう。夜もまだまだ長いのだし……」


 げ、シーナの目がマジだ!

 いまは、ティナスケープゴートも居ないし……逃げよう。あのバカに思考回路が似てきたような気がしないでもないが気にしない。

 だがどうする?

 何か手はないか?

 

 う~ん。


 シーナが一歩一歩近づいてくる早くしないと!


「あ! そうだ、死者の都で見つけたあれの事をセリカと話しないと! 忘れてた! じゃ、と、言う事で話はティナが戻ってきてからな~」


 うん、そうだよ廃教会にあった絵の事すっかり忘れていた。

 セリカに色々話を聞いて、冒険者の街の教会に一度行ってみないとな。









 そして、次の日、朝からセリカと一緒に冒険者の街にある教会に来ていた。


「ようこそいらっしゃいましたセリカ様」


 神父のお爺さん、それもこの教会でも、なんか偉っぽい人が出迎えてくれた。

 色々聞くとどうやら、セリカは教会に結構な額の寄付をしているそうだ。

 セリカは、「ルナちゃんに送ってるんです」とか言ってたけど本人には届いてないと思うぞ。

 「聖女ルナ様への寄付ってのも結構あるのです」とは、言ってるけど……。

 そういえば、セリカの友達のルナちゃんってのが聖女だってのはいまいち信じられないんだよな。何処で接点があったんだ?


「あ、おはようございます。今日はちょっと師匠を連れてきました」


「セリカ様の師匠というと……」


 神父のおじいさんは頭に手を当ててうなっている。


「クロです。少々お邪魔します」


「あ、クロさんしたね。教会はいつでも開かれていますのでご遠慮なく」


「はい、そうさせてもらいます」


 と返事を返すと、一礼して去っていく。

 ただ挨拶に来ただけらしいな。それにしてもこの対応。セリカはどんだけ寄付してるんだ?

 まあ、セリカのお金だし別にいいか。




「で、セリカ。教会で見たって絵はどれだ?」


「? 師匠、何のことでしょう?」


 不思議そうに首をかしげる。って、昨日話しただろ!


「滅びた街で見た教会にあった奴と同じのを見たって言ってただろ!」


「はい、教会で見ましたよ。なんか少し違ってる気もしましたが」


「で、それは何処だ?」


 はあ、何でこんなに……。


「はい? あ! 師匠。違います教会って聖都にある奴です。ルナちゃんが居るところです! 彼女と一緒に見たんです」


「………………」

「………………」


「………………」

「………………」


「それを先に言え!」


「す、すみません師匠! 教会で一番まっさきに浮かぶのがあそこでした」


 う……。

 昨日の夜話したとき、微妙に話がすれ違うような気がしたんだよな。

 まあ、気を取り直してここの教会で無いか聞いてみるか。こんな事ならさっきの神父のおじいさんに聞いておくんだったな。




「あ、それならあそこにありますよ!」


 近くに居たシスターのおばあさん……シスターっていうと若い女性ってイメージがあったんだが、色々偏見だったのかな? ……に聞いてみると直ぐに答えが返ってきた。

 その視線の先には、ステンドグラスのモザイク画で描かれた5柱の女神様……なんだけど……。


「細かい所は良くわからないですね、師匠」


「そうだな……」


 モザイク画の目が粗くて細かい表情などは、はっきりとは見えない。


「絵画ではないので、そこまで精密なものは強度的に無理だという話です。大昔には精密な絵を描ける技術があったとかで古い教会とかではそういうのがあったりすることもありますが……」


