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第1話 ついに販売へ

新章突入です。

アンの作品がついに売りに出されます。




※毎日更新継続中

 コン……コン……カン……コン……カン……カン……。


「う~ん、まだまだであります」


 カン……カン……コン……カン……カン……カン……。


「う~ん、であります」



 今日は、朝からアンの鍛冶を見ている。ちょっと気になる点があったのだ。

 

 それは、昨日どのくらい練習が進んだが完成品の銅のナイフを持ってこさせてみた時の事だ。夜、在庫確認した時、アンの練習用の素材が大分減っていたので練習の進捗を確認してみたのだ。

 すると、ナイフの形などについてはそれなりの及第点の出来だったのだが、素材の銅の材質が妙に悪かったのだ。

 なので、精錬などで問題があるのかもしれないと思い、最初から一通り作らせているのだ。


 だけど、様子を見てる限り、精錬とかでは問題無さそうなんだよな。

 良くわからんな。



「う~ん、これではダメであります!」


 鍛冶の音が止まったかと思うと、一応は完成を見たらしい銅のナイフを手に、その出来に不満をこぼしている。

 まあ、修行中だからそれもしょうがないと、一応の完成品を見るために声をかけようとした時、


「もう一度、やり直すであります」


 何のためらいも無く、炉に放り込んで溶かし始める。


 え……?




 カン……トン……コン……コン……カン……トン……。


「もう一度であります!」




 カン……カン……トン……カン……トン……カン……。


「もう一度で――」


「まて~い!」


 何度も何度も、作り直すのを何も言わずに見ていたのだが、流石に止めに入る。


「何でありますか師匠?」


「妙に、素材の質が悪かった訳が解った。いつもは何度ぐらい作り直すんだ?」


 何度も何度も溶かして作り直してりゃ、素材の質もだんだん落ちてくるよな。


「納得いくまでであります」


 そうか……納得いくまで何度でもか……。


「じゃあ、次からは、一発勝負で作り直しせずに10本作ってみろ」


「わかりましたであります!」



 カン…………カン…………カン…………トン…………カン…………。


 なんかさっき以上の慎重さで槌を振るっている。

 俺の鍛冶はスキル頼みだから細かい技術に口出しできないんだよな。

 俺のやってるのは、技術を教えるよりも、どう効率的にスキルを取得し、どう効率的に熟練度を上げるかって感じだからな。


「少し、不満ですが何とかできたであります。次にいくであります」



 そうして、10本の銅のナイフが完成する。


「ど、どうでありますか?」


 アンから提出された10本の銅のナイフを確認する。


 1本目、品質普通。特に問題の無い出来だ。

 2本目、品質少し悪い。ちょっと刃が薄くて欠けやすそうだ。耐久度も低くなっている。

 3本目……と言う感じで見ていく。



 品質普通が6本、悪いのが2本、粗悪品が1本、良いのが1本。

 

「結構、腕が上がって上がってきたんじゃないか?」


「ほ、本当でありますか!?」


「まだ、武器として売るには心もとないけど、素材採取用や生活用品としてなら売ってもいいかもしれないな」


 流石に、他人の命を預かる物として売るのは不安が残るからな。

 その分安くはなるだろうけど、採算性とかは今は考えなくてもいいだろう。

 

「武器としては、まだでありますか?」


「そうだな、品質の良い以上を安定して作れるようになってからだろうな。武器として売るのは。その武器が持ち主の命を左右するからな」


「確かにそうであります。私はまだまだなのであります」


「まあ、武器として売らないだけで、使い捨ての投げナイフとか、格安の武器として勝手に使うのは止める気は無いけどな」


「そ、そうでありますか!?」


「だから、今日中に出来る限り銅のナイフを作って普通以上の品質を売りに出してみるか」


「はい! がんばるであります!」


「あ、午後からは店番か?」


「そうでありました……」


「ま、最初から何本も売れないだろうし、午前中の分だけでもいいだろう。夜は品質チェックと、拵えだな。とはいっても、持ち手と怪我しないようにするカバー程度だがな」


「了解であります! がんばるであります!」



 そうして、アンへの指導を終えて……あんまり鍛冶の師匠と言った感じの指導はできてない気はするが……銅のナイフの相場を確認する為にシーナを探す。

 シーナはリビングで遅い朝食を取っていて直ぐに見つかった。


「ま、100G前後じゃない? あんたの壊れた品質のを出すわけじゃないんでしょ?」


「ああ、だけどそんな適当でいいのか?」


「物が銅製だしね~高かったら売れないだけでしょうし、安くても買占め起こるほどにはならないでしょ。たとえ最高品質のだったとしても、鉄のナイフとどっちがいいって話になるから上限もおのずときまるしね」


「ああ、そこまで金かけるまでも無いって事か。でも鉄よりも良い素材もないか?」


「その辺の素材は、あんたみたいに気軽に扱える代物じゃないのよ本来」


 そういえば、そうだったな。

 この世界って、転職の技が失われてから職業のランクとかが大きく落ちて、結果的に技術力がWMOの初級って感じだったんだよな。


 そんな事を考えながらお茶で一服してる時だった。


「大変だニャ~」


「大変ワンワン!」


「…………(ティナちゃんが~)」

「…………(たいへん~~~)」


 うん、俺帰っていいか?

