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第3話 影でコソコソ

今回は、途中で視点が変わります。




※毎日更新継続中

 ――古びた鍛冶屋――


 冒険者の街の生産者達が集まる一画、そこに一軒の鍛冶屋が軒を連ねていた。


「何だと!?」


 閑古鳥が鳴き、うっすらと鍛冶道具にホコリがかぶってしまっている中、怒鳴り声と共に、ガシャンと何かが投げつけられる音が響く。


「本当でやす、親分。あのグズ女の武器が店に並びはじめやした」


「何処の店だ? そのふざけた店をこの街から追い出してやれ」


 今まで飲んでいた酒のためか、もしくは怒りの為かその顔を真っ赤にした男が机を叩き付ける。


「それが……あのグズ女を買い取ったあの店でやす。色々やってるんでありやすが……効果が……」


「あの街の外にできたってやつか? 街の外なんだ何が起きてもギルドに文句言われる事もないだろ? 火でもつけちまえばいいじゃねぇか」


「それが……油をまいて火をつけたそうでやすが……焦げ跡一つつかなかったそうでやす」


「んなわけあるか!!!」


「……すいやせん、親分」


「そんなふざけた事言ってる暇があったら、今日の夜にも燃やしちまえ! いいな!」


「へい、親分」


 そうして、建物を後にする子分を見ている存在が……。


(…………………………)





 ――次の日――


「おやぶん!!」


「ふぉぁぁぁ。おう、どうだ? ちゃんと燃えたか?」


 眠そうに周りに転がった酒瓶を蹴り飛ばしながら、男が起き上がる。


「それが、親分。昨日一晩中さがしたんでやすが。だれも、やろうって奴が居ないんでやす」


「はぁ? いつもの場所に行きゃ幾らでもいるだろ? 何ふざけた事言ってんだおめぇは?」


「それが……10倍の金出すって言っても一向にやろうって奴が居ないでやす」


「10倍でいねぇのか!? どうなってやがる?」


「それが……あの店の羽振りが良いってんで結構な数の奴らが盗みに入ろうとしたって話で……」


「それでどうしたんだぁ?」


「金を盗むどころか、店に忍び込む事すら出来ずに殆どつかまったって言うんでやす」


「なんじゃそりゃ?」


「そんで、今じゃ手を出そうとするやつがいねぇんでやす」


「やくたたず共が!」


 地面に叩き付けられた酒瓶が破片が飛び散る。


「で、どうしやしょう?」


「少々高くついてもしょうがない外のやつらで何とかしろ」


「いいんでやす?」


「あのアマをどうにかしねぇと俺達ちゃ破滅だろぉ」


「直ぐに言ってくるでやす」


 男に怒声を浴びせられた子分は、鍛冶場を飛び出していく。



(………………??)







 ――数日後――


「何だと!? 全部失敗しただと!?」


 子分の顔に酒瓶が飛んでいき、頭を酒まみれにする。


「へ、へぃ」


「どうするんだ? もう時間がねぇぞ! 金を取り立てにこられたらもう終わりだぞ!」


「親分、もうここは最後の手段しかねぇでやす。ひとさらい共にあのグズ女をさらわせるでやす。それしかないでやす」


「あいつら、足元見てふっかけてくるんじゃねぇか?」


「だけど、それしかないでやす」


「く、あのアマ、つかまえたらどうしてくれよう。ただじゃおかねぇ!」


「それじゃあ、直ぐに連絡とってみるでやす」


「散々使った後、どっかの店にうり払ってやるか」



(……!?……!?……!?)