 少し申し訳無さそうな表情でシスターさんが答えてくれる。


「絵画とかではないのですか? 額縁に入れて飾るような」


「絵画になりますと、壁画にしろ、紙などに描かれた物にしろ長くは持ちませんので……相当大きな教会で無いと……」


 まあ、特殊な塗料つかうとか魔法的な処理とかしない限りそんなに長持ちはしないよな。例え出来ても、維持コストとか相当酷い事になりそうだしな。

 それにこの街は冒険者の街っていうくらいだから、吟遊詩人なんかはともかく、絵描きとかそういう芸術的な人達は、寄り付きそうに無いしな。


「あの5柱の女神以外の6柱目の女神が描かれたようなのは知りませんか?」


「6柱目ですか?」


 突然シスターの声に剣呑な気配がこもる。

 まずいと思い慌てて続ける。


「滅びた街の遺跡でそういう絵を見つけたのですが……少し気になって……」


「噂では聞いたことがあります。6柱目の神をあがめる邪教徒がいると。それで、その遺跡はどこにあったのでしょうか?」


 ちょっと、シスターさんの目に宿る光が怖い。まるで狂信者のような……。


「ずっと東の方に居た頃に迷い込んだ遺跡で、一番奥の仕掛けを作動させたら全て崩れて埋まってしまいました」


「そうですか」


 シスターさんの声は、さっきまでの様子が嘘のように穏やかな声に戻っていた。

 良かった怖い気配がすっかり消えている。


「師匠、どうしますか?」


 これ以上迂闊に調べるのもやばそうだな。でも、あの絵が気になるのは確かだしな。


「そうだな。さっきの精密な絵画を見られる教会って何処なんでしょうか? 一度、見てみたいのですが……」


 シスターさんに向けてそう尋ねてみる事にする。


「そうですね、一番いいのは聖都の大教会の壁画なんでしょうけど、ここからだと相当遠いですし。隣の国の首都なんかはどうですか? 小国でもそれなりの教会があるはずですよ」


「隣の国ですが……。機会があったら立ち寄る事にしますね。ありがとうございました」


「いえいえ、神の御心にふれる機会になれば幸いです」


 このまま帰るのもなんだし、少しだけ祈って帰るか。


「セリカ、前のほうに行って祈っていくぞ」


「はい? 師匠? 解りました」


 うん、いきなり祈ろうなんて言ったもんだからセリカが首をかしげている。

 ただ単に情報収集だけして帰るのもまずいかなと思っただけなんだが……。


 さて、何を祈ろう。


 ………………。

 …………。

 ……。


 あのバカが、バカをやっていませんように……。






 その後、たまにはセリカと一緒に狩りにいこうと言う事で冒険者ギルドで適当に情報を拾って少しはなれた岩場でトカゲなんかを狩ってすごした。

 けっして、そのまま帰ったらシーナに昨日の続きを長々されるからではない。


 ないのだが……。


「あ、やっと帰ってきたわね。待ってたのよ」


 M&Mに戻って裏口から入ると、シーナが待っていた。

 う、逃げ切れなかったか……。ここは観念して……。


「アンには伝えたけど、アンとあんたに生産者ギルドから呼び出しがかかってるのよ。明日一番に行って来なさいよ。結構急ぎみたいだから」


 生産者ギルドから呼び出し?

 急ぎの?

 厄介事の匂いがしてくる気がするのは気のせいか?


「面倒そうなのは解るけど、行かないともっと酷くなるわよ」


 嫌そうなのが顔に出ていたのかシーナはそう釘をさしてくる。


「わかったよ。今の時間じゃ街の門も閉まってるし明日の朝一番でアンと一緒に行って来るさ」


「それがいいわ」


「じゃ、セリカとの狩りで汚れたから風呂に入ってくる」


 と、自然な様子でその場から離脱しようとしたのだが……。


「じゃ、私も一緒に入るわ。昨日の話の続きもしたいしね」


 逃げ切れなかった。


「今日は、たっぷりと話が出来るわね」


 笑顔が怖いぞシーナ。


「じゃ、行きましょうか」





 その後、風呂の中、脱衣所、宴会場と場所を変えながらシーナの説教を聞き続ける羽目になった。

 内容は、一言で言うと。


「もう少し常識を持ちなさい!」


 って事だった。



 ゲーム知識とのギャップはどこまでも響くな……。

次の話は、呼ばれたアンに待ち受ける試練とは!?




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