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第3話 経営方針

少し時間が戻って、シーナが出かける前のM&Mからです。

 その日、俺とマユさんは朝から議論を戦わせていた。

 始まりはふと俺が言った一言だった。


「売り物のポーション作るのに追加素材は必要ないんじゃないか?」

 

 俺はそんな事をしても原価が高くなってポーションの値段が上がるだけだろうと思って言ったのだが、これにマユさんが猛然と反論した。


「そんな事をしたら品質が落ちたものが出来るではないですか! 無駄になるだけです!」

「いや、品質の低いものはその分安くすれば良いだけだろ?」

「そんな品質の物を、お店に出せますか!」



 そこから大激論が繰り広げられる事になったのだ。

 

 そもそも、マユさんが気にしている品質というのは、生産系のスキルで作った成果物は性能のばらつきが出るため、それをランク付けしたものだ。

 今、マユさんが作れる初級クラスのアイテムだと、S、A、B、C、Dの5種類だ。

 これは上位のアイテムになるともっと増える事になる。

 場合によっては別のアイテムになったりすることすらある。

 

 まあ、それは置いておいて……。

 問題の追加素材と言うのは、生産系のスキルを使える時に原材料以外に追加で加える事によって品質や成功率を上げる素材の事だ。

 今回のポーションの場合、品質2ランクUP、成功率50%UPといった所だ。

 まあ、成功率については簡単なものだしマユさんの魔力も高いので素の状態で殆ど100%になるのであんまり意味は無い。


 まあ、質を上がるのに何か問題なのかと言う人は居るかもしれない。

 それを説明する前にまずは、ポーションの品質による差異を教えなければならない。


 S:品質の良いポーション。回復効果が20%ほどUPと同時に極低確率でプラスの追加効果が出る事がある。(バフ系の効果や状態異常回復など……)

 A:少し品質のいいポーション。回復効果が10%ほどUPする。

 B:標準的なポーション。

 C:少し品質の悪いポーション。まれに回復効果が1/2~ほぼ0になる事がある。

 D:品質の悪いポーション。回復効果が1/2~ほぼ0に加えて、時々マイナスの追加効果が出る事がある。(デバフ系の効果や状態異常付与など)


 品質のCやDは一旦置いておくとして、SやAの回復効果10%UPや20%UPは一見大きく違うように見えて、実際のところ。

 ポーションそのものの効果はHP30前後回復するというものなので、回復量が3~6上がる程度なのである。

 そもそも、回復効果自体がその時のコンディションや状況によって±5程度誤差が出るものなので、はっきり言ってあんまり効果が変わらない。

 それに加え、Sランクのプラス効果も発生したらラッキー程度のものなので、期待するようなものではない。


 つまり、実質的な効果の差異は殆ど感じられないぐらいなのだ。

 問題は、追加素材のコストである。

 原価はある程度流動的なので、原材料の値段を1とすると追加素材の値段は0.5~1の間ぐらいだ。

 

 で……殆ど効果の違いのわからない物を原価を1.5~2倍にして作るのは商売的に意味があるのかと言うのが俺の意見だ。

 まあ、上級アイテムの生産用の素材として用意する場合などは品質の良いものを作るほうが良い事も無いわけではないのだが……。

 ポーション程度は生産する本人が作るだろうから、わざわざ買いに来る人なんか居ない。



 それに対してマユさんは……。


「品質に妥協してどうするのですか! 出来うる限り高品質の物をつくらないと!」


 と言う事なのだ。



 このまま俺とマユさんは平行線のまま議論を続けている。

 途中、近くに来たシーナに意見を求めたら。


「品質のいいのを店で売って、悪いのはブラックマーケットに流せば良いじゃない」


 なんて事を言っていた。シーナはどこまでいってもシーナだった。

 当然マユさんは怒り、シーナは逃げ出すように買出しに出かけていったのだ。



 う~ん、マユさんはそもそも『魔力を制するモノ』の効果で魔力が普通に比べて高いので、【マジッククリエイター】の生産スキルで作られるアイテムの質は高くなりやすいのだ。