 ――深夜とある森の中――


「いくら、目立ちたくないからって、夜に森はぞっとしねぇな」


「この辺のモンスターならこの魔除けの香でだいじょうぶなはずでやす」


「く、よけいな金使わせやがって!」


「あ、親分、もうすぐでやす」


「ああ、あの黒いフードのやつか?」


「そうでやす」


 森の中の一画、黒いフード付きのコートで全身を覆っている者が一人立っていた。


「依頼者はお前達か?」


「そうだ、報酬はこれで、ある女を捕まえてもらいたい」


 男が投げ出した袋には、銅貨や銀貨が詰まっている。

 黒コートは、それを一瞥し、続きを促す。


「相手次第だな、でターゲット――」


「ぐぁぁ!? 痛てぇ~何でやすか!?」


 いきなり、子分がわめき声を上げて地面に転がる。


「なんでぇ? どうしたんだ?」


 良くみると、子分の太ももには一本の矢が刺さっている。


「敵襲か?」


 黒コートは直ぐに剣を抜くと周りを警戒する。


「何がどうしたってんだぁ? ギャアァ」


 次は4本の矢が殆ど同時に飛来し、男の両足を縫い止める。

 黒コートは、向かってきた2本の矢を地面に身を投げ出して交していた。


「この暗闇の中確実に当ててくるとは相当な手練か? それに、何人居る? 少なくとも4人はいるのか?」


 男に刺さった2本のやと自分を貫くはずだった2本を確認しながらそんな風に呟く。


「これは、逃げるしかないな。この二人を囮にすれば――誰だ? 足をつかむのは――木の根だと!? まさかトレントか!?」


 そして、動けなくなった黒コートの腕に矢が突き刺さる。


「ぐ……」


 そのまま、黒コートは動かなくなる。


「何だ? 一撃でやられるたぁ? まさか毒かぁ!?」


 男は、慌てて自分に刺さってる矢を抜こうとするも、次に瞬間には両腕に矢が突き刺さる。


「くそぉ、俺達が何をしたってんだ!?」


「お、おやぶ……ん……」


「くそが!!」


 

 深夜の森のなかしばらく男の叫び声が響いていた。







「これで、問題は解決ですね」


(わたしのおかげ~)


「そうですね、あとでお礼を作ってもらえるように頼んでおきます」


(わ~い)


「あとは、巣穴の退治をしておきますか。もうひと働きお願いしますね」


(((おおお~~)))












 ――数日後、M&M リビング――



「何か、人さらいの隠れ家が壊滅してたらしいわよ」


 冒険者ギルドから戻って来たシーナがそんな話を持ってきた。


「そんなのが街の中にあったのか? ごろつきどもは多少見かける事はあったが、夜中でも一応一人歩きできるぐらいは治安よくなかったか?」


 あの街の門番のように冒険者を雇って1日中夜間も同じように巡回してるって話をおっさんから聞いた。

 治安維持よりもメインは妙なモンスターが闇などにまぎれて街に入ってくるのをいち早く見つけるためだとか。


「そうじゃないわ。街から少し離れた森に隠れ家を作っていたみたいなのよ」


「モンスターとかどうしてたんだ? そんな場所ならモンスターに襲われて隠れ家なんてできなんじゃないか?」


「それが、結構高価なマジックアイテムまで用意してたらしいのよ」


 それなら、一応隠れ家も作れるのか?


「モンスター除けのマジックアイテムって小さなものでも相当な値段ですよね?」


 気になったのか休憩中のマユさんも話に加わってきた。


「まあ、冒険者のスキルなんかによっては結構高く売れるんでしょうね。結構前からあったみたいだし」


「そうか……でもさ、壊滅させたとかじゃなくて、”してた”なのか?」


「そうなのよ! そこが不思議なのよ! 拠点を知らせるだけで報酬でるだろうし、壊滅させたら討伐報酬も結構な額のはずよ。治安維持系の依頼で目にしたことはあるわ」 


 治安維持系の依頼って、門番とか巡回とかの話だよな。

 そういえば、見たこと無いな。何処に告知してるんだ?


「そういえば、治安維持の依頼って何処に貼ってあるんだ? 冒険者ギルドで見た覚えが無いんだが」


「行政区の色々手続きとかやってる所とか物によっては詰所の中にもあったわね。まあ、私も情報収集でちょろっと見る位だから」


「そうか」


 まあ、治安維持関係は、面接とかで選別されるって話しだし分けられてるのか?

 もしくは、縦割り行政の弊害とか? それは嫌だな。


「それで、その隠れ家はどうなったんですか?」


 ゆったりとお茶を飲んでいたリーフさんが口を開く。

 そういえば、彼女も居たんだった。ティナが特訓にでかけてから、リラックスしてくつろいでいる事が多いな。相当、ティナが負担をかけていたんだろうな。


「今は、調査隊送って隠れ家の中を調べてるっぽいわ。何処に売られたとか色々調べてるんでしょ?」


「中に、つかまってた人は居なかったのですか?」


「あ、それね。捕まってた子達が助けを呼んだから今回発見されたっぽいのよ。ただ、妙なのよね……」


「妙って何がだ?」


「逃げる途中、目に見えない何かに誘導されたみたいとかって話してるらしいのよね。それに街までモンスターに一度も出会わなかったらしいし」


「そうですか」


 リーフさんは穏やかな笑みを浮かべながらお茶を口にする。 


「色々不思議な話ですね~」


「ま、もったいないのは確かよね~」


 


 そうして、M&Mの午後は平和にすぎていく……。

次の話は……。置き土産?

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