 厄介事のにおいしかしないぞ。


「はぁ、どうしたのよ? またあのバカが何かやったの?」


 シーナは、何か色々諦めた様子でちびっ子達に尋ねる。それにしても、あいつバカ呼ばわりされる事多くなったよな。しょうがない事だろうけど……。


「…………(こんなてがみが~)」

「…………(ティナちゃんのへやに~)」


「何々?」



『 特訓に行ってきます。



                        ティナ 』 



「これだけ?」


 シーナがちびっ子達に確認している。

 まあ、その気持ちはわかる。


「そうニャ!」


「いなくなっちゃったワン!」


 まあ、こういうときはあの人しかいないよな。


「リーフを呼びましょう」


 うん、ティナバカの対応係のリーフさんだ。




「これなら問題ないでしょう」


 リーフさんを呼んでティナの置手紙を見せた所、そんな信じられない返事が返ってきた。


「え!? どういう事よ?」


 シーナも同じように思ったらしく聞き返している。


「あの子が特訓すると言う時は、真剣に真面目に特訓しますから」


 え? ティナが真面目?

 それは大丈夫なのか?


「真面目に真剣に集中して、バカやる余力をのこしませんから……」


「…………」

「…………」


 その信頼の仕方もどうかと思うが……。


「ただ、一つ心配なのは……」


「何が心配なのよ!」


「真剣に何の特訓をやるかと言う所です」


 あ、確かに特訓とはあったけど、”何を”の部分は書いてなかった。


「それ、安心といえるの?」


「これまで、特訓の結果手に入れた力で問題を起す事はあっても、特訓そのもので問題を起す事はありませんでしたから」


 それは安心してもいい事なのか?


「で、これまでにどんな特訓して来たか教えてもらえる?」


「うまく転ぶ特訓とか……、かくれんぼの特訓とか……、矢を遠くの的に高精度で当てる特訓とか……、馬鹿げた物から一応実用的なものまで色々です」 


 リーフさんは、目をつぶって一つずつ思い出すようにあげていく。

 その中に、気になるものが混ざって居たので聞き返す。


「ちょっとまて、リーフさん。ティナあいつ弓ってめちゃくちゃ苦手じゃなかったか? それを特訓したのか?」


「そうではありません、”矢”を当てる特訓です」


「何が違うんだ?」


 リーフさんはその疑問に答えるように話してくれた。


 ずいぶん前に、エルフの里で弓矢の大会みたいなものが開かれたそうだ。まあ、定期的にやってる儀式的なものらしいけど。

 その大会の為にティナが特訓して来たことがあったらしい。

 そして、大会の決勝戦とも言うべきところまで進んだそうだ。

 で、問題は勝負の決着をつける最後の一矢。

 弦を引き絞った状態のまま矢だけが飛び出したらしい。

 見物していた里の皆は「は!?」っとあっけに取られる事になった様だ。

 まあ、その様子に気づいたティナが慌てて弦を離すも後の祭りで色々騒ぎになったそうだ。

 で、ティナに問い詰めると、妖精さん達に矢を運ばせていたらしい事がわかったそうだ。


「本来妖精達をそこまで離れた場所まで実体化させ続けるってのは至難の業のはずなのですが……特訓で克服したとか……」


 う~ん、特訓の方向性が間違っているような間違っていないような……。


「その妖精達との連携の強化そのものはすごい事なので……」


「特訓そのものは、真面目にやって物にしていると?」


「そういうことです」


 リーフさんは答えるも、ため息混じりだ。


「それ、本当に安心なの?」


「………………」


 おい、リーフさん黙らないでくれ心配になる!


「しばらく帰ってこないニャ?」


「約束したのにワン?」


「…………(プールのしゅうり)」

「…………(おわってない~!)」


 ああ、そういえば、プール壊れたままだったな。


「ウォータースライダーとセリカの深いプール以外は修理しても問題ないぞ。ただ、修理終わったら魔力消費量みせてもらうけどな」


「わかったワン!」


「…………(みんなで~)」

「…………(しゅうりする)」


「お魚またとれるニャ!」


 まあ、ティナも居ないし修理だけならあいつが居ない方が問題は起きにくいだろう。

 あいつは今度はどんな特訓してくるんだろうな?

 

 平穏な日々が壊れない内容であることを切に願う。





 その夜、ティナは結局帰ってこなかった。

 まあ、リーフさんによると、短い時は数日長い時は数ヶ月とからしいので、しばらくは平和が続きそうだ。


「師匠、こんなかんじでどうでありますか?」


 ま、ティナの事は一旦忘れて、アンだ。

 明日の初売りの為に準備をしている。


「まあ、カバーの方は使ってない時に怪我しないようにだから出来はそこまでこだわらなくていいぞ。保護の機能さえあれば」


「了解であります」


「で、結局何本になった?」


「合計で32本であります。 がんばったであります」


 おお、結構出来たな。

 後で完成品を俺が検品してから明日の売り出しだな。


「そっか、取っ手とカバーはあと幾つだ?」


「これが最後であります。出来たであります!」


「そうか、一応、まずはアンが最後の点検で不良品が無いか調べてみろ。品質普通以下はダメだからな」


「了解であります!」


 アンが調べ終わった後、俺も検品してみたが、特に問題のある銅のナイフは無く、明日の初売りの準備は整ったのである。






 そうして次の日、ついにアン作品が初めてお店に並ぶのであった。

次の話は、ついに売り出された銅のナイフ。

果たして売れるのだろうか?


シーナ「使い捨ての投げナイフに10本ほど」

アン「10本も、売れたであります!」

クロ「シーナは身内だろう……」

ちびっ子達「かいにきたニャ!」「買うワン!」「…………(いつもの)」「…………(おれい)」

クロ「ちゃんと普通のお客さんに買ってもらわないと……」

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