 それに加えて、経験値や熟練度といったものの面でも、安い単価で数を作るほうがいいのだが……。


 基本的に生産スキルというのは作ることによって、作るアイテムのランクや品質、成功、失敗などによって数値は変わるが経験値が手に入る。

 ゲーム内では敵と戦わずに生産のみでレベルを上げる生産職のプレイヤーも居たくらいだ。

 

 熟練度はそのままずばり熟練度合いで色々なスキルやパラメータに設定されている。

 使えば使うほどあがっていく。

 まあ、今回は製造スキルの熟練度だ。

 熟練度は転職すると基本的に持ち越しはないのだが、スキルだけは熟練度を保持する。

 まあ、マスタースキルで無い限り転職後にスキルが使えなくて無意味とかはあるのだが……。


 生産系の場合は上位職に昇格すると基本、下位職の生産スキルも持っているので無駄になる事が無い。

 それに加えて生産職の場合、特殊職業や隠し職業の条件になっている事が多いので、生産系の熟練度は上げるに越した事はない。

 あと、当然だが成功率や高品質の物が作れる確率は熟練度が上がるにしたがって高くなる。

 

 というわけで、安い原価でひたすら大量生産をこなす事が生産職にとって能力を高める近道なのだが……。



「物作りに手を抜くなんてありえません」


 う~ん、何か彼女にはこだわりがあるようだ……。

 どうしたものかな?



「ただいま……ってまだやってたの?」


 そんなこんなでずっと平行線を続けてそろそろ諦めかけていた所で、シーナが戻ってきた。

 そんなに時間がたったのかとシーナを見やると、誰かお客を連れてきていた。


「いらっしゃいませ」

 

 見事な営業スマイルでマユさんが対応する。


「で、シーナが言ってたの相手は何処にいるの?」

「そいつよ」


 シーナの視線が俺に向く。

 なんか嫌な予感しかしないのだが……。

 

「そう……」


 シーナの連れてきたお客が小さくつぶやくと、一瞬で剣を抜き、切りかかってきた。


 なっ、俺は咄嗟にその攻撃を回避する。

 しかし、その判断は最終的には間違っていたかもしれない。

 剣は元々寸止めにするきだったのだろう、回避しなくても当たる事はなかったのだ。

 相手は俺の実力を試すために切りかかってきたのだろう。

 そして、笑顔で自己紹介を始める。


「私は【聖騎士】のセリカよ! シーナが手も足も出ないという貴方に勝負を挑みに来たのよ!」

「ああ、俺はクロだ……この店の店員をしている」

 

 とっさにそんな答えを返していた。


「じゃあクロ、早速勝負よ!」

 

 セリカが俺に剣を向けようとした所で、


「ふざけないでください!」


 マユさんが物凄い形相でセリカをにらみつけていた。

 そうだよな、マユさんは味方だよな。いきなり真剣でもって勝負なんてバカげてるよな。


「お店の中でそんなもの振り回したら商品が壊れて危ないでしょう! 外に出てやりなさい!」


 え……怒る所そこなの!?


「悪かったわよ、店の横の空き地で勝負よ!」


 と言って、セリカは外に出て行く。

 う~ん、俺……戦うなんて一言も言ってないのに。

 ジロリとシーナの方をにらむと、うまくいったとばかりにほくそ笑んでいた。

 あとでお仕置きだな。


 

 これは逃げても追い回される気がするな……。

 やるしかないのか。

 それにしても【聖騎士】とか言っていたな。

 こっちの世界に来て初めてだな隠し職業にあったのは……。


 少し気を引き締めておいた方が良いかもしれない。

次回……たぶんクロ vs セリカです。



ブラックマーケット

 国などに隠れて行われる非合法マーケット。

 盗品から粗悪品まで色々なわけあり品が集まる。

 すごい掘り出し物が眠っていたりもする。


 シーナいわく、「品質の良い物を見本としておいて置いて粗悪品を渡すのよ」らしい。

 ブラックマーケットではだまされる方が悪いんだそうだ。



品質ランクDのポーション

 ゲーム内では序盤の強敵に戦闘開始直後に使って、マイナス効果を狙うなんて使い方をされていました。

 そのため、Sランクと同等もしくはそれより高値で売る露店が結構存在したりした。

 少なくとも、一番人気の無い品質のポーションはランクCというのは常識だった。